こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その4:終

 翌朝

 

「さてと」

 朝7時過ぎ、着替えも済ませ顔も洗い簡単な朝食も摂り一日の準備完了。そしていよいよ赤城の改装が行われる日が来た。頑なな赤城をどうするか、それについてはさして問題ではないと感じている提督。火の元の確認と戸締りをし、離れの自宅を出て執務室へと向かう。まだ少し眠い目をこすりながら鎮守府内を歩いていると、何やら向こうが騒がしい。数名の艦娘が恐らくではあるが港へと小走りで向かっている。

「ん? なにしてんだアイツら」

「あ、提督。おはようございます」

「おう。こんな朝っぱらから何してんだ?」

 提督に気づいた能代が挨拶をしてきたので、ついでに確認する。

「赤城さんの改装が完了したらしくて、そのお披露目をやってるんですよ」

「え?」

 能代の答えに耳を疑った。あれほど改装を受けることを嫌がっていたのに率先して受けるなんてありえない、「まさか」と思った。

「で、今港にいるのでみんなで見に行くところなんですよ。提督も行きません?」

「行く行く、もちろん」

 食い気味に答える提督。そして執務室へと向けていた足を港へと向け能代と共に小走りで向かう。そして当然の如く提督の頭には嫌な予感が渦巻いている。

 

 港到着

 

 朝も早いのに人だかりができている。とうとう実装された一航戦の改二、それを一目見ようと集まったのだろう。なかなか前に進めない。

「あ、おはようございます提督」

 そんな中にいた加賀が提督に気づいて挨拶をする。

「あぁ加賀、おはよう。早速なんだけどどうなってんの?」

 挨拶半分、すぐに現状を確認する。

「はい、あちらに赤城さんが、すでに改装を済ませておられます」

 海上を指さす加賀。

「どれ…。ん???」

 確かにそこに赤城はいた。だが何となく見づらい、何といえばいいのか「影」があるのだ。なんだろう、フォトショで一枚影のレイヤーをかけて処理しているかのように、何となく下半身が暗い。

「太陽は…、出てる。遮るものは…、なし」

 念のため上空と周りを確認する提督。しかし当然の如く太陽は出ているし海の上で赤城を遮るものなどどこにもない。

「あれなぁに?」

「戊です」

「ぼ?」

「はい」

 説明になっていない説明を加賀から受ける提督。当然理解が追い付かない。仕様書には目を通したはずなのだが、そんなことどこにも書いていなかった。恐らくだが毎度の「言い忘れちゃった」的な大本営のポカだろう。実害をこうむるのはこっちなのに、責任を取るのは自分なのに、納得できない。

「で、普通の改二と何が違うの?」

 気持ちを落ち着けて加賀に問いかける。

「はい、通常の改二から戊にコンバートすることで夜間戦闘が可能になります」

「おお、すごいじゃん。あ、だから暗いのか」

 その暗さの意味を把握する。

「夜間ってことはサラと同じってことか。頼もしい…んだけど、使いどころないよねえ、ねぇ?」

 相変わらずの戦後の過剰軍備増強。ポンコツを買いまくるどこぞの国に言ってやりたい。

「赤城さん本人は、夜の魚群探知にもってこいと息巻いていますが」

「それは漁船の仕事だよ? 君たち軍艦ね?」

「ともかく、燃費も微悪化しているようで、赤城さんはいたってご機嫌です。ご心配おかけしました」

 綺麗にスルーされてしまう。

「あぁ、うん。悪化するのは知ってたんだけどね…」

 燃費に関しては事前に把握していた提督。それもあって今回の改装に関しては心配していなかったのだが、ちょっと別ベクトルに行ってしまっている最近の改二の在り方について、海上でキラキラしている赤城を見ながら悩みの種の解消方法を考えている。

「あ、提督」

 赤城が提督に気づいて寄ってくる。

「おう、どうだ改二の感触は?」

「もう提督ったら。こんなに素晴らしいものなら先に言ってくださればいいのに。あんなに拗ねてやけ食いしていた自分が恥ずかしいです」

 新調された弓を折れんばかりにギリギリと握りしめながら、恋する乙女のようにデレデレとした表情で提督の問いに答える赤城。好感触なのは問題ないが相変わらず嫌な予感が若干ではあるがよぎって仕方がない提督。

「じゃあ今からコンバートしますね、見ててください」

「ん、え?」

 そう提督に告げると、赤城は少し下がって大きく息を吸って吐いて目を閉じて体勢を整える。提督は「あれコンバートって艤装を…」とか考えているがお構いなし。そして右手を天高く掲げる赤城。

「レェェェェェェッツ!!! コンバァァァァッァァトォゥ!!!!」

「おおおおッ!!!」

 掛け声とともに光に包まれる赤城。同時にギャラリーから歓声が上がる。長門アイオワ加賀吹雪佐渡あたりがやたらと目をキラキラ輝かせてその光景を見ている。完全に変身、提督は「わーすごーい、魔法少女みたいに変身中脱げたりすんのかなー」なんて考えている。舞い降りる光の環、そんな機能あったっけって思うだろうが気にしない、あるのだから。暫く赤城を包んでいた光が徐々に薄くなり、その中から赤城が姿を現す。ジョジョ立ちのように額に手を当てて体を少しクネらせている、ノリノリである。

「影がなくなった」

 違いがそれしかわからない提督。周りからは沸き起こる拍手。

「ふふ、どうですか提督? これが昼夜戦闘どちらでもこなせる赤城改二です。24時間寝なくて安心、ジャパニーズビジネスマン、いつでもどこでも食べ続けられます」

「君はビジネスマンではなく公僕の一種だから」

 嬉々と語る赤城を見て引きこもる可能性はなくなったことを悟る。それはそれで喜ばしいのだが、今まで以上に食費と燃費がかさむことは火を見るより明らかになった。名実ともに明るくなった赤城を見ている提督。するとおもむろに腰に付けている袋から何か取り出す赤城。

「何してんの?」

「ああ、これですか。おにぎりです」

「そりゃわかる」

 取り出しますは巨大なおにぎり。それをその場でモシャモシャ食べ始める赤城。それに呼応して加賀がずずいと前に乗り出してくる。その手には唐揚げが大量に詰まったタッパーがある。

「朝飯? ここで?」

「いえ、これは燃料補給のようなものです。コンバートの際カロリーがもの凄い消費されて、血糖値も下がってしまうんです。だからすぐに補充できるように携帯しているんです」

 さも当然と言わんばかりに唐揚げをつつく赤城から説明を受ける。

「今が戦時中じゃなくてホント良かったわ、うん」

「使い物にならねぇ」と提督が思ったのは言うまでもない。

「おなか一杯でもコンバートしてしまえば一気に空腹になる。なんて便利な改装なんでしょう。あぁ神様、感謝いたします」

「好きにして、もう」

 どこの神に感謝しているのか知らないが、数日前の赤城はもういない。それだけでとりあえず良しとしよう。まだ業務開始前だったことを思い出しその場を離れ執務室へと向かう提督。すると向こうから明石がこちらに向かって走ってくる。

「ていとくー!」

「おう、どうした?」

 息を切らして走ってきた明石、それほどまでに急用なのだろうか。

「今すぐ、赤城さんのコンバート止めさせてください」

「え? どういうこと?」

「今さっき気が付いたんですけど、コンバートするたびに工廠にある資材が謎の光に包まれて消えていくんです。あれじゃいくら資材があっても足りません。数日で鎮守府破綻しちゃいますよぉ!?」

「…」

「え、もう一度見たいですか? しょうがないですねぇ、じゃあ…」

 港のほうでは艦娘たちのアンコールに応えるため、赤城が再度コンバートの準備をしている。

「やめろー!!!」(2名分)

 

 

 

 

 

『無用のコンバート禁止』

 

 赤城の周辺にはこの張り紙が山ほど貼られることになった。

 

 

 

-Dead End ?-

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