こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その3

 国道沿いにあるとあるディーラーへと到着する二人。綺麗なガラス張りの店構え、人生初の大きな買い物ということもあるが、なんだか妙に緊張する。意を決して足を踏み出し、自動ドアを開いて店内へと進む。

「いらっしゃいませ」

 一人の男性店員が二人を出迎える。

「すいません、購入を検討していまして」

「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」

 促されて奥のテーブルへと進む。浜波と並んで腰かけると店員は一度その場を離れて飲み物を持ってくる。そして棚にあるカタログを一式携えて対面に腰かける。

「どういった車種をご検討でしょうか。ご家族でお乗りになる車でしょうか?」

 そういいながらチラっと浜波に視線を送る店員。

「いえ、私一人なんですけどね。あ、こっちは同僚でして…」

 聞かれてもいないのに浜波の説明をする提督。それに対して特に反応はない浜波。

「司令、これ…」

 黙っていた浜波が一冊のカタログを指さす。それは先日ホームページで見たものと同じ車種のものだった。

「お、これか。ちょっといいですか?」

 一冊のカタログに手を伸ばす。それはミニバンのものだった。

「大き目のものをお探しですか?」

「あ、えぇ。旅行とかするのに楽かなって。友人も誘ってだったりするので、人数乗れるほうがいいなーって思いまして」

 そう、浜波が勧めてきたものこそミニバンだった。なぜそれなのか、理由は定かではないが妙にグイグイ来たため少しその気になっている提督。恐らく買えば買ったで艦娘が様々な理由を付けて使うに決まっている。大は小を兼ねる、今まで世話になった車種では確かに物足りなさを感じていたこともあり、提督自身も悪くはない選択肢と考えている。

「8人乗り、ですよね」

「はい。選ぶグレードによって7人乗りというのもありますが、最大では8人です」

「なるほど」

「夕雲型なら、半分は乗れるね」

「全員乗せるとなるとマイクロバスでも買わねぇとダメだな」

 姉妹艦の多い夕雲型。流石に全員とはいかないが、一度に相当数乗せることは可能である。それが基準なのだろうか、浜波がこれを勧めてきた理由の一端がわかった気がする。

「デカいのは楽かもな。もし遠出しても車中泊できそうだし」

「十分可能ですね。フルフラットになりますから布団も敷けますよ」

 店員が説明を挟んでくる。

「ふむ、ちなみに納車ってどのくらいかかりますか?」

 これを聞いてしまうともうほぼ決めたようなもの。迷わない性格なのだろう、こういうところは男らしい提督。

「そうですね、グレードにもよりますが今の時期なら早ければ一か月程度、長いものでも二か月お待ちいただければ大丈夫です」

「わりと早いな」

 手を口元に当てて悩む提督。

「買っちゃう?」

 浜波が提督の顔を覗き込んで尋ねる。

「うん、まぁそのつもりで来てるからね。でももうちょっとどうするか聞かないとね」

 ほぼ「イエス」と返事をする提督。その後小一時間店員に対してグレードやら内装やらオプションやら、事細かく説明を受ける提督。そして出した結論は。

 

「これでよしっと」

 最後に一か所ハンコを押して契約書の作成が完了する。

「ありがとうございます。それではスケジュールに関しましては先ほどご説明した通りです。他に何かご質問はございますでしょうか?」

「いえ、大丈夫です。後は納車の日が決定したら連絡いただければ」

「かしこまりました」

 席を立ち奥へと引っ込む店員。話の流れからもわかる通り、即日即決即断。人生で一番高い買い物をした記念日になった提督とそれに立ち会った浜波。緊張の糸がほぐれ大きく息を吐く提督。それを見ている浜波は何となく嬉しそうな表情をしている。

「あー、買っちゃった」

「お、おめでとう…」

 胸のあたりで軽く拍手してくれる浜波。

「いずれいずれとは思っていたけど、まさかここで買うことになるとはね」

「楽しみだね」

「だなー」

 落ち着いて喉が渇いていることに気づき、口を付けていなかった出された冷めたコーヒーを飲む。

「あ、ごめんなさい。ちょっと電話してくるね」

「おう」

 そういうと浜波は店外へと電話を掛けにいく。一度、浜波に送った視線をテーブルに戻して契約書を手に取り目を通す。

「安くはないよな…」

 なんだかんだで大型車で、それなりにオプションなどにもこだわったため400万近い価格になっている。この年まで特に贅沢をすることもなく生きてきたので多少のたくわえはあったが、一括払いは当然出来ず数年のローン、大切にしなくては。そして下手に艦娘に手を出されては車の寿命が縮む。その点を一番気にかけている提督。保管場所をちゃんとしなくてはと考えている。

「お、お待たせ」

「お待たせしました」

 浜波と店員が同時に戻ってくる。全てが完了してディーラーのノベルティ等記念品を受け取り店を後にする二人。陽の高さはちょうど真上、正午を少し回ったくらいである。

「飯でも食って帰るか」

 提督が浜波に提案する。

「う、うん」

「何食べたい?」

「えっと…、お寿司」

「回るのでもいいか?」

 数百万すっ飛ぶことになった提督が現実的な提案をする。それに嬉しそうに返事をする浜波。昼食を済ませたのち帰路に就くことになる。

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