ヴォイド・タキオンの効果によって危機を脱した鈴仙は、どうすれば自分が助かるかを考えていた。
自分が帰属する組織が月である以上、幻想郷に協力者はいない。今のままでは、その月からも敵視されている。
どうすれば敵視されないのか。どうすれば認められるのか。
焦りに駆られていた鈴仙は、『八意永琳と蓬莱山輝夜を捕らえる』という任務を一人で遂行しようとしていた。
ヴォイド・タキオンの副作用として、全身の筋肉だけでなく、骨や内臓、血管にすらも甚大な負担がかかる。
玉兎であることや訓練で体を鍛え抜いたとはいえ、その苦痛は無視することができない。
現に足を引きずるように、生えている竹を支えにしながら移動している。既にヴォイド・タキオンの効果は切れているが、満身創痍だった。
「はぁ………はぁ………なんてこと、してくれたのよ………」
レヴァのおかげでここまで逃げることができたが、鈴仙としてはただこの苦痛を与えてきたようにしか思えない。
歩くたびに足がブチブチと音を立てているような感覚がする。当然、それだけ痛みもある。もうその痛みは味わいたくないと思ってはいるものの、ここでリタイアして月の仲間から見放される方が嫌だと自分に言い聞かせて無理やり体を動かす。
「やっと……」
ようやく、永遠亭が見える位置まで逃げて来ることができた。
そこにいる二人を捕らえれば、きっと認めてもらえるはず。そう考えながら、銃の安全装置を外す。
「あら、随分早いお帰りね」
足に力を入れて走り出そうとしたところで、背後から肩を掴まれた。咄嗟に振りほどこうとしたが、あまりの力に身動きが一切取れない。
何者かと首だけで振り返ると、蓬莱山輝夜が立っていた。
その表情は氷のように美しく、また冷酷であった。
「言ったはずよね? 『命を尽くして私たちに協力しろ』って」
「………」
「まさか、妹紅やあの外来人を放って、一人で逃げてきたのかしら?」
「っ!」
鈴仙の肩を掴む手に、さらに力が入る。
「約束通り、貴女を殺すしかないようね」
「ひっ」
目を見開き、涙をその瞳に浮かべる鈴仙。
だが、既に輝夜の関心は鈴仙にはなく、鈴仙が逃げてきた方向に向いていた。
「どうやら、貴女を殺さなくて済みそうよ」
その視線の先には、一人の男を軽々と抱えて飛んで来る、白髪の少女がいた。
「で、追っ手はどうしたの?」
「遭遇したのは全部片付けたわよ。でも、レヴァがあの有様だから引き上げてきた」
ヴォイド・タキオンによる体への負担と、急所ではないとはいえ数発の銃弾が体を貫通していたレヴァは、現在永琳が治療している。
永琳の話では、まだなんとかできるとのことだが、寝たきりになる可能性もあるとのこと。
「霊夢と魔理沙も追っ手は駆除したみたいだし、これからが勝負になるかしら」
「でしょうね。永琳の話だと、彼が鍵を握ってるんでしょ? この状態は不味いんじゃないかしら?」
「そうね………ん?」
妹紅と話していた輝夜は、足元にいた兎に気がついた。話に気を取られていた為に気配を感じることができなかった。
「あら、どうしたの?」
兎は、その口で咥えるには大きすぎる銃を咥えていた。とは言っても旧式のデリンジャーで、レヴァに預けられたヴォイド・タキオンに似ている。
「これを届けてくれたのね。ありがとう」
輝夜は兎に礼を言うと、そっと優しく頭を撫でた。兎はくすぐったそうに身じろぎをしながら目を細める。
「……そんな顔もできるのね、輝夜」
「これだけ愛らしい生き物を愛でられないなら、感性が死んだも同然だわ」
「………」
藤原妹紅ならびに蓬莱山輝夜。両名は理由あって不老不死となっている。
彼女らにとって、彼女ら自身の命の価値は無に等しい。どれだけ生きようとも、見た目が変わることも死ぬこともない。致命傷を受けたとしても、必ず再生し、何事もなかったのかのように生きながらえる。
だからこそ、心が大事なる。心を殺さなければ、生きているという実感を得ることができるからである。
「それじゃ、私は残党狩りに行って来るから。レヴァにはよろしく言っておいて頂戴ね。もこたん♪」
「もこたんって呼ばないでよ、気持ち悪いから。まぁ、レヴァには私から言っておくから」
「そう。ならよろしくね」
輝夜は一瞬のうちに姿を消し、残された妹紅はレヴァが治療されている部屋の襖を見ていた。
「全く……」
妹紅には、レヴァの行動が腑に落ちなかった。あの場でヴォイド・タキオンを使用したのは良い。だが、それを真っ先に鈴仙に使ったことだった。
あそこで鈴仙が裏切りに走るのは想定外だった。妹紅としてはあの場で鈴仙を殺すこともやぶさかではなかったが、レヴァは鈴仙を逃すことを選んだ。
逃げてきた本人は満身創痍の状態で壁にもたれている。レヴァが戦闘の途中で倒れたことも考えると、ヴォイド・タキオンの使用には途方もない負担がかかるらしい。
「ねぇ。鈴仙ちゃん」
「………」
「貴女、裏切ったくせになんでここに逃げてきたの?」
「………」
喋らないどころか、ピクリとも動かない鈴仙。その態度にイラついた妹紅は、凄まじい熱を持った炎を纏って鈴仙に詰め寄った。
「聞いてるんだけど?」
「それを聞いて、どうしようっていうの?」
鈴仙は半笑いで反応した。その声には、諦めと絶望が含まれている。
そんな状態の相手に追い打ちをするほど、妹紅は鬼ではなかった。
「……聞かせてくれない? どうしてアンタが裏切ったのか」
「………」
鈴仙は口をつぐんだが、妹紅の真摯な眼差しに耐え切れなくなったのか、俯いて話し始めた。
「『地上の者と同列になる莫かれ』それが私たちの部隊の教訓。アンタに『鈴仙ちゃん』なんて馴れ馴れしく呼ばれたせいで、私はその教訓に違反したとみなされて切り捨てられたのよ」
「そりゃ、悪いことをしたわね……」
「で、あの男を取り押さえたら切り捨てられないで済むと思ったけど、甘かった」
「それで、早く動けるようになったことを良いことに、永琳と輝夜を仕留めにきたってところかしら?」
「……ほんっと、バカみたいよね」
もう帰る場所も頼れる人もいない。満身創痍で捕らえられたも同然の状態。
自分が無事に済む道は何もない。よしんば命が助かったとしても、獄中生活かそれよりも辛い奴隷生活を強いられるかもしれない。
だが、そんなことはもうどうでも良い。結局、自分が一番可愛い癖に助かる手立てがないのだから。
「なんで、レヴァは鈴仙ちゃんを助けたと思う?」
「……知らないわよ」
「レヴァは、戦っている時も私を身を呈して守ろうとしてくれていたわ」
「どうせ、女にいいとこ見せたいとかって思ってるんじゃない?」
「そうかもね」
淡白な言葉に、妹紅は思わず吹き出した。
「でも、それで助かってるんだからさ。邪険に扱うのはお門違いよね」
「………」
「単なる女誑しでも格好つけでも、その為に命を投げ出せる。その心意気には惚れ惚れするよ」
「あんな馬鹿に惚れるくらいなら、そこらへんの男に引っかかる方がマシよ」
「本当にそう思ってるのかしら?」
「………」
「もしレヴァに言い寄られでもしたら、添い遂げるのも悪くないと思ってるわ」
「アンタも大概ね」
鈴仙はあくまでも硬い態度を崩してはいないが、妹紅の言葉を無視することは少ない。
そんな会話をしながら、妹紅は鈴仙が可愛く見えてきていた。言うならば、思春期に親や兄弟に反抗的になっている年頃の少女のようである。
「とにかく、形だけでも礼は言っときなさいよ。感謝なんてものは、その時々にしないと後悔することもあるんだから」
「………」
「まぁ、少なくともレヴァは悪いやつじゃない。それだけはわかってくれるかしら?」
「……はぁ……わかったわよ」
鈴仙は渋々了承すると、悲鳴をあげてる体で無理やり歩き出した。
「どこに行くのよ?」
「追っ手が来てないか確かめるのよ」
「そう」
真意は読めないが、鈴仙が何かをしようというのは理解できた。今度裏切れば、容赦無く殺すことも考えているが、今の鈴仙に起こせる行動は限られている。持っていた武器も全て輝夜が没収しており、妹紅ならば弾幕などを使わずとも取り押さえることは容易である。
「はぁ……」
一人外に出た鈴仙は、竹に凭れていた。
もしあの時、ヴォイド・タキオンを撃ち込まれていなかったら、どうなっていたか。
蜂の巣にされていたのか。それとも首を切り落とされていたか。どちらにせよ、命はなかったことだけははっきりしている。
「バカ……」
レヴァのことを思い出す。
背後からいきなり取り押さえたというのに、鈴仙が逃げれる状況を作り出した。
なぜそんなことをしたのかはわからない。理解できない。ただの伊達や酔狂でそんなことをするなんて考えられない。
だが、もし妹紅の言う通り『女誑しでも格好つけでも、その為に命を投げ出せる』ような男であるならば。
鈴仙が女だからという理由で、レヴァという男はそんなバカな真似をしたのか。
「………」
そこで、鈴仙は自身が女であることを意識し始めた。
鈴仙が所属していた月の軍隊は、九分九厘女性で構成されている。女所帯でかつ軍人と言う立場にいる為に、自身が女であり、女を意識して生活することを忘れがちである。
身だしなみは最低限、服は同じものを何着か着まわしているだけ。女の命と言われる髪もまともに手入れせず、肌も特別ケアしているわけではない。
そんな生活に慣れていくと、自分が女であることを本格的に忘れてしまう。それが今になって蘇って来た。
「……っ」
今までの兵舎での行動を振り返る。
下着のまま歩き回ったり、シャワーすら浴びずに過ごした日もあるし、ムダ毛の処理なども年に数回しかしていない。
もしそんな状態の自分を男に見られたら、どう思われるか。
間違いなく、幻滅される。間違いなく、低俗だと思われる。
地上の存在を見下しているはずの鈴仙だが、そんなことを気にする余裕がなかった。ただ頭の中には、『男にずぼらな女として見られる自分』が出来上がっていた。
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レヴァの治療を任された永琳だが、ここまで損傷の激しい人体は初めて見た。
永琳も月にいた頃に医療に携わっていたこともあるが、手で触れただけで筋肉が千切れていることや骨が砕けていることがわかるほどである。そこに加えて、十二の銃創が手足にある。かろうじて致命傷は逃れているように見えるが、吐血の後を見る限り、内臓もズタボロになっている可能性が高い。
「薬で治せる範疇を超えてるわ………」
永琳は自力で様々な薬を作ることができ、外科医としても優秀である。だが、こんな状態の人間が助かるような治療の仕方など、知らない。
「……てゐ。手伝って頂戴」
「わかった」
どこにいたのか、てゐはすでにいくつかの薬瓶を抱えており、永琳のそばに置いた。
「……月の住民に比べて、地上の人間は脆い。掠っただけで病気になって、そのまま死ぬことも結構あるんだよ」
「その人間が、ここまで体を『物理的に』壊すとなると、助かる見込みはないと考えた方が良さそうね」
話をしながら、レヴァに薬を半分無理矢理飲ませて治療を始める。
まずは永琳は内臓の方から手をつけ始めた。
麻酔をかけた後、腹部を切開する。表面からではわからなかったが、胃と腸の一部が破裂そており、腎臓は二つのうちの一つが完全に潰れている。辛うじて肺と心臓に目立った傷はないが、それでも無事というわけではない。
「てゐ。『A9E』の瓶を頂戴」
「はい」
こうして、レヴァの治療が始まった。
「どうしたのかしら? 私を捕らえるんじゃなかったの?」
追っ手の残党狩りに出た輝夜は、早速その力で圧倒していた。
向かってくる銃弾は軽々と避け、自身をめがけて振るわれるナイフを受け流し、腹部に渾身の一撃を叩き込む。
その動きは、体術の達人といっても過言ではない。銃とナイフを持った生え抜きの軍人が、徒手空拳の相手に何もできずにいる。
「私たちが幻想郷に逃げて来てから結構経つけど、兵の練度は全然変わってないし、武器の性能は上がってもそれを十分に使いこなせていない」
「がはっ!?」
「だから、能力すら使ってない私に、傷一つつけられないのよ」
一人、また一人と地に伏していく。
「もう少し歯ごたえのある相手がいいわね……流石に、依姫やらが出張っては来ないと思うけど」
月の姫として、箱入り娘も同然に育てられてきた輝夜。その教育係であった永琳からは勉学だけでなく、護身術や暗殺術なども叩き込まれている。
輝夜と同じように教育されていた依姫と豊姫でなければ、輝夜が戦闘に秀でいていることは知らない。それ故に苦戦を強いられるどころから一方的にやられ放題だった。
「まぁ………あの外来人がどうなのかは知らないけど………私の『家族』に手を出そうというなら、一切容赦しないわ」
「くっ………」
輝夜に相対する部隊は、すでに壊滅状態。隊長を除いて無事な者はいない。
「さて、皆殺しでもいいんだけど、情報が欲しいからね……とりあえず、拷問でもしてみようかしら? 一回やってみたかったのよね」
「ひっ」
「地上で行われた拷問も、中々にえげつないものがあるからね。貴女達が見下してやまない地上の人間が、どれほどの人間を犠牲にしながら優れた拷問術を会得したのか。その身をもって体験するいい機会じゃないかしら?」
輝夜の知る拷問術もまた、永琳から教わったものである。人体の構造を理解し、相手に恐怖を与えながら死なない程度に痛めつける。
隠しているわけではないが、サディズムな一面のある輝夜にとっては、丁度良い鬱憤晴らしができる。
「まぁ、なるだけ殺さないようにしてあげるから、せいぜい私たちを敵に回したことを後悔しなさい」
今宵、迷いの竹林には動物のような悲痛な叫びが響き続けていた。
「それで、月の使者のリーダとタイマンをしろってことか」
永琳の懸命な治療により、なんとか回復したレヴァが聞かされたのは、『月の軍勢を止め、金輪際幻想郷に対して攻撃をしない』という条件を飲ませるためのものだった。
「その子、綿月依姫って名前でね。私の教え子の一人なのよ」
「悪い子じゃないんだけど、過ぎた自尊心と融通の利かなさではトップクラスよ」
「………俺が勝てる見込みは?」
「おそらくは一瞬。その一瞬の勝機を掴むことができるかね」
綿月依姫とタイマンで勝負し、勝利する。それだけでこの戦争まがいな行為が終わるとは思えないが、やはり腑に落ちない点がある。
「何故、俺がやるんだ?」
「月の者達は、地上の者を見下してるの。そんな中で、霊夢や魔理沙のように特別戦闘力のない人間に負けたとすれば、月の面目は丸潰れなのよ」
「なるほど。そいつは勝負よりもプライドを優先するから、事前に進軍を止めるように約束を取り付けておけば、絶対に守るのか」
「理解が早くて助かるわ」
そう話をしながら、レヴァは体の感覚を確かめる。時計がないために時間はわからないが、依然として夜は明けていない。
体の調子は決して悪くなく、寧ろ良い。ヴォイド・タキオンのメリットとデメリットを知っているため、永琳がどのような方法で治療ないしは手術をしたのかが気になった。
「で、どうやって俺の体を治したんだ?」
「……それに関しては、先に謝らせて頂戴」
そう言って、布団から状態を起こしただけのレヴァに対し、永琳は土下座をした。
「貴方が私のところに運ばれた時には、普通の治療ではもう助からない状態だった」
「普通じゃない方法で、俺は助かった?」
「ええ。私や姫様、貴方をここまで案内した妹紅がかつて服用した不老不死の薬、『蓬莱の薬』の成分の一部を使ったの」
不老不死という言葉に引っかかったが、レヴァは口を挟むことなく永琳の言葉を待った。
「今の貴方の体、特に骨と筋肉に関しては、人間の数十倍は治りが早くなってる。内臓も、数倍程は」
「………」
「でも、不老不死になったわけではないから安心して頂戴」
「それは、喜ぶべきところなのか?」
「不老不死というのは、古来から地上の人間の憧れと言われてるわ。でも、実際にそうなってしまうと、死ぬより辛いかもしれない」
「死に時を選べないのは、勘弁願いたいな」
自身が命を投げ出そうとしていたことを思い出し、瞳から光が消える。
レヴァは考え込んだり気分が沈んでいる時には、ホルスターのブラッド・コネクトを弄る癖がある。だが、たった今まで寝かされてたために手に届く範囲に武器は置いていない。
「………」
「銃なら、隣の部屋に置いてあるわ。何かあったら困るからね」
「……そうか」
「それと、手持ち無沙汰だからといって武器を弄る癖は直したほうが良いわよ。側から見てると気味が悪いし、精神的にもよろしくないからね」
永琳は、レヴァの瞳の変化が気になっていた。それほどまでに死というものに対して何らかの思い入れがあるのだろうかと疑問に思ったが、深く踏み込んでい良いかどうかはわからないため、放っておくことにした。
そんな永琳の気遣いを知らずしてか、黙っていた輝夜が口を挟んで。
「まぁ長生きしたいなら、武器を捨てて人里で落ち着くことね。大概のことは博麗の巫女や白黒魔法使いがいれば解決できちゃうからね」
「……捨てる? ブラッド・コネクト(あいつ)をか?」
「そうよ。人間は外敵から身を守るため武器を持ち、殺戮のために武器を開発した。逆を言えば、武器を持つことは外敵と相対することを意味する。武器を開発することは新たな殺戮を生む。貴方が平穏な生涯を望むなら、ね?」
「……はっ! 巫山戯んなよ!」
輝夜の言葉に激昂したレヴァは、そのまま掴みかかろうとした。が、それを永琳が羽交い締めにすることで阻止した。
「アレは、俺に生きる意味をくれたんだ!! 俺の命だ!! 手放すのは死ぬ時だけだ!!」
「ちょっと! まだ体が治ってないのよ! 暴れないで頂戴!」
「何が外敵だ! 何が殺戮だ! そんなもんは呼吸するのと同じなんだよ!! あんなクソッタレな世界じゃ、武器を持たねぇのは狂人か自殺志願者だけだ!!」
「……仕方ないわね」
「ガッ!?」
興奮状態のレヴァの延髄に、輝夜の手刀が炸裂する。それによって意識が堕ちかけたが、ギリギリのところで意識を浮上させる。
「……悪い」
「い、いえ……こっちこそ……」
輝夜の手刀はこれ以上にないほどに極まっていた。名のある妖怪であっても、簡単に意識を持って行かれてしまう程である。
だが、ただの人間であるはずのレヴァがそれに耐えたのである。流石の輝夜も驚きを隠せなかった。
「とにかく、俺がその『綿月依姫』って奴を倒せれば良いんだな?」
「ええ。でも、彼女は八百万の神々の力を行使することができる上に、光さえ切断するほどの剣の腕前を持っているの。私が剣術を教えたけど、その極みに達しているわ」
「……んで、お姫様よ。さっきから懐に何を隠してる?」
「目敏いのね」
「姫様……一体何を?」
「てゐの部下が持ってきてくれたわ。太陽の畑で見つけたらしいわ」
そういって取り出されたのは、墨をこぼしたかのような黒い銃身を持つデリンジャー。
多くのデリンジャーは装弾数は二発なのだが、これは片方の弾倉が潰されており、実質一発しか撃つことができない。
それでレヴァは確信した。目の前にあるデリンジャーは、かつての仲間のものであると。
「デストラクト……コイツまで幻想郷にあるってことは、他のも全部ありそうだな」
「へぇ……そんな名前の銃なのね」
興味深げに返事をしながら、レヴァに銃を渡す。
「コイツがあれば、そのタイマンに勝てる」
「光も切り裂く剣術も?」
「ああ」
「神の力も?」
「おそらくな」
「……永琳。レヴァに全部任せましょう」
「ですが……」
「レヴァが負ければ、私たちはおとなしくお縄につく。幻想郷が蹂躙されようが感知しない。今まで隠れてやり過ごしてきたツケを払うときが来ただけよ」
「はぁ……随分と信頼されてるもんだな」
頼られるのは嫌いではない。それも、絶世の美女と言える二人にだ。
レヴァとしては、その危険な戦いに身を投じるのには十分すぎる理由だった。
「さっきは頭に血が上っちまったが、俺が武器を持つのは、身を守るためでも殺戮のためでもねぇ………」
「『いい女を守るため』ってところかしら?」
「流石はお姫様、自信があって大変よろしい」
「……はぁ」
いかにも軽いノリで話を進める二人に、永琳は少しだけ心配になった。