Fate/BoogiePop   作:蓼野 狩人

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いつの間にか書いてしまった。

これを読んだ人が新たな可能性を生み出してくれれば幸いです。


邂逅/ブギーポップ

世の中には時に奇妙かつ不可解な事件が起きることがある。

そして大抵の場合、事件に関わった人物は人類史に刻まれることとなる。

 

ジル・ド・レェ然り。

ジャック・ザ・リッパー然り。

アビゲイル然り。

 

勿論中には、人類史から外れた世界で起きた事件でも、その存在を人類史に紛れさせる者もいる。

代表的な人物を一人挙げるとすれば、やはり両儀式だろう。

モノの死を視る『直視の魔眼』を保有し、単なるナイフでも対象の“死の線”をなぞる事により、場合によっては吸血鬼に代表される不死の存在すら斃す可能性を持っている。運動能力も高く、唯マスターに使役され戦う存在であるサーヴァント相手に善戦する事も出来る人間。

そこまでの存在であれば、あるいは正史ではない世界だろうと英霊召喚(フェイトシステム)で呼び出されても可笑しくはない。ましてマスターと縁が出来ていれば尚更である。

 

ならば、()のいる世界であればどうだろうか。

世界を守る為、人の内から表出する人でないモノ。

あたかも現代における二重人格のように、本体と切り替わり戦闘を受け持つ他者の人格(アルターエゴ)

人類を護る為に力を振るうが、正義の味方では有り得ず、また裁定者でも有り得ない。

人から外れた邪悪を狙うが、魔術あるいは魔法を使う訳ではなく、また既存の人類史から呼び出された英霊という訳でもない。

人間の中から突如として発生する正体不明の意識。人間の身体を借りているだけでハッキリとした実体は無く、それでいて霊の類とも一線を画す。

 

その存在は初めて己の役割を自覚した時、死に際のある人物にこう名付けられた。

 

何の脈絡も無く表出し、世界の敵を屠る不気味な泡。

即ち、ブギーポップと。

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

その日も窓の外は氷雪に閉ざされており、廊下は召喚されたサーヴァント達の行き交いで溢れていた。

 

 

「カルデアの人材は連日の労働で疲れ気味だとマスターから聞いたので、余っていた虚栄の塵で栄養ドリンクを作成してみました。如何ですか?」

「あ、パラケルススさん……。いやその、遠慮したいのですが」

「ふーむ、それは残念ですねぇ……自信作なのですが」

 

 

「あらあら。リップったら、まーた怠けているのね。最近まで宝物庫で頑張っていたのに、こんな調子だとマスターに嫌われちゃうかも知れないわね」

「そ、そんな事ないもん!仕事だって最近入ってきた黒い鎧のバーサーカーさんに取られただけで、私が怠けてるワケじゃないもん!」

「へーえ。本当にそうかしら?私と違ってマイルームに行ったことすら無いクセに」

「それはメルトがおかしいの!なんであんなに気に入られてるの!?」

「うふふふ。理由なんて、リップに教えてあげる訳ないじゃない。自分で探しなさい?」

 

 

「よお。暇かい?若い頃の俺」

「おうとも!待ってたぜ、ちょいと歳食った俺!」

「ここは師匠もいないが、丁度いい。一度お前と戦って見たかったんだ。訓練ルームを抑えといたから一丁鍛錬といこうや!」

「いやー流石俺!分かってんじゃねえか。まあしかし自分の方が年齢が上だからと油断していると、俺が勝っちまうかも知れねえなあ!」

「っは!舐めた口叩きやがる。俺より若いからといって調子こいてると、痛い目にあうぜ?」

「んなこたぁ分かってるよ!朱槍と翠槍、どっちが上かなんてまだ決まっちゃいねえんだからよ!」

 

 

「ど、どうだこのキュケオーンは。前より上達しただろう?」

「どれどれ……ふむ。なるほどこれは美味しくなりましたねーえ。麦粥とは思えない程の深い味わい、そしてコク。サーヴァントは成長しないという原則を突破したワザです。しかしマスターの好み的にはどうでしょう?(ワタクシ)はマスターの好みを隅々まで調べ尽くしましたが、多分キュケオーンには飽きが来ているのでは?」

「そ、そんなバカな!つい昨日作った新作焼き立てバタートースト味のキュケオーンだって、笑顔で『美味しかった』と言ってくれたのに!」

「それ普通にバター塗ったトーストを焼けばよろしかったのでは?」

「私が作れる最高の料理はキュケオーンだけだ!」

「……こんな調子では主婦力アップにはまだまだ時間が掛かりそうですねぇ。カルデアのキッチンなんて赤いドンファンやもう一人の私(タマモキャット)が来たらすぐに乗っ取られると言うのに」

 

 

人類史を守る為に召喚されはしたものの、特異点を解決した後に訪れる束の間の平穏な時間を気ままに過ごすサーヴァント達。その合間を縫うようにして、緑色のマントを羽織った白い制服の男性が忍び足で駆けていた。背後にはウサギともネコとも似ていて違う、可愛らしい動物が軽やかに跳ねながらついて来ている。

 

息せき切った緑マントの人物は、カルデアの奥にある工房の扉に行き着くと、慎重に辺りを見回しながら扉を開いた。

 

「やあ、随分遅い到着じゃないかい?マスター」

 

様々な礼装、魔術触媒、資料で溢れている部屋の奥に一人のサーヴァントが立っていた。万能の人と呼ばれた何でも出来る系の天才、ダヴィンチちゃんである。

 

「すみません、遅くなってしまって。呼ばれた通りの時間に間に合うよう頑張ったんですけど、何せ廊下でみんながひしめき合っているから……」

 

緑のマントを脱いだ彼は、言い訳を重ねつつ“マジでロビンありがとう”と心の中で感謝の念を述べていた。彼が手に持つ緑のマントは、英霊ロビンフッドが所有する『顔のない王』という宝具であり、着た人物を隠蔽する効果がある。

そう、彼の名前は藤丸立香。カルデア唯一のマスターとして、人理修復の要である大勢の英霊を従える人物である。

 

「ふーん、ロビン君の宝具を借りる程こちらの事情を優先したということかな。何時もの君なら廊下の英霊たちを蔑ろにすることなんて無いし、話に捕まったら終わるまで付き合ってあげているようだからね。それ自体は偉いことだとは思うのだが、わざわざ宝具で回避するほどかね」

 

自らの持つ杖をクルリと回し、謎の微笑みを浮かべるダヴィンチ。無論、数多くのサーヴァントを一人で従える立場にある彼の苦労は理解しているのだが、それはそれとして実験に遅れて来られるは嫌なのだ。

 

「今日は特別多かったんですよ。ロビンさんに偵察行ってもらったんですけど、『マスター、あんな中を着の身着のままで歩くってのは、オレの仕掛けた罠を正面突破するより危険ですぜ』って言われたので」

 

廊下を歩く面々を思い出し、立香の頬を冷や汗が伝った。どれに捕まっても厄介事に巻き込まれていたに違いなく、もしそうなれば半日は時間に遅れていただろう。

 

「まあ、そこまで言うならこちらも気にしないでおくか。ところで要件は聞いてるね?」

 

「はい。確か新しい形式で召喚実験を行うと」

 

「その通りさ。具体的には今回、英霊召喚システムの一部に手を加えることで召喚の効率を上げようと思ってね」

 

ダヴィンチは何処からともなく、虹色に光る石を取り出した。美しい見た目だが、なんとなく現金に塗れたニオイのする石だ。

 

「知っての通り、召喚には色んな形式があるのだが我がカルデアでもスタンダードな方法がこの『聖晶石』を使った召喚だ。戦闘やレイシフトの際に発生する魔力を集めたもの。施設のメンテナンス時や、変則的なオーダー発生時、あるいは何らかのイベントが起きた際に多く発見される事がある。しかし詳しい発生条件は不明で、任意に生産することが極めて難しい石だ」

 

立香はその石のお陰でカルデアのサーヴァント達の殆どを召喚したので、多少の敬意というか、感謝の念は抱いている。しかし聖晶石を集めるのは大変な作業なので複雑な気持ちがあることも確かだ。

 

そんな彼の心情を読み取ったのか、ダヴィンチも複雑な顔をした。

 

「我々がこの石に助けられてきたのは確かだが、何せ希少な石を一回の召喚につき3個も消費するんだ。召喚されたサーヴァントのうちでも同じ霊基が六回以上出れば意味は無くなる。かといって戦闘力の高いサーヴァントは何度も出てこない。これからの戦闘を考えれば、召喚回数をもっと増やしたいのさ」

 

そこで一息ついたダヴィンチを見て、立香もまた心の中で同意した。何せ敵は強くなっていく一方だ。様々な状況に対応する為にも、クラスや属性を問わず一人でも多くのサーヴァントが欲しい。

 

しかしながら召喚は数を重ねれば重ねるほどダブりは多くなる一方。5回までならダブりが起きても初めからいるサーヴァントの宝具威力が上昇するメリットがあるが、逆に考えればそれも5回目まで。例え100回ダブっても僅かな魔術資源を回収出来るだけで、戦闘に関する直接的な恩恵は一切ない。

 

つまり、カルデアは慢性的なサーヴァント不足に陥っているのだ。もちろん対応力が足りないという意味であって、数だけならむしろ多過ぎるくらいなのだが。

 

不意に立香が入ってきたドアが再び開いた。

 

「失礼します。ドクターがダヴィンチちゃんと先輩を呼んでいます」

 

「ああ、マシュか。召喚の準備が整ったようで何よりだ」

 

ダヴィンチがヨイコラセッと立ち上がり、そして立香の方を振り向く。

 

「今回の召喚実験は、その聖晶石の消費を減らす試みさ。システムの一部を改良して、一回あたりの消費量を3個から2個に減らせるかどうか。もし上手く行けば、これからのオーダーはグッと楽になるはずさ」

 

なんかフラグが立ったな。立香はふと謎電波を受信した。

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

「それではこれより実験を行う。召喚システムの改良により、マスターに危害を加えるような英霊は召喚できないようになっているが、今回の実験ではイレギュラーな召喚となるので、念の為私と騎士王が傍につく」

 

ダヴィンチが厳かな口調でモニター越しの職員に告げると、隣の騎士王であるアルトリアも頷く。召喚に用いる陣の周りには多くの機械が混みあった配線で繋がり合い、頭上のモニターには魔力や電力、マスターの健康状態などが随時グラフで記録されている。

 

「アルトリアさん、今日は食堂に駆け込まないんですか?」

 

今の時間帯は食堂が解放されており、普段であればアルトリア含む大食い英霊が我先にと突入する頃である。

 

「い…いえ。今日はもう十分食べましたし。それに食堂のキッチンに立っていたのがオケアノスのキャスターだったので…」

 

「つまりキュケオーン地獄が嫌だったと」

 

「そ、そういう訳ではなくてですね」

 

慌てる騎士王に対して、ダヴィンチが溜息をつく。

 

「全く。レイシフト先で食料を調達しているとはいえ、資源には限りがある事は王であるキミも理解しているんじゃないのかい?」

 

「しかし、召喚されても食欲はある程度ありますし、今のところ供給も間に合っています。それに資源を浪費する輩は私だけではありません」

 

少し拗ねた口調になるアルトリアであった。

 

『歓談中のところ、失礼するよ。こちらの準備は整ったし、そろそろ始めようと思うんだけど』

 

「やあ、ロマニ。了解したよ。マスター、心の準備は良いかい?前々から論理的には問題ないって事は確認済みだし、もし反抗的なサーヴァントが召喚されても、私と騎士王で対処出来る規模で抑えてあるから大丈夫なハズだ」

 

『本当に大丈夫なんですか?ドクター』

 

『ああ、大丈夫さ。僕もダヴィンチちゃんと一緒に確認したけど、立香君に何か起きる事はまず無いさ』

 

マシュの心配そうな口振りに、立香は苦笑いをした。

 

「僕は大丈夫だよ、マシュ。サッと済ませてマイルームでお茶でも淹れてあげるよ」

 

突如として、部屋中央に置かれた装置に光が点る。

 

「それでは実験開始だ。マスター、詠唱を」

 

ダヴィンチの言葉に立香は頷き、召喚サークルに向かって令呪の刻まれた右手を翳した。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。

 

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

我は常世(すべ)ての善と成る者、

我は常世(すべ)ての悪を敷く者。

 

汝三大の言霊を纏う七天。

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

詠唱が部屋の隅々まで響いた直後、三重の円輪と十数個の光る虹の球体がサークルから出現した。

初めは穏やかに、次第に激しく回転していく光のパターンの中に、金色に輝く印が垣間見えた。

 

『これは標準クラスじゃないな…アルターエゴか?』

 

「――どうも妙だね。騎士王、構えた方がいい」

 

「ああ、分かっている」

 

アルトリアもダヴィンチも、召喚された霊基にただならぬ気配を感じた。これまでにも召喚例のあるエクストラクラス、アルターエゴ。複数の人格で構成されている点が特徴で、例を挙げると玉藻の前から分離したタマモナインや複数の神話エッセンスで構成されたメルトリリス、パッションリップが該当する。

しかし、今回召喚された霊基はアルターエゴであるかどうかすら怪しい。既存のクラスでアルターエゴが存在したから収まっただけ。そんな気配がしている。

 

円輪の回転が止まり、光が消失する。中央に浮かんだ印は下部から空間に溶けていき――。

 

「「……あれ?」」

 

そこにサーヴァントの姿は無かった。

 

「まさか、気配遮断!?」

 

「いや、普通どんなサーヴァントでも召喚直後は姿を現すものだ。それにこれは気配遮断じゃない。そもそも霊基自体がサークル内部に無いぞ!!」

 

ダヴィンチとアルトリアが周囲を警戒する。

その両名の間。立ち尽くしていた立香が不意によろめいたかと思えば、突然正面に倒れ込んだ。

 

『先輩っ!!』

 

『な、嘘だろ!?バイタルは正常だけど意識が無い!!サーヴァントの攻撃か!?』

 

「まさか!?私とキャスターの警戒している中で狙ったというのか!?」

 

「ともかく医務室だ!!実験中止!!今すぐ精密検査しよう!!」

 

まさかの召喚事故に混乱する現場。その中心にいた立香は、床に手を着きユラリと立ち上がった。

 

『良かった!先輩無事だったんですね!』

 

「いや、これは()()!」

 

異質な気配を立香から感じたアルトリアは剣先を立香に翳し、ダヴィンチは右手の礼装を立香に向けた。

 

『何が起きたんだ!立香君は立ち上がったのに、装置の一部が反応していない!!あれは立香君であって違う存在だ!!』

 

「これは厄介な事になった…」

 

ダヴィンチは震える声で現状から推測を導き出した。

 

「デミ・サーヴァントだ。恐らく召喚された霊基が、召喚直後にマスターの身体と融合したんだ!!」

 

「では、今現在マスターの身体を動かしているのはアルターエゴか!?」

 

「…………ほう」

 

立ち上がった立香、改めアルターエゴは溜息を零した。召喚室に緊張が走る。

 

「これはまた凄い状況だな。突然呼び出されるから何事かと思えば、まさか表出して直ぐに武器を向けられるとは」

 

立香の全身はカルデアの制服だった筈だが、アルターエゴの影響かいつの間にか奇妙な服装に切り替わっていた。カルデアに召喚されている裏切りの魔女にも似た、縦長い帽子とマント。しかし帽子には鈍色の鎖が巻きついており、背中からは帯が二本、風もないのに靡いている。

 

「安心できない状況なのは分かるが、安心して欲しい。ぼくは君たちに敵対するつもりも、マスターに危害を加えるつもりもない。ぼくはこれまでだって一度も嘘を吐いたことなんてないからね」

 

アルターエゴは自らの口元を歪めた。それは立香が見せる純粋な表情ではなく、感情を一切表に出さない奇妙な表情だった。

 

「キミは……何者だ?」

 

ダヴィンチは問いかける。この状況で言うべき事では無かったかもしれないが、何故か問いかけてしまっていた。それは、アルターエゴの言葉に多少の誠実さを感じたからか。あるいは単なる時間稼ぎかも知れない。

 

その質問に、引き続き奇妙な表情でアルターエゴは答えた。

 

「まず最初に言っておくと、ぼくは正式なサーヴァントって訳じゃない。強いて言うなら、そうだな。ブギーポップとでも呼んでくれ」

 

そして両手をゆっくり上げると、引き続き言った。

 

「いや、本当に危害を加えるつもりはない。一先ず肉体の主導権はマスターに返すから、いくらでも精密検査してくれ。あと後ろ向きに倒れるから背中を頼む」

 

そしてマントは現れた時と同じように、いつの間にかカルデア制服に切り替わり、立香は仰向けに倒れていった。

 

マスターの身体を借りることで初めて召喚が成立する、変わり者揃いのカルデアでも一際奇妙なサーヴァント、ブギーポップ。

 

 

これはブギーポップがカルデアと共に世界の敵と戦う、ただそれだけの物語である。




僕は連載が苦手です。
短編となれば何とか収拾がつくのですが、連載だと初めの展開だけ思いついて後の展開が回収できなかったりします。

なので、今回は連載の初めだけ書いてみたのですが……。

もう少し書いてみます。
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