Fate/BoogiePop   作:蓼野 狩人

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前回のあらすじ:主人公、変身ッ!!

これ、もう空の境界とのクロスオーバーじゃ…


世界は誤りで満ちている/上

誰かを救う方法は山ほどある。

 

でも、方法があまりにも多すぎて、しかもどれが本当の救いとなるのか分からなくて。だから人は迷うのだろう。自分の成してきた救いは間違っているのだろうかと。誰かの成している救いは間違っていたのではないかと。

 

現実は答えの無い問で溢れている。真の正解を決めてくれる誰かなんて自分自身を含めてもいない。世界はいつも不定形で絶えず変化し、変化についていけない人々ばかりが救いを求めて手を伸ばす。

 

ならば、誰かを救うという行動は変化の波に抗う人のみが為せる技なのだろう。

 

今、人類史を滅ぼそうとする彼らにその権利があるように。

自動的な存在に成り果てていた彼にもその権利がある。

 

変化を望む彼らは果たして悪なのか、敵なのか。

答えを持つ者が遺した言葉は、今なお世界を揺るがしている。

 

 

~・~・~・~

 

 

「――まずは落ち着け」

 

突然のブギーポップの登場に混乱していた場に、黄泉帰りの王が一言投げかけた。同時に無言で自らのカリスマを表出させる。本来ならばマスターである立香自身の持つ統率力を邪魔しないように使用を控えているスキルだ。

その凛として威厳のある声に、武器を取り出した者も、声を張り上げようとした者も、そして事態を飲み込めずにいた者も自然と静まり返った。

 

《……助かったよ、ギル》

 

ブギーポップが胸の前に水平に構えた右手から立香の声がした。例の特殊魔術礼装である。ブギーポップが左手で小さなパネルを押すと、カルデア本部との通信時に似たホログラム映像が表示された。

 

《ごめん。この場に居るみんなには謝らなくちゃいけないことがある。先日僕はダヴィンチやロマニ、マシュとアルトリアの立ち合いの元で召喚実験を行ったんだ。それで召喚自体は成功しちゃったんだけど、それが歪な形になってしまって――》

 

『待った』

 

立香が緊張した面持ちで喋りだす様子を見かねて、マシュの持つ通信礼装からダヴィンチが静止を掛けた。

 

『この件については私の責任が大きい。サーヴァント達に対する機密情報として口止めをしたのも私だ。幾ら黙っていた張本人とはいえマスターが説明するに及ばないだろう』

 

ダヴィンチの言は正論だ。事態の説明および謝罪は責任者が行う事であり、例え当事者だとしても責任を預かっていたダヴィンチに説明を任せるべきであり、立香が説明してはならない。

 

《でも……》

 

「口を出すでない、マスター」

 

ギルガメッシュが止めに入る。

 

「恐らく貴様は自らの過ちだと思い気にしたのだろうが、それは不要だ。マスターとしてサーヴァントに隠し事をするべきでは無いと思うのは正しいが、せずとも良い隠し事とせねばならない隠し事の分別がついておらん」

 

ギルの言葉にまだ物言いたげな顔ではあるが、立香は一度口を閉ざした。

 

『じゃあ、説明しよう……このサーヴァントは私が責任者となって何人かの立会の元で行われた召喚実験で召喚された。しかし、どのような因果でそうなったのか依然として詳しいことはわかっていないが、

マスターの霊基と召喚されたサーヴァントの霊基が融合して疑似サーヴァントになってしまったんだ――』

 

ダヴィンチの説明は分かりやすく、その場にいた一同は部外者でもある浅上藤乃や両儀式も含めてブギーポップがどのような立ち位置に居るのかを理解した。藤乃はあまり興味がなさそうな顔をしているが、一方で式は黙って目を光らせていた。

 

「……説明ありがとう。ぼくだって自分から望んでこちらに召喚された訳では無いのだが、その事も言ってくれて助かった」

 

ブギーポップはそう言って縦長い帽子を目深に被り直した。

 

「ぼくは元の世界で〈世界の敵〉を排除していた存在だ。こちらで言うところの、抑止力のような立ち位置だ。ある少女の裏の人格として生まれたのが最初で、ぼく自身ぼくがどのように生まれてきたのか分かっていない。ある意味では二重人格そのものとも言える、そんなサーヴァントだ」

 

ブギーポップは両手をマントの中から出し、右手を僅かに振るった。

 

「……信用していないのか、それともぼくが戦えるかどうかのテストかな?」

 

聞こえるか聞こえないかという風切り音と共に、ブギーポップの右手に鋼糸が巻きついた短剣が三本握られていた。背後では百貌のハサンの分身体が驚愕の表情で固まっている。

 

「ああ、別に動いてくれても構わないのだが……そういえば動けないのだったな」

 

そう言ったブギーポップは嘲笑ともとれる奇妙な表情を浮かべて左手の人差し指を数ミリずらした。その動きと同時に、分身の首筋から血が一筋垂れる。

 

「そんな…あの一瞬で?」

 

静謐が僅かに後ずさると、仮面がプツリと切断されて青ざめた顔が晒された。ブギーポップが握っていた三本の短剣の内、二本は百貌のハサン、一本は静謐のハサンが仕掛けたものだったのだ。

 

「頬を掠めるだけで留めるつもりだったようだが、確かに静謐とやらの毒を少量でも食らえば倒れていただろう。今のぼくに対毒体質は発揮されていないからな。随分と手際が良いものだ」

 

ブギーポップが手元の短剣を放り投げ、鋼糸を瞬きするよりも速く仕舞った。その動きを見て、両儀式は更に目を細めた。獲物を見るような目付きだった。

 

「……なるほど、それだけ強いなら一人で突入しようという意見に頷けなくはありませんわ。しかしアナタの信頼度は ひ・く・す・ぎ です。この場にいる面子を全員納得させられるとでも思っているんですかぁ?」

 

玉藻の前が尻尾を立てて凄むと、ブギーポップはやれやれと首を振りながら言った。

 

「確かに君たち程の力を持つサーヴァントであれば、アレの中に居座るやつに勝てるかもしれない。しかし今回はぼくの世界からやって来た奴が関わっているみたいでね。ぼくが直接確認しなければならない」

 

ブギーポップはもう一度鋼糸を出して縦横無尽に揺らめかせる。

 

「ぼくの世界においてぼく自身はかなり強い立ち位置にいた、と思う。しかしその世界で苦戦されられた事は一度や二度じゃない。そしてそういう奴らがこちらに来ているとすれば、ぼくはそいつを見極めて場合によっては倒さなければならない」

 

そして例の冷たい無表情を顔の奥から表出される。

 

「ぼくはいつだって自動的だったからね。だからこその不気味な泡だ」

 

その発言にダヴィンチは思考を深めた。ブギーポップという存在はやはり知れば知るほど抑止力のような性質がある。しかしながらこちらの世界における抑止力の行動はサーヴァントの召喚や強化に充てられる。しかし、そもそも英霊という概念のない世界において抑止力が活動する時、その代替となる者が必要だったはずだ。

ひょっとすれば、このブギーポップというサーヴァントは抑止力の新たなカタチの一つなのではないか?世界全体の事象に介入する際ギリギリで許されるラインが二重人格だったのではないだろうか……。あるいは考え過ぎかもしれないが。

 

『――そうか、それなら仕方ないな。只でさえ強大と予測される魔神柱モドキに加えて実力が未知数な別の世界の人物がいるのは厄介極まる。もし君が『こちらで助けの必要性があると思われた場合、勝手に介入する』という条件を付けてくれるのであれば構わないだろう。それでいいかなマスター?』

 

《はい、それでお願いします》

 

そのダヴィンチからの空気を読んだ案に、アストルフォは不満げな顔をして言った。

 

「ちょっと待ってよ。いくら強いとはいえ一人で行かせるのはどうなの?信頼とかそういう問題じゃなくて、ボクからすればマスターの身体一つで戦わせるってこと事態が心配だよ」

 

「確かに、ぼくだけでは心配だというのも頷けるな」

 

アストルフォの単純なようでいてこの場のサーヴァント全員が抱えていた心情の核心を突いた言葉に、ブギーポップは同意した。同意した上で初めから考えていた提案を持ち出した。

 

「それなら一人だけ同行を認めよう。味方陣営に属していて、敵の死ににくさに関わらず必殺を狙えて、戦い慣れしているような――そうだ、両儀式はどうだ?彼女ならぼくの要求も満たせそうだ」

 

その誘いに先程から黙していた両儀式は、

とても女性的かつ蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

 

~・~・~・~

 

 

『――こちらから干渉しないでくれとは、また随分な要求だな』

 

不満げなダヴィンチの声が玄関ホールに満ちた。

 

結局あの後に追加ですったもんだがあった末に、ブギーポップの提案通りに両儀式がサポートとして付くことになった。しかし両儀式側からの条件としてカルデア側からの音声傍受停止を要求した。つまり両儀式の許可がなければブギーポップ達の会話を聞くことが出来ないのだ。

 

「これは随分と都合のいい条件だな。()()()()()()()()()?」

 

ブギーポップが問うと、両儀式はほっそりとして白い腕を腰にいつの間にかあった刀の柄に伸ばした。それを目視したブギーポップは、よりマンションの深い方へ逃げるように移動してから振り返り対峙した。

 

「察しがいいようね……余程敵を殺したのね、貴方」

 

クスクスと笑った両儀式の着物は、先程までの紺色のそれとは異なり華やかな白基調の立派なものになっていた。百合のような植物をあしらった模様が嫋やかな表情をより際立たせている。

 

「やっぱりか、そんな気はしていたんだよ。ぼくにはどうやら二重人格者に対する嗅覚みたいなモノがあるらしいな」

 

「……それ、本当かしら」

 

「疑われるのは心外だな」

 

相変わらず女性的な笑みを浮かべ続ける両儀式と、憮然とした表情のブギーポップ。暫く対峙していた両者はどちらからともなく歩き始め、長く歪んだ階段を上り、偶に現れる敵を糸で切断する一方で刀で視えた死を殺して排除していく。

 

「君が恐らくこの世界でも特別製である事は確信していた。君は恐らく、尋常じゃない場所から表出しているな。元から比較的自由な存在だったと見るが、違うのか?」

 

「貴方に比べれば自由だった、かも知れないわね。少なくとも意思は自由だったけれど、外に出る機会がなかなか無かったの。その点で言えば貴方の方が自由だったのではなくて?」

 

「まるでぼくの事を以前から知っていたような口調だな」

 

「それはお互い様よ。でも私が何処から来ているか知っているなら、不思議にも思わないでしょう?」

 

クスクスと袖を口元に近づけ笑う両儀式に向かって、やはり憮然とした表情のままでブギーポップは唐突に糸を振るった。

 

プツン。

 

伸びた鋼糸はあっけなく日本刀で殺された。

 

「危ないわ……でも、やっぱり貴方は強い。私ですら糸を直視出来なかった……まあ、()()なら出来ましたけど」

 

「……」

 

ブギーポップは一瞬でバラバラになった鋼糸を回収して、新たな鋼糸を懐から取り出した。

 

「それで、何故私を呼んだの?敵の排除は私抜きでも出来ることでは無くて?」

 

「それはそうだ。此方としても舐めてもらっては困るな。ただ今回は目撃者を減らしたかっただけだ」

 

ブギーポップは何も無い背後の空間を後ろ手に示した。

 

「あの浅上藤乃とかいう女性、恐らく透視能力を持っているな。今はぼくが()()()()()妨害しているが戦闘中はそうはいかない。君なら透視能力だけを一時的に殺すくらい訳ないだろう」

 

その頼みを聞いた両儀式は、目を丸くした。

 

「それだけ?それだけの理由で私を呼んだの……?呆れた人ね。昔にも私が何でも叶えてあげるって言ったのに、心から何も望まない唯の人がいて驚いたけど。あの人程では無いにせよ驚かされたわ」

 

「そうかい、そいつは光栄だ」

 

ちっとも光栄だと思っていなさそうなブギーポップの返事と同時に、歩き続けていた二人の周囲が空間ごと軋み始めた。

 

「どうやらここからが本番らしいな」

 

真正面から走ってきた精巧なオートマタを見ずにブギーポップは両手を構えた。目標を捕らえ損ねたオートマタは、首を置き土産にして慣性に任せて背後へ走り去って行った。誰にも認識できないような速度で空間を切り裂いた鋼糸が、ついでとばかりにオートマタの制御部分と胴体を切り離したのだった。

 

「私は手を出しませんから、あとはよろしく頼むわね」

 

逆に背後から襲いかかってきた醜悪な見た目のホムンクルスは突如として発生した脳天まで突き抜ける快楽に戸惑った。その快楽の源を辿れば、日本刀が胸の正面から侵入して神経、血管、骨格を心臓そのものを除いて全てすり抜け刺さっていた。その快楽は、あまりにも見事な殺人術から発するものだった。

 

歯車が弾け飛び、血の雫が馳せる空間を横目に二人は扉を開けた。

 

「――――お待ちしていましたよ。境界を司り、「 」そのものである根源の主よ。そして私を遂には殺すという、遠い世界から来た死神よ」

 

そこにはシルクハットを被り、目を爛々と輝かせた茶髪の紳士がいた。もし心情その他を考慮して連絡を一時とらないようにした立香や、そもそも連絡していないダヴィンチやロマニ、そしてこの場にいないマシュがその姿を見れば間違いなく動揺するだろう。

 

二人の前に立ち塞がった男は、カルデアのマスター達を一人残して全員殺害した裏切り者。オルガマリー・アニムスフィアの信頼を背負いながら自ら突き放し、絶望の末に炎上する観測機に沈めたレフ・ライノール教授の姿そのものだった。




いつも一話につき5000字を目安に書いているので、今回は前後編でした。

更新が遅れた理由……?決まっているじゃないですか。クリスマスイベント(復刻版)ですよ。おっと砂集めがまだまだなのでこれにて失礼します。

藤「やっぱりこいつかよ!?」(音声遮断中)
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