Fate/BoogiePop   作:蓼野 狩人

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前回のあらすじ:パンドラさん加入

注意:多量のオリジナル設定あり……今更か。


エピローグ/更なる脅威

「こんにちは。ブギーポップの世界から来ました『パンドラ』です。クラスはルーラー。以後お見知りおきを」

 

例の亜種特異点:克螺旋境界式 オガワハイムの核である未練の集合体を撃破した事で、五日経てば魔術王との決戦となるものの、今回働いた藤丸立香にマシュとその他同行したサーヴァント達は休息を取っていた。

勿論、毎回恒例の素材集めと聖晶石の回収は忘れずに行った。特殊な魔力の集積体である聖晶石はとても貴重で、こうして地道に敵を倒す他にリンゴマークやカラフル三角錐などが印刷された特殊なカードを使用するぐらいしか増やす方法はない。立香は謎電波を授受した。

 

今回の特異点で集まった聖晶石で召喚を行った立香は、まず初めにアサシンの両儀式を召喚することに成功した。しかも「こいつは何かポケットに入ってた」と言って聖晶石を召喚一回分返してくれた。立香は狂喜乱舞した。

 

そして返してもらった聖晶石を含めて十回連続で召喚を行ったところ、一体何の縁が出来たのか数えて十回目に『パンドラ』が出てきたのである。

 

「……ブギーポップを宿した君が召喚を行うことで、あちらの世界寄りの英霊が召喚されやすくなっているのだろう」

 

ダヴィンチが目の前の新たなサーヴァントを眺めながら、ため息混じりに推測を述べる。

 

「これからブギーポップの世界の英霊に関われば、同じように召喚してしまう可能性も大きくなるだろう。全く……私も天才の端くれとしてこういうイレギュラーな事態はむしろ研究対象なんだが、人理修復を行っている今回のようなケースではあまり望めないと思うのだがね」

 

やはり不満そうなダヴィンチに、パンドラは居心地が悪そうに肩を竦めた。

 

「あの、僕は要らなかったですかね。一応特異点での記録は残っていますし、僕の宝具はある程度役に立つと思うのですが」

 

《その通りだ、ダヴィンチ》

 

立香の右腕からブギーポップが賛同する。

 

《彼の宝具は恐らく未来を予測することに特化している。カルデアには様々な英霊が居るが、直近の未来を正確に予測できる英霊は恐らく居ないだろう?彼はわざわざ抑止力が『未来を予測することで運命を回避出来る抑止の守護者』を求めた結果、造り上げられた英霊だ。その精度は折り紙付きだろう》

 

「そうか……ふむ」

 

ダヴィンチは少し考え込んでから、簡単な予言をしてもらう事を思い付いた。

 

「では、ついでだ。この場でその未来を予測する能力を使ってみてくれ給え」

 

「……あ、はい。分かりました」

 

どうせ要求されると思っていたのか、パンドラはあっさりと承諾した。紙と色鉛筆を要求して、近くにあった椅子に座り瞑想するような表情で目を瞑る。

 

色鉛筆のケースを開けて、ダヴィンチに「少しの間、僕と目を合わせていてください」と言った。そしてダヴィンチの目に映し出された何かを凝視しつつ、両手で紙に絵を描き始めた。

 

「青みがかった黒髪……パイプ……コート……ステッキ…」

 

ブツブツと呟きながら凡そ五分で絵を描き終えた。次に空気中の匂いを嗅ぐように部屋を一回りして、結論を下す。

 

「何だか感覚的に……煙たいです。何時ここに来るか分かりませんが、紙に描いた男がダヴィンチさんに会いに来ますね。しかもコーヒーを淹れるか何かします」

 

その言葉が言い終わるか終わらないかする内に、不意に一つしかない扉が開いて、そこから紫色の煙が侵入してきた。

煙が充満しているとなれば思い浮かぶのは火災だ。しかし警報は全く鳴っていない。現代における火災報知器よりも更に高性能なセンサーがある筈なのに、煙に対して反応を返していない。

まだ机の上の絵をろくに見ていない状態での対面。その場にいた立香、マシュ、ダヴィンチ、ブギーポップ、そしてパンドラは警戒して煙から離れた。

紫色の煙の向こう側。そこから一人分の影が現れた。どうやら煙に対して咳き込んでいるようで、よろめきながら此方に接近してくる。

 

「ゲホッゲホッ、ゴホッ……済まない、ついパラケルスス君に乗せられて妙な草をパイプに詰めてしまった。『これなら副流煙も気にしなくても良くなります』とは言っていたが……ゲホッ、最新鋭のセンサーが反応しない程とは言え、これは吸えた物じゃないな」

 

扉の奥から現れた影は、紙に描かれた人物と瓜二つのサーヴァント。カルデアと何度か接触し、『人理焼却事件』をあるロンドンのキャスターに依頼され調査中のシャーロック・ホームズだった。

 

「ん?驚いた顔をしているな、諸君。そんなに私が現れたことが意外かね」

 

固まる部屋の空気をものともせず、済まし顔のままで中央のテーブルに歩み寄り、そこにある小さなサーバーで一人分のコーヒーを淹れ始める。

 

「大方、私の登場がいきなり過ぎて驚いているか、もしくは何かしらの予言的な物が当たって驚いているかどちらかだろう。違うかね?」

 

「……こ、後者の方です。ホームズさん」

 

立香の答えにホームズは片眉をクイと上げた。

 

「成程。私のいきなりの登場に慣れたであろう君たちが新鮮に驚くようなもう一つの可能性を指摘してみたのだが、どうやら当たったらしい。いや、当たることは既に理解していたのだが。そこまで未来を正確に予測することの出来るサーヴァントが現れたのは、これからの君たちにとっても好都合ではないかね。何故警戒している」

 

ポッドから注いだお湯が、芳ばしいコーヒーの香りを辺りに立ち登らせた。

 

「私の仕事は起きた事件の推理だ。真相こそ具体的に掴むことが可能だが、一方で対応が遅れて後手に回ってしまう。そして所謂予言的な手段はその逆だ。起こり得る事象を事前に観測する事で、対策を練ることが出来る。ミスター・リツカに分かりやすく説明すると、事後治療と事前予防の違いだろう」

 

淹れ終えたコーヒーの香りをみて満足気に微笑んだホームズは、カップを口に付けて中身を口に含んだ。

 

「私達は人理修復の為にも手を尽くさなくてはならない。そうだろう?ダヴィンチ」

 

その言葉には流石のダヴィンチも、口を噤むしかなかった。と言うよりも場の空気が名探偵の登場に呑まれていた。

 

「あの、この人は誰ですか?さっきから煙たいので換気したいのですが」

 

その中でもホームズを知らないパンドラとブギーポップは周囲の雰囲気に乗り遅れていた。

 

「おっと、これは済まない。初対面の相手もいるというのについ失礼をしてしまった。私はキャスター、シャーロック・ホームズ。訳あって直にカルデアに乗り込んできた全てを解き明かす者たる探偵を生業としている」

 

優雅にお辞儀をするホームズのコートは、裾から拡大鏡の付いた機会腕が幾つか覗いている。

 

「出自等がよく分からないミスター・ロマニには、特別に手を貸してもらったパラケルスス氏によって眠ってもらった。もともと彼には働き過ぎるきらいがあるらしい。偶には熟睡するのも良いだろう」

 

シャーロック・ホームズ、どこかで聞いたことのある名前だな……とパンドラが考え込んでいる間に、立香は普段の自分を立て直してホームズに質問をした。

 

「何故ここに来たんですか?ホームズさんは確かレイシフトモドキは出来ても代償として霊基を損耗するはずです。ここまでレイシフトする必要があったのですか?僕らと会うのはもっと後でも良かったのでは」

 

その質問にホームズは親しげな微笑を浮かべる。

 

初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)。私の起源たる『解明』は全てを解き明かす者としての性質を表しており、そして私は突如として脈絡もなく現れた謎に対して大きな関心を持っている。私は先程、ここに邪魔するついでにカルデアの召喚記録を少々覗き見した」

 

その言葉にはダヴィンチは静かに驚いた。カルデアはその性質上、重大な情報に関しては凄まじいセキュリティを設定している。ダヴィンチ本人が監修しているので、もしそのセキュリティを破れるとすれば、それはダヴィンチと同じレベルの天才だけである。万能の人と呼ばれたダヴィンチの地頭と肩を並べる素晴らしい頭脳の持ち主、それがシャーロック・ホームズなのだろう。

 

「カルデアの召喚記録というのはトップレベルの機密情報だ。少々苦労はしたが、内容を閲覧させてもらった。聖晶石三個の原則を破り、聖晶石二個で召喚されたサーヴァントが居たという記録は特に注目すべき手掛かりだ。そして、この記録が私の来た理由に大きく関係している」

 

ホームズは部屋の壁沿いをゆっくりと練り歩き始める。柔らかなブーツの足音とまだうっすら残る煙、そしてコーヒーの香りだけが部屋に満ちている。

 

「諸君はこの世界を無限だと思うかね?もしそうならそれは大きな勘違いだ。陸に、海に、地球に、宇宙に限りがあるように、どれだけ世界を拡大解釈しても限界が存在する。例え無限にある平行世界を含めたとしても、無限は有限なくして存在できない。平行世界は数こそ無数だがその内容には限界がある」

 

ホームズは懐から聖晶石を三個取り出した。

 

「この世界におけるサーヴァントの召喚限界は、聖晶石で定義すると丁度三個分となる。例え微細に聖晶石を加工し、限りなく三個に近い状態に持って行っても召喚は不可能だ。この事実は私が世界その物の真実を一部暴いた際に明らかになった事で、裏付けも取れている……探偵は確証のない事を明かせないのだから」

 

ホームズはそこまで語ると突如として無表情となり、手元のステッキを持ち上げて先端を立香に――より正確には、立香の右腕にある魔術礼装に――向けた。

 

「聖晶石二個での召喚実験は必ず失敗するはずなのに成功した。これはつまり、無数にある平行世界も及ばないような別世界からやって来たサーヴァントということだ。それが君だ。たまたま構造が似通っているだけで……仮に世界という定義より大きな平行世界全てを纏めた一括りの次元があるとすれば、彼らは別次元からの未知なる来訪者とも言える」

 

鋭い目付きで魔術礼装を射抜くホームズは、そこで若干冷静さを欠いていた己を落ち着けるように、深く息を吐いた。

 

「彼らは私の築いていた真相への解明を全て無かったことにする存在だ。私の手に入れた情報では、別世界の住人というのは平行世界までなら身分を保証されるはずだ。しかし別次元の人間は世界のルールそのものが違う。サッカーのルールがベースボールに通用しないことと同じようなものだ。そして……」

 

そのタイミングで立香の礼装からブギーポップの立体映像が立ち上がった。冷たい表情で目を細め、映像越しのホームズに向けて殺気に似て非なる感情で胸を満たしている。

 

「そして、有り得ないサーヴァントが召喚された事によって、世界のシナリオは狂いつつある。既存の未来予測は別の次元から流入したルールによって役立たずの台本と化し、現時点で頼りになるのは最早魔術や科学の外側にある法則――辛うじて神性としての権能、強力な宝具、仕組みの不明な超能力、未知なる地球外生命体――と言ったところだ。いや、これらのモノですら『通用したら運がいい』レベルだろう」

 

《つまり、ぼくが召喚されたのは……》

 

ブギーポップが口を開くと同時に、ホームズが結論を下した。

 

「ミスター・リツカに棲むサーヴァントは突然やって来た訳では無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()存在だ。そしてそこの未来を予測するサーヴァントも同様だ。これまでの記録を鑑みるに、元の次元で世界を救う役割を担っていた彼の方が優先的に召喚されたのだろう。そしてこれから訪れる事件への対策として抑止力が準備した未来への道標が、もう一人の彼だった」

 

ホームズが語る推理は必ず決定された事実であり、間違っている事は有り得ない。少なくとも彼の持つ起源も、彼を原作とした小説も、彼の推理が間違っていた事が殆どない事を裏付けている。そもそも内容からして信じられないようなことばかりだが、ホームズは誇大妄想を口にするするタチではない。

 

だからこそ、内容に含まれた重みが場の全員にのしかかった。

中でも最と厳しく、険しい顔をしていたのはダヴィンチである。

 

「……何かしらの危険があればカルデアのシステムを通じて察知されたはずだが、根本から違う存在だったことが原因かい?」

 

ダヴィンチの発言にホームズはちらりと換気口の辺りに視線を向けた。残留していた紫色の煙がまだ吸い込まれている。

 

「その通りだ。そこの二体はこちらの次元から受け入れられたからこそカルデアの装置でも観測できるような霊基を保っているが、初めから敵として来たのであれば、その特性を利用しない手はない。敵はこれから先の未来のどこかで姿を現すだろう」

 

続いて、マシュが到底言葉に現せないであろう様々な衝撃に足元をふらつかせつつ、尋ねる。

 

「順序が……おかしくないですか?ブギーポップさんが来るまで次元と次元は繋がって無かったはずです」

 

「……君は体調が良くない筈だ。椅子に掛けるといい……。さて、ミス・キリエライトの質問に関してだが、敵の侵入はもっとずっと昔から始まっていたということだ」

 

マシュの顔色がどんどん青ざめていき、立香が心配そうに近くに寄り肩を支えた。その間にホームズは中央のテーブルから椅子を引き摺り出し、立香と一緒に手助けしてマシュを座らせた。

マシュの状態を軽く確認し、ダヴィンチにこの後直ぐに医療室へ連れて行くように伝えると話を続けた。

 

「敵が侵入しようと足掻いていることを察知した此方の世界は、対抗策として侵入した瞬間に無理やりパスを繋げてカウンター召喚することにした。こちらから次元を乗り越えるのは不可能で、しかも向こうの次元はこちらとルールは違っても性質は一部似通っている。次元同士の戦争は望むべくもないことだ。侵入してきた敵のみを排除する為に、敵がやっとのことで侵入した直後に全ての事象を調節したのだろう」

 

その言葉に立香は雷に撃たれたような心地がした。確かに自分は日頃から貴重な聖晶石三個を消費してサーヴァントを召喚するシステムを改善したいと思っていたし、その事をダヴィンチやロマニに相談したこともある。だが、聖晶石二個で召喚しようなどという試みは無駄だと考えてもいた。あの日、突然思い付いてダヴィンチに打診しなければ実験なんて言い出すのも馬鹿らしいと考えていただろう。

 

「世界は絶えず変化している。そして敵は未だ姿を表していない。今回の件は直前に控えた()()()()()()()()()()()()()()()()。ゆめゆめ油断しない事だ」

 

手元のコーヒーを残さず飲み干したホームズが一息つくと、足元から薄らと身体が透け始めた。手元のコーヒーカップも指をすり抜け、床に落ちて粉々に割れてしまった。

 

「危急の事案だった為に、霊基を著しく消耗してしまった……この身体は最早使い物にならない。私は考えた事を予想で話すのは性にあわないのだが、これだけは言っておく。これから先に必ず再召喚されるであろう私自身に事情が伝わるように、出来る限り詳細な記録を作っておいて欲しい。過酷な旅路を往くには、未来を観測するだけではなく事件を推理する探偵も必要だ……それにドクター・バベッジからの依頼を完遂出来なかった。探偵はお膳立てをしたとしても、事件が解決するまで生きて見届けなくてはならない。だから君たちが魔術王を倒し世界を救う事を――」

 

願っている――。

 

ホームズは最期に探偵らしくない願い事をして、黄金色の輝きとともに消失してしまった。

 

砕け散ったコーヒーカップに、立香はこれから先に訪れる運命を重ねて身震いした。

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

彼らは魔術王に立ち向かい、残酷な真実と予想外の結末を迎えることとなる。

 

初めから存在していた運命とは違う道筋を辿った立香は、世界を救うと同時に「魔術王を遥かに凌ぐ脅威」に立ち向かう決意をする事となるだろう。

 

 

『人理再編』が間近に迫っていることも知らずに。

 

 

 

 

「もしも君が善良たろうとするなら、未来などにはかかわらぬことだ。 それはほとんどの場合、歪んだ方向にしか向いていない」

 

――霧間誠一「VSイマジネーター」より引用

 

 

 




NEXT:冠位時間神殿 ソロモンの偽証

べ、別に宮部みゆきに影響された訳じゃないよ、ホントだよ!(必死)

……という訳で、衝撃の事実を創りました。次元云々というのは科学的な意味でも魔術的な意味でもなく、要するに

「カルデアの次元」……型月ワールド
「敵の居た別次元」……上遠野ワールド

という事です。外なる宇宙であるクトゥルフ神話由来の神々すら型月ワールド所属となります。
でもとんでもない敵は出さないよ!別次元から来た存在ということでデフォルトでチート能力が付いているのに、更にチートな奴らを出したらパワーバランスが崩れる……!

という訳で、これからのシナリオをしっかり練りつつ、次章の内容を固めていきます。

最後に、今までに感想を下さった方々並びに誤字訂正を送ってくださった一人の読者へ感謝を。お陰でここまで突っ走ることが出来ました。
初めの頃はろくに内容を組み立てておらず、ブギーポップシリーズは第一巻しか読んでいないという悲惨っぷりでしたが、今この文を読んでいるアナタを含めた数々の奇跡で物語は続き、作者は成長しました……現時点ではまだ『ペパーミント』読めてませんけどね!

という訳で、これからも出来れば応援よろしくお願いします。感想並びに誤字訂正待ってます。誤字訂正は内容をろくに確認せずOKする癖があるので、出来れば正確にお願い致します。


以上、長ーい後書きでした。

Lostbelt.NO.3楽しみですね!イントロでゴルドルフ所長への株が上がりましたよ。ネタバレ厳禁なのでこれ以上は言いませんが(←今まで散々やらかした奴)
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