Fate/BoogiePop   作:蓼野 狩人

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前回のあらすじ:怪しい微笑みは黒幕のサイン





平凡/マシュ・キリエライト

マシュ・キリエライト。

人理保証継続機関カルデアにて、西暦2000年にデザインベビーとして生まれる。

 

英霊と人間を融合するデミ・サーヴァント実験において必要とされた魔術回路と無垢な魂を備えており、実施された召喚実験においては英霊ギャラハッドとの融合に成功。エクストラクラス:シールダーとなるも、元からデザインされた命ゆえに30年しかなかった寿命が、長く見積っても18年となってしまう。

 

カルデア最後のマスターである藤丸立香と共に特異点を巡る戦いの中で、寿命を更に損耗させてしまう。第六特異点を修正した時点で、彼女の肉体はほぼ限界に達していた。変異特異点であるオガワハイムに乗り込む際も、Dr.ロマンからの進言を丁寧に退けて同行していた。

 

彼女の人生は、半ば空白で満たされている。生まれてから14年ほどは一人きりの無菌室で寝たり起きたりを繰り返すだけだったから。

その空白を埋めてくれたのが、特異点を巡る旅路だった。

 

――ある日、彼女は人生における先輩でもある立香に、日本での生活を聞いたことがあった。

立香によれば、日本人のうち魔術を知らない一般人は、戦いを一切知らず、戦争を疎み、平和を享受して生きるのだという。

小さい頃から学校に通って、色んな人と交流して、学びたい事を学び、世界の裏側に満ちる恐怖から守られて生きていく。

 

 

ああ、それは――――

 

生まれた時から短命で、特異点を通じることでしか外の世界を知りえなかった私に比べて――――

 

 

なんとも―――――

 

 

「『羨ましい』」

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

ジリリリリン……

ジリリリリン……

 

「う、うーーん…」

 

マシュは目覚まし時計の音で目を覚ました。いつも通りの朝だ。早朝の空気は少し肌寒くて、衣替え前の薄いパジャマでいると布団から出たくなくなってしまう。

 

「……マシュ。マシュー!もう朝よ。学校に遅れても母さん知らないわよ!?」

「えー……かあさん、まってー……」

「フォウ、フォウフォウ(てしてし)」

 

柔らかな毛並みがついた肉球に頬を押される。

 

「あれ、フォウさん……起こしに来てくれたんですね……」

 

まだ寝ぼけなまこの頭で時計を見ると、午前6時半だった。いまから身支度して、朝食を食べて…となれば、結構ギリギリの時間だ。

 

「しまったー!フォウさん、メガネ何処ですか!?」

 

わたわたと準備をして、髪を整えて。階段を掛け下りるとそこには銀髪を振り乱しながら慌てて準備をする母親の姿があった。

 

「えーっと、卵焼きは何とか出来たから次はおにぎりしないと。アレ!?でも今チンしているキャベツ出さないとサラダが間に合わない!?」

 

エプロン姿で危なっかしく包丁を握る若奥様(?)のオルガマリー・キリエライトである。

 

「ああ、もう!味噌汁作るのに手間が掛かりすぎよ私!でも料理教室のエミヤさんは確かこうやってワカメを……しまった!まだ入れるタイミングじゃなかった!」

 

キッチンにたつ姿はいかにも手伝わなければならないような雰囲気だ。しかし娘であるマシュは、誰かが手を出さなくともキチンとした料理を最後に仕上げてくれることを知っている。

 

「マシュ、もう着替えた?着替えたならコタツあっためといて。あと髪を梳いておきなさい。寝癖つきっぱなしじゃない」

 

的確な指示をくれる母親は、さながら我が家の司令官である。マシュは電気で温まる仕組みのコタツの電源を入れて、洗面所で髪を梳いた。片目を隠すボブヘアーというヘアスタイルは、あるゲームのキャラクターを見てからお気に入りの髪型となった。

 

「ん?マシュはやっぱりその髪型かい?可愛いけど視界が遮られて苦労しないのかい?」

 

髪型を整え終えると、今起きましたと言わんばかりに髪の毛を爆発させた父親――ロマニ・キリエライトが入ってきた。栗色に近い髪色はよく珍しがられるのだが、せっかくの髪も整えなければ見た目台無しである。

 

「父さん……その、髪型直すよね?」

「ん?ああ、今日は時間が無いからこのまま行こうかなーと」

「ダメ!ちゃんと直していかないと」

 

マシュはため息を吐いてブラシを取り出すと、父親の髪型を直して何時ものふわりとしたポニーテールに整えてあげた。

 

「おお!流石我が娘。とっても綺麗な仕上がりじゃないか!」

 

喜ぶ父親に微笑みかけたところで、

 

「コラァ!マシュにロマン!早く朝ご飯食べないと遅刻するわよ!」

 

母親が雷を落としてきた。

 

 

~・~・~・~

 

 

マシュが家から向かったのは、私立カルデア学園である。とても個性的なメンバーばかりの学園で、生徒はみんな曰く付きのプロフィールしか持っていない。もっともカルデア学園は元々海外からの留学生を中心に集めている学び舎なので、国内外から変人が集まるのも無理はないような気もする。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

マシュは通学路を走っていた。時間的には歩いてもギリギリ間に合うのだが、マシュにとっては朝のランニング替わりでもある。朝方にひと汗かいておくと、その日一日を気持ちよく過ごせるのだ。

 

「あれ?マシュじゃーん!おひさ~」

「あ、鈴鹿先輩!おはようございます!」

 

マシュの後ろから声を掛けてきたのは、学園の中でも一番女子高生らしいと良く話題になる鈴鹿である。最先端のファッションを常にアンテナで捕捉し、学園内では同じ女子高生からあこがれの目で見られる存在だ。

 

「こーんな朝っぱらからよく走れるよねーマシュたんは」

「ま、マシュたん!?」

「マシュたんは頑張り屋さんだねぇー。そうだ!よかったらウチと競争してみる?」

 

今にも狐の尾でも飛び出てきそうな程にやんちゃな笑みを浮かべて鈴鹿は誘う。

 

「あ、いえ。これは日課の運動であって競争とかそういうのではありませんので…」

「ちぇ、つまんないのー。私に買ったらイチゴミルクでも奢ってあげたのに~」

 

鈴鹿は心底残念そうに呟くと、マシュを抜いて塀の上を駆けて行った。気まぐれな狐っぽい言動である。その彼女も実は学内で優秀な成績を収めているという噂があり、実は頭が良いのでは?とよく話題に登っている。

 

「…私も先輩に追いつけるように頑張らないと」

 

小さく呟いたマシュは、虎の着ぐるみに竹刀で武装した体育教師(密林に棲む冬木出身のジャガーマン)の服装検査を乗り切り(片目を隠すヘアスタイルについては『カワイイからアリ!』らしい)、一階にある1年月組の教室に入った。

 

「あら、マシュさんじゃないですか。おはようございます」

 

マシュが息を整えてから開けた教室の入り口脇、そこには淡い緑のロングヘア―を靡かせた少女が立っていた。マシュの学友の一人であり、能楽研究会を入学してすぐに設立した清姫である。彼女の能楽に傾ける情熱は本物で、特にある寺にまつわる内容を演じるときは、本物さながらの舞を見せるので何かしらの大会に出て好成績を収めることを期待されている。

 

「あ、おはようございます。きよひー、と呼んでもいいんですよね?」

「ええ、昨日私が言ったとおりですわ。私と貴女はいわば恋敵の関係……呼び名で油断を誘うのは定石ですのよ?」

「……?」

 

清姫の後半部分のセリフが良く聞こえなかったのだが、マシュは最終的に自分と仲よくなりたいのだろうと結論付けた。

 

「能楽研究会には先輩も所属しているとお聞きしました。私も今度見学してみていいですか?」

「(うっ…!?何という純粋な笑み…!恋敵である筈なのに一方的に攻めている私の方が罪悪感を抱いてしまうほどに無垢な笑顔…!やはり後輩属性は侮れませんわ…)」

 

純粋無垢なマシュによる後輩属性の発露に、ストーカーかつヤンデレ気質と色々黒い清姫は明確なダメージを負っていた。

 

「そこのお二人さん。早く席についてはくれないかね。そろそろホームルームを始めるぞ」

 

教卓のケイローン先生が呼びかけると、タイミングを計ったかのように始業のチャイムが鳴り響く。残響が消えないうちに、二人は慌てて自分の席に着くのだった。

 

 

~・~・~・~

 

 

一時間目の体育はスカサハ先生とジャガーマン先生主導で行われるが、一方はケルト式スパルタランニング、もう一方は密林のジャガー王国秘伝の剣術指導と、比類なき過酷な運動もしくは比類なき迷走の果ての二択を迫られる。因みにマシュはスカサハ先生の元で体力づくりに励んでいる。

 

二時間目の道徳は架空のキャラクターである「不幸なランサー君」が遭遇する様々な状況に対して、果たしてランサー君を不幸から救うためにはどうすればいいか話し合いをする事となった。結果、教室全体の意見として「ランサー君が不幸で死ぬのは運命である」という結論が出て担任のケイローン先生を困らせた。

 

三時間目は数学……のはずなのだが、担当のエレナ先生の教える数学は高等数学というよりも数秘術に近く、途中で先生の話がオカルト方面に大きくずれてしまった為に生徒たちは自習を余儀なくされた。

 

四時間目、物理。時間割を間違え鉢合わせた二コラ先生とエジソン先生が大ゲンカした時点で察して欲しい。

 

 

 

 

そうこうする内に迎えた昼休み。マシュは母親が作ってくれた弁当を小脇に抱えて階段を駆け上っていた。目指すは屋上、彼女にとって大切な先輩が待っている場所だ。

 

「先輩!今日もお疲れ様です!」

「やあ、マシュ。今日もお疲れ」

 

ニコリと笑ってかじり後の付いたサンドイッチを振る少年、その名を藤丸立香という。当カルデア学園所属の二年生にして、平凡なスペックでありながら巧みなコミュニケーション能力と篤い人望で生徒会長(マスター)を務めている。

 

「今日は少し時間に遅れてしまいました……。すみません、昼休みの時間は限られているのに」

「いいよいいよ。弁当食べる時間はまだ残っているし、僕としてはマシュと一緒にお昼を食べる事が一番だからね。多少遅れても気にしないさ」

 

のんびりとした動作で牛乳パックを持ち上げた立香は、あらかじめ敷いてあったレジャーシートの隅によって、傍らのスペースをポンポンと叩いた。

 

「ほら、早く食べよう」

「は、はい」

 

マシュは少し緊張しながら隣に座った。カルデアでのランチタイム。マシュにとって先輩と晴れた日に太陽の光を浴びながら食べるランチは、学園生活の中でも特にお気に入りの時間である。

 

「「「じーーーーーー」」」

 

しかし、本日に限って平穏を破りに来た三人娘の姿があった。学園内でもモテると話題の藤丸立香。その立香を常に狙い家の位置まで特定しているという質の悪い事で有名な三人である。

 

一人目は言わずもがな、無理やり能楽研究会に立香を連れ込んだ清姫。

二人目はカルデア学園の不遜な輩を裏で退治している組織の一員、コードネーム“静謐”。

三人目は母性溢れる三年生の元生徒会長かつ現陰の風紀委員長、頼光。

 

人呼んで「生徒会長の寝床に侵入しそうな女生徒三人衆」、またの名を(詳しい由来は不明だが)「溶岩水泳部」である。

 

「あらあら、私も先代生徒会長として混ざりたいわー」

「弁当…私の作った弁当でも、会長なら美味しく食べてくれる筈…」

「やはりマシュさんに先手を取られっぱなしでは勝ち目が無くなってしまいますわ……」

 

マシュという最大の恋敵に対抗するために休戦協定を結んだ三人だったのだが、残念ながら三人とも正面から立香に愛を受け止めさせる手段を保有していなかったが為に、日々様子見で終わってしまっているのだ。おかげで日々焦る思いだけ募るわ、目の前で関係がどんどん進展していくわ散々である。

 

この後、しびれを切らした三人がとびかかる寸前に金髪バイク乗り(坂田金時)狐のチャット仲間(玉藻の前)、やたら長い腕を持つコードネーム“呪腕”の先生というメンツが陰から止めに入っていった。

 

 

 

 

五時間目の美術(ダヴィンチ先生が担当、内容は自称イケメン猪八戒(ダビデ像)のデッサン)、六時間目の家庭科(テレビでおなじみ!赤いエプロンの贋作料理人がゲストで登場)、七時間目の世界史(テーマによって先生が一人一人交代する。本日のインド史はアルジュナ先生が講師を務めた)を乗り切ったマシュは、放課後部活に向かった。

 

「やあ、ギャラハッド。今日は円卓会議のない日だけど、どうしたんだい?」

 

校舎の隅にある風変わりな部活「円卓会議」。偶然にもそろったアーサー王の円卓にいたとされる人物たちと同名の生徒たちによって組まれたサークルである。活動内容は主に学園での生活を向上させる為の話し合い、地域におけるボランティアへの参加、そして部室の拡張である。

 

メンバーのうちマシュだけは本名と役職名が一致していないのだが、ランスロットの熱心な勧誘によりギャラハッドとして加入することになった。

 

「あれ?本日は確か、アルトリア部長がボランティアに参加しようと仰っていたのでは」

「ああ、アレね。その話はいつものモードレットの反逆で立ち消えになったよ。あの子にも困ったものだねえ」

 

やれやれと円形の机の縁に腰かけ首を振るのは、「円卓会議」相談役のマーリン。見事な白髪でありながら円卓メンバーのナンパ四天王の一人として数えられている優男である。

 

「今日はフォウを連れてきていないのかい?あーあ、僕としてはアイツを弄るだけでも楽しいのにさ」

 

マーリンは着崩した制服からネクタイを引っこ抜くと、宙に向けてブンブンと回した。

 

「それにしても、僕としては単に助言に来ただけなんだけど。一応聞いとく?」

 

マーリンの口調に、マシュは少し不安な感情を覚えた。

そもそも今日のボランティア活動が無いという知らせは、恐らくマシュしか知らなかった情報だ。マシュは未だに自分の携帯端末を持っていないので、こういう突然の連絡は遅れて知らされることが多い。そして過去に同じことが起こった際には扉脇のホワイトボードに伝言が書かれていることが常なのだ。

 

しかし、ホワイトボードを先程確認した時は何も書かれていなかった。部室の中には明らかに待ち伏せしていたマーリン。話す内容に不安を感じない方が可笑しい状況だろう。

 

「…はい、助言と言うのであれば」

 

しかし、マシュは知っている。このマーリンという人物は基本的に危険な人物ではないことを。聡い彼の言葉であれば、助言と言うのも何らかの大きな価値があるかも知れない。

 

「ほう、これはこの世界での意識の上での判断なのか。それとも内面にいるキミ自身の感情が無意識に選ばせた選択肢なのか。興味深い話だが、ここはサックリ言わせてもらおう」

 

花の魔術師はニコリと笑って言った。

 

 

 

 

 

「今のキミはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ」

 

 

 

 

 




書き捨てに集中していたら連載の事をすっかり忘れていた作者です。全く……それもこれも書き捨てた短編が一時期日間三位にランクインしたりしちゃったからだよ。めっちゃうれしかったけどさ。もう一つ作品連載させようかなーとか考えちゃっているけどさ!

『エンブリオ』上下買いました。これからボチボチ読み進めていこうかと思います。
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