Fate/BoogiePop   作:蓼野 狩人

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前回のあらすじ:みんなの頼れるマーリン、夢の中に参上


胡蝶/マシュ・キリエライト

英霊という存在は、必ずしも純粋な人間のみなれる訳ではない。人類史に名を残す存在と言うものは、時に人間の枠を超える。

代表的な例としては、神性スキルが挙げられるだろう。

神の血を受け継いだ者は得てして人々に救いを与える英雄、或いは災いを齎す悪となることが多い。

神性スキルというのは召喚されたサーヴァントがどれ程神に近いかを表しており、例えば英雄王として有名なギルガメッシュはCランクで保有している。本来ならば身体の三分の二に神の血が流れているため、ランクはもっと高い。

にも拘わらすCランクの抑えられているのは、当人が神という存在を嫌っているためだ。

 

人間以外の英霊、となれば他にも様々な例がある。動物にして英霊の座に登録された者、概念上の存在から英霊に昇華した者、人工的に神話エッセンスを配合して作られたサーヴァントetc…

 

しかして、アーサー王伝説で有名となった魔術師マーリンもまた、純粋な人ではない。最高峰の魔術師として名高いマーリンは、人の夢に侵入する力を持っているのだから。

 

彼は保有する千里眼で、人類の幸福を眺め続ける混血の夢魔である。

故に人類としての価値観を持たず、人らしい感情を本当の意味で発露したことは無い。あったとしても、それは完全な見せかけであり思考形態は人間よりむしろ昆虫に近いとまで言われた。

しかし、彼は魔術師として人間と関わる中で“彼女”を見出すこととなる。

類まれなる運命を生まれながらに秘め、円卓の騎士を纏めあげるカリスマを持ち、その人生を全て祖国に捧げた騎士王。

後の世では、「アーサー・ペンドラゴン」と呼ばれる聖剣の担い手である。

 

 

~・~・~・~

 

 

「これは僕が手を出す問題ではなかったのかもしれない。何せ既に世界の法則は明後日の方角に乱れているからね。千里眼でも見通すことが出来ない未来ともなれば、僕も何処まで手を出せばいいのか分からない」

 

ここは夢の中である。そう告げられて戸惑うマシュを眺めながら、花の魔術師は独りごちる。

 

「でも、既に敵の攻撃は始まっている。僕もまた魔術師である以上、ソロモンの魔術を超えることは出来ないはずだ。その証拠に1度目の夢には割り込めなかった。でも、2度目には僅かな隙があった……」

 

マーリンの手に握られていたネクタイは、いつの間にか七色の石が嵌め込まれた杖となっていた。右手にもったその杖で部室の床をコンコンとノックすると、マーリンとマシュを取り囲む床、天井、壁が全て理想郷に咲き乱れる花で覆われた。

 

「さて、これで信じてくれるかな」

 

マシュに向かって声を掛けるも、当人はひたすら困惑した表情でただ首を降るばかり。それもまた当然と言えよう、彼女にはまだこの世界が全て夢であったと認識出来ていないのだ。

 

「この世界はつまるところ、君の夢だ。だから僕という存在が君の意志に反して気ままに喋りかけている時点で、君は違和感をどこかで抱いているはずだ。こんなはずがない、と。私が望んだ光景じゃないと思い始めているはずだ」

 

マーリンが一歩、マシュに近づく。

 

こうして自らの正体を明かしながらも、夢の中であることを自覚させる方法は、諸刃の剣である。何故なら夢を見ている本人に気づかれたその瞬間からマーリンは夢の登場人物にして部外者である。必然的に、夢を見ている本人がその気になるだけでマーリンはいとも容易く潰されてしまうのだ。

 

よって、マーリンからしても綱渡りの状況下での会話なのだが――一歩、マシュに向かって歩を進めると、マシュの方が魔術師に怯えたように1歩下がった。

 

「アレ、僕が怖いのかい?それは心外だな」

 

優しい微笑みを浮かべるマーリンに対して、マシュは。

 

「だって……!!」

 

恐怖を抑えきれずに、叫んだ。

 

「だって……今まで全部が夢だなんて、そんな訳がない!!生まれてからずっと私でいる記憶があるのに、ここが夢だなんて有り得ない!!」

 

……そう、マシュが夢の中で過ごした時間というのは、現実世界と大きく乖離している。具体的に言えば、オルガマリー=マシュとして産まれた瞬間から、現実世界のマシュ自身に近い年齢に至るまでの十六年間の人生を丸ごと体験したのだ。

彼女にとって、ここが現実だった。

花の魔術師がタネ明かしをするまでは、ずっと平穏そのものの人生を送ってきたのだ。

 

「なるほど、いままでの自分の人生を否定されてしまったという事か。自分がいつか願った通り、何もかも『先輩』と同じ境遇で、普通の生活を送っている気になれたのだから、無理もない……」

 

マーリンの周囲から静かに光が立ち上り始める。英霊が現世から退去する際に発生するそれとそっくりな輝き。辿ってきた道程が違うとはいえ、やはり純真無垢なマシュがマーリンを夢から出来る限り優しく、強制的に追い出そうとしているのだ。

 

「……君にとってもしこの世界が現実であるというのなら、魔術王はその世界を作ってくれるだろう。誰もが幸福で、死への恐怖を忘れて、ひたすら理想を求めることの出来る、平和な世界。悲鳴もなく絶望もなく闇が一切存在しない、悪を恐れる必要のない世界……正しく理想郷、だろうね」

 

それでも、とマーリンは言葉を継ぐ。

 

「それでも君は一度、自分の力で結論を出したはずだ。影からこっそり見てはいたけど、あれは実に素晴らしい主張だった。だから僕には惜しくて堪らないのさ」

 

今回は、どうも妙だよね。

マーリンはポツリと呟いた。

今までの魔術王のやり方を見れば、手段そのものはさておき、人の手によって産み出されたホムンクルスであるマシュに対する態度が一貫して真摯であることは確かである。

何度も何度も自らの仕組んだ特異点を乗り越えてきた立香達をいよいよ計画の大きな障害だと認めた。だからこそ、正面から乗り込んできたカルデアを正面から潰してしまおうという算段であったはずだ。

しかし、今回のマシュに対する行動は妙に逸れていた。

 

「僕はできれば後の戦いに余力を残しておきたかったんだけどね。だけど、立香君の決意と君の意思を無下にするわけにはいかない。どうだい?思い出せないかい?」

 

マーリンが、既に3分の2ほど消えている身体を捻り杖で床を突いた。すると、マーリンの周囲に幾つもの風景が流れては消えていく。

 

第七特異点:絶対魔獣戦線 バビロニア

第六特異点:神聖円卓領域 キャメロット

第五特異点:北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム

第四特異点:死界魔霧都市 ロンドン

第三特異点:封鎖終局四海 オケアノス

第二特異点:永続狂気帝国 セプテム

第一特異点:邪龍百年戦争 オルレアン

特異点F:炎上汚染都市 冬木

 

「――貴様に向ける憎しみはない。ウルクの民も貴様に向ける怒りはあれ、憎しみは持たぬ。あるのは分かり合えぬ摂理だけだ」

「――良かった。ではマシュ殿、お供をお願いしたい。どうか、至らぬ私を支えて頂ければ」

「――この時代を潰すということは、私の流した血が、私の同胞が流した血が、無為になるということだ」

「――オレでない癖にブリテンを蹂躙するお前を、オレは決して許さない。お前が人間であろうとな」

「――こいつはアンタのための大一番だ!不敵に笑ってこう返してやんな!化け物なんかに用はありません!いいから素敵な王冠を渡してちょうだい!ってな!」

「――ローマとは浪漫であり神代より卒業し、人として人を愛す心を得た、人間的なるもの、その全ての象徴である」

「――君は世界によって作られ、君は世界を拡張し、成長させる。人間になる、とはそういうコトだ」

「――やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!」

 

 

 

「先輩、手を」

 

 

 

手を差し伸べた先、彼女が見たのは。

焼け落ちていくカルデアを背にして、絶望的な状況の中で自分を安心させようと微笑む立香の――

 

「ではでは、彼を頼んだよ。マシュ・キリエライト。ギャラハッドを宿す憑依英霊にして、藤丸立香の最初のサーヴァントよ」

 

 

~・~・~・~

 

 

「失敗、か」

 

魔術を用いてマシュの夢に干渉した魔術王だったが、一度目ならず二度目の誘いも実らないとなれば、やはり正面からカルデアを迎え撃つ他なかった。

 

全ての魔術においてあらゆる魔術師を上回る魔術王だが、夢に関しては本家である夢魔を超えられるとは思っていない。故に夢での接触を行う時は最大限の注意を払っていたのだが――。

 

(…………。)

 

まあいいだろう。

魔術王は決心を固めていた。自分が今如何なる存在に侵食されていたとしても、全てを侵食される訳があるまいし、ましてや己の計画を根本から崩すような事態にはならないだろうと見越したのだ。

その証拠に、千里眼で見える未来に揺らぎはない。

 

「魔神柱よ、起動せよ」

 

溶鉱炉ナベリウス、情報室フラウロス、観測所フォルネウス、管制塔バルバトス、兵装舎ハルファス、覗覚星アモン、生命院サブナック、廃棄孔アンドロマリウス

 

ここに、全ての魔神柱が連立する。互いに補い合い、無限に存在を証明する、無数の歯車。

 

カルデアよ、人類の救済を阻んだことを、ここに後悔するがいい。

 

「――――マシュ、か」

 

貴様もまた、敵の一人なれば。

焼き尽くすしか無かろう。

 

 

~・~・~・~

 

 

永い夢を見た。

とてもとても永い夢を見た。それこそ、第2の人生であると錯覚しそうな程の、何もかもが平和でほのぼのとしていて、人類がみな救われた世界だった。

 

「君が望めば、この世界は夢から現実になる」

 

誰かにそう告げられて、だからマシュは何もかも投げ出そうと思ってしまった。

何を投げ出そうとしているのか、気が付かぬままに。

 

「ソロモン王……私に何故この夢を見せてくれたのか、今なら理解できます。きっと私を哀れんでくれたんですよね?残り少ない寿命に怯えて過ごさなくてはならない私に、二つの未来を提示してくれた」

 

確かにそれは救済だ。永遠の命、または人並みの平穏。前者の世界はともかくとして、後者の世界はカルデアの人々が望んで止まない「世界が亡びる前の平穏」だった。

 

「それでも私が、あの未来を選ぶことは卑怯です。先輩と、ドクターと、ダ・ヴィンチちゃんと、カルデアの職員の方々と、それから……今まで出会った英霊の皆さんや、現地の方々。全ての人との出会いを無かったことにしてしまう」

 

貴女にとって一番の宝物は、何ですか?

そう聞かれたなら、マシュは1番にこう答えるだろう。

今まで経験した出逢い、その全てであると。

 

「魔術王よ!私に他の未来を示してくれたことには感謝します。ですが、私にとって一番の恩返しが、まだ出来ていないんです!!」

 

マシュの意志により、夢の世界は砕け散った。正面のマーリンは辛うじて消滅から回復し、マシュの夢から退去した。

 

あの選択肢を選べば、人類を救済するゲーティアの計画は滞りなく進んだに違いない。カルデアのファーストサーヴァントにして人類最後のマスターの盾を崩してしまえば、それだけでカルデア側に綻びが生じたからである。

 

だが、ここに魔術王並びに「―――」の目論見は成立しなかった。

 

よって、終局特異点での決戦は不可避となり、ここに壮大な運命(Fate)が結集する。




お久しぶりです。スローペースにも程がありますが、頑張って更新します(`・ω・´)
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