カルデアには多くの機能が備わっている。
それは大勢のマスター、職員、サーヴァント等が任務に当たる際、これを可能な限り支える事を想定してあった為だ。
よって医療器具に関しても、現代において考えられる限りの最新器具が揃っている。人間は勿論、サーヴァントに何らかの異常が見られた場合でも検査可能。数多くのセンサーにより心拍数、血圧、脳波のみならず魔力の量や種類、呪いの影響の有無や霊基の質まで調べる事が出来る。またカルデア設置初期からいた
「…色々と調べてはみたが、大体は私の想定通りだ」
その医療器具から計測されたデータを見て、ダヴィンチは冷静に考察を重ねる。
「マスターは召喚直後、召喚された英霊の霊基と融合して疑似サーヴァントになった。そう見ていいだろう。いや、“融合”という言い方は適切では無いか。“憑依”とでも言えばいいのかな?似たような事例はシバに僅かな記録があったが、参考にするにはデータが足りなかった。魔術礼装でマスターへの魔術的な干渉は防いであるが、呪いの類では無いから防げなかったと見るべきか」
「うーーん……でもダヴィンチちゃん。彼に同化したサーヴァントは、正規のサーヴァントと言えるのかい?クラスは以前にも召喚事例があったからともかく、このサーヴァントは異常だよ」
ロマニもまた計測結果を眺めつつ、ダヴィンチに話しかけた。
「サーヴァントのステータスは一部不明な点があってもおかしくはないけど、彼の中に存在する英霊は全てのステータスが不明だ。名乗った名前も人類史に記録されていない。勿論、極度にマイナーな英霊である可能性は否定できないけどね」
「確かに、アルターエゴであること以外は詳細不明。手がかりも奇妙な見た目と名前以外ない。マスターが意識不明になることはこれまでにも何度かあったから、マスターが夢で別の世界に行っていないか調査してはみたけど……」
ダヴィンチは計測結果の書かれた紙の一番下の数値を見た。しょっちゅう変な夢で戦闘してくるマスターがどの世界にいるか判断するため、ダヴィンチが考案した“世界座標”である。具体的な位置は分からずとも、大体今の世界線からどれ程離れた場所にいるかを示す数値である。因みに夢の舞台がカルデア内の場合は1~10。正規の人類史の場合は最大でも一千万。非正規の人類史やサーヴァントの精神世界でも数値はしっかり出る。
しかし、そこに書いてあるのは数値ではなく“計測不能”という文字のみ。
「この数値が計測機に反応した時点でマスターが夢で別世界に行っていることは間違いない。しかし計測が不能になっているのは、このスキルの仕業かな」
ダヴィンチは計測されたスキル一覧の中でも一番上のものを指さした。
スキル:不気味の泡 EX
効果:不明
「確か、アルターエゴって人格とか霊基が複数で構成されているのが特徴だったっけ」
ふとロマニが呟く。
「このアルターエゴは、ひょっとして
「しかし、私の知識の中には人格だけ英霊になる者なんて少数だ。二重人格の英霊は存在するが、それは表あってこその裏。実体無しに人格だけ召喚される英霊は私でも知らない」
語るだけ語った後、二人の間には沈黙が下りた。想定を外れた今回の事態では、対処をしようにも何もできない。一応立花と連絡を取るためのパスを職員総動員で探しているが、全くつかめていない。以前エジソンが開発した霊界通信機もノイズが流れてくるだけ。万能と呼ばれたダヴィンチも、そしてカルデアの全てを見守ってきたロマニも、無力感にさいなまれていた。
ピーーー。
突然、立香に繋がれた機械からアラートが鳴った。
「ん?何があった?」
「これは……どうやら、お目覚めらしいぞ。ただ霊基の反応がマスターのそれじゃない」
ゆっくりと起き上がった立香の体は、一瞬で奇妙な服装に包み込まれていた。
「ブギーポップのお目覚めだ――取り敢えず話し合いと行こうじゃないか」
~・~・~・~
夢を見た。
夢を見た。
彼の夢だ。あるいは彼女の夢。
いや、この存在に性別なんて意味は無い。
なぜなら、世界そのものから生み出された存在だから。
彼に本当の名前は無い。
存在の理由はただ一つ。
世界の敵を殺すこと
それだけだった。
なんて救いのない存在だろう。そんなの……道具と一緒じゃないか。
突然現れ、悪を討ち、姿を消す。
ああ、カッコいいじゃないか。しびれる程に素敵だ。
でもそこに心がない。空っぽだ。
考える心は、敵を効率よく排除する為だけに付け加えられた。
……そんなの、嘘だ。自分を考える心がある時点で、そいつは人だろう?
人じゃないなんて、言わせない。
言わせたら、ダメだ。
「ほう、いい事言ってくれるじゃないか」
そこは、学校だった。
学校の屋上。平凡な街並みが見渡せて、吹く風が心地いい。
しかし、今の立花がいるべき場所では無かった。
「こういう事は、ひょっとして初めてじゃないのかな?どうにも困惑している表情ではなさそうだ。うん。召喚された時に少々情報が入ってきたけど、どうやら平凡とは程遠い日常を送っているらしい」
立花の隣には見覚えのない人物が座っていた。頭には縦長く、つばの無い真っ黒な帽子。体を裾の長い真っ黒なロングコートで包んでいて、手には包帯のようなデザインの手袋が嵌められている。
「この格好はぼくの趣味みたいなものさ。気にしないでくれるとありがたい」
立香の目線に気づいたのか、その人物は少年とも少女ともつかない声でそう言った。
「初めまして、マスター。ぼくの名前はブギーポップ。周囲の異変を解決するために出てくる、それだけの自動的な存在さ」
片手を上げて気楽に挨拶をしてくるブギーポップ。立花はその自己紹介に応じなければ、と思い声を出そうとした。
が、上手くいかない。
改めて自分の体を見てみると、どうやら手も、足も、腰も、胴体も存在していないらしい。全く感覚がない。自分はどうやら体をどこかに置いてきてしまったらしい。
「まあ、ここはマスターのいる世界から大分離れた場所だからね。体を引っ張るのは無理だった。でもマスターとはきっちり話をしたかったし、ぼくとマスターは直接会って話をすることが現状不可能だからね。致し方ない」
ブギーポップは立香に向かって座り直し、ここで夕暮れの光で陰になっていたブギーポップの顔が立香にはっきり見えた。立香はその顔を眺めて、この場所に来て初めて驚いた。その驚きは、例えるならのっぺらぼうやドッペルゲンガーに遭遇した時の驚きと似ていた。
何故なら、ブギーポップの顔は立香の顔そのものだったからである。
「やっと驚いてくれたかい?それは良かった。内心ぼくは不安だったからね。この程度のサーヴァントは前にも遭遇した経験があったのかも知れないと邪推してしまった」
そう呟いたブギーポップの唇には黒いルージュが引かれ、顔全体は白粉か何かで真っ白になっていた。
「あ、この化粧は君が嫌なら止めておくよ。なにせ君の体だからね。他人に色々いじくられたら嫌だろう?」
そう告げられた立香はふと今の状況を振り返ってみた。
確か、自分は金のアルターエゴを召喚実験で引き当てたことに成功したはずだ。隣にはコイツではなく、いつものダヴィンチちゃんとアルトリアがいた。
しかし、今。その召喚された対象らしいコイツの精神世界に居る。感覚的には他の英霊に夢で引き込まれた時のそれに近い。
そしてコイツの顔は、自分自身の顔である。
まさか――。
「そう、その通り。今の君は現実世界で気絶中。そしてぼくは君と融合して疑似サーヴァントとして現界した訳さ」
おいおいマジかよ。立香は隣で唇の端を吊り上げたブギーポップを締め上げたい気分になった。しかし体がない。殴ろうにも手がないと殴れないのだ。
「そう怒らないでくれよ。ぼくだってこんな状況をわざと作り出したかったつもりじゃない。でもぼくはそもそも正規のサーヴァントじゃない。召喚の対象になる可能性なんてゼロの筈だったのさ」
そこでブギーポップは軽く溜息を吐いた。
「まさか、ぼくが召喚に必要な資源を削ろうとした結果として召喚されるとはね」
そう、このサーヴァントは聖晶石の消費を減らす目的の召喚実験で呼び出されたのだった。
つまり配布鯖ならぬ割引鯖である。呼ばれた側からすればたまったものではない。
立香は謎電波を受信した。
「呼ばれたからにはしっかり働くし、契約を切られるのも癪だ。もしマスターのたどってきた道筋がこれからも続くなら、契約した英霊だけでは君を守り切れなくなるかも知れない」
でも、とブギーポップは続ける。
「でももし、マスターがサーヴァントだったらどうだろう。敵だってまさか、無力なマスターが実はサーヴァントとして戦闘可能とは思わないだろう。いわば最終防衛ラインさ。敵の不意を突けること間違いなしだ」
そう告げると、ブギーポップは左目をキュッと細め、口の右端を吊り上げた。立香であれば絶対しないような、感情が良く分からない奇妙な表情だ。だからこそ立香は、この存在が実は未来の自分自身だったとか、自覚していなかった自らの第二人格とかではなく、本当に別世界から来たサーヴァントなのだと再確認した。
「これからよろしく、マスター。僕は世界の敵ならぬ、マスターの敵を排除する自動的な存在として君に尽くそう」
親しげに差し出された右手を見て、立香は思った。
体が無いのに、どうやって握手すればいいのだろうか、と。
CLASS:アルターエゴ
真名:ブギーポップ
性別:不明
身長・体重:憑依先に依存
属性:混沌・善
ステータス:一切不明
スキル:不気味の泡 EX
可能性の光 A
啓示 E
人間観察 D
勝手に考えた召喚された場合のステータス。
これからの展開によっては変更するかも。
追記:「立香」を「立花」と誤字っていたので変更を少々。いやね、パソコンの変換で出ないんですよ立香が。パソコンが悪いのだ。『僕は悪くない』