ブギーポップ。
正体不明のサーヴァント。
原典は存在せず、パラメータもスキルも宝具も全て詳細不明。現時点で召喚者の体に憑依して初めて成立する擬似サーヴァントらしいこと。そして名前がブギーポップであるらしいことが辛うじて分かっている。
「ロマニ、マシュとアルトリアを連れてきてくれ。マスターが倒れたことを口止めしてある以上、情報漏洩は避けたい。ロマニが信頼しているサーヴァントや職員も二名までなら追加で連れてきてくれても構わない」
「分かった」
扉が開きロマニが出ていくと、ダヴィンチは目の前で体の計測用パッチを剥がして立ち上がるブギーポップを観察した。
まず、このサーヴァントは異様だ。何が異様かと言うと、魔力が全く感じられないのだ。普通サーヴァントは霊体で構成されていて、存在の維持には魔力が消費される。擬似サーヴァントであっても、サーヴァントとしての姿を現している時は必ず魔力を消費している。
しかし、このサーヴァントはどうだ。
魔力の消費が全く感じられない。キャスターとして現界したダヴィンチが見ても、魔力の消費が感じられないのだ。動きそのものは感じるので、魔力で霊体が維持されているのは確かだが消費されている様子が無い。
(魔力を循環させているのか…?魔力を全く消費しない訳では無さそうだが)
もしそうなら魔力パターンを読み取る計測自体が出来なかったはずだ。放出された魔力が微量でも計測出来るよう改造しておいた事がここで役に立った。
「……先程から黙りこくって、何を考えているんだい?キャスター」
「ああ、済まないねアルターエゴ。それともブギーポップと呼んだ方がいいかい?」
「そっちの方が助かるな。正直、召喚されたのは初めてだからクラス名で呼ばれるのは居心地が悪い」
被っていた布団を丁寧に畳むと、ブギーポップは大きな伸びをした。
「うーー。流石に体を借りるのは久しぶりだからな。まだしっくり来ない部分もある。肩が妙に凝って仕方ない」
コキッコキッと首を鳴らし、「ところでぼくにお茶を出してくれたりはしないのか?」と聞いてくるマスター顔のサーヴァント。その独特の調子にダヴィンチは少し気が抜けてしまっていた。
今回は非常事態とはいえ、今の所は平穏に会話が出来ている。この空気を維持したまま、情報を可能な限り得たい。
「済まないね、お茶は出せない。まだ君の素性がハッキリとしていない今、まずは君の口からこれからどうして行くかの話を聞きたいからね。場合によっては……」
ダヴィンチはどこからともなくシンプルなデザインの短剣を取り出した。
「これはコルキスの魔女が使う宝具をオマージュして作り上げた、強制的にマスターとサーヴァントの契約を断つこと専用に特化した礼装だ。もちろん本物の刃物じゃない。先端をマスターの令呪に触れさせて、指定の呪文を唱えれば契約を強制解除できる。普段はカルデアのバックアップで対強制契約解除プロテクトがしてあるがね、それは
「つまり、自分で作った抜け穴をすり抜けて契約解除可能ということか」
「その通り」
ここでブギーポップは、両の眼をスっと細めた。右手にはいつの間にか鋼糸が巻きつき、部屋の照明を反射して鈍い光を散らしている。
「なら、ぼくがここで抵抗したらどうなるのかな?」
「別に抵抗してもいいけど、抵抗した所でマスターの体に憑依した君に逃げ場はない。ここは人理保護機関カルデアだ。今逃げ出したとしても足止めしてくれるサーヴァントはいるし、そして私が君と話している内に……」
ダヴィンチがふと黙ると、それに合わせたように部屋の扉が再び開いた。
「先輩!」
「マスター!」
「立香君!」
「えっ!?ちょ、誰よアレ!?」
「ほう…?雑種に何かあったか」
なだれ込んできたのは、先頭からマシュ、アルトリア、ロマニ、メルトリリス、そしてキャスターとして現界した英雄王ギルガメッシュである。
ロマニを覗いた全員がカルデアの中でも編成機会が特に多いサーヴァントばかりであり、カルデア独自の手法である種火強化も万全の戦闘力が高いメンツである。
「あらあら…さっきそこのチキンドクターから話を聞いた時は何事かと思ったけど、理解したわ。そこのサーヴァントを殺せばいいのね?」
メルトがカツカツと両足のヒールを鋭く鳴らした。既に加虐体質はオンになっており、いつでも痛めつける準備が出来ている。彼女の戦闘スタイルはバレエによる足技が主体であり、その踵で切り刻まれたエネミーは数知れない。
「そこな雑種が時間になっても我と鎖を集めに行かないとは、どうも妙だと思っていたところだ。成程、納得がいった。要は雑種に取り憑いた雑種を殺せば良いのだろう?」
ギルガメッシュは背後に光の波紋を展開した。
その無数にある波紋の一つ一つから杖の先端が出てくる。それぞれが原典として非常に強力な魔術が発動できる媒体である。英雄王として数多の財宝を所有していた彼だからこそできる力技。現代の魔術師なら誰でも腰を抜かすであろう、豪華な魔術行使である。
「ま、待ってくれ二人とも。二人の怒りも分かるが、ここは矛を収めてくれ。まだダヴィンチちゃんとブギーポップの話し合いは終わっていないんだから」
慌ててロマニが制止に入った。この二人はそれぞれマスターとの絆が高い為、立香に危害が及んでいる状況になると当然本気を出して敵を排除しようとする。ロマニが止めなければ容赦無しに戦闘を始めていただろう。
「アレは良いのかい?ぼくは現状、マスターに取り憑いている状態だ。この状態で攻撃したらマスターの体も傷付いてしまうと思うのだが」
「いいや、あの人選は正しいさ。初め立ち会ったアルトリアやマシュは、当カルデアでも優秀な矛と盾。そしてメルトリリスはレンジが広いとはいえ、『心を溶かす宝具』を所有している。上手く調節すれば君の心だけを溶かすことも可能さ。そして英雄王は様々な宝具の原典を所持している。その中に霊基だけを攻撃する宝具があってもおかしくは無い」
それもこれも、ロマニの冷静な判断あってこそである。まともな直接攻撃手段だけの状態であれば、ブギーポップは自らの持つ手札である立香の肉体を人質に取引するかも知れない。そうなれば交渉は意味をなさず、一方的な取引となってしまう。
加えて、ブギーポップはどうやら今すぐ何かをしでかすつもりは無いらしい。今までの態度から見てもそれは明らかである。ということはブギーポップとは話し合いの余地があるという事であり、そして話し合いには対等以上の立場になるための手札が必要である。
そして当カルデアで用意出来る最良の手札が、メルトリリスとギルガメッシュだったという訳である。
「それはまた、用意のいい事で……。これじゃあぼくが悪役みたいじゃないか。流れ的に仕方ないとはいえ、なんだか残念だ」
やれやれ、と首を左右に振り溜息を吐くブギーポップ。その首筋には一筋の汗が流れていた。新たに呼び出された二人のサーヴァントが、本当に自分を排除できる敵なのかどうか。それは現時点で不明だ。
ひょっとすればマスターを傷付けず自分だけを攻撃する手段、というのはハッタリかも知れない。
しかし自分には攻撃する意図は無いとはいえ、これ以上ヘタに刺激すれば印象が悪くなるに違いない。
故にブギーポップは、自分に敵対の意思はないこと。自分がマスターの最終防衛ラインとして働く事をマスターと話し合い合意したこと。そして物騒な踵や杖に剣と盾(もちろん先輩想いの後輩や腹ペコ騎士王も警戒していたのだ)を下ろしてくれるように頼んだのだった。
~・~・~・~
「うっ…」
酷く妙な夢を見た。
人ならざる者が、人の身を借りて悪を討つ。
そんな夢だった……気がする。
「……輩、先輩、先輩!」
「……マシュ、か?」
酷く鬱々とした気分になりながら、立香は目を開けた。夢らしい夢の方は内容がよく思い出せなかったが、直前までブギーポップと交わした会話はよく覚えていた。立香は自分の中にいる別人格のことを思い返して、どうやら自分が倒れた後にカルデア全体に迷惑を掛けたらしいなと勘づいた。
「ごめん、多分だけど迷惑掛けたかな……。また夢で今日呼び出したサーヴァントと話し合っていたんだ」
「せ、先輩は悪くありません!あの召喚実験自体が今回の事態を起こしたのであって、先輩に責任はありませんよ」
その言葉にマシュの肩に乗って立香を覗き込んでいたフォウも、「そうだそうだ」とでも言いたげにフォウフォウと鳴いた。
「いや、でも僕はよく突発的に倒れちゃうからさ……」
「マシュの言う通りよ、馬鹿なマスター。相変わらずの巻き込まれ体質じゃない。普段からボケっとし過ぎじゃないかしら?私を心配させないで頂戴」
「フン、雑種ごときが思い上がるなよ?王である我ですら補佐に命を下していたのだ。貴様は貴様らしく他人に迷惑を掛けることに慣れておけ」
「……で、何でメルトにギルガメッシュが居るの?」
先程まで夢の中に居た立香は当然、何故立香が意識を失っている間にコイツらが来たのか良く分からなかった。
「いや、今回君の体を借りて現界したサーヴァントを説得する為に僕が呼んだんだよ。立香君、体に障りは無いかい?」
その質問に答えたのは、マシュやフォウとは反対側に居たドクター・ロマンことロマニだった。顔は微笑みを浮かべていて、どうやら立香の無事に心から安心しているようであった。
「ああ、はい。別に体に支障はありません。自分の中に……アイツが居るってことが本当なのか分からなくなる位には、なんともありません」
《そいつは良かったじゃないか》
不意に思わぬ場所から話しかけられ、立香はビクッとして右手首の装置を見た。気絶するまでは無かった装置だ。一件タッチパネル式の腕時計の形をしているそれの、側面にあるスピーカーから声が出ているようだ。
《失礼。ぼくがキャスター……ダヴィンチに『自分はマスターと入れ替わらなければ会話出来ない』と告げたところ、急遽入れ替わらなくても話が出来る魔術礼装を作ってくれてね。あっという間に作るものだから驚いたよ》
気楽に話しかけてくるその腕時計の声は、中性的な雰囲気だったがよく聞くとやはり立香自身の声だった。つまりはブギーポップである。
「やあ、ついさっきマスター自身の意識と入れ替わったみたいだね」
後ろを向くと、そこにはお馴染みダヴィンチちゃんが杖に寄りかかってニヤリと笑っていた。
「いやー、こっちは大変だったよ。なんせ突然マスターが擬似サーヴァントになるという事例はカルデアのデータベースの何処を探しても無かったんだ。付け加えると、先程行った説得が上手くいくまでは良性のサーヴァントかどうかすら分からなかった。いくらマスターの命令には絶対の筈だからと言って、実際の聖杯戦争ではマスターとサーヴァントが互いを裏切ることなんて腐るほどあった。実験の異例さも踏まえて慎重にならざるを得なかったんだ」
「ダヴィンチちゃん……ありがとう」
立香は頭を下げた。人理修復の旅をこれまで続けてきた立香には、ダヴィンチの顔色で如何に苦労を掛けたか推察することが出来た。ブギーポップ自身は謎が多いものの人理修復に肯定的なサーヴァントだ。
しかしそんな事は話して確認しなければ分からない。
ブギーポップの本質を見極める為にも、様々な事に警戒しながら話し合う必要があったはずだ。
「僕もブギーポップと話してみたけれど、大丈夫そうな英霊だったよ。これからの人理修復にも手を貸してくれると思う。もし何か面倒な事になれば、それなりの対処をするよ」
その言葉を聞いて、ダヴィンチは満足そうに頷いた。
「成長したものだよ、君は。初めてあった時とは比べ物にならないくらいには成長している。しかし君に危害が及んでしまった責任は私にある。万能の天才としては恥晒しもいい所だ。この度謝るべきは私の方さ」
そしてダヴィンチもまた、立香に対して頭を下げたのであった。
「あの、少し良いでしょうか」
ふと今まで黙って控えていたアルトリアが声を上げた。
「今回からマスターの擬似サーヴァントとして加わったとの事ですが、実際の強さを確認する必要があるように思います。ロマニ殿から聞いたのですが、強さの凡そを示すパラメータが計測出来なかったとなれば……」
「ほう、我と意見が会うとは珍しいなセイバー」
ギルガメッシュも右手の石版を仕舞いこみながら同意した。
「人理修復に人手が足りぬ。そしてそこなマスターと同化した奴がマスターの保護を担うのであれば、庇いながらの戦闘も幾らか改善するに違いない」
左手に軽く握った斧の石突をコツンと鳴らす。
「しかし戦闘力が未知数のままでは、完全に任せて良いかどうか疑問が湧くというもの。ある程度はハッキリさせておかねばならんだろう」
「それなら僕も考えていたさ、英雄王」
ロマニが手元から連絡用の端末を取り出した。
「戦闘訓練用の部屋を一つ開けておいた。立香君には申し訳ないけど、次のレイシフトまで時間が余りない。一時間程マイルームで休んでもらってから、ディナータイムが始まる前に一度ブギーポップ君の戦闘データを取らせてもらおう。いいかい?」
「僕は…構いませんよ」
《ぼくもいいだろう。何分特殊なサーヴァントだからね、計測の失敗については申し訳なかったところだ》
立香に続いてブギーポップもロマニの提案に同意した。
「ふーん、じゃあ私も近くで見せてもらおうかしら。まだソイツが裏切らないと決まった訳じゃないのだから、監視の意味も込めてね」
「わ、私もお願いします。マスターの体調が心配なので」
二人の言葉もあって、一時間の休憩を挟んだ後にメルトリリスとマシュの付き添いでブギーポップの模擬戦闘を行うことになった。
Q:ダヴィンチちゃんって契約解除用礼装とか準備しているんですか?
A:作者のオリジナル設定です。でもダヴィンチちゃんならもしもの時の為に用意してそうじゃないかなーと。
Q:登場する鯖に偏りがありませんか?
A:作品あらすじにも書きましたが、作者が実際に召喚した鯖を基準に執筆しています。これは原作での印象との乖離を防ぐための苦肉の策です。気に入らなければごめんなさい。……僕だって、紅茶を登場させたかったんだよ!(泣)
Q:時間軸はどうなっていますか?
A:実は具体的に決めていません。多分次話かその次で決まります。
Q:毎日更新してください。
A:マジムリデッド・シッピツ・ワークス(;´・ω・)