カルデアのレイシフト用装置の前で、立香とマシュはレイシフト先に持っていく用具の準備をしながら話し合っていた。
「今回連れて行けるサーヴァントは、ブギーポップとマシュを除いて頑張っても6体が限界だ」
ダヴィンチからの連絡により、立香はマシュと一緒に連れて行くサーヴァントについて相談していたのだ。
連れて行く際の選考基準として考えられることは、まず多様な状況に対応できるスキルあるいは宝具を所持していること。次に同じクラスで被らないようにすること。そして連れて行くサーヴァント同士が揉め事を起こさないように配慮することが挙げられる。
「まず、魔力消費から考えるとアルトリアのような規模の大きい宝具持ちのサーヴァントはキツい。でも対応の幅は広げたいから、出来れば対人宝具だけの構成とかは避けたい」
魔術礼装や概念礼装の準備をしながら、立香は追加で考慮するべき点を挙げていく。
「役割としては、『偵察』『戦闘』『支援』が主なものになるかな。カルデアの支援枠は限られているし、僕としては玉藻さんを連れて行くべきだと思う」
「確かに、玉藻さんの宝具は支援として丁度いいと思います。魔力消費も抑えられますし、回復もこなしてくれます」
マシュはその案に同意し、まず玉藻が行くことに決定した。
「私からも一人、いいですか?先輩」
「ああ」
「私としては偵察役として百貌さんを連れて行くべきだと思います。偵察役以外にも戦闘・支援共に精通しているサーヴァントですから、今回の特異点に向いていると思われます」
「百貌さんか……うん、いいんじゃないかな?僕はロビンを提案しようかと思っていたんだけど、今回の特異点は領域が狭いらしいし罠を活かす機会は多分無いね」
百貌のハサン。宝具として妄想幻像を所持する多重人格のサーヴァント。人格はそれぞれ独立していると言っていい程だが、サーヴァントとしての霊基は同一である。
特徴としては、人格を切り替えあらゆる物事に対応できるスキル『専科百般』を有していること。また宝具で抱えている多重人格を一斉に具現化、分裂が可能なことである。
「これで玉藻さんと百貌さんは決まり。戦闘役はいつもお世話になってるクーフーリンの兄貴二人はどうかな」
「どうでしょう……クーフーリンのお二人は最近どちらがより強いか競い合っているようなので、今回は別のサーヴァントを連れて行く方がいいと思います。それにお二人共ランサーで被りますから」
二人は未だにどちらが強いか決めようとしているようで、噂では近日開催のキュケオーン大食い競争で決着を付けようとしているらしい。
「じゃあ兄貴達は今回不参加ということで。他の人で無難に考えるなら、電力と魔力を交互に変換できるフランと色々な宝具で取り回しのいいアストルフォに声をかけるか」
フランケンシュタイン。バーサーカーのクラスで召喚された彼女は宝具で魔力と電力を相互変換できる。魔力が足りなくても自力で活動できるので、万が一立香が魔力切れになった場合の保険になる。戦闘力も敵の殲滅に向いた別の宝具が役に立つ。
そしてアストルフォは、複数の宝具を使いこなすことで追撃、逃走、妨害、一対一から大人数相手まで対応できる。理性がいろいろアレなのが欠点ではあるが、それを除けば戦闘において見落としやすい立ち回りをこなしてくれる優秀なサーヴァントだ。
「あとはいつも偵察役を任せている静謐と、あくまで支援役としてのキャスギルを連れていこう」
静謐のハサン。滲み出る毒の体で数々の敵を葬ってきたサーヴァント。気配遮断に変装と基本的なアサシンとしてのスキルを持っている為、普段から偵察役として重宝されてきた。
そしてキャスタークラスのギルガメッシュは、戦闘力も高い部類に入るが支援能力も優れている。王としての自覚を有し民のために力を尽くした側面がある為か、尊大な態度こそ崩さないが戦闘におけるフォローは恐ろしく優秀なサーヴァントである。
「では私からダヴィンチさんにメンバーを連絡しておきます」
マシュが部屋から出ると、ブギーポップが感情の読めない声で立香を問い質す。
《ぼくの存在は未だに殆どのサーヴァントに対して伏せてあるはずだ。伝えなくていいのか?》
その声に立香は俯き、右手甲の令呪を左手の親指でなぞった。
「僕はよくマシュやダヴィンチに『サーヴァントとのコミュニケーションが抜群に上手い』って言われるんだよ。別に僕は大した事をしている訳じゃない。一人しかいないマスターとして、人類を救うために戦っているだけ。そしてそんな僕でも出来ることをしているだけだから」
立香にとって自分が契約したサーヴァントと絆を深める行動は、純粋に仲良くなりたいと思ったからだけではない。その気持ちこそ嘘ではないが、マスターとしての能力に欠ける自分は何が出来るのか考え抜いた答えの一つでもある。
現に彼は日々体を鍛え、種火に始まる各種素材や、余剰魔力の集積物に聖晶石の回収を欠かせた事は無い。彼にとって世界を救う旅を過ごすためには、マスターとして平均以下である自分を如何にして埋めるかが問題だったのだ。
「だからぼくには判る。一緒にいる時間が長い程、相手に対する理解度が絆と共に深まっていくから」
その言葉に対して、ブギーポップは心象世界の夕陽に向かって片眉を釣り上げ奇妙な表情を作った。
「君は多分、僕やダヴィンチには見えない何かに気付いている。そしてそいつに抗おうとしているんだ。その抗う相手というのが誰か判らないけど……でも、君は明らかに正義の味方に近い場所にいる。もし君が敵を、〈世界の敵〉を殺すというのなら、僕は君が体を借りるのに身を任せてもいいと思っている」
《……》
不意に立香の姿がブギーポップのそれに変わり、マントから出した右手から鋼糸がするりと伸びてブギーポップ自身の首に絡みつく。
「君には覚悟がある。きっとこの鋼糸でぼくが君自身を殺そうとしても、多分礼装の仕掛けで失敗するだろう。でも今さっきの言葉には、例えこの鋼糸が本当に首を切断出来るとしても、ぼくがそれをしないという……そんな確信があった」
その声に立香は、ブギーポップが今しがたまで見ていた夕陽に目を細めながら答えた。
《本当はそんな覚悟なんてないよ。僕には世界を救うという使命に対する覚悟しかない。だから君を信じる。それだけだよ》
その声にブギーポップは目を閉じ、呆れたように首を左右に振った。
「それならいいさ。どうやらマスターはぼくの思っていた以上にとんでもない奴らしい……」
そして再びブギーポップは心象世界に帰っていった。
~・~・~・~
「それでは健闘を祈るよ、マスター。無事に帰ってきたら何か美味しいものでも準備しておこう」
「無理は禁物だよ、立香君。こっちのことは僕とダヴィンチちゃんに任せておいてくれ」
二人の言葉に送り出されて、立香はレイシフトした。
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寒々しい街並みの中、何も無い道のど真ん中に突然二人の影が現れた。
「レイシフト、完了ですね。先輩」
「毎回レイシフトってちょっと酔いそうになるんだよね……ところで他のみんなはどうしたのかな」
周囲を見回すも、念入りに選抜した六人のサーヴァントの姿が見当たらない。
「どうやらはぐれてしまったみたいですね。でもダヴィンチちゃんから『はぐれるかもしれない』とは聞かされていませんでした」
「確かに。レイシフト先で予測がつくようなトラブルがあったら事前に警告してくれそうなものだけど……」
「フォウフォウ」
マシュの盾から顔を出したフォウが、同じく辺りを見回す。
「あ、フォウさん。勝手に出てはダメですよ。まだ周辺にどのような危険があるか分かりませんから」
「こっちも早く行動しないと、ただでさえ時間が無いんだ……あ、連絡が繋がったかな」
立香が弄っていた礼装からダヴィンチの顔が浮かび上がった。
『やあ、無事にレイシフト出来たみたいだね。早速だけど周辺の様子はどうだい?』
「ダヴィンチちゃん、それが連れてきたみんなとはぐれてしまって……近くに居るのはマシュとフォウだけだよ」
『何だって!?ロマニ君、周辺にサーヴァントの反応は?』
『敵味方含めて無しの礫だよ。これは参ったな』
二人の言葉にブギーポップが反応した。
《どうやら敵の妨害がこの空間に来た時から始まったらしい。ということは恐らく、ここに敵が仕込んだ何かが来るぞ。戦力をバラバラにしたのは各個撃破を狙ったに違いないからな》
「マシュ、いつでも戦えるように準備しておくんだ。ロマニ、何か目印になるような反応はない?」
『ここから北の方に小さくない魔力反応がある。恐らくそこに何かがある筈だ』
ロマニの指示に立香は北の方角を眺めた。丁度今立っている道の延長線上に、円筒状の建物がそびえ立っている。
「では、僕達はいまからそこに向かいます。サーヴァント反応があったら敵味方関係なく教えて下さい」
そう言うと、立香はマシュを伴って建物に向かって走った。静まり返った街並みには他の誰かがいる気配が全くなく、この場所が今までの特異点と違った異質な場所である事を暗に示していた。
「先輩、後ろから何かが追ってきています!」
マシュの言葉に立香が振り返ると、後方に人型の影が見えた。
《ふむ、どうやら以前のシュミレーションで戦ったオートマタに似たものらしい。このままでは追い付かれるぞ》
ブギーポップが二人に忠告した途端、背後の人型が宙を飛んだ。両腕をプロペラの様に回転させているらしい。
『全部で三体か。仕方ない、このまま迎え撃とう。マシュだけでも充分戦えるはずだ』
「先輩、下がってください!」
叫んだマシュの正面に、三体のオートマタが着地した。
~・~・~・~
「マスターとはぐれてしまいましたね、百貌さん」
マシュと立香がレイシフトした場所から、小川マンションを挟んで反対側に百貌のハサンと静謐のハサンは居た。
「どうやら敵の手によって我らをバラバラの場所に分断したようだな。まあ心配は要らん。我らの内の何人かを偵察に行かせよう。上手く行けば直ぐに合流出来よう」
百貌のハサンはすぐさま何体かに分裂し、司令塔替わりの一人を残してバラバラに電柱や屋根を伝って周囲に散っていった。
「もし敵の策略で私たちが分断されたとすれば、私たちで纏められた意味が何かあるのでは無いでしょうか」
静謐のハサンがおずおずと周囲を見回しながら告げる。
「確かに。我らを狙って何かを差し向けるつもりであるなら、一層誰かと合流する必要があるだろう」
百貌は懐から短刀を取り出した。静謐もそれに倣って短刀を取り出し構えた。
「……我らの内の一人が敵と遭遇した。こちらに誘導しているそうだ。来るぞ」
前方から百貌の内の一人が塀を伝って走ってくる。その背後には白い毛並みに包まれた怪しげな生物が迫っている。
「ホムンクルスみたいですね。生物なら私の毒も効きそうです」
「なら先手は任せたぞ。このまま敵の数を減らしつつ合流を目指すとしよう」
静謐は短刀を続いて何本か出し、全ての刃に舌を這わせてから向かってくるホムンクルス達に投擲した。
~・~・~・~
「我をマスターから引き離すとは……どうやら敵は余程我に殺されたいようだな……思い上がるなよ雑種!!」
「……こういうのも『ツンデレ』と言うんでしょうかねぇ?」
「む?何か言ったか女狐」
「女狐とは失礼なっ!?」
小川マンションから東側、そこには分断された内の二人であるギルガメッシュと玉藻の前が周囲を警戒していた。
「分断した結果として我の怒りを買うとは考え無しにも程があろう。一先ずマスターと合流した後、我が全力で叩き潰してくれよう」
ギルガメッシュの背後に光の波紋が浮かび上がり、その内の一つを眺めて「マスターはあちらに居るな」と南西の方角を指さした。
「早く合流したいのは山々ですが、敵さんがすぐ近くまでいらしていますわよ?」
玉藻はギルの示した方向とは反対側を指さした。その方向には何体かのワイバーンが飛んでいた。
「神秘もほとんど残っておらぬようなこの時代にワイバーンとは、間違いなく紛い物であろうな」
「ほーんと、そうですわ。風情の欠片もありませんこと」
ギルは追加の杖を波紋から出し、玉藻は懐から呪符を十枚ほど取り出して右手に挟んだ。
ワイバーンの軍団はすぐ目の前まで迫っている。
「えーい!!」
玉藻が呪符を通して巨大な氷塊を造りワイバーンの翼を狙って飛ばす。何体かには避けられたものの、そのうち三体を地面に堕とした。
「よくやったな女狐。そのまま雑竜共を堕としておれ。トドメは我が刺してくれよう」
「女狐呼ばわりは辞めてくださいましっ」
その三体目掛け、幾筋もの光線がギルの背後から伸びて突き刺さった。
~・~・~・~
「あれー?マスターどこ行っちゃったんだろう?」
「ウー…」
小川マンション西側。バラバラに分断されたカルデアサーヴァントの内の二人であるアストルフォとフランケンシュタインが現代の街並みを彷徨っていた。
「うーん、ボクのカンだとアッチの方なんだけどー、でも合ってるかどうか判らないし……」
「ウー」
マスターが居る方向とは真反対の方角を目指そうとするアストルフォを右手でチョンチョンとつついたフランは、遠くに見える嫌な気配が漂う塔を指し示した。
「え?アッチに行きたいの?それならボクもついて行くけど」
「……ウー、アー。ウーウー」
身振り手振りを加えつつ必死に「あの場所は見るからに怪しい気配がするし、マスターなら間違いなく向かうと思う」という旨を伝えようとするフランだが、相手が相手という事もあり全く通じない。
「えー、でもマスターがいるのは絶対アッチだと思うんだけどなー。いいのかなソッチに行っても」
それでも迷うアストルフォだったが、上空に気配を感じて空を見上げる。よく見れば丁度例のマンションがある方向からゴーストが何体も宙を滑るように飛びながら近づいてきていた。
「ほほう。ナルホド!ボク分かっちゃったよ。マスターはトラブル体質だからトラブルの飛んでくる方向に居る。そういう事だね?」
「…………ウー」
「言いたかった事と違うんだけど結論は同じだから別にいいか」という意味合いを込めてフランは溜め息を吐き、両手に持っていた『
「それならいいや!張り切ってやっつけちゃおう!」
そして理性こそ蒸発しているものの戦闘力に関しては本物のアストルフォも両手に『
~・~・~・~
「式さん、気づきましたか?先程から戦闘の音が聞こえてきます」
「ああ。しかも何やら知らないが敵が増えたな。四方八方に散っている」
式と藤乃が眺めていた小川マンションの屋上辺りから、何体もの影が四つの方角に向かって次々に飛び出していくのが見えた。宙を飛ぶものもあれば地を駆けるものもあり、全てが式と藤乃を無視している。
「無視されるのも癪だし、オレは取り敢えず倒した方がいいと思うんだけどな。お前はどうする?」
「私も同じ意見です。アレらは倒しても損は無いと思いますよ」
二人の意見が合ったことで、両者の魔眼が同時に発動した。
まず式の『
そして高空を飛ぶワイバーンや行動パターンが読めないオートマタは藤乃の『
二人が生み出す死は大量に溢れるマンションの魔物を確実に出現直後から減らしていた。
四方向に散らばる魔物が次々に死ぬことにより、この亜種特異点全体に死が満ちていく。確かに己の道を遮るものは倒すしかなく、そして倒された敵はその死を積み上げて消滅していく。
その積み上げられた死は、着実に特異点の奥で潜む者に力を蓄えさせていた。
ここ最近は毎日投稿を心掛けていたのですが、やはり無理が祟り今回の話は投稿が非常に遅れてしまいました。楽しみにして頂いていた読者の皆様、申し訳ありませんでした。
またこの章を書くに当たって『空の境界』を読み直しました。でもこの場合どうなるんだろう。多重クロスオーバーになるのでしょうか。少し不安ではあります。
次の投稿は息抜きも兼ねて「藤泡対談」になる予定です。それではまた感想など良ければお待ちしています。