Fate/BoogiePop   作:蓼野 狩人

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前回のあらすじ:全てのサーヴァントがマンションを目指す




合流/サーヴァント

小川マンションは特別な建物だ。そもそもの成り立ちから現代において最高峰の魔術師である証『封印指定』を受けたとある人形師が関わったこともあり、内部に住んだ人間は複雑怪奇なマンションの構造に“死”を意識するようになる。そして誘導された“死”を迎えた人々はその在り方を人形として記録され、そのままマンション内部で記録された“死”を演じ続ける。

 

その“死”はカタチだけではない。魔術として洗練された手法を踏んだ保存された“死”である。記録された“死”が何度も何度も積み上がり続ける小川マンション内部は現実とは異なる世界となっており、一つの目的に向かって最小限に絞られた六十四通りの“死”を巡らせ続けていた。

 

その小川マンションが新たな“死”を求める理由。それは単なる人の“死”だけでは足りなくなったからだ。

 

この建物の主であった結界の魔術師の思惑を越えて、自我を確立したソレは“―――”に成ろうとしていた。

 

 

~・~・~・~

 

 

小川マンション正面入り口。引き続き出現するワイバーンをまとめて三体ほど捻じ曲げていた藤乃は、もう一つの能力である透視で遠くからこちらに向かってくる人影に気が付いた。

 

「式さん、こちらに人が近づいてきています。人数は二人。風体は……奇妙ですね。真っ白な制服の男と大きな盾を構えた少女です。何か小動物を連れています」

 

「そいつらは敵と戦っているのか?」

 

「ええ。今もオートマタを相手にしていますが、苦戦しているようです。助けてきましょうか?」

 

その言葉に一瞬だけ逡巡した式は、しかし続けて言った。

 

「敵の敵は味方って奴だ。顔を合わせるついでに倒しておくのもいいだろ」

 

その言葉に藤乃は視線を伸ばし、今まさに白い制服の背後を取ったオートマタを魔眼で捻じ曲げつつ走って二人に迫っていった。

 

「……やれやれ、行動が早いのはいいケドさ。これってお転婆娘って言うんだっけ?」

 

小さい声で小言を言う式だったが、その直後に培ってきた戦闘経験で何者かの接近に気付いた。

 

「!!」

 

振り向きざまに飛来してきた短刀を躱す。背後の塀に刀身を半分程めり込ませた短刀からは透明な液が滴っている。

 

「ほう、静謐の短刀を躱すとは余程戦い慣れしてると見える」

 

電柱の物陰から、背後に何体かの影を連れたポニーテールを揺らした仮面の女性が現れる。

 

「私はしっかり狙いました。この人、多分普通の人間ではありませんね」

 

反対側の屋根からは小柄な少女が一人、やはり仮面を被った状態で大気から溶け出すように現れた。

 

「へえ。アンタら出来るじゃないか。オレの相手をしようってんなら、コッチも遠慮しないぜ」

 

ナイフを構え直し、式は前傾姿勢を取った。この特異点に呼び出されて暫くしたが、まだ式は本当の人間体を殺してはいない。もとから殺人嗜好のある式という人格には、誰かを殺すという行為で腹の中を満たす必要があった。例え自らと同じサーヴァントでもいい。むしろ敵のサーヴァントであれば好都合。容赦なく殺してやれる。

 

「コイツは特殊な技か何かを持っているな。偵察した様子では直接相手を切らずに殺していた。注意しなければ我らも危ういぞ」

 

ポニーテール仮面――百貌のハサンは更に何体かへ分裂してそれぞれが武器を構えた。そして小柄な仮面――静謐のハサンは逆に短刀を仕舞い、何時でも相手を直に触れるよう徒手空拳の構えを取る。

 

そして戦闘が始まろうとした瞬間、今度は空遠くから光の筋が三人目掛けて差し込んできた。

 

「な!?これはギルガメッシュか!!」

「乱暴な!!」

「お前達の仲間の仕業か!?」

 

何とか事前に察知してギリギリで攻撃を避ける三人。その上空では空中に仁王立ちする斧を持ったターバンの男が高笑いしていた。言わずと知れたキャスターのギルガメッシュである。

 

「フハハハハハハ!!恐れ入ったか雑種共!!我の財宝をその一端だけでも己の身に浴びた事を誇りに思うがいい!!感謝してあの世へ散れ!!」

 

「ちょっ、まだワイバーンが残っているのですが!?すみませんが百貌さんに静謐さんはそこの金ピカ王をどうにか抑えて下さいませんこと!?こちらはこちらで手一杯ですので!!」

 

変わらずフハハハハハハと高笑いを続けるギルの背後で、炎の柱と鎌鼬のような烈風が地面から伸びては次々にワイバーンを叩き落としている。

 

「さて、貴様らの処遇はマスターの来る前に我が決めておこう!!」

 

そして上空から徐々に降りてくるギルを呆然と眺めていた三人は、ヒソヒソと会話を始めた。

 

「オレにはあんな知り合いは居ないんだけど、アンタらの知り合いか?」

「恥ずかしながら……我らと志を同じくする者だ。今は少々興が乗りすぎて暴走しているが」

「ああなった王様は私達だけでは止められません。申し訳ありませんが、ここは共闘しませんか?」

 

静謐の提案に妙な気分になりながらも、見るからに強者の気配がする魔術師のサーヴァントに対する警戒心は本物だったので式は「ああ、分かった」と二つ返事で了解した。

 

「ほう、我と戦おうとは思い上がったな雑種!!――もうどれでも良いか。貴様らを我が財宝で消し炭にしてくれよう!!」

 

ギルの背後で揺蕩う波紋の数が倍増し、およそ二十の杖がその先端を覗かせて光を放ち始めた。

 

(おいおい、流石にアレはヤバいぞ)

 

改めて眼前の脅威に瞠目した式は、自らの頬に冷や汗が一筋垂れるのを感じた。

 

「はいはいそこ待ったーー!!味方同士で喧嘩しちゃダメだよーー!!」

 

するとまた別の方角から能天気な声が響いてきた。

 

「今度は何だ?」

 

いちいち確認するのが面倒くさくなってきた式は手近にいた静謐に誰何する。

 

「……考え得る中でも最悪の援軍が来てしまいました」

 

静謐は頭を抱えて苦悶している。隣では百貌も同じく頭を押さえている。

 

「やっほーー!!マスターはそこに居る?居ないの?」

 

「ウー!アー!ウ!!」

 

ギルガメッシュが立つ空の更に向こう側から、この世のものとは思えないような半鷹半馬の獣に乗ったピンク髪の少女と大きな棍を抱えた花嫁衣裳の少女が飛んできていた。

 

「マスターったらダメだねー。肝心な時にトラブルが起きている場に居ないでどうするのさ」

 

「ウ、ウー!」

 

ピンク髪の理性蒸発英霊アストルフォの後ろで必死になって何かを伝えようとしているフラン。その必死なジェスチャーを見た人間であれば「降ろしてほしそう」とか「この場に首を突っ込むのを止めてほしそう」とか言いたそうだと気づくが、誠に残念ながらその意思は一切伝わっていない。

 

「そこの金ピカ王は喧嘩しちゃダメ!マスターが居ないのに何勝手に暴れているのさ!」

 

叫びながら徐々に迫るアストルフォに対して、ギルは新たな波紋を生み出して向ける。

 

「マスターが居ないのであれば我が先ず行動すべきであろう!貴様らだけで人理修復は叶わん!もたもた別のサーヴァント相手に戦う余裕があれば偵察して参れ、そこの雑種共もそうだ!」

 

不意に水を向けられた百貌はついカッとなりギルに対し口火を切った。

 

「な、何を言うか!!我らは我らで何よりも優先してマスターと合流すべきだと判断したのだ!!それをさも臆病者のように非難するとは、貴様はそれでも王か!?」

 

その場に集結したサーヴァント同士の苛立ち、呆れ、動揺をのみ込み一つの争いが人理修復とは全く関係のないところで発生しようとした直後、場違いな青年の声が藤乃の向かった道の先から聞こえてきた。

 

「おーい!みんな何をしているんだよ。また口喧嘩?ひとまず殺気を押さえて武器を仕舞ってよ」

 

その声を聞いた各サーヴァントの反応に式は何度目かの驚きの声を漏らした。

 

百貌のハサンが分身を解いて一人の身に再集結し

静謐のハサンは構えを緩めて短刀の毒を拭い取り

アストルフォは「あ、マスターだ!」と喜びつつヒポグリフを着地させ

フランケンシュタインは「ウー」と安堵しながら地面に両足を着き

玉藻の前は手にしていた呪符を全て懐に仕舞い

最後にギルガメッシュが不満そうに波紋を全て納めた

 

「……すげえな。この癖の強そうな奴ら全員従えているのか。アンタ何者だ?」

 

息を切らせて隣に座り込む青年と念には念を入れてバイタルチェックを行う盾の少女に代わり、二人を連れて来た藤乃が式の疑問に答えた。

 

「人理保障機関カルデア。そこに所属して人類史を守る唯一のマスター、藤丸立香というそうですよ」

 

 

~・~・~・~

 

 

「マシュ、後方にバックして一度体制を立て直して!腕を受け流したら一度タイミングを合わせなおす!」

 

「了解です!」

 

立香曰く、マスターがサーヴァントに攻撃させる際の指示は主に三つに分けられると言う。

即ち『火力重視(バスター)』『技巧重視(アーツ)』『速度重視(クイック)』。

それらの指示を使い分けることにより、同時に三体ものサーヴァントをそれぞれの攻撃が邪魔にならないタイミングで発動させることが出来る。またこれら三通りの指示を上手に組み立てることで敵の弱点を的確に突いたり、本来は測りにくい宝具発動やスキル発動のタイミングを読んだりする。そして組み合わせた戦術に再使用時間こそ長いが頼りになる魔術礼装のスキルや効果の限定的な概念礼装で埋めることにより、より隙の無い戦術を完成させた。

 

その戦術を見た幼い征服王は一言、「完成された凡人が不合理に抗うための戦術」と評した。

複雑な指示を簡略化し、日常生活における絆を深めてコミュニケーションの短縮を図り、多種多様な礼装で理想の結果に足りない道筋を補う。どんな凡人でも人類を救うための手段。それ故に彼は凡才を極めた天才足り得る。

 

「次はスキルで防御!何とか耐えてくれ……」

 

しかし、その立香をしてこの状況は不利の極みだった。何しろ己の手足たるサーヴァントがマシュ一人だけなのだ。それも敵は三体だけではなく、際限なく増えている。体力も魔力も有限であり、それ故に限界が近づいていた。

 

(クソッ、こんな時の為に玉藻の前やフランケンシュタインに声を掛けたのに……)

 

魔力切れが刻々と近づいている。数々の旅を経ることにより、立香の魔力回復速度は順調に鍛えられていた。だが魔力保持や魔力放出等にかけては依然人の域を出ない。三体同時の使役は出来ても一体だけの戦闘に魔力をかき集められない。

 

どこかでブレイクできれば、あるいは……。必死に打開策を探し始めた立香の耳に、声が届いた。

 

《まったく、自分だけで解決しようというのは自惚れすぎているんじゃないのか?》

 

右手の礼装から語り掛けてくるブギーポップ。呆れたような口調でこちらに話しかけて来る。

 

《ぼくが何とかしよう。まあ問題無いさ、マシュ君はぼくの事を知っているのだろう。手早く済ませてしまえばいいさ》

 

「いいや、それは出来ない」

 

ブギーポップの助太刀を即座に断る立香。目の前では盾で攻撃をいなしたマシュがオートマタを数体まとめて押し返そうとしている。

 

《何故だ。早くしないと君は魔力切れになって取り返しのつかないことになる》

 

ブギーポップの説得に、しかし立香は耳を貸さなかった。

 

「いいか、僕はお前に『最終防衛ライン』として働いてくれって言ったんだ。それでお前を連れてでた初めての人理修復、初めての実践でお前に助けを乞うなんてさ」

 

立香はマシュに「攻撃強化」の礼装スキルを使用した。

 

「そんなの、マスターとして情けないにも程があるだろうが!!」

 

「ウアアアアアッ!!!」

 

押され気味だったマシュの四肢に力が宿り、盾にへばりついていたオートマタは押し返されて数体まとめて塀と盾に挟まれてひしゃげた。

 

「先輩!なんとかブレイクできまし……後ろです先輩!」

 

一息つきながら振り返ったマシュは咄嗟に叫びながら盾を構えて走った。

 

(なっ……)

 

立香が振り返るとそこには、眼前まで別のオートマタの腕が迫っていた。戦闘中にマスターを狙って背後から忍び寄っていたのだろうか。

 

(ブギーポップも、間に合わないか)

 

喉元に迫った指先が今にも立香の喉を裂こうとした寸前。

 

不意に目の前の光景がブレた。

 

ガキュン。ギリッ。ギシャン。

 

眼前まで迫っていたオートマタの右手は、見えない何かに捻じ曲げられるように変形していた。続けて顔がひしゃげ、脚が壊れ、立香の命を今にも奪わんとしていたオートマタは一瞬でスクラップと化していた。

 

「先輩!大丈夫ですか?」

 

声を掛けてくるマシュの盾に寄りかかりながら、恐らくはこの不可解な現象を引き起こした本人と思われるサーヴァントの接近を待った。

 

「えーと、そこの人。怪我はありませんか?」

 

シスターの服を上下に着た、一見すると淑やかな女性である。しかしその目は異質な何かが宿っている事が一目で分かる。並の魔術師ですら背筋が凍るような悪寒を感じられる魔眼だ。

 

「た、助けてくれてありがとう」

 

まず立香が頭を下げ、続いてマシュも頭を下げた。

 

「怪我が無いようでしたら良かったですね。私は浅上藤乃。初めての召喚ですからよく分かりませんが、恐らくはマスターのいないサーヴァントというものです」

 

「僕は人理保障機関カルデア所属のマスター、藤丸立香です」

 

「サーヴァントシールダー、マシュ・キリエライトです」

 

そして自己紹介をしてから、改めて現状について話し合った。

 

「助けて頂いたのですが、貴女のことは味方と見ていいですか?」

 

「ええ、まあ。私にもよく現状が分かっていないのですが、アレを何とかしようとしているんですよね?」

 

藤乃は遠方のマンションを指さした。

 

「その通りです。僕らはこの『特異点』を修正して正常な人類史に戻すために来ました」

 

『……よしっ!!やっと通信が安定したぞう!!』

 

三人の会話に割り込むような形で通信が入り、一瞬でシリアスに会話していた雰囲気が霧散してしまった。

 

『あ、ごめん。邪魔したかな?現地のサーヴァントと接触出来たのかい?』

 

「はい、ロマニ教授。今まさに私達のことについて説明していた所です」

 

『それなら私が引き受けようじゃないか』

 

通信に今度はダヴィンチが割り込み、その一声でダヴィンチが説明を行うことになった。

 

ダヴィンチの詳細な説明に相槌を返しつつ、藤乃はチラリと捻じ曲がったオートマタを見やる。藤乃は自らの魔眼で捻じ曲げる寸前、煌めく糸のようなモノがオートマタを寸断している場面を目撃していた。

 

(アレは一体、何だったのでしょうか)

 

首を捻る藤乃の視界から外れた所、立香の右腕にはいつからか短いベルトが何本も巻き付き鈍く光る鋼糸が指先から伸びていたが、それも一瞬の事。藤乃の視界に入る寸前、腕は立香本人のものに戻っていた。

 

《……世話の焼けるマスターだ》

 

「ん?何か言った?」

 

《いや、何でも》




藤「そうそう。浅上藤乃も作者カルデアにいないけど、特異点に召喚された存在だからセーフだってさ」
泡「何がセーフだよ」
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