ダヴィンチの立てた作戦は単純明快。敵は初めから各個撃破を狙った罠を張り、戦力の低下を狙うと同時にあわよくばマスターの命を奪おうとしていた。立香の背後を狙って近づいたオートマタは、確かに立香の命を確実に奪うために配置されていた。つまり敵からすればやはり大勢のサーヴァントが押しかけてくる状況は好ましくないのだろう。
だからこその戦力一点集中。マスター完全防御陣営を行う。
まず中心に立香が立ち、そのすぐ前方にマシュが構える。下方に玉藻の前、右方に両儀式、左方に浅上藤乃が陣取る。そして陣全体を見回す上空で、ギルガメッシュがやや後方、アストルフォがやや前方を飛行する。
陣全体が向かう場所は百貌のハサンが常に十数名で偵察と敵の殲滅を行い、陣から離れた後方は静謐のハサンが主に偵察、フランケンシュタインが主に殲滅を担う。
『メンバー構成がちょうど良かったようだ。なかなかに面白い陣形ができたよ』
「いや、その。僕は中心に居たくないのですが」
自らの考案した陣形を見て満足気に微笑むダヴィンチ。
一方で立香は居心地悪そうな顔で身をよじらせた。
何せマシュと玉藻に前後でサンドイッチされ(しかも明らかに故意に)、左右で怖い目(魔眼)をした美少女が歩いているのだ。リア充爆発スイッチがあったなら立香はスイッチの犠牲としてあの世に行っていただろう。非リア民恐るべし。
「フン、せいぜい雑種どもはマスターの肉壁として地を這いつくばっるがいい!」
ギルは上空からいつもの調子でAUO風を吹かせている。
「……そもそも何故にギルは空飛んでるの?いつもは飛ばないよね」
説明しよう。キャスタークラスのギルはアーチャー状態のギルより大人しい冥界帰りの王様なので、やんちゃに空を飛ぶのも控えているのだ。
「それは恐らく、頼りない対空要員を補うためだと思いますよ、先輩」
警戒を続けながらマシュは前方を見上げる。
「フンフフンフフーン♪」
そこには鼻歌を唄いながらゆっくりとピポグリフに乗って旋回するアストルフォの姿があった。
「いや、アストルフォもああ見えて頼りになる時はなるんだけど」
「いつもの調子がアレでは疑われるのも仕方がないのでは?」
立香の反論に後ろから色々と押し付けてくる玉藻がマシュ同様に空を指す。
そこにはヒポグリフでめっちゃ曲芸飛行しているアストルフォがいた。
「……幻獣召喚の魔力消費は足りてるし……まあ特異点って戦闘ないと退屈だし……」
立香は色々と諦めた目をした。
~・~・~・~
マンションから湧いてくる敵性エネミー達は一見限りがないように見えたが、陣形を維持してしばらく後、それらを全て排除することに成功した。
「これは恐らく罠だ」
百貌のハサンが報告する。
「我らの内、何人かがかあらゆる視点でマンションを外部から観察したが、中の様子が全く把握出来ない。何らかの魔術的な隠蔽を行っているのだろう。よくは知らんが、ここの主であった魔術師とやらは相当な使い手だったのだろうな」
その言葉を式は少し苦々しい表情で受け止めた。
「アイツは結界専門の魔術師だった。工房の覗き見防止なんて朝飯前じゃないのか?仮にアイツが敵だとすれば厄介だぜ」
その言葉に玉藻の前が小川マンション全体を眺めて、ふと首を傾げた。
「
『ああ、確か玉藻の前は呪術に詳しかったね。どうだい?君の目から見てこの建物はどんな感じかな?』
通信機からロマニが尋ねる。
「うーーん……なんと言えばいいでしょう。人間が造ったものに別の存在が手を加えたような、と言えば良いでしょうか。死を保存し積み重ねる儀式場の上に、更にもう一段階重ねているようですねぇ」
玉藻はおもむろに自らの宝具を取り出した。
『
魔力や体力その他諸々を回復させる鏡の形をした宝具である。陰では「タマモタンD」と呼ばれているとかいないとか。
「マスターの負担を軽減するため、この私が一肌脱ぎましょう。あ、金ピカ王呼んでくださいまし」
「おーい、王様。一つ頼み「我を呼んだか無礼者!!」
玉藻の要請に応えギルを読んだ立香。その呼び掛けにノータイムで駆けつける英雄王。尊大な態度を維持したまま嬉しそうなオーラを出すその様子は周囲にいた他のサーヴァント達を怯えさせた。
これが新しい王様風ツンデレである。需要は恐らくない。
「
「フン、貴様の事は気に食わんが…良いだろう。手を貸してやる」
そして二人は一度陣から抜け出し、マンション入口正面に立った。まず石版を抱えた英雄王が反対の手で掴んだ斧の石突を地面に叩きつける。
「我が声を聞け!!
全砲門、解錠!!
矢を構えよ、我が許す!!
至高の財を持ってウルクの守りを見せるがいい! !
大地を濡らすは我が決意……!
『
宝具の真名解放と同時に、遥か彼方に展開されたウルクの城塞から多数の砲撃が小川マンションに向かって降り注ぐ。
その第一陣が到着すると同時に、今度は玉藻が宝具を宙に浮かべて足をたおやかに踏み出した。
「出雲に神在り。
是自在にして禊の証。
神宝・宇迦之鏡也。
『
うっすらと周囲に張り巡らされた小さな鳥居と言霊の刻まれた札。中央では玉藻の前が宝具を空に向かって掲げている。
本来であれば冥界の死者すら蘇らせて従わせるという伝説の鏡。そろから供給される魔力で砲撃の勢いがさらに増す。
「ほう……駄狐にしては気が利いておるではないか」
砲撃を続けながらギルは涼しそうに笑った。砲撃の衝撃波でマンションの地面の尽くが裂け、砂埃で視界がすっかり奪われる。攻撃の余波はマシュが咄嗟に展開した魔力障壁で軽く防いでいるが、防がれていない攻撃はマンションを囲んでいた残りの建物を揺るがし、地面は絶えず振動している。
「……これ、やり過ぎじゃないかな」
「そのセリフは今更ではないでしょうか」
いくら魔眼で破壊できなかったとはいえ、過剰な攻撃ではないだろうか。
立香の若干引き気味な表情に、後ろから追いついた静謐が呆れ顔で応じる。
「そもそもマンション自体の正体が未だ掴めていませんが、特異点の原因になっていることは確かです。突入すれば罠がある事には変わりありません。ならば罠ごと全て吹き飛ばしてしまえばいい……ということでしょう」
……それはあくまでも建前だ。
これは玉藻の前とギルガメッシュが独断で行った攻撃。中に生きた人々がいて、それ等を殺す以外に救う術がないのであればマスターが直に手を下すという意識を薄いままに殺してしまえばいい。元を辿れば人類悪に近い性質を持った玉藻の前と、ウルクの王として以前の特異点で協力しあったギルガメッシュであるからこそ行った一方通行の暴力である。
それを察していたダヴィンチも、ロマニも、口出しはしなかった。
「……ま、こんなものか」
数にして三万は打ちっ放しだっただろうか。ギルガメッシュは展開していたウルクの城壁を閉じ、玉藻の前も札を回収した。
舞い上がった砂埃は一種の天候と化しており、視界は未だ晴れない。マンションの姿もそのシルエットすらよく見えなくなっている。
「これだけ破壊すれば吹き飛んでいそうなものだけど……そもそも吹き飛んでるよね?」
「さてな。万が一我がアーチャーとして現界しておれば確実に消し飛ばしておったのだが、今の霊基では封印している故にアレが使えぬ故に断言は出来ぬ」
「
立香は二人の言葉を聞いて信じられない気持ちになった。第七特異点でも見たキャスター・ギルガメッシュの活躍。ウルクからの砲撃はギルの財宝の一部を『壊れた幻想』として使用したもので、その威力は並のサーヴァントが出せる火力を遥かに超えている。その火力を更に大量の魔力で補ったのだ。無傷である方がおかしい。
だが、マンションの姿はその場にいるほとんどが予想だにしない状態で存在を維持していた。
「な……」
砂埃が徐々に晴れていくと、直径300メートル程の穴が露わになった。マンションを中心に形成された穴は砲撃によりかなり掘り下げられている。
そしてマンションはその姿どころか位置さえ変わらずに存在していた。具体的にいうなら基礎や土台ごと浮いていた。あれ程の攻撃を受けていたにも拘らず、汚れ一つ付いていない。あたかもその場所一帯だけ時が止まっているかのようだ。
『……砲撃をしている間にあら方解析できた。恐らくはマンション全体の性質を変化させている。特異点を解決する為にはマンションそのものを壊さなければ話にならないが、このままでは難しいだろう。性質の変化自体はマンションの中心部に相当する場所で行われている何らかの儀式的な魔術によって維持されているようだ』
ダヴィンチは解析結果を淡々と告げた。
「これは、もう中に乗り込むしかないって事だね。マスター」
浮かぶマンションを見たアストルフォは、決意を固めた顔で右手の槍を握りしめた。
「これが例え罠だったとしても、誘い込まれたのならこちらから受けて立つしかないと思うよ」
「正論だな、オレも同意見だ。多分オレの知っているヤツより上の存在が何か手を加えている。これ以上遠回りしても仕方ない」
式は砲撃の間中ずっと細めていた目を開いた。
「さて、我が地面を吹き飛ばしたのだ。少しばかり手を貸そう」
ギルは『王の財宝』から大量の鎖を取り出すと、浮いたマンションを周囲から雁字搦めにした上で、鎖の先端を穴の壁や周囲の建物に埋め込ませた。ついでとばかりに鎖同士を繋いでマンションまでの足場も用意した。恐らく中に入った瞬間にマンションごと落とされる可能性も考えたのだろう。
「それでは我らが先行偵察しよう。我らが罠にかかるかもしれぬが、我らを使い捨てにするのは聖杯戦争に呼び出される度に常道であった。例え消滅しても気にするなよ、マスター」
形成された鎖の足場を通って、百貌のハサン達が六名が入っていった。
「――この建物、なんだろう。さっきまでよりも禍々しくなってない?」
ハサン達の報告を待つ間、立香は先程から感じていた寒気が一層強くなるのを感じていた。その寒気には何となく見覚えがあったし、そしてあのマンションがそういう類いであることは容易に想像出来た。
『大方君の想像している通りさ、マスター。これまでに遭遇した魔神柱にも似た反応がある。あの中には魔神柱に成ろうとしている人ならざる者がいると考えていい』
通信機越しにダヴィンチが断言する。
『しかも今回の敵は相当強い。あれだけの攻撃を加えても動じないという事は、これまでに出会ってきた魔神柱とは比べ物にならない力を有していると考えていい。今は成長途中で未完成な部分が内部にあるが、完成してしまえばカルデアのサーヴァント全員まとめてかかっても苦戦する恐れがあるだろう。流石にティアマト程では無いと見たいがね』
魔神柱とは、グランドキャスターの皮を被った存在たるソロモンが使途する存在。それぞれが巨大な力を有しているが、先程放った砲撃を無防備に浴びて全く動じない程ではない。一方でこれまでの旅で出会った中でも最強の敵は、神の権能を有した母なる大地、ティアマトだった。
「卵の殻、という可能性もあるだろう。生まれてしまえばこちらの攻撃も効くかも知れないが、賭けるには少々薄い可能性だ……くそ」
百貌が仮面を脱いで顰め面を晒した。程なくしてマンション内部に侵入していた百貌の分身達が帰ってくる。六人が侵入した筈だが、帰ってきたのは三名。その内一人は片腕を負傷している。
「三体やられた。気配を遮断して接近した一人がまず霊核を貫かれ、それに反応した三人が戦闘に加わったが、話にもならなかった。死角から投擲しても生えてきた腕に防がれ、為す術もなく二人倒された」
「しかし、防いだという事は外側に較べると頑丈さでは劣りそうですね」
マシュはシールダーとしての経験上、そのまま受けてはならない攻撃だからこそ躱したり防いだりと反応することを身に染みて知っていた。百貌の攻撃を軽いものでもわざわざ防ぐということは、こちら側のサーヴァントがしっかり攻撃すれば倒せるレベルだろう。
『敵のこれまでの行動は時間稼ぎが目的なのだろう。そしてマスターの命を狙っていることに代わりはないし、これからも狙ってくる。エネミーの放出も単に意味が無いと判断したから止めただけだ。一度入れば再び放出するだろうな』
ダヴィンチは冷静に分析した上で作戦を建て直した。
『マスターにアストルフォ、フラン、マシュ、静謐のハサン、両儀式が同行。百貌のハサンは引き続き偵察と殲滅をマンション内部で行い、外側でギルガメッシュ、玉藻の前、浅上藤乃が外部からの挟み撃ちを狙う敵を殲滅する。うち漏らせばマスターが不利になる。出来れば一体も逃さないようにするんだ』
内部の敵の強さは不明。しかしマンション内部は戦うのに狭いため、立香に同行して本体を相手できるサーヴァントは限られてくる。立香を守るマシュ、範囲一体への攻撃を担えるフラン、狭い場所にて短時間で敵を仕留められる式と静謐、緊急脱出用のアストルフォは必須だ。
そして大規模な攻撃が可能なギル、マスターが距離的に離れていても魔力を追加で供給できる玉藻、視界に入った敵を問答無用で捻じ曲げる藤乃は開けた場所で溢れる敵を殲滅するのに向いている。
『この作戦でなら何とかなるだろう。マスターもこれでいいかい?』
《いいや、ダメだ。今回はぼくに行かせてくれ》
ダヴィンチの声に反応したのは、立香自身ではなく礼装越しに宣言したブギーポップだった。
《ぼくには『啓司』に似たスキルがあってね。このままでは間違いなくマスターが傷つく。ぼくが直接相手するのが一番だ》
その声にギルとマシュを覗いた他のサーヴァント全員が驚いた。ブギーポップの存在を知っているのは、召喚時に立ち会った者達とブギーポップ対策に呼ばれた二名のサーヴァントのみである。知らないのも当然だった。
立香の白い制服が黒いマントに包まれる。頭には長い筒に鈍く光るメダルと鎖がついた帽子。マントの止め金部分には陰陽を表す白と黒が混じった模様が描かれている。
肩から伸びた帯が夜の風にそよぐ。先程まで立香自身のものだった瞼を開いて、ブギーポップは口の片方を吊り上げた。
「ぼくの出番だ。どうやら〈世界の敵〉を止めないとダメらしい」
なんか展開を引っ張ってしまった感じがするなあ……でもブギーポップの活躍を待っていた読者もいると思うので、お膳立てには必要な流れだったと思います。
スキルと宝具は何とか決まりました。アイデアを提供してくださった方々に感謝。次回には宝具をズバッと決める予定です。
ちなみに玉藻の詠唱はまじめモードだからです。再臨していないからではありません。悪しからず。