しかし受験生なので投稿頻度は限りなく遅いです!ごめんね!
序章
前世の記憶が蘇った。
いや、正確には蘇ったのだろう、というべきものかもしれない。その僕だったかもしれない人は普通の家庭に生まれ、普通の学生生活を過ごし、普通のサラリーマンになり、結婚はしなかったがたまの休日を友達と遊び、普通に寿命を迎え、最後を遂げた。ありふれた人間の一人だった。
そんな普通の僕でも、小さい時から憧れているものがあった。それは『ヒーロー』だ。悪を懲らしめ、弱き人々のために戦う誇りある戦士。全ての人たちの憧れの存在だ。
僕はそんなヒーローが大好きだった。仮面ライダー、スーパー戦隊、メタルヒーロー、ウルトラマン、MARVELなど………。
そんなヒーローたちみたいになりたくて、なるべく正しい行動をしてきた。間違っていることを間違っていると言える人間になりたかった。
でも、僕はヒーローたちのように強くなかった。所詮、僕は守ってもらう人間なのだ。とても弱くて、何もできなかった。気がつけば僕は、僕の目指していた人間とはまるで無縁の世界にいた。
目の前で困っている人を助けられない。
恥ずかしい。
こんなことになんの得がある。
人を助けられる力なんてないじゃないか。
見ろよ、周りの人間を。他人にはとことん無関心じゃないか。助けてどうする?自分に恩を感じてくれるとでも思ってるのか?
自分のピンチに助けに来てくれる?
そんなわけがない。正しい人間が損をする。現実にヒーローなんていないのさ。
そんな捻くれた心ばかりが育っていった。
『人間の本質は、悪である』
その言葉に疑いを持たなくなった。そんな言葉を信じる自分が嫌になった。考えれば考えるほど、自分への嫌悪感が内側から滲み出てくる。
だから、だからかな。
もし、人生に次があれば、ヒーローになりたい。
全ての人たちに、希望を与えられるような。
僕が一番大好きだった、あのヒーローに。
「どうしたんだ?そんなにボーッとして。考え事か?」
そんな彼の深い思考も、声をかけられることで現実へと引き戻されたのであった。昼食を終えた後庭に座り込み、木陰から太陽を眺めていたら、気がつけば空はすっかりオレンジ色に染まり、5時のチャイムとカラスの鳴き声が響いていた。
「ううん、考え事ってほどじゃないよ。心配しないで父さん」
後ろを振り返れば、自分を心配そうな表情で見つめる父がそこにいた。いつもの黒ぶちの眼鏡をかけ、ボサボサの髪の毛、目の下のクマが目立つ。側から見れば不審者に見えなくもないだろう。
しかしよく見ると、父は童顔だ。今も自分が平気だと知ると、安心したような表情で笑う。子供と変わらない、無邪気な笑顔だ。
「そうか。ならいいんだけどね。それにしてもこんな長い時間空を見上げているなんて、退屈にならないのかい?」
「そんなことないよ。結構好きなんだ、特に何もせず、空や景色を見ながらボーッとしてるのが」
「はははっ、相変わらず年に似合わない趣味だな。一体誰に似たのやら………」
やれやれといった表情で、父はリビングの隅にある写真立てを眺める。そこに写っているのは父さんと今よりもっと幼い頃の少年、そして若い綺麗な女性だ。
若い綺麗な女性が幼い僕を笑顔いっぱいでぶん回し、それを怖がり泣きじゃくっている少年、それを必死に止めようと慌てている父の姿を写している。
「母さんも、好きだったの?ボーッとしてるのが」
「………そうだね。普段はガキ大将以上にわんぱくだけど、時たまにボーッとすることがあったよ」
「まぁ、その時は大抵『フライドチキン食べたい』とか食事のことばかり言っていたけどね」と、父は嬉しそうに語る。少年は少し驚いていた。元気真っ盛りだった時期の僕以上に活発な母にそんな一面があるとは知らなかった。
「なんというか、ちょっと意外だね」
「そうか?母さんは食いしん坊なのは知っているだろう?ボーッとしながらよだれ垂らしてたのもいい証拠だ」
「それでもだよ。動きを止めていること自体が珍しいから」
「それもそうだな。でもな、ずっと動き続けるなんて母さんでも無理なことだぞ?車だってずっと走り続けることなんてできない。一度立ち止まって、ガソリンを補給しないと」
「なるほど、つまり母さんはエネルギー補給のサインを送っていたのか」
「そういうこと」
なるほど、たしかに普段元気いっぱいの母も食事前はいつもおとなしく座り込んでいた。もしくは凄い勢いで食事を作り上げていた。その時、母が何人にも見えたのは気のせいだろう。
ちなみに父にも同じ光景が見えたらしい。
「それでも、危険地帯をノーブレーキで突っ込むのだけはやめてほしかったな」
「それこそ無理な話だ。残念ながら母さんにはブレーキが搭載されていなくてね。代わりにアクセル二つつけて爆走しちゃうから」
今から3年前、少年の母は死んだ。少年と父の目の前で、だ。
その日はいつもと変わらないたわいもない日常が繰り広げられていた。日曜の昼、家族みんなでデパートに向かう途中だった。父は車道の方を歩き、少年は母と手を繋いで歩いていた。上機嫌な母は鼻歌を歌いながら歩いており、少年はそれが恥ずかしくて母から手を離そうと試みた。ガッチリと掴まれていたが、なんとか抵抗を続け振りほどくことができた。母はショックを受けた顔をしていた。
しかしその行為が仇になってしまった。
建設途中のビルから鉄骨が一つ落ちてきたのだ。その下には自分と同い年くらいの少女がいた。
そして気がついた時は、母が下敷きになっていた。わけがわからなかった。少年はさっきまで母と繋いでいた手を眺め、変わり果てた母を見た。あたりの人間の騒ぎ立てる声、父が鉄骨を押し上げようと必死になっている。先程みた少女も自分と同じように茫然としていた。体のどこにもケガはなかった。
『あの時、手を離していなければ』
そして少年は泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて。泣き喚いた。
もしあの時手を離していなければ、母を止められたかもしれない。止めることなどできなくても、わずかに時間がズレていれば母は潰されずに済んだかもしれない。
母を殺したのは自分だ。自分のせいで母は死んだのだ。少年はそう父に泣き続けてた。しかし父は、少年を優しく諭した。
『いいかい。母さんは自分の命をかけてあの少女を助けたんだ。昔から人一倍正義感が強かったからね。ヒーローになりたいといつも言っていたよ』
『ひー……ろー?』
『そう、ヒーローだ。たしかに世間一般のヒーローたちに比べたらちっぽけなことかもしれない。でもね、人の命を救うことに大小はないんだよ。だから、そんなことを言うのはやめなさい。母さんを悲しませることになるよ』
父自身が一番辛いはずなのに。一番悲しいはずなのに。必死に笑顔を取り繕っている父を見るのはとても苦しかった。
あれから月日は流れたが、この傷が癒えることはないだろう。
「おーい、またボーッとしてるぞ。どうした?幽体離脱の実験でもしてるのか?」
「そんな実験するわけないでしょ………。別に、そろそろお腹が空いてきただけだよ」
「おっ、また母さんそっくりの癖だ。流石によだれは出さないみたいだけどな」
父は窓を開けるとリビングに入り、キッチンへと向かっていった。少年は沈もうとする太陽をじっと見つめる。
やはりあの時の後悔は消えない。自分に何か力が、『個性』があったらあの惨劇を変えることができたんじゃないのか。
現代、人口の8割以上が『個性』と呼ばれる超常現象を起こす人間で溢れかえっている。残りの2割はそんな力を一切持たない『無個性』と呼ばれる人間だ。
少年の家族もその2割だ。父と母、そして少年もまた個性を持たず生まれてきた人間だった。
やはりヒーローには力がいるのだ。力のない人間には人を救うことに限界がきてしまう。
そんな夢を見ながら、しかしそんな無駄な考えを捨てようと少年は努める。父の後を追い、リビングに入ろうとした瞬間、あるものに目が止まる。
「なんだ?蜘蛛か?」
それは体長約3cmくらいの真っ黒、いや青黒い蜘蛛だ。しかしお尻の部分には複雑の赤模様が描かれている。
「珍しい柄の蜘蛛だな。図鑑でも見たことないや」
少年は好奇心からその蜘蛛を手に乗せて観察してみる。やはり知らない蜘蛛だ。少年はよく図鑑を読み込む趣味があるが、日本にこの種類が果たしていただろうか。
父にこの蜘蛛の種類を聞こうと向かおうとした時、蜘蛛は少年の右手の甲の部分に噛み付いた。
「いった!」
痛みからの反射で、少年は右手を勢いよく振り回した。蜘蛛はその勢いで地面に落下し、草むらに紛れながらどこかに消えてしまった。
「いった〜。まさか噛むなんて。毒とか入っていないよな。にしてもあの蜘蛛、何処かで見たような………」
噛まれた跡は少し赤く腫れている程度だ。毒にやられるのは嫌なので、父に報告しようとリビングに入り、キッチンへと向かう。
「父さーん、実は………」
これは、一人の臆病な少年が、人々の希望へとなるための物語。
それの始まりに過ぎないのだ………。
とりあえずの序章、プロローグです。
模試に向かっている電車内で何してるんだろう。
そうです、私です。(バカとも呼ぶ)