短く、面白くまとめる力が欲しいです。
「どこだ!?その蜘蛛は一体どこに!?」
先程の蜘蛛のことを伝えると父はとても慌ただしく少年を問い詰める。今まで見たことないような父の剣幕に思わずたじろいでしまう。しかしそんなことを考えてる余裕がないためか、少年の肩を掴み、揺らし続ける。その力は大人の本気であった。
「お、落ち着いてよ父さん。痛い、痛いから!」
「!!っすまん、痛かったか?しかしこれは大事な質問なんだ。その蜘蛛はどこに行った?」
「庭だと思う。でもさっき草むらに紛れこんでたから見つかるかどうか」
「草むらだな!わかった、父さんは今からその蜘蛛を探すから手伝ってくれ!」
「わ、わかった」
あの日以来かもしれない父の慌てように少年は戸惑いながらも庭に向かい、蜘蛛を探し始める。しかし、草むらに隠れた小さな生き物を探し出すのは至難なことだ。
「そんなに慌てるなんて、あの蜘蛛は何?図鑑でも見たことないような種類だったけど」
「あれはね、父さんの研究室で取り扱っている蜘蛛なんだ」
「父さんの研究室で?てこと、新種かなにか?」
「詳しくは言えないが、ある実験を施した蜘蛛の生き残った1匹なんだ。父さんが責任の下で観察していたのだが、まさか逃げ出すなんて。一体どうやって………」
少年の父は科学者だ。この個性あふれる現代、全ての人間がその個性を正しいことに使うとは限らない。その力を利用し、悪事を働くものもいる。
ヒーローの対になる存在、『ヴィラン』。
父は個性こそ持っていないが、科学者としては一流と言っても過言ではない。そして母と同様、強い正義感の持ち主だ。
だから父はヒーローや市民のために役立つアイテムや製品を日々研究し、開発に勤めているのである。
「あっ、父さん!これ!この蜘蛛だよ!」
「なにっ!見つけたか!?」
「うん、見つかったけど………」
少年は草むらの中から先程の蜘蛛を見つけることはできた。しかし見つけた蜘蛛は仰向けになり、脚を短く閉じてしまっている。動く様子はない。
「死んでしまったか。くそっ、やはり外の環境に慣れてない状態では無理があったか………!」
父は蜘蛛を大切に布に包み、保護をする。しかしその表情はとても悔しいと言わんばかりに歪んでいる。少年は父を心配そうに見つめることしかできない。
「父さん、その蜘蛛って、そんなに大事なものなの?」
「………あぁ。もしかしたらこの蜘蛛は世界を変える力を秘めていたかもしれないんだ。それが希望なのか、それとも絶望なのか。今となっては永遠にわからなくなってしまったからね」
父はとても寂しそうに笑う。
あぁ、まただ。父はどんなに悲しいことや苦しいことがあっても、少年の前では決してそれを見せようとはしない。笑って誤魔化そうとするのだ。それが少年にはとても痛ましく見えて、思わず胸の前で拳を握りしめる。
そして、ふと自分の拳に目が入った。少年は自分の手が、その蜘蛛に噛まれたことを思い出したのだ。
父のこの慌てぶりを見る限り、おそらく野生で生息している蜘蛛ではない。もしかしたら自然ではないような危険な毒を有してるかもしれない。すぐに毒の有無の確認をしなければならないだろう。
「父さん、ショックを受けているところ申し訳ないけど聞いてほしいことがあるんだ」
「あぁ、すまん。お腹空いたよな。今用意するから」
「いや違うよ。たしかにお腹は空いてるけど今じゃなくてもいいよ。その蜘蛛のことなんだけど、実は噛まれて」
「噛まれた!?どこをだ!?」
先程と同じ形相で慌てる父が蘇ってしまった。少年は蜘蛛に噛まれた箇所を見せる。噛まれた箇所は赤く腫れているが、虫に刺された時と見分けはつかない。
「大丈夫か!?どこか具合の悪いところは?体に違和感はないかのか!?」
「だ、大丈夫だよ。具合が悪いことはない。違和感は………どうだろう?そういえば、なんか体が妙に暑いというか。なんて言ったらいいのかわからないけど、何かが変わったように感じる、のかな?」
少年は体の変化について説明することができないでいるが、何か異変が起きていることはなぜか理解していた。それは少年の体からの本能が訴えかけているのか、はたまた。
少年が自分の体について考えてる間、父は電話でどこかに連絡していた。
「………あぁ、そうだ。至急実験用の部屋を用意してくれ!こちらもすぐに向かう!」
連絡を終えた父は家の中に戻るとバタバタと何か準備をしていた。職場に着ていく白衣を身に纏い、カバンに書類やら何かわからないような機器を入れていた。
と、その時。
少年は急なめまいを感じた。
(あ、あれ?急に気分が………)
めまいのあまりにふらついてしまい、ついには膝から倒れ込んでしまう。少年の異変に気付いたのか父は急いでこちらに走ってきて、少年に呼びかける。
しかしその声も少年にはよく聞こえない。意識は朦朧とし、体が急激に暑くなってきたのを感じる。頭痛や吐き気も凄まじい。今までに何度か風邪やインフルエンザにかかったことはあるが、そんなものたちとは比較にならないほどだ。
景色が歪む。声が聞こえない、いや何か別のものが聞こえる。体の節々が燃えるように暑く、鋭い痛みが走る。
(あぁ、まずい。も、う………い………………しき、が………)
だんだんと下がってくるまぶたがまるで鋼鉄でもつけられたかのように重い。少年は父の言葉に何も反応ができないまま、意識を落としていった。
(………真っ白な天井だ。病院なのかな?)
少年が目を覚ますとそこは見たこともない知らない場所だった。天井だけでなく部屋全体が白一色で構成されている。右手には点滴がついており、なにやら複雑そうな機械も置いてある。
その時、左手に布団とは違う温もりを感じた。顔を動かすと父が自分の手をしっかりと両手で握りしめていた。
「大丈夫か?」
父の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃに歪んでいた。自分のことをよほど心配してくれていたのだと少年は察した。
愛する妻を失い、一人息子が謎の症状で倒れたのだ。こうなるのも無理はないだろう。
「大丈夫だよ、父さん。今はもう何ともない。至って健康状態さ」
「本当か?無理しなくていいんだぞ?」
「平気だって。なんならロッキーのテーマを流して欲しいくらいさ。今ならどんな相手でも一発KOできる自信があるよ」
少年は父を少しでも安心させようと起き上がり、シャドーボクシングの真似事をしながら笑顔でこたえる。少年の気遣いに気付いたのか、父は涙を拭いて、やっと笑顔を浮かべる。
「どうやらやっと目を覚ましたみたいですね、勉博士」
「あぁ、急に連絡してすまなかったな」
「いえいえ、緊急事態なんですから。やぁ、望くん。僕のこと、覚えているかな?」
「えっと、石澤さんですか?たしか父の片腕の方だと………」
「そうそう。さすが博士の息子さん。博士に負けず劣らずの記憶力ですね」
入ってきたのは父と同じ白衣を着た若い男性、石澤。父の、
彼を見た瞬間、少年………
父が所属している研究所、『ナノホープ』。おそらくその中の一つの部屋なのだろう。ナノホープはヒーローたちの役に立つアイテムや武器の研究を日々行っている場所だ。研究員は皆、個性を持たないか微々たる個性しか持っていない。
しかし、彼ら一人一人の正義感はヒーローにも劣ることはない。望も小さい時に何度かこの研究所にお邪魔させてもらったことがある。
「さてと、それでは検査の結果をお伝えします。望くんは4歳の時に個性検査を診断。診断の結果、『無個性』とのことでした。しかし博士や明さんが無個性なので、これはなにも珍しいことではない結果でした」
ただし自分と父をバカにした場合は般若の如く怒り出すひとでもあった。その時のことを思い出し、望はクスリと微笑む。
「しかし今回の結果、10歳の望くんの足の小指の関節を検査したところ………関節の節が一つになっていました。間違いありません!望くんは何かしらの"個性"を身につけたのです!」
「「ええええええええええ!!」」
「いや、望くんはともかく何で博士までびっくりしているんですか。さっき検査結果一緒に見たでしょう?」
「いや、それでもびっくりするに決まっているだろう!?無個性な人間が個性を得るだなんて前代未聞なことだぞ!」
自身に個性が目覚めたと言われた望であるが、驚きはしたもののいまいち実感が持てない。火が出せるようになった気もしないし、念力が使えるわけでもなさそうだ。
(そういえば、やけに体が軽いように感じるな。感覚もいつもよりよく働いているというか………)
もう何ともないため、ベッドから降りる望。自分の手を握ったり、開いたりを繰り返す。
「どうだ望?何かわからないか?」
「うーん、そうだね。体が軽くなったように感じるけど」
「体が軽く、か。身体能力を強化する個性ですかな?」
身体能力と言われてもピンとこず、適当に手足をブラブラさせる。しかしいつもと変わりはない。そんな気持ちで軽くジャンプをしたら………気がついたら天井が顔のすぐそこまで迫っていた。
「うわっ!?」
望は思わず手を顔の前にだし、目を瞑った。両手が天井に触れた感触が伝わり、そして。
その感触はいつまで経っても消えなかった。
おそるおそる目を開けてみると、両手は天井にくっついたままだ。まるで天井が床にでもなってしまったかのようだ。
顔を上へと向ける、いや下に向けていると言うべきか。父と石澤は口を開け、ポカーンと望を見つめている。
「な、なぁ石澤くん。この部屋の天井って、高さ何mあったっけ?」
「5mはありますよ博士!しかも天井にぶら下がったまま!これは普通の人間では不可能です!間違いなく個性が発現しています!」
父と石澤が望を見て騒いで慌てている中………望は不思議と落ち着いていた。いや、冷静な思考を巡らせることはできるほど頭は冴えているが、心はその反比例するかのごとく燃え上がっていた。
「父さん、石澤さん。二人がヒートアップしてどうするの?二人の話が終わるまで僕は反重力を楽しんでればいいの?」
「あっ、いや。そうだね。父さんたちが熱くなって話しても仕方ないことだよな」
「にしても、随分と落ち着いてるね望くん。そこは博士とは真逆なんだね」
「いえいえ、僕も興奮してますよ?ただそれが一周まわって、ある意味冷静な思考をできているだけです」
望は自分の体の変化の正体に気付いた。これは
「父さん、あの蜘蛛に噛まれたことに関係してると思う?」
「100パーセント関係してると言っても過言ではないな。にしても、まさか個性を目覚めさせるなんて………ある意味、あの蜘蛛が死んだことは良かったことかもしれないな」
「そうですね。この事が世間一般に知られれば多くの人たちの奪い合いになるところだったでしょう」
「いずれにせよ、この力について詳しく知る必要があるな。石澤くん、個性の実験準備をしてくれ。まずは身体能力を測るとしよう」
「わかりました」
石澤は駆け足で部屋から出て行く。先程二人が言ったことは間違いない。『この力』は使いようでは大きな被害を生むことになるだろう。望は自分だった者の、聞いたある言葉を思い出す。
「大いなる力には、大いなる責任が伴う………」
「うん?何か言ったか望?」
目を瞑り、かつての自分が憧れた『彼』を思い浮かべる。消えかかっていたはずなのに、今はなぜか鮮明に姿が見える。
人々のために、正義のために、希望になるために戦い続けていたヒーローを。
地面に向かいもう一度ジャンプする。感覚がつかめたのか、体が本能として自然に覚えたのか。今度は危なげもなく、綺麗に一回転しながら着地をする。
「父さん、僕はヒーローになりたい」
自分の父親を真っ直ぐに見据えて思いを伝える。父は驚きはしない。黙って息子の言葉に耳を傾ける。
「この力を手にした時、ある姿が浮かんできたんだ。それは富や名声を求める姿じゃない。人々の希望の象徴なんだ」
ヒーローとは簡単なものではない。常に危険が側にあり、常に人々のために戦わなければならない。死ぬ可能性だって十分だ。
しかし、そんなの百も承知だ。もう逃げるつもりはない。目を背けはしない。望にはこの世界で得た希望があるのだから。
「僕は、母さんのようなヒーローになりたい!」
己の命を懸けてまで人を救おうとした母は、誰がなんと言おうと紛う事なきヒーローなのだ。
息子の覚悟を聞いた父は、自分の妻を思い浮かべる。彼女の目にそっくりだと、嬉しくなる。
「今日から個性の詳細を調査し、使いこなす訓練をするぞ。ついてこれるか?」
「当然!言ったでしょ?今ならロッキーも一発KOできる自信があるってさ!」
「ロッキーをKOしたらダメだろう………」と父は苦笑いして突っ込む。少年は笑顔で誤魔化した。
次から一気に月日は流れ、入学試験に移りたいと思います。
あぁ、次はいつになるのやら………。
ヴェノムの映画観に行きてぇ。