「3対2でAクラスの勝ちです」
視聴覚室に雪崩れ込んだ僕達を出迎えたのは高橋女史の締めのお言葉でした。
ええ、わかっていますとも。僕達の負けです。
「……雄二、私の勝ち」
そして霧島さんからも勝利宣言が。
床に膝をつく雄二に近づいていきます。
「……殺せ」
「良い覚悟だ、殺してやる!歯を食い縛れ!」
「明久、落ち着いて!」
放っておけば言葉通りに雄二に襲いかかろうとする明久を後ろから羽交い絞めにします。
「だいたい、53点ってなんだよ!0点なら名前の書き忘れとかも考えられるのに、この点数だと――」
「いかにも俺の全力だ」
「この阿呆がぁーっ!」
「アキ、落ち着きなさい!アンタだったら30点も取れないでしょうが!」
「それについて否定はしない!」
明久、それは否定してください。聞いているこっちが悲しくなるでしょう?
「それなら、坂本君を責めちゃダメですっ!」
「くっ!どうして止めるんだ3人とも!この馬鹿には喉笛を引き裂くという体罰が必要なのに!」
「明久、それは体罰じゃなくて処刑だよ!」
3人がかりで必死になって明久を止めます。
しばらくして明久が落ち着いてから、僕も雄二に一言だけ言います。
「でも、明久の言うことも一理あるよ。雄二が油断せずちゃんと勉強していれば負けなかったんだから」
「言い訳はしねぇ」
やっぱり図星でしたか。
「……ところで、約束」
おおっと。そういえば霧島さんの事をすっかり忘れていました。
.....何でも1つ言うことを聞くって約束でしたよね。
「…………!(カチャカチャカチャカチャ!)」
僕の横で、康太がもの凄い勢いで撮影の準備をしています。
.....僕も手伝った方がいいんでしょうか?
「わかっている。何でも言え」
潔い雄二の返事。これだけを見れば恰好いいんですが、本当に大丈夫なんですよね?
「……それじゃ――」
霧島さんが瑞希に一度視線を送って、再び雄二に戻します。
そして、小さく息を吸って、
「……雄二、私と付き合って」
言い放ちました。
.....おや?
「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか」
「……私は諦めない。ずっと、雄二の事が好き」
なるほど。霧島さんは2人がまだ小さい頃から一途に雄二の事を想い続けていたんですね。
「その話は何度も断っただろ?ほかの男と付き合う気はないのか?」
「……私には雄二しかいない。他の人なんて、興味ない」
.....ほほう。つまり、霧島さんが異性に興味がないという噂は雄二という想い人がいたからであり、瑞希の事を見ていたのは雄二の近くにいる異性が気になったから、ということだったのでしょう。
「拒否権は?」
「雄二、ここで拒否するなんて男らしくないよ。それに――」
「……ない。約束だから。今からデートに行く」
「ぐぁっ!放せ!やっぱこの約束はなかったことに――」
ほんとに雄二は往生際が悪いですね。霧島さんのような美人に好意を向けられているのにそれを拒むなんて、万死に値します。
ぐいっ つかつかつか
しかし、霧島さんが抵抗する雄二の首根っこを掴んで教室を出て行ってしまいました。
「…………」
「…………」
「…………」
教室にしばしの沈黙が訪れます。
皆あまりの出来事に言葉が出ないようです。
さて、もうこれ以上することもないでしょうから帰りましょうか。
僕は視聴覚室から立ち去ろうとしました。そこに――
「待ちなさい、鏡護」
「ぎくぅっ」
失敗です。今なら誰にも気付かれないと思ってたんですがねぇ。
後ろを振り向くと、僕の予想通りの人物の姿が。
「ゆ、優子……」
「アンタ、今皆に気付かれないうちに逃げようとしてたでしょ」
どうやら完全にマークされていたようです。
「バレてたのか……仕方ない。降参するよ」
「っていうかそもそも逃げるという選択肢を消しなさいよ」
「いやぁ、ごめんごめん。で、僕を呼び止めたってことは」
「そう、約束の話よ」
「わかった。聞かせて」
僕はどんな命令が来ても甘んじて受け入れる覚悟をしました。
「その前に――瑞希っ!」
「あ、はい!」
「えっ?」
どうして瑞希が呼ばれるんでしょう?
残念ながら、僕はその疑問に対する答えを持ち合わせていません。
大人しく事態の推移を見守ることにします。
「鏡護、お弁当の時の約束は覚えてる?」
「ああ。あの時も何でも言う事を1つ聞くって言ったな」
「そうね。で、今回はそっちも使わせてもらうわ」
まとめて2つ。一体どんな無理難題が吹っ掛けられるんでしょうか。
「それじゃ、言うわね。瑞希」
「はいっ」
「「アタシ(私)と付き合いなさい(ってください)!」」
「へっ?」
2人は今何と言いました?
.....自分達と付き合え?
混乱した頭で、何とかそれを理解した僕は――
「え、ええぇぇぇっ!?」
それはもうもの凄い勢いで驚きました。
「もちろん、『付き合う』っていうのは恋人になるってことだからね?」
「あ、ああ。それはわかってるけど……」
そりゃあ、こんな風に言われたら意味するところはそうなんですが.....
「ふ、2人はそれでいいの!?」
自分の恋人が二股を掛けることを許してくれるのでしょうか?
普通なら絶対にあり得ません。あり得ないんですけど.....
「いいわよ」
「はい!2人で話し合って決めましたから!」
.....2人がそう言うならいいんでしょうか。
.....いいということにしましょう。
釈然としませんが、僕は無理やり自分を納得させて答えを期待して待っている2人に返事をします。
「僕でよければ、よろしくお願いします」
「「――っ////やったぁー!」」
2人はお互いに抱き合うと、飛び上がって喜びを表現します。
そういえば――
「ねえ瑞希?もしかして瑞希が手紙を出そうとしてた相手って」
「――っ////はいっ、鏡護君です!」
「っっ////」
真正面からそう答えられて、思わず顔が熱くなりました。
や、やっぱりそうだったんですね.....
なんか凄く嬉しいです.....
「あら、瑞希ってばそんなことしようとしてたのね」
「ゆ、優子ちゃん……」
優子が新しいおもちゃを見つけた子供のように楽しそうな表情をしています。
これは瑞希をイジるつもりですね。
ここは助けてあげますか。
「優子はどうして僕に告白したの?」
「えっ!?////」
聞いた途端に優子の顔が真っ赤に茹で上がりました。
「え、えっとね、その、それは、あの……」
先ほどまでの勢いはどこへやら、面白いくらいに慌てふためく優子の姿が見られたので良しとしましょう。
「ありがとう瑞希、優子」
「「あ……はい(うん)!」」
2人とも満面の笑顔で返してくれます。
.....絶対に2人を幸せにしてあげなくちゃ。
僕は改めてそう決意を固めました。
そうして僕が幸せを噛み締めていると、
「さて、Fクラスの諸君。お遊びの時間は終わりだ」
西村先生がやってきました。
「あれ?西村先生、僕達に何か用ですか?」
「ああ。今から我がFクラスに補習についての説明をしようと思ってな」
ん?『我が』Fクラス?
「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから1年、死に物狂いで勉強できるぞ」
『『なにぃっ!?』』
クラスの男子生徒全員が悲鳴を上げました。.....そんなに嫌がることですか?
「いいか。確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまで来るとは正直思わなかった。でもな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の1つなんだ。全てではないからと言って、蔑ろにしていいものじゃない」
確かにその通りです。
それに、雄二が必要最低限の学力を身につけていれば、西村先生もこんなことは言わなかったでしょうし。
「吉井。お前と坂本、ついでに天水は特に念入りに監視してやる。なにせ、開校以来初の《観察処分者》とA級戦犯、及びその懐刀だからな」
「そうはいきませんよ!なんとしても監視の目をかいくぐって、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」
「今回ばかりは明久に同意です!というか“ついで”で巻き込まれるなんて納得できません!」
「……吉井、お前には悔い改めるという発想はないのか。それに天水、お前は去年テストの時に手を抜いていただろう。あんな点数の持ち主だとは先生方も知らなかったんだぞ?」
.....あら、バレてしまっているようです。
西村先生の言う通り、実は昨年のテストでは常に中の上くらいを狙って取っていたんです。あまり注目を集めるのは好きじゃありませんからね。
「とりあえず明日から授業とは別に補習の時間を2時間設けてやろう。天水は特別に高橋先生が見てくださるそうだぞ」
なんですと!?
「どうして僕だけ特別扱いなんですか!?」
「先生がお前の才能を埋もれさせるのは惜しいとおっしゃってな」
「その通りです。天水君の補習は私が面倒を見てあげます」
「そんなっ!?」
「高橋先生っ!私も鏡護君と補習をしていただけませんか?」
瑞希が高橋先生に詰め寄ります。
「姫路さん?……そうですね。貴女もFクラスにはもったいない逸材ですし」
.....やった!これでただ苦しいだけの補習ではなくなります。
「先生。私も2人と一緒に補習を受けてもいいですか?」
「木下さんもですか?……ええ。特に止めはしませんが」
「ありがとうございます」
どうやら優子も一緒に受けてくれるようです。嬉しいですね。
まあ確かに3ヶ月後にはまた試召戦争ができるのですから、それまではしっかり学力を磨いておくことにしましょう。
そうして意気込んでいると、瑞希と優子が歩み寄ってきてこう言いました。
「さあ、鏡護。補習は明日からみたいだし、今日はこれから3人でデートに行きましょう!」
「そうですね。それなら私、観たい映画があるんです!」
「映画か……そうね。久しぶりに行ってみましょう!」
「はいっ!」
「え、えっ?」
僕を置いてどんどん話を進めていく2人。僕の都合はお構いなしのようです.....
「はぁ……わかったよ、2人とも。デートに行くから僕を除け者にしないでよ」
「「やったーっ!」」
僕が白旗を揚げると2人は満面の笑顔。
仕方ありません。彼女達が僕を好きでいてくれるように、僕も彼女達が大好きなのですから。
僕達の近くでは明久が島田さんに言い寄られているようでしたが、良かったですね明久。
「いやぁぁっ!生活費が!僕の栄養がぁっ!」
そんな明久の魂の叫びが聞こえたような、聞こえなかったような.....
あとがき
作者 「祝っ!試召戦争編終了!」
鏡護&瑞希&優子 「「「ワー!パチパチパチ~!」」」
作者 「というわけで終わりましたね、お3方」
鏡護 「いやぁ、長いようで短かったような」
瑞希 「そうですね……色々なことがありました」
優子 「まあでも、最後は大団円だったじゃない?」
鏡護 「そうだね。こんなに可愛い彼女が2人もできたし」
瑞&優 「「――っ////」」
作者 「おーおー、2人とも顔を真っ赤にしちゃって。この天然ジゴロが」
鏡護 「そんなことないよ。本当のことを言っただけだもん」
瑞&優 「「////」」
作者 「……ダメだこりゃ」
鏡護 「ところで、これからはどんな展開になっていくの?」
作者 「うむ。今回で原作第1巻の内容が終わったからな。次は2巻だ。」
瑞希 「その前にまた番外編が入ったりしますか?」
作者 「2本程入れようかと考えている」
優子 「そう。それはまた楽しみね」
作者 「うむ。期待しててほしい。では次回予告、いってみよう!」
全員 「「「「次回、補習第2回『デートでわかる男の甲斐性(仮)』
を、よろしくお願いしま~す!」」」」
作者 「これからも引き続き、拙作をお楽しみください!」