「何だろう?コレ」
下駄箱を開けたら手紙が入っていました。
しかもとても可愛らしいデザインの便箋に入っています。
.....これはもしかしなくてもラブレター!?
僕には瑞樹と優子という大切な人がいますから、残念ながら手紙をくれた人の気持ちには答えてあげられません。
.....ですが手紙の書いた人の誠意を雑に扱うことはできませんよね。
.....そ、そうですよ。最低限、手紙の内容くらいは確認しませんと。
なんとなく人には見られたくなくて、僕はこっそり手紙の封を切ろうとして――
「おはようじゃ、鏡護。」
「うぉわぁぁっ!?」
咄嗟に手紙をポケットに突っ込みました。び、びっくりしましたぁー!
「あ、ああ。秀吉か。おはよう。今日もいい天気だよね!いやぁー、今日はイイ1日になりそうだよ!」
「?何をそんなに動揺しておるのじゃ?」
「べ、別に動揺なんかしてないさ?」
「そういえばさっき一瞬手紙のようなものが――」
マズいです!まさか見られていたとは!どうしましょう。ここで誤魔化すのも1つの手ですが.....
.....もしコレのことを瑞希と優子が知ったら、2人は不安に思うかもしれません。
僕は2人の悲しむ姿なんて見たくありません。彼女達の笑顔を守ることが僕にとっての最優先事項なのです。
「……実はラブレターをもらったんだ。返事は決まってるんだけどね」
2人にはこの後すぐにメールを送ることにします。
「なんじゃ、やはりそうじゃったか。」
「うん。とりあえず後で2人と話し合うつもりだよ」
「そこまでする必要はあるのかのう?」
「なんていうか、僕なりのけじめ、かな」
「そうか。お主がそう言うならワシからは何も言わぬ」
「ありがとう。さあ、教室に行こう」
「うむ」
そうして僕達は教室へと向かいました。
「工藤」「はい」「久保」「はい」
「近藤」「はい」「斉藤」「はい」
.....今日も平和ですねぇ。
静かな教室に穏やかなひとときが訪れています。
新学期開始からしばらくは試召戦争で朝から騒がしい毎日を送っていたので、久しぶりに平穏な時間が――
「坂本」
「…………明久がラブレターをもらったようだ」
『『殺せぇぇっ!!』』
雄二の一言によって木っ端微塵に打ち砕かれました。
「ゆ、雄二!いきなりなんてことを言い出すのさ!」
「否定はしないんだね、明久」
すかさずツッコミを入れてみます。
「う……。そ、それは……」
でも良かったですね、明久。
ついに明久にも春がやって来たようで。
それにしても、明らかに小声だったのにクラスの誰もが聞き逃さなかったとは恐ろしいですね。
『どういう事だ?吉井がそんな物を貰うなんて!』
『それなら俺達だって貰っていてもおかしくないはずだ!自分の席の近くを探してみろ!』
『ダメだ!腐りかけのパンと食べかけのパンしか出てこない!』
『もっとよく探せ!』
『……出てきたっ!未開封のパンだ!』
『お前は何を探しているんだ!』
男達の怒号が教室中を飛び交います。
クラス全員が明久への妬みに狂っているようです。
「お前らっ!静かにしろ!」
――シン
西村先生の一喝によって再び静寂を取り戻す教室。
さすがは西村先生です。
「それでは出欠確認を続けるぞ」
出席簿を捲る音が教室内に響きます。
「手塚」「吉井コロス」「藤堂」「吉井コロス」「戸沢」「吉井コロス」
.....明久に命の危険が迫っています。
「皆落ち着くんだ!『吉井コロス』は返事じゃないよ!」
「吉井、お前は静かにしろ!」
「先生、ここで注意すべき相手は僕じゃないでしょう!?このままだとクラスの全員が僕に殴る蹴るの暴行を加えてしまいますよ!」
「新田」「吉井コロス」「布田」「吉井マジコロス」「根岸」「吉井ブチコロス」
明久の言葉を無視して出席確認を続ける西村先生。
クラスメイト達の返事はさらにエスカレートしていますね。
「よし、遅刻欠席はなしだな。今日も1日勉学に励むように」
出席簿を閉じて、西村先生が教室を出て行こうとします。
「待って先生!行かないで!可愛い生徒を見殺しにしないで!」
もうなりふり構っていられないのでしょう。必死の形相で西村先生を呼び止めようとしています。
「吉井、間違えるな」
扉に手を掛けたまま、西村先生が明久に応えました。
「お前は不細工だ」
「不細工とまで言われるとは思わなかったよバカ!」
その返答は僕もさすがに予想できませんでした。
「授業は真面目に受けるように」
「先生待って!せんせ~い!」
明久の叫びが空しく響きます。西村先生はさっさと教室から出て行ってしまいました。
さて、この様子では1時間目の先生が来るまでに間違いなく教室内で暴動が起こりますね。
「アキ、ちょ~っと話を聞かせてもらえる?」
ほら。早速明久が島田さんに捕まってしまいました。
ただ、明久の肩からミシミシと鈍い音が聞こえているのはどういうことでしょう?
「あ、あはは……。美波、顔が怖いよ?」
「手紙を貰ったの?誰からなの?どんな手紙なの?」
愛嬌のある彼女の吊り目がいつもより更に吊り上がっています。しかもその瞳から艶が消えているように見えるのは僕の気のせいでしょうか.....
彼女のトレードマークであるポニーテールも、今だけは角のように見えますね。
「あー、えっと、そのー」
明久、渋ってないで言ってしまった方がいいんじゃないですか?
「いいから大人しく指の骨を――じゃなくて、手紙を見せなさい」
.....早くしないと君の指が見るも無残な姿に変えられてしまうようですし。
相変わらず男子達は怨嗟の声を上げています。もう教室内はカオスです。
「皆、ちょっと落ち着け」
教壇の方からパンパンと手を叩く音が聞こえました。見ると雄二が立っています。
「今問題なのは明久の手紙を見ることじゃない」
.....まさかこの状況で雄二が明久に助け船を出すとは意外です。
雄二ならここぞとばかりに明久を私刑に処すと思っていたのですが。
「問題は、明久をいかにグロテスクに殺すかだ」
.....期待を裏切らない素晴らしい答えをありがとうございます。
「前提条件が間違ってるんだよ畜生!」
あ、明久が荷物を掴んで教室を飛び出していきました。逃げましたね。
『逃がすなぁっ!追撃隊を組織しろ!』
『手紙を奪え!吉井を殺せ!』
『サーチ&デェース!』
まったく、うちのクラスは相変わらず変なところで無駄に素晴らしい団結力を発揮しますね。
.....それと最後の方、せめてデストロイにしてあげてください。
さてさて、こうなってはもう授業どころではありませんね。
.....今のうちに僕の方も問題を片づけるとしますか。
「瑞樹、朝メールした件に関して話をしたいんだけど、いいかな?」
「はい、いいですよ。優子ちゃんはどうしますか?」
「今から迎えに行くよ」
「わかりました。じゃあ行きましょう」
僕は瑞樹と連れ立ってAクラスへと向かいました。
「優子~、朝のメールの件で話がしたいんだけど」
Aクラスにやってきた僕は、早速優子を呼びました。
すると、声に気付いた優子が顔を真っ赤にして急ぐように走ってきます。
「ちょっと!あんな大声で呼ばなくてもいいじゃない!」
どうやら大声で呼ばれたことがお気に召さなかったようです。
「ごめん。手っ取り早く呼ぶならあれが1番早いと思ったからさ」
「……はぁ、もういいわ。で、朝のメールっていうとアレのことかしら?」
「そうだね」
「じゃあ、さっさと済ませちゃいましょう」
そうして僕達はAクラス横の階段踊り場に移動して、話を始めました。
「2人はもう知ってると思うけど、今朝僕の下駄箱にラブレターが入ってたんだ」
「「はい(ええ)」」
「で、このラブレターへの返事なんだけど――」
「「どうするの(んですか)!?」」
2人が僕に掴みかからんとする勢いで詰め寄ってきます。
「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いて!」
「ご、ごめんなさい……」
「す、すいません……」
驚いた僕が慌てて制止をかけると2人は引き下がってくれましたが、その顔は暗く沈んでいます。
「うん。不安に思うのもわかるけど、ちゃんと最後まで聞いてほしいな」
2人が頷くのを確認して、僕は話を続けます。
「結論から言うと、答えはノーだよ」
「「あ……」」
2人の顔がパッと明るくなりました。
「2人にはまだちゃんと言ってなくて申し訳なかったんだけど、僕が僕の生涯を懸けて愛したい、守りたいと思う女性は2人以外にはいないんだ。だから安心してほしい。僕は2人以外の女性と付き合う気はないから」
「――っ///」
僕の言葉を聞いた2人の顔が一瞬で真っ赤に染まりました。
「改めて2人に伝えるよ。大好きだ。愛してるよ。瑞樹、優子」
「「き、鏡護(君)っ」」
――ドンッ!
「うわぁっと」
2人して目に涙を浮かべながら僕に飛びついてきました。バランスを崩して倒れそうになりますが、そこは意地でも堪えます。
しばらくそのままの状態で2人をあやしていると、2人はどちらともなく口を開きました。
「……私は不安だったの。私が鏡護に付き合えって命令したから、鏡護は嫌々私と付き合ってくれてるんじゃないかって」
「私もです。私の事も、実はあの時の場の勢いでオッケーしてくれたんじゃないかと不安で仕方なくて……」
「そっか。ごめんね、2人とも。僕がもっと早く伝えていたら2人もそんな不安を抱えずに済んだのに……」
「でもね。今日はっきりとわかったわ。鏡護は本当に私と瑞希の事をちゃんと考えてくれてる、愛してくれてるんだって」
「はい。だから私も優子ちゃんも、もう不安を感じることはありません。絶対です。だって――」
そうして2人は顔を見合わせて笑顔を交わすと、
「「アタシ(私)も鏡護(君)のことが大好きだから(ですから)。愛してるわ(います)、鏡護(君)」」
そう言ってくれました。
僕は2人の気持ちが凄く嬉しくて、自分が出来る最高の笑顔と共に自分の気持ちを言葉にしました。
「ありがとう。僕も何度でも言うよ。いつまでも変わらず2人の事を愛し続けるよ。優子、瑞希」
「「はい」」
その時2人が浮かべた笑顔は今まで見たことのあるどの笑顔よりも光り輝いていました。
その後3人で手紙の内容を確認して、送り主には申し訳ないけど直接会ってお断りする、ということで話はつきました。
ところで明久の方はというと、散々クラスメイトから追いかけ回されたあげくに手紙の差出人がどうやら男子生徒だったようで、ボロボロになった身体を涙の海に沈めていましたとさ。
めでたしめでたし.....?
あとがき
作者 「はい、というわけで番外短編2つをお送りしました!」
鏡護 「……なんていうか、2編に渡って明久哀れって感じだったね」
作者 「そういうお前は幸せいっぱい夢いっぱいって感じだったな」
鏡護 「確かに自分でもそう思う。否定はしないよ」
作者 「まさに人生勝ち組だよな。ほんと羨ましい」
鏡護 「そう言うなら作者さんも彼女を作ればいいじゃない」
作者 「……グスン」
鏡護 「うわぁっ!?どうしたのさ、いきなり膝を抱えて座り込んじゃって」
作者 「俺なんてどうせ彼女いない暦=年齢のダメ男さ……」
鏡護 「……なんかごめんなさい」
作者 「勝者が謝るんじゃねぇやい!余計こっちがいたたまれなくなるわ!」
鏡護 「今度は逆ギレされた!?」
作者 「ええい、次回予告いってやる!
次回、第12問『出し物決めって結局は無難に落ち着くよね(仮)』
を、ヨロシクだコンチクショウめ!」ダッ!
鏡護 「あ、ちょっと作者さん!どこ行くのさ!待って!
……ってもういなくなっちゃったよ。
あ、そうだ!皆さん、次回もよろしくお願いしますね!」