――Side 明久
清涼祭初日の朝。
僕らの教室はいつもの小汚い様相を一新して、中華風の喫茶店へと姿を変えている。
教室の至る所に設置されているテーブルは、他クラスで余った机や演劇部で使っている大道具のテーブルを拝借して、小綺麗なクロスをかけたものだ。
最初はFクラスにあったみかん箱を重ねてテーブルにするつもりだったんだけど、話し合いの時に鏡護が、
「喫茶店は衛生第一だから、テーブルには他クラスで余った机を借りたりしてちゃんとしたものを用意するべきだ」
なんて熱弁を振るって、実際に他クラスと交渉を進めてくれたから実現したんだ。
「いよいよですね!」
「うん。室内の装飾も綺麗だし、学園祭レベルなら充分過ぎるくらいだよ。これなら上手くいくよね!」
「ええ、そうね。……いつもはただのバカに見えるけど、やっぱり坂本の統率力は凄いわね」
「ホント、いつもはただのバカなのにね」
「さすがはワシらの代表じゃな」
そしてこれらの作業がスムーズに進んだのは、認めたくないけどやっぱり雄二の統率力の高さによるところが大きかったと思う。
「…………飲茶も完璧」
「おわっ!?」
いきなり背後からムッツリーニの声が聞こえてきた。いつもながら気配を消すのが上手いんだけど、常日頃からやる必要はあるのかな?
「ムッツリーニ、厨房の方はどう?」
「…………味見用」
そう言ってムッツリーニが差し出したお盆には、陶器のティーセットと美味しそうな胡麻団子が載っていた。
「わあ……。美味しそう……」
「土屋、これウチらで食べちゃっていいの?」
「…………(コクリ)」
「では、遠慮なく頂こうかの」
姫路さん、美波、秀吉の3人が手を伸ばし、作りたてで温かい胡麻団子を勢いよく頬張る。
「お、美味しいです!」
「本当!表面はカリカリで中はモチモチで食感も良いわ!」
「甘すぎないところも良いのう」
と、大絶賛。やっぱり女の子は甘い物が好きなんだなぁ、3人共。
「お茶も美味しいです……ああ、幸せ……」
「本当ね……」
姫路さんと美波の目がトロンと垂れる。そんなに美味しいのかな?
「それじゃ、僕も貰おうかな」
「…………(コクコク)」
ムッツリーニが残った1つを僕に差し出す。
楊枝がなかったから手で摘んで軽く一口頬張ってみたところで、
「コラ、瑞希!勝手に厨房入って料理しただろう!」
奥の厨房から鏡護が飛び出してきた。.....な、なにぃっ!姫路さんの作った料理だって!?
驚いた拍子に、口に入っていた胡麻団子を無意識に咀嚼してしまい――
「ふむふむ。表面はゴリゴリでありながら中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても……んゴパっ!?」
僕の口からあり得ない音が出た。そして目には僕の16年の人生の軌跡が映る。ああ、あの頃は良かったなぁ.....って、これは走馬灯じゃないか!
「しまった!一足遅かったか……」
本当にあとちょっと遅かったよ.....
「…………!!」
「む、ムッツリーニ!どうしてそんな怯えた様子で胡麻団子を僕の口に押し込もうとするのさ!?無理だよ!これは食べられないよ!」
ムッツリーニが団子の残り半分を僕の口に押し付けてくる。これは走馬灯が見れる特殊な飲茶なんだ!一般人は決して口にしちゃいけない!
「うーっす。戻ってきたぞー」
と、そこに雄二が戻ってきた。
「あ、雄二。おかえり」
「ん?なんだ、美味しそうじゃないか。どれどれ?」
そうして迷いなく僕の食べかけのバイオ兵器を口に運ぶ。
「あ、ちょっと雄二!それは……遅かったか」
「……たいした男じゃ」
「雄二、今キミは最高に輝いているよ」
「?お前らが何を言っているのかわからんが……。ふむふむ。表面はゴリゴリでありながら中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても……んゴパっ」
あ、なんか
「あー、雄二。とっても美味しかったよね?」
床に倒れ伏した雄二に対して、『これは姫路さんの料理だよ。美波がいるから余計な事は言わないでね?』とアイコンタクトで訴える。目が合ってないから伝わってるかどうかはわからないけど。
「ふっ。何の問題もない」
床に突っ伏したままで雄二が応えた。
「あの川を渡ればいいんだろう?」
その川はきっと三途の川だろう。
「ゆ、雄二!その川はダメだ!渡ったら戻れなくなっちゃうよ!」
「まさかあの一口で雄二の致死量を超えたの!?」
相変わらずの殺傷力。姫路さん、恐ろしい子!
「え?あれ?坂本君はどうかしたんですか?」
「あ、ホントだ。坂本、大丈夫?」
普通に美味しい方の胡麻団子とお茶でトリップしてた2人が帰ってきたようだ。どうやら失敗してない方の胡麻団子は相当美味しいみたいだ。これは喫茶店の売り上げへの期待大だ。
「大丈夫だよ、ちょっと足が攣っただけみたい。おーい、ゆーじー、起きろー」
おどけた口調で雄二を起こす仕草をしてみる。だけど実は鏡護が2人には見えない位置で必死に心臓マッサージをして蘇生を試みている。こうなると生死は5分5分だ.....!
「6万だと?バカを言え。普通渡し賃は6文と相場が決まって――はっ!?」
やった!蘇生成功だ。こうして人知れず、1つの尊い命がまた救われたのだ。
「雄二、足が攣ったんだよね?」
すかさず余計な事を言い出す前に畳み掛ける。今回はアイコンタクトの余裕もない。
「足が攣った?バカを言うな!あれは明らかにあの団子の――」
「……もう1つ食わせるぞ(ボソッ)」
「おう。そうなんだ。最近運動不足だからな」
雄二が賢明で助かった。流石の僕でもクラスメイトを殺すのは忍びないからね。
(……テメェ明久、いつか殺す)
(……上等だ。殺られる前に殺ってやる)
笑顔の裏での小声のやり取り。こんな僕らは仲良し2人組さ。
「ふーん。坂本ってよく足が攣るのね?」
あ、マズい。以前と似たような状況を美波が怪しんでる。
「ほ、ほら、雄二って余計な脂肪がついてないでしょう?そういう身体って、筋が攣りやすいんだよ。美波も胸がよく攣るからわかるとぐべぁっ!」
「……俺が手を下すまでもなかったな」
「少しは学習することを覚えようよ……」
「…………(コクコク)」
美波の拳を受けた僕に、皆から哀れみの視線が送られてくる。なんか最近こんなのばっかだなぁ.....
「ところで、雄二はどこに行っておったのじゃ?」
「ああ、ちょっと話し合いにな」
雄二は学園長室に召喚大会の試験科目の指定をしに行ってきたところだ。
でも、フェアなことじゃないから正直に言うわけにもいかず、雄二は適当に誤魔化していた。
「そうですか~。それはお疲れ様でした」
人を疑うことをしない姫路さんが雄二の言葉を信じて笑みを贈る。なんていい子なんだ。
「いやいや、気にするな。それより喫茶店はいつでもいけるな?」
「バッチリじゃ」
「…………お茶と料理も完璧」
「いつでも開店できるよ」
本当に大丈夫なんだろうか?姫路さん製の飲茶が残っていたりはしないか、一抹の不安がよぎるんだけど。
「よし、なら喫茶店はしばらく秀吉とムッツリーニと鏡護に任せるとしよう。俺と明久は召喚大会の1回戦を済ませてくる」
「あれ?アンタ達も召喚大会に出るの?」
「え? あ、うん。色々あってね」
学園長から『チケットの裏事情について誰にも話すな』と事前に口止めされてたから、適当に言葉を濁す。
「そうだったんだ。天水と木下が出るのは知ってたんだけど」
「あれ?鏡護君達も出るんですか?」
「そうだよ。まあ折角だからね」
「もしかして、4人とも賞品が目的なんですか?」
姫路さんが僕達4人に聞いてきたので、代表して僕が応えた。
「う~ん。一応、そう言う事になるのかな?」
まあ詳しく言うと、賞品と教室設備の交換が目的だけどね。
.....そういえばもう1つの賞品、『白金の腕輪』だっけ。あれもやっぱり交換するのかな?せっかくだからあっちは貰えるなら貰いたいな。召喚獣に特別な能力が付くって聞いたし。
「……誰と行くつもり?」
「ほぇ?」
美波の目がスッと細くなった。こ、これは.....攻撃色!?
「だ、誰と行くって言われても……」
美波が言っているのはおそらくペアチケットのことだろう。
.....どうしよう。チケットは学園長に引き渡しちゃうんだけど、約束があるから正直には言えないし.....
「明久は俺と……」
「霧島さんとのデートの為に協力してほしいって、雄二から直々に頼まれたんだよ」
「なっ!?」
雄二がフォローを入れようとした? のを、鏡護が遮った。
雄二が何を言おうとしたのか気になるけど、ここは鏡護の話に乗っておこう。
「じゃあチケットは、坂本にあげるつもりなの?」
「うん、そうだよ。僕の興味はチケットよりも腕輪だし、チケットなんて貰っても一緒に行ってくれる宛てなんて全然ないからね」
「まあ僕の場合は『ペア』チケットじゃ行くわけにいかないからだけどね」
.....そういえば鏡護は姫路さんと木下さんの2人と付き合ってるんだったね。.....羨ましくなんかないやい!
「おいこら鏡護!俺の人生をなんだと……」
「っと、そろそろ時間だよ雄二。早く行かないと」
「……くっ! おっ、覚えていろ!!」
まるで小悪党の様な捨て台詞を残して、僕と雄二は教室を後にした。
―Side Out
「ふぅ。行ったみたいだね」
雄二が余計な事を言おうとしたから咄嗟に遮ってあんな事を言ったけど、やっぱり雄二はそろそろ素直になるべきだと思います。
「……鏡護よ、あんな事を言って良かったのかのう?」
「いいんだよ」
「……そうじゃの」
「さあ、それより僕達も直ぐに試合になるからそれまでクラスで頑張ろう!」
「うむ!そうじゃな」
「それじゃ皆!2-F中華喫茶『ヨーロピアン』、開店だ!」
『『おおーっ!』』
さあ、がんばりますよ~!
「いらっしゃいませ~!」
「中華喫茶『ヨーロピアン』へようこそ~!」
瑞希と島田さんの2人がホールの方で頑張ってくれているようで、開店早々なかなかの数のお客さんが入っています。
『1番テーブル、胡麻団子2、烏龍茶2!』
『6番テーブルの肉まん2つ、まだか~?』
『1番了解!』
『6番は今出るぞ。持ってってくれ!』
こちら、僕がいる厨房もひっきりなしに入ってくるオーダーにてんやわんやです。
『オーダー!5番テーブル、小龍包1つ追加!』
『『ウィ、ムッシュ!』』
こんな時でもFクラスのノリの良さは健在です。
.....っと、そろそろ時間のようですね。
「ごめん皆。僕は召喚大会があるから、ちょっと抜けるね!」
『おー、頑張れよ!』
『天水、お前なら優勝できる!』
『頑張ってなー!』
「ありがとう。じゃあ、いってきます」
クラスメイト達の心強い応援を受けて、秀吉と一緒に大会会場へ急ぎます。
そうして校庭に作られた特設ステージへとやってきました。
召喚大会はA~Dの4つのブロックに分かれていて、決勝戦はAブロックとDブロック、BブロックとCブロックの準決勝の勝者で行われます。
明久達はDブロック、僕達はAブロックに配置されていました。最悪準決勝で当たった時は棄権でもするとしましょう。
「えー、それでは試験召喚大会1回戦を始めます。3回戦までは一般公開もありませんので、リラックスして全力を出してください」
というわけでこちらはAブロックの僕と秀吉。
1回戦の科目は数学です。得意科目というわけではありませんが、多分大丈夫でしょう。
「ワシはあまり力になれんかも知れんが、よろしく頼むぞい」
「うん、頑張ろう」
2人で拳を打ち合わせ、舞台に上がります。
対戦相手は.....2-Eの中林宏美さんと上条麻子さんだそうです。
「あれ?中林さんってEクラスの代表さんですよね?」
「ええ、そうよ。っていうか、天水って“あの”天水かしら?」
「あはは.....まあ」
やっぱり僕の名前は全校に知れ渡っているようです。
付き合いだした次の日に学校新聞で取り上げられれば当然ですよね.....あまりその話題を突かれるのも嫌なので、話題の転換を試みます。
「やっぱりクラス代表ともなるとこういう行事は必修なんですか?」
「そんなことないわよ。私は自分の意思で出場を選んだからね」
「そうですか」
「それよりさっさとやりましょう。まあ、Fクラスなんて私達の敵じゃないけど」
「それはわかりませんよ?」
.....どうやら僕の成績の情報はまだあまり外には出ていないようです。
「では、始めてください」
「「「「
4人の掛け声で、ステージに召喚獣が姿を現しました。
蒼いローブを纏い、手には万年筆を持った僕の召喚獣。
青い袴に長刀という、秀吉の召喚獣がFクラスタッグとして。
野球のプロテクターを纏い、ミットとバットを持った中林さんの召喚獣。
鈍色の西洋甲冑に両手剣という、上条さんの召喚獣がEクラスタッグとして。
『Fクラス 天水鏡護&木下秀吉 VS Eクラス 中林宏美&上条麻子
数学 158点&75点 VS 94点&80点 』
それぞれの点数が参考に表示されます。
「「えっ?」」
予想通りの反応をどうも。
「ち、ちょっとアナタ!本当にFクラスなの!?」
「Bクラス並みの点数です……」
「うむ。さすがは鏡護じゃな」
「そう?でも数学は得意科目ってわけじゃないからなぁ……」
「と、得意科目じゃなくてソレってどういうことよ……」
「お、恐ろしい人です……」
Eクラスの2人はすっかり及び腰になってしまったようです。
「じゃあ秀吉は上条さんの方をよろしく」
「了解じゃ」
しかし、今は勝負の最中。攻めてこないならこちらから行きます!
「すいませんが、コレも勝負ですので……」
そう言いながら中林さんの召喚獣に一気に接近させると、万年筆を横一閃に振るいました。
「あっ!?」
中林さんが驚いて召喚獣を操作しますが、ちょっと遅かったですね。
彼女が動かそうとした召喚獣は既に上半身と下半身がお別れした後でしたから.....
「えい、やあ!」
「ぬぅ、はあっ!」
隣を見ると、上条さんの召喚獣の打ち込みを秀吉が上手く流しながら時々攻勢に出る、という試合が展開されていました。
このままいけば秀吉の勝ちでしょうが、どうしましょう?
「秀吉~、加勢は必要かな?」
「いや、大丈夫じゃ。ここはワシに任せてくれ」
「了解。頑張ってね~」
「うむ。はあっ!」
その後も秀吉は敵の攻撃を受け流しながら攻撃を続けます。
「くっ……やあぁっ!」
焦れた相手が先程より大振りな攻撃を繰り出してきます。
「……そこじゃっ!」
しかし、秀吉も機を逃さず攻勢に出ます。
今度は相手の攻撃を完全にかわし、背後に回りこんで長刀を一閃します。勝負アリ、ですね。
「勝者、天水・木下ペア」
立会いの教師から勝ち名乗りを受けた僕達はステージを後にします。
『キーッ!悔しい~!覚えてなさいよ、天水~!』
『ああっ!代表、落ち着いて!』
「……さあ秀吉!早くクラスの方に戻ろう!」
「……それでいいのか、鏡護よ……」
あー!あー!聞こえません。何も聞こえませんよ~。何か変な因縁をつけられたっぽいですけどきっと気のせいです!
そうして僕達は急ぎ喫茶店へと戻っていきました。
あとがき
鏡護 「どうしよう、作者さん!」
作者 「え?何が?」
鏡護 「何が?じゃないよ!何故かEクラスの代表さんと険悪な関係に……」
作者 「よかったじゃん」
鏡護 「よくないよっ!人と仲が悪くなって喜ぶ人なんていないからっ!」
作者 「別にいいじゃん」
鏡護 「そりゃ作者さんには他人事だもんねぇ!?」
作者 「Exactly!」
鏡護 「こんな時に英語で言わなくてもいいってば!」
作者 「だってなんかカッコよくね?」
鏡護 「どうでもいいよっ!」
作者 「……もう飽きた」
鏡護 「僕で遊んだね!?父さんにも遊ばれたことないのにっ!」
作者 「ネタが古い」
鏡護 「しかもダメ出し!?」
作者 「……わかった。説明しよう。あれはフラグだ」
鏡護 「急に真面目になった!?……ってあれがフラグだって!?」
作者 「おう。ま、後々このフラグが消化されるイベントが起きる」
鏡護 「それ絶対僕にとっては災厄だよね」
作者 「まあ、フラグがフラグだからな」
鏡護 「はぁ……。なんか今から憂鬱だな……」
作者 「まあ気にするな。当分先の事だから」
鏡護 「だったらまあ……。ところで次回は?」
作者 「うむ。ちょっと一波乱起こす予定だ」
鏡護 「……聞くんじゃなかった」
作者 「まあまあ。そんなに大きな騒動にはならないから」
鏡護 「……ほんとに?」
作者 「うむ。保障しよう」
鏡護 「……わかった。その言葉、信じるよ」
作者 「それでは次回予告、いってみよ~!
次回、第15問『営業妨害と新たなる刺客?と敵情視察!(仮)』
を、」
作・鏡 「「お楽しみに~!」」