「おい!これはどういうことだよ!」
Fクラスの教室が近づいてくると、そんな声が聞こえてきました。
「鏡護よ、どうやらうちのクラスで揉め事のようじゃぞ」
「……みたいだね」
早速きましたか。それにしても営業妨害とはまた何ともありきたりですね。
とりあえず、僕達は急いで教室に入りました。
「マジできったねぇ机だな!こんなので食べ物扱っていいのかよ!」
声のした方を見てみると、わざわざクロスを剥いでクレームをつけているチンピラ風の客が2人いました。服装を見るに2人ともうちの生徒、それも先輩のようです。
いずれも男で、片方は中肉中背の一般的な体格で、小さなモヒカンという非一般的な髪型をしています。もう一方も普通の体格で、こちらは丸坊主です。
「康太、悪いけど雄二達を急いで探してきて」
「…………(コクコク)」
雄二達の姿が見えなかったので康太に捜索を依頼して、2人の元へ向かいます。
「お客様、どうかなさいましたか?」
「どうかしましたかじゃねぇよ!なんなんだこの机はよぉ!」
表面に多少キズが付いている机を指して坊主さんが怒鳴ります。
「Eクラスからお借りしたものですが」
「そんなことは聞いてねぇよ!テメェはこんな机で俺達に食事をしろって言うのか?」
何を当たり前の事を聞いているんでしょう?
「はい。そうですが……」
「ふざけんじゃねぇぞ!」
と、今度はモヒカンさんの方が怒声をあげます。
「別にふざけてなどいません。私達は真面目です」
「んだとコラ!」
立ち上がったモヒカンが突然僕の胸ぐらを掴んで、睨みつけてきました。
その時、ふと視界の隅に映った『意外な人物』に気が付きました。
それは、竹原教頭でした。
教頭は隅の方の席で烏龍茶を飲みながら新聞を広げていました。
.....あの人がただ学園祭の喫茶店に立ち寄っただけ、ということは考えにくいです。この事態の成り行きを見守っているだけなのか、自分も何らかのアクションを起こすのか、判断はできませんがとにかく注意が必要ですね。
ですが、今は目の前にいる2人です。
「では逆にお聞きしますが、どうしてお客さま方は勝手にクロスを剥がしたのですか?」
「「あぁっ?」」
こういうのってハモられるとウザいですね。
「耳が悪いのですか?何故クロスを剥がしたのか聞いているんです。理不尽な営業妨害でしたら先生を呼びますよ?」
「おいっ!それが客に対する態度か?」
「申し訳ありませんが、当店はあなた方をお客様と認めることができません。あなた方はここへ食事をしに来たのではないんですか?」
2人を睨みつけながら、さらに追い打ちをかけます。
「勝手にテーブルのクロスを剥がして、挙句には理不尽なクレームをつける。当然の事ですが、当店で使用している全ての備品はきちんと消毒してありますので衛生面の問題はございませんよ?」
「そ、それは――」
「客だなんだと言う以前に人のモラルとして、あなた方がとった行動は非常識です。店の備品であるテーブルのクロスを勝手に剥がした挙句に、出てきたのがキズが付いている机だという理由で今私の胸ぐらを掴んでいるのですからね」
なんだかだんだん腹が立ってきました.....
「それに言い訳ではありませんが、私達はFクラスです。ここの生徒ならこの意味がわかりますよね?」
そう。今日は見た目こそ綺麗に飾っていますが、ここは普段僕達が使っている2-Fの教室です。
最低クラスだからこその劣悪な環境を誤魔化すのには大変な労力を要しました。
「最低設備のFクラスで喫茶店をやることになって、私達がどれだけの努力をしたかあなた方にはわかりますか?この教室の設備では問題点が山積みだったので、色々な人に頭を下げて備品の多くをお借りしました」
このような営業妨害への対策の意味もありましたが、僕達の『ヨーロピアン』は多くの方々の協力の上に成り立っているんです。
しかし、この2人はFクラスだけでなく、協力してくれた人達をも侮辱しました。到底許されることではありません。
「あなた方が汚いと言ったその机はD、Eクラスからお借りした物です。両クラスの皆さんは快く机を貸し出してくれました。僕達にとって彼らは恩人です。その恩人のクラスの机を侮辱されては黙っているわけにもいきません。あなた方は彼らの親切心を踏みにじったんですよ!」
「う、うるせぇ!黙って聞いてりゃ、コイツめ……!」
「どうぞご退席ください。正直言ってあなた方は目障り以外の何物でもございませんので……」
「調子こいてんじゃねぇぞ、このガキがっ!」
「俺達にたてついた事を後悔させてやるよっ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたんでしょう。
2人して僕に殴りかかってきましたが、その拳が僕の顔に届くことはありませんでした。
なぜなら――
ゴスッ!ドカッ!バキッ!グシャ!
「どうかしましたかお客様?私がこのクラスの代表の坂本雄二です。何かご不満の点でも?」
「よくも鏡護に手を上げようとしてくれたな、この野郎っ!」
康太が探してきてくれた雄二と明久が2人に流れるようなコンボ攻撃をお見舞いしてくれたからです。
「不満も何も、今思いきり殴り飛ばされたんだが……」
「うちのウェイターに手を上げようとした輩を止めただけですが?」
「ふ、ふざけんなよこの野郎……!」
殴り飛ばされた2人が立ちあがり、場の空気が一気にトゲトゲしいものに変わりました。
いけません!このままではまた――
しかしその緊張状態を打ち破ったのは、意外な所からの声でした。
『お前らいい加減にしろよ!いつまでも嫌がらせなんかするな!』
『そうよ!折角頑張ってるこの子達の努力を何だと思ってるの!』
『食いたくないなら余所へ行けよっ!』
この状況を今まで静かに見守っていた他のお客様方から声が上がったのです。
「お、おい夏川、どうすんだよ!話と違うぞ!どうにかしろよ」
「ちょ、ちょっと待てや常村!俺のせいじゃねぇだろうが!」
すっかり悪役にされてしまった2人が慌てています。
どうやら坊主頭が夏川、モヒカン頭が常村という名前のようです。覚えておきましょう。
「それで常夏コンビとやら。まだ何かあるか?」
先程は丁寧な口調だった雄二ですが、素に戻りましたね。
それにしても、常夏コンビとは巧い命名ですね。山田くん、雄二に座布団1枚。
「い、いや。もう充分だ。退散させてもらおう」
「そうですか。それでは……」
僕は慌てて立ち去ろうとする
「ご利用ありがとうございました~♪2度と顔出すなよ、ですっ!」
――ドンッ!
「ゴハッ!?」
「つ、常村!?お、覚えてろよっ!」
ええ、覚えておいてあげますとも。後でたっぷりお礼をして差し上げないといけませんからね。
倒れた相方を抱えて、
どうやらこれにて一件落着、ですね。
「皆様、お騒がせしてしまい大変失礼いたしました。深くお詫び申し上げます」
「代表として私も謝罪致します。できることなら、ご利用中のお客様はこの後もごゆっくりとおくつろぎ下さい」
僕と雄二、2人してお客様に謝罪します。
『気にしなくていい。君達は何も悪くなかったぞ』
『そうよ。このままゆっくりさせてもらうわ』
『そのかわり、美味いもんを出してくれよ?』
「……はいっ!ありがとうございます」
「ありがとうございます」
2人揃って深々とお辞儀をして業務に戻ります。
するとガタリ、と音を立てて席を立つお客様がいました。
「あ、ありがとうございました~」
ん?あれは竹原教頭?
.....そういえば何のアクションもなかったですね。あの2人が失敗したから静観していたんでしょうか?
竹原教頭は無表情のまま、会計を済ませると教室を出ていきました。
「ただいま~」
「戻りました~」
丁度竹原教頭と入れ替わりの形で島田さんと瑞希が帰ってきました。
「2人ともおかえり。試合はどうだった?」
「はいっ。何とか勝てました」
瑞樹がVサインを作ります。普段はあまり勝負にこだわらない性格の彼女ですが、今回は事情が事情ですからね。勝ちにこだわるのも当然と言えます。
「それより、喫茶店の方は大丈夫なの?」
島田さんは喫茶店の方が気になるご様子です。
「大丈夫だよ。ちょっとした妨害はあったけど、上手く収まったからね。まあ雄二達にも助けてもらったし」
「でも、ほんと鏡護に何もなくて良かったよ」
「鏡護君がどうかしたんですか?」
何気なく瑞樹が明久に質問しました。お願いだから下手な事は喋らないでくださいね?
「うん。僕達が教室に帰ってきたら鏡護がチンピラ2人に殴ら――」
ってお願いしてる傍からそういう事を――
「わぁーっ!明久、危ない!(そんなこと言ったら瑞樹が心配するだろう?)」
「え?何?(あ、そっか。ごめん)」
慌てて明久の言葉を遮り、小声で釘を刺します。
「どうしたのよ天水。急に大声なんか出して」
「いや、明久の後ろに蜂みたいなのが飛んでたように見えたんだけど、見間違いだったみたいだ」
「そうなの?まったく人騒がせなんだから」
「ごめん」
「おい、お前ら。お喋りもいいが、いい加減仕事もしてくれ」
「「「「は~い!」」」」
おっといけません。仕事の方もちゃんとしないとダメですね。頑張りますか!
しばらくして、僕と秀吉、明久と雄二、島田さんと瑞希のそれぞれの2回戦がありました。
「ただいま~」
「おかえり。今戻ってきたんだ?」
「うん。無事勝ってきたよ」
「それは何よりじゃな。ところで、雄二の姿が見えんが?」
「トイレに寄ってくるって言ってたよ」
「そっか」
3組とも問題なく次にコマを進めましたが、明久達の対戦相手が“あの”根本のいるペアということだったので、『アレ』を渡したら効果は抜群だったようです。
ちなみに『アレ』と言うのは、試召戦争の時に撮った根本恭二個人写真集『生まれ変わったワタシを見て!』の事です。役に立ったようで、制作を依頼した僕としても嬉しい限りですね。
そして3人で他愛もない話をしていると、廊下の方から声が聞こえてきました。
『お兄さん、すいませんです』
『いや。気にするな、チビッ子』
『チビッ子じゃなくて葉月ですっ』
雄二と小さな女の子の声です。
「雄二が戻ってきたようじゃな」
「あ、うん。そうみたいだね」
何やら思案顔の明久ですが、どうしたんでしょう?
『んで、探してるのはどんなヤツだ?』
ガラッと音を立てて教室の扉が開き、雄二の姿が見えました。話し相手の女の子の方は雄二の陰に隠れて姿が見えません。
『お、坂本。妹か?』
『可愛い子だなぁ~。ねぇ、5年後にお兄さんと付き合わない?』
『俺はむしろ、今だからこそ付き合いたい』
大変です。うちのクラスから犯罪者が出る前に警察に通報しませんと。
『あ、あの、葉月はお兄ちゃんを探しているんですっ』
女の子は『葉月』という名前のようです。人探しの為に雄二に声を掛けたんですね。雄二はアレで面倒見はいいですから。
『お兄ちゃん?名前はなんて言うんだ?』
『あぅ……。わからないです……』
『?家族の兄じゃないのか?それなら、何か特徴は?』
名前がわからない相手でも探してあげようとする雄二。意外と子供好きなのかもしれませんね。
『う~んと、えっと……バカなお兄ちゃんでした!』
.....驚きの特徴ですね。
『ふむ、バカか……沢山いるんだが?』
.....そうですね。否定はできません。
『あ、あの、そうじゃなくって、その……』
『なんだ?他に特徴でもあるのか?』
『その……すっごくバカなお兄ちゃんだったんです!』
『『『吉井だな』』』
ぜ、全会一致ですか.....あ、明久が上を向いていますよ?
「皆、何を言ってるのさ!僕に小さな女の子の知り合いなんていないよ!絶対に人違い――」
「あっ!バカなお兄ちゃんだ!」
葉月ちゃんが走ってきて明久に抱きつきました。
「絶対に人違い、がどうしたって?」
「……人違いだと、いいなぁ……」
残念ながら、現実はそう甘くはないようですね。
「って、キミは誰?見たところ小学生だけど、僕にそんな歳の知り合いはいないよ?」
明久が葉月ちゃんを優しく引き剥がしながら、そんな事を言いました。ダ、ダメです明久!そんなことを言ったら――
「え?お兄ちゃん……知らないなんて、ひどい……」
ああ、やっぱり。葉月ちゃんが悲しそうに目を伏せてしまいました。
「バカなお兄ちゃんのバカぁっ!バカなお兄ちゃんに会いたくて、葉月、一生懸命『バカなお兄ちゃん知りませんか?』って聞きながらここまで来たのに!」
.....なんでしょう。急に明久が不憫に思えてなりません。
「明久――じゃなくて、バカなお兄ちゃんがバカでごめんな?」
「そうじゃな。バカなお兄ちゃんはバカなんじゃ。許してやってくれんかのう?」
「でもでも、バカなお兄ちゃん、葉月と結婚の約束もしたのに――」
ゑ?.....間違えました。改めて、え?今何て――
「アキぃーっ!」
葉月ちゃんが爆弾発言を口にしたその時、島田さんが教室に入ってきて明久の首をねじ切らんばかりに捻りました。
「み、美波!それ以上回したら僕の命が――ギャーーッ!」
「うるさい!小学生に手を出すなんてサイテー!」
「ちょっと待って!結婚の約束なんて、僕は全然――」
「ふえぇぇんっ!酷いですっ!ファーストキスもあげたのにーっ!」
明久、ごめん。もう僕が君の為にしてあげられることは何もありません.....
「坂本は包丁を持ってきて。5本あれば足りると思う」
「お願いひまふっ!はなひを聞いてくらはいっ!」
今度は明久の口を引っ張りながら雄二に包丁を注文する島田さん。
「仕方ないわね。2本刺したら聞いてあげるから、ちょっと待ってなさい」
「あのー、島田さん?包丁は1本でも人体に刺されば致命傷になるんだよ?」
無駄とは思いつつも、一応明久の助命の為に島田さんに進言してみました。
すると仕方ない、といった様子で島田さんが明久からどいてくれました。言ってみるものですね。
「あ、お姉ちゃん。遊びに来たよっ!」
はいっ?葉月ちゃんってもしかして島田さんの妹さんだったんですか!?.....確かに言われてみれば、活発そうな雰囲気やちょっと勝気な目のあたりなんか良く似てますね。
「ああっ!思い出した!あの時のぬいぐるみの子か!」
どうやら、事ここに至ってようやく明久が思い出したようです。
「ぬいぐるみの子じゃないですっ!葉月ですっ!」
「そっか、葉月ちゃんか。久しぶりだね。元気だった?」
「はいですっ!」
それから葉月ちゃんを加えて、皆でちょっとしたお喋り会になりました。
まず明久と葉月ちゃんが知り合ったのは、昨年明久に《観察処分者》の肩書きがつく原因となった事件の時だったそうです。
また島田さんと葉月ちゃんが姉妹だとわかった時に明久が驚いていました。てっきり知っているものと思ってたんですが。
さらに瑞樹が葉月ちゃんと知り合いだったようで、仲良く話をしていたのにはちょっと驚きました。いつ知り合ったんでしょう?
そんな話をしていたら、葉月ちゃんが突然思い出したかのようにこう言いました。
「そういえば、この教室って綺麗だよね?」
「葉月ちゃん、それってどういうことかな?」
気になった僕は聞いてみました。
「えっとね、この教室に来る途中で聞いたんだけど、中華喫茶は汚いから行かないほうがいい、って」
.....間違いなく常夏コンビでしょうね。しかし他所でそんな事をしていたとは。
「ふむ……。おそらく例の連中の妨害が続いているんだろうな。探し出してシバき倒すか」
雄二はこの事態を正確に把握しているようですね。
「例の連中の妨害って、あの常夏コンビ?まさか、そこまで暇じゃないでしょう?」
明久は半信半疑のようですが。
「どちらにしろ、とりあえず様子を見に行く必要はあるよ」
「そうだな。噂がどの程度まで広まっているか確認する必要もあるしな」
校内を歩き回っていた葉月ちゃんが聞いたくらいだから、もしかするとかなりの勢いで広まっているかもしれません。
「お兄ちゃん、葉月と一緒に遊びにいこっ」
葉月ちゃんが明久の手をギュッと握ります。
「ごめんね、葉月ちゃん。お兄ちゃんはどうしても喫茶店を成功させなくちゃいけないから、あまり一緒に遊んであげられないんだ」
しかし明久は困ったような顔をすると、葉月ちゃんの頭を撫でながらやんわりとその誘いを断りました。
「む~。折角会いに来たのに~」
あらら。葉月ちゃんがむくれてしまいました。
「(雄二)」
「(ああ。いいんじゃないか?)」
「(ありがとう)それなら葉月ちゃんも一緒に行こうよ。飲食店をやってる他のクラスを偵察する必要もあるし」
雄二と短く小声で言葉を交わして、僕は明久にそう提案しました。
「ん~、そっか。それじゃ、一緒にお昼ご飯でも食べに行く?」
「うんっ!」
頬を膨らませていた葉月ちゃんは一転して満面の笑みに。天真爛漫とはこういう子の事を言うんでしょうね。
「じゃあ葉月、お姉ちゃんも一緒に行くね」
島田さんの口調も普段とは違って、すっかり優しいお姉さんモードですね。
「ふむ。どうせならば皆で行かぬか?召喚大会もあるし、早めに昼を済ませたほうが良いじゃろう」
「そうだね。じゃあ、瑞希と秀吉も一緒に行こう」
「はいっ」
「うむ」
こうして僕達はなかなかの大所帯で出掛けることになりました。全部で7人です。混雑した学園祭の中を動くにはちょっと人数が多いですね。
「それでチビッ子、さっきの話はどの辺で聞いたのか教えてくれるか?」
「えっとですね……短いスカートを履いた綺麗なお姉さんがいっぱいいるお店――」
「なんだって!?雄二、それは早く向かわないと!」
「そうだな明久!我がクラスの成功の為に、(低いアングルから)綿密に調査しないとな!」
葉月ちゃんの言葉を聴いた瞬間、明久と雄二が全力ダッシュで走り出しました。
「アキ、最低」
「2人とも、酷いです……」
「お兄ちゃんのバカーっ!」
「まったく、あの2人は欲望に忠実過ぎるんだよなぁ……」
「……そうじゃな」
女性陣の冷ややかな反応など気にした風もなく、2人は行ってしまいました。.....場所はわかっているんですかね?
「明久、ここはやめよう」
「ここまで来て何を言ってるのさ!早く中に入るよ!」
「頼む!ここだけは、Aクラスだけは勘弁してくれ!」
あの後、2人を追いかけた僕達はその姿をAクラスの教室前であっさりと見つけることができました。
そういえば優子は何をするのか全く聞いていませんでしたが、Aクラスの出し物は.....
【メイド喫茶 『ご主人様とお呼びっ!』】
.....これではメイドの方が立場が上のような気がするのですが。もしかして客がメイドさんにご奉仕するんでしょうか?.....嫌な店ですね。
「そっか。ここって坂本が大好きな霧島さんのいるクラスだもんね」
「坂本君、女の子から逃げるなんてダメですよ?」
「雄二、これは敵情視察なんだ。決して趣味じゃないんだから――」
「…………!!(パシャパシャパシャパシャ!)」
.....あれ?どうしたことでしょう。僕の目にこの場にいるはずのない人物が映っているんですが。
しかもその人物は指が擦り切れんばかりにシャッターを切り続けています。
「……ムッツリーニ?」
明久がその人物の名前を呼びます。
「…………人違い」
.....いやいやいや。そこで誤魔化すのは無理がありますよ!というか厨房責任者のはずの君がどうしてここに?
「どこからどう見ても土屋でしょうが。アンタ何してるの?」
「…………敵情視察」
.....最近の敵情視察とは、カメラ片手にローアングルから女の子を撮影することを言うようです。
「ムッツリーニ、ダメじゃないか。盗撮とか、そんな事をしたら撮られている女の子が可哀想だと――」
「…………1枚100円」
「2ダース買おう――可哀想だと思わないのかい?」
「明久、普通に注文してるよ?」
それにしても2ダースって。2400円も出して、生活費の方は大丈夫――なわけがありませんね。はい。
「しまった!?ついいつもの調子で!?」
いつもやってるんですね。
「…………そろそろ当番だから戻る」
康太は明久に写真を手渡すと、そのまま教室を出て行きました。.....いつの間にプリントアウトしたんでしょうか。
「まったく、ムッツリーニにも困ったもんだね」
「アキ、その写真をどうするつもり?」
こっそりポケットに写真をしまおうとした明久でしたが、島田さんに見つかってしまいました。
「やだな~。もちろん(じっくり見てから)処分(しっかり保存)するに決まってるじゃないか。それよりそろそろお店に入ろう?もう凄くお腹が減っちゃったよ」
一部明久の心の声が聞こえた気がしました。きっと気のせいではないでしょう。
「ふ~ん。そう」
しかし、島田さんはまだ明久を疑っているようです。
「そうだよ。早く敵情視察も済ませないと――写ってるのは男の足ばっかりじゃないか畜生!」
「やっぱり見てるじゃない!」
「ご、ごめんなさギャーッ!足の小指が踏み抜かれんばかりに痛ーっ!」
葉月ちゃんも島田さんと一緒になって明久の脛をつねっています。.....あれも地味に痛いですよね。
「フンッ!それじゃ、入るわよ。お邪魔しま~す」
島田さんが1番手でドアをくぐっていきます。
「……お帰りなさいませ、お嬢様」
出迎えてくれたのは、クールで知的な美人メイドの霧島さんでした。
「わぁ、綺麗……」
瑞希が思わず感嘆の声を洩らします。確かに、霧島さんは綺麗でした。
長い黒髪にエプロンドレスの白がよく映えて、黒のストッキングが彼女の美脚をさらに際立たせています。これなら同性が見ても羨むのがわかります。
雄二は本当にこんな美人さんとお付き合いができて、幸せ者ですね。
「それじゃ、僕らも」
「はい。失礼します」
「お姉さん、きれ~!」
「うむ。さすがじゃのう」
明久を先頭に、瑞希、葉月ちゃん、秀吉が中に入ります。すると霧島さんは島田さんの時と同じように、
「……お帰りなさいませ、ご主人様にお嬢様」
と出迎えてくれました。
「……チッ」
雄二も渋々といった様子で入っていきます。霧島さんはやっぱり同じように、
「……お帰りなさいませ。今夜は帰らせません、ダーリン」
.....何故かアレンジされていました。
「霧島さん、大胆です……」
「ウチも見習わないとね……」
「あのお姉さん、寝ないで一緒に遊ぶのかな?」
3者3様の反応を見せる女性陣。
瑞希、君はあんなことはしなくていいですからね?
島田さん、アレを見習って何をするつもりですか?
葉月ちゃん、君はいつまでもその純粋な心を失くさないでください。
最後に僕が入ります。え?何で僕が最後かって?そりゃもちろん雄二を逃がさない為ですよ。
そういえば優子の姿が見えませんが、休憩中とかでしょうか?
などと考えていると――
「お帰りなさいませ、旦那様。旦那様には特別サービスをご用意の上、メイドをお持ち帰りいただけます」
.....あれ?なんか雄二よりもさらに凄いことになってませんか?
「って、優子!?」
「いらっしゃい、鏡護」
爆弾を落とした張本人は優子でした。
「……さっきの台詞は冗談だよね?」
「もちろん
.....ニッコリ笑顔で返されてしまいました。
「嘘だっ!」
「な、なによ。鏡護は私の特別サービスを受けたくないって言うの?」
そこでちょっぴり涙目+上目遣いは反則です!
「そ、そんなことあるわけないよ!」
思わず力いっぱい否定してしまう僕。
「そうよね!鏡護がそんな事言うわけないもんね!」
それを聞いて優子の表情がコロッと笑顔に変わりました。しまった!演技でしたか!
「そうと決まれば早く行きましょう?ほら、瑞希も」
「あ、はいっ!」
瑞希、君も満面の笑みですね.....
こうして僕は皆から引き離され、1人個室へと連れて行かれました.....
「鏡護、何食べたい?」
個室に通された僕は早速優子からメニューを手渡されました。
どんなメニューがあるんでしょう。えぇっと――
ふわふわシフォンケーキ……300円
なめらかチョコケーキ……300円
しっとりチーズケーキ……300円
(ドリンクセット……各+100円)
ストロベリーサンデー……400円
チョコレートサンデー……400円
コーヒー(アイス/ホット)……250円
紅茶(アイス/ホット)……250円
オレンジジュース……200円
水(塩/砂糖)……100円
メイドとの婚姻届……priceless
メイドの特別サービス……priceless
メイドのお持ち帰り……priceless
(ただし、相手はメイドが選びます。)
.....どこからツッコめばいいんでしょうか。
最初の方はごく普通の喫茶店でもよく見るメニューが並んでいますが、終わりの方がおかしいです。
ただの水でお金取るんですか!?こんなの、まともに頼むのは明久くらいでしょう!?
そして最後の3つ!明らかに僕と雄二をピンポイントで狙ったものですよね!?
「……優子、このメニューを考えたのは誰?」
「ん?代表とアタシ」
.....ですよねーっ!!
「クラスの人も当然確認したんだよね?」
「そうよ(脅して無理矢理承認させたんだけどね)」
「Aクラスもバカばっかだ……」
僕はその場に膝をついて崩れ落ちました。
「なによ、失礼ねっ」
「……もういいや。じゃあチーズケーキをアイスティーとセットで」
「はいは~い!ちょっと待ってて。あ、瑞希は一緒に来てね」
「?何かあるんですか?」
「いいからいいから♪」
注文を取り終えた優子が、瑞希を連れて一旦部屋を出ていきました。
「……それにしてもさすがAクラス、教室内にこんな個室があるなんてね」
暇を持て余す事になってしまった僕は、改めてクラス間の設備差について考えてしまいました。
「鏡護、おまたせ~」
「遅くなりました」
15分くらい経った頃でしょうか。2人が戻ってきました。ですが――
「ブフッ!なっ、どうして瑞希までメイド服を着てるんだ!?」
「えっと……優子ちゃんに勧められて……もしかして似合ってませんか?」
瑞希も、ちょっぴり涙目+上目遣いは反則ですってば!
「そんなことないよ。よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
慌てて僕が褒めると、花が咲いたかのように瑞希が顔を綻ばせます。
「あら?アタシには何もなかったわよね?」
「ごめん。まだ言ってなかったね。優子もよく似合ってる。可愛いよ」
「ふふっ。ありがとう」
優子もまた、僕の言葉を聞いて顔を綻ばせます。
「ご注文の品をお持ちしました、旦那様」
そのまま一旦営業モードに戻って、僕の前にケーキと紅茶を出してくれました。
「そういえば、特別サービスって何なの?」
気になっていたので、僕は聞いてみる事にしました。
「それはね………こういうことよ!」
優子がそう言うと、
「「鏡護(君)、あ~ん」」
瑞希と一緒に2人して僕にケーキの刺さったフォークを差し出してきました。
「えぇっ!?」
もちろん僕はびっくりしましたが2人は構わず、
「「あ~ん」」
と、フォークを近づけてきます。
個室なので誰からも見られてはいませんが、これは恥ずかしいです.....
「ちょっと鏡護!早く食べなさいよ!」
「そうです!早く食べてください!」
2人が僕に催促してきます。じっと僕の目を見つめながら。
ですから2人とも、涙目+上目遣いは(ry
一向に止める気配のない2人に、結局僕は根負けしてしまいました。
.....ええい、ままよ!
覚悟を決めて、2人の差し出すフォークに口をつけました。
――パクッ、パクッ
「「あ……♪」」
僕が食べた時の2人の嬉しそうな顔。
.....これは恥ずかしさを堪えて食べた甲斐がありましたかね?2人の笑顔にそんなことを思う僕でした。
結局ケーキがなくなるまで2人のソレは続きましたが、1度してしまえば意外と恥ずかしさは感じなくなるもので、2回目以降は僕もすっかり状況を楽しんでいました。
その後も3人でお喋りを楽しんでいたら、途中で雄二から電話が入りました。
.....何かあったんでしょうか?
あとがき
作者 「鏡護が羨ま――ゲフンゲフン、妬ましい」
鏡護 「それ、言い直す必要はあったの?」
作者 「うるせぇ、このブルジョアが!」
鏡護 「いや、それはちょっと意味が違うと思う……」
作者 「彼女から『あ~ん』をされるなんて男の浪漫を堪能しやがって」
鏡護 「いやでもアレは仕方なく……」
作者 「最初は仕方なくでも、結局は楽しかったんだろ!?」
鏡護 「え?……うん。それは、まあ……」
作者 「クキャーッ!殺す!やっぱりお前は殺してやる!」
鏡護 「作者さんが錯乱した!?」
作者 「死にさらせぇーっ!」
鏡護 「うわっ!危なっ!」
作者 「これで終わりじゃーっ!」
鏡護 「……仕方ない。後で恨まないでよ、作者さん?」
作者 「キシャーッ!」
鏡護 「――フッ」
――ドンッ!(浸透勁が作者の身体を伝った音)
作者 「ごパァッ!」
――ドシャ!
鏡護 「ふぅ……。これでしばらく起きないはず」
鏡護 「えーっと……読者の皆様方には作者さんのお見苦しい姿をお見せして大変申し訳ございませんでした」
鏡護 「作者さんがいなくなってしまったので、もう次回予告にいきたいと思います。それでは、
次回、第16問『メイドとチャイナとKYは馬に蹴られて何とやら(仮)』
を、よろしくお願いしま~す!」