―Side 明久
「……お席にご案内します」
鏡護が木下さんと姫路さんに連れ去られた後、僕達も霧島さんに案内されて席へと移動していた。
「ね、お兄ちゃん。お客さんがいっぱいだね~」
僕の制服の袖をくいくいと引っ張りながら、葉月ちゃんがそんな事を言ってきた。
確かにその通りで、Aクラスの広い教室はお客さんでいっぱいだった。メイド喫茶だから客のほとんどは男だと思っていたけど、意外と女性客も多いな。
「……ではメニューをどうぞ」
霧島さんが立派な装丁のメニューを渡してくる。さすがはAクラス、学園祭でも手抜きは一切しないようだ。
「ウチは『ふわふわシフォンケーキ』で」
「葉月も~!」
美波達は仲良くシフォンケーキ。
「ワシは『しっとりチーズケーキ』を」
秀吉はチーズケーキか。
「僕は『水』で。付け合せに塩があると嬉しい」
お金のない僕は当然水だ。
「んじゃ、俺は――」
「……ご注文を繰り返します」
雄二の声を遮るように霧島さんが割って入った。
「……『ふわふわシフォンケーキ』を2つ。『しっとりチーズケーキ』を1つ、『水(塩)』を1つ、『メイドとの婚姻届』が1つ。以上でよろしいですか?」
「全然よろしくねぇぞ!?」
雄二があからさまに動揺している。コイツがここまで翻弄されるなんて珍しい。ここは存分に楽しませてもらおう。
「……では食器をご用意致します」
女の子3人(秀吉含む)のところにはフォークが、僕の前には塩が、雄二の前には実印と朱肉が用意された。
「しょ、翔子!コレほんとにウチの実印だぞ!どうやって手に入れたんだ!?」
「……では、メイドとの新婚生活を想像しながらお待ちください」
霧島さんは優雅にお辞儀をすると、キッチンと思われる方向へと歩いていってしまった。
「……明久。俺はどうしても召喚大会で優勝しなくちゃいけないんだ……」
「あ、うん。それはもちろん僕もだけど」
雄二の目からは並々ならぬ決意が感じられる。やる気なのは嬉しいんだけど、ちょっと怖い。
「んで、葉月ちゃん。キミが言ってた場所ってここで良かったの?」
「うんっ。ここで嫌な感じのお兄さん2人がおっきな声でお話してたの」
葉月ちゃんが元気良く頷く。
嫌な感じの2人ってやっぱり――
『お帰りなさいませ、ご主人様』
『おう。2人だ。中央付近の席は空いてるか?』
と、話している途中で聞き覚えのある下品な声が。
「あ、あの人達だよ。さっき大きな声で『中華喫茶は汚い』って言ってたの」
声の主は、さっき僕達のクラスで妨害工作をしてきた常夏コンビだった。さっきもこの辺で聞いたって事は、もしかして通っているのかな?
『それにしても、この喫茶店は綺麗でいいな!』
『そうだな。さっき行った2-Fの中華喫茶は酷かったよな!』
『テーブルは汚い机だったし、キズだらけだったもんな!』
人の多い喫茶店の中央で、わざわざ大声で叫びあう。こんなことをされたら、悪評が広まる一方だよ!
「待て、明久。アイツらを止めるいい方法を思いついた」
そう言って霧島さんを呼んだ。
「……なに?」
呼ばれた瞬間に霧島さんが登場。もしかしてずっと雄二の近くにいたんじゃないか、ってくらい早かった。
「あの連中がここに来たのは初めてか?」
「……さっき出て行ってまた入ってきた。話の内容もさっきと変わらない。ずっと同じことを言っている」
どうやら、霧島さんたちにとっても迷惑な客みたいだ。
「そうか……よし。とりあえず、メイド服を2着貸してくれ」
「……わかった」
何の迷いもなくそう返事をした霧島さんはメイド服を取りに行った。
.....それにしても雄二。臆面もなく問題発言をするなんて、躊躇いや恥じらいは持ち合わせていないのかい?
『あの店、出している食い物もヤバいんじゃないか?』
『言えてるな。食中毒でも起こさなければいいけどな!』
『2-Fには気をつけろってことだよな!』
常夏コンビがまだ言っている。今すぐブチのめしてやりたい!
「……ああ、鏡護か?すまんが姫路と木下姉を連れて俺達の所へ来てくれないか?席の場所は――」
雄二が誰かに電話を掛けた。相手は.....鏡護?
「……島田、櫛を持ってはいないか?」
「ウチは持ってないわ。確か瑞希が持ち歩いてたと思ったけど」
「そうか」
確かに美波はあまり自分の髪を気にしたりとかしてない様に見える。年頃の女の子なのに。
「……雄二?急に呼び出して一体何事さ?」
どうやら鏡護が来たらしい。姫路さんと木下さんも一緒にいる。
「姫路。櫛と身だしなみ用の品があれば一式貸して欲しいんだが、いいか?」
「構いませんけど、何に使うんですか?」
姫路さんがポーチを手渡しながら、雄二に質問した。
.....そういえば何に使うつもりなんだろう?
「……雄二、これ」
と、霧島さんがメイド服2着を抱えて戻ってきた。
「おう。すまないな」
「で、雄二。これをどうするの?」
手元にはメイド服とポーチ。どう考えてもあの2人を攻撃する武器にはなりそうにない。
「当然着るんだよ。お前と鏡護がな」
「「ええーっ!」」
瞬間、シンクロした僕と鏡護の声。な、なんだってーっ!?
「「そういうことなら、鏡護(君)はアタシ(私)達でやるわ(ります)!」」
こちらもシンクロした木下さんと姫路さんの声。
「ちょっと待って、雄二!優子も瑞希も何を言ってるかわかってるの!?」
鏡護が待ったをかけるけど、誰も聞く気はないようだ。これは僕が言っても同じなんだろうな.....
「これは決定事項だ。諦めろ鏡護」
「そ、そんなぁ~!」
鏡護がその場に崩れ落ちた。
「という訳だ。鏡護の方は木下姉と姫路に任せる」
「わかったわ」
「はいっ。とびっきり可愛くしてあげますね」
「ハハハ……お手柔らかにお願いします……」
鏡護は再び2人に引き摺られるようにして個室へと連行されていった。
「お前は秀吉にやってもらえ。秀吉、すまんが任せたぞ」
「うむ。任されたのじゃ」
どうやら僕の方は秀吉がやってくれるらしい。それだけはせめてもの救いかもしれない。
―Side Out
ザワ.....ザワ.....!
着替えとメイクの最中、ずっと2人に鏡を見せてもらえなかった僕が個室から出ると、周囲が突然ざわめきだしました。
「?どうして皆こっちを見てるんだ?」
「そりゃもちろん、鏡護が見た目超美人の女の子だからよ」
「はいっ!とっても綺麗ですよ!」
「……そうなの?」
2人はそう言いますが、自分では全くわからないので思わず首を傾げてしまいます。
「でもまさか、ここまでハマるとは思ってなかったわ」
「本当ですね。私もちょっと驚きました」
「……まあいいや。雄二達のところに戻ろう」
「ええ」
「はい」
「雄二、ただいま~」
「おっ、戻ってきたか……ってお前、鏡護か!?」
声を掛けた雄二が振り向いて僕を確認すると、驚きの声を上げました。
「そうだけど……」
何だかこんなに驚かれると自分に自信が無くなってしまいます。
「いや、すまん。……しかし変われば変わるもんだな」
「お姉さん、きれ~」
「なんか、すっごい敗北感を感じるわ……」
葉月ちゃんには僕が女の子に見えるようですし、島田さんは何故か落ち込んでしまいました。
『こ、この上ない屈辱だ……』
『明久、存外似合っておるぞ』
教室の入り口の方から明久と秀吉の声がしました。見ると、そこにはメイド服を着た明久の姿が。
そのまま秀吉と別れた明久がこちらへやってきます。
「お、明久も戻ってきたようだな」
「そういえば、コレで何をすればいいのさ?」
「ちょっと待ってくれ。明久も来てから説明する」
そう言われてしまったので、仕方なく明久が来るまで待ちます。
「はぁ……どうしてくれるんだよ雄二!……って、隣の綺麗な女の人は誰?」
明久まで僕がわからないんですね.....(泣)
「……僕だよ、明久」
「……ええっ!?鏡護なの!?」
「……どうして皆わからないんだろう……」
もういっそ泣いてしまいたいくらいです。
「よし、いいか。今から2人に作戦を説明するぞ。まあ作戦と言ってもやることは簡単だ。あそこにいる常夏コンビをブッ飛ばして来い」
そう言って雄二は教室の中央を指差しました。するとその指差した先に――
『とにかく汚い教室だったよな』
『ま、教室のある旧校舎自体も汚いし、当然だよな』
そんな会話をしている常夏コンビの姿がありました。なるほど、あれを殺ればいいんですね.....
「「了解っ!」」
明久と2人、声を合わせて返事をします。さあ、
「「お客様」」
明久と2人で常夏コンビに丁寧に話し掛けます。今の僕達はあくまでウェイトレスですからね。
「なんだ?――へぇ、こんなコもいたんだな」
「結構可愛いな」
舐める様な視線が僕達に纏わりつきます。これは不愉快極まりないですね。
「「お客様、足元を掃除しますので、少々よろしいでしょうか?」」
「掃除?さっさと済ませてくれよ?」
2人が席から立ち上がります。僕達のことはバレていないようですね。
「「ありがとうございます。それでは――」」
.....覚悟はよろしいですか?
「ん?何で俺の腰に抱きつくんだ?まさか俺に惚れて」
「おいおい。そういうことは他所で」
「くたばれぇぇっ!」
「せいやっ!」
「「ごぱぁっ!」」
明久が
「き、キサマは、Fクラスの吉井……!まさか女装趣味が――」
「こ、この人、今私の胸を触りました!」
「こっちの人は私のお尻を触りました!」
「ちょっと待て!バックドロップをする為に当ててきたのはそっちだし、大体お前は男だと――ぐぶぁっ!」
「こんな公衆の面前で痴漢行為とは、このゲス野郎共が!」
痴漢退治の大義名分を得て雄二が登場します。
「何を見ていたんだ!?明らかに被害者はこっちだろ!」
「黙れ!たった今、コイツはウェイトレスの胸を揉みしだいていただろうが!俺の目は節穴ではないぞ!」
すいません。正直節穴だと思います。
「そこのウェイトレス!そっちの男は任せるぞ!」
雄二が明久を指差してそう言いました。
「え?あ、はい。わかりました」
そう返事をした明久は
「さて。痴漢行為の取調べの為、ちょいと出頭願おうか」
指を鳴らしながら
「くっ!行くぞ夏川!」
「こ、これ、外れねぇじゃねぇか!畜生!覚えてろ変態めっ!」
流石に状況を不利と見た2人は逃げ出していきます。
「逃がすか!追うぞ、鏡子、アキちゃん!」
「了解!でもその呼び方は勘弁して!」
「明久に同じく!」
僕達も2人を追って廊下に飛び出します。
「ところで、ここの会計は?」
「どうせ俺と明久は何も頼んでないだろ!残った連中に任せておけ!」
「僕の分はきっと瑞希が何とかしてくれるよ!」
ただ教室を出て行く間際に、
『……お会計は、野口英世を2枚か、坂本雄二、天水鏡護を1名ずつのどちらかでお願いします』
そう聞こえたのですが.....
まさか僕達、1人1000円で売り飛ばされたりしませんよね.....?
常夏コンビを追いかけた僕達ですが、結局召喚大会の時間が来てしまい、途中で諦めざるを得ませんでした。
そうしてやってきた試合会場。3回戦の相手は――
「あら。鏡護と秀吉じゃない」
「……驚いた」
なんと優子と霧島さんのAクラスコンビでした。
「なっ、優子と霧島さんが相手なのか!?」
「むぅ。どうやらそのようじゃのう」
どうしましょう。この2人とは、できれば闘いたくなかったのですが.....
「まあいいわ。早くやりましょう」
優子がそう言います。
.....そういえば雄二が言ってましたが、霧島さんはチケット狙いで出場しているんですよね。優子は付き添いといったところでしょう。
それなら――
「(秀吉、この試合を棄権してもいいかな?)」
「(何かお主に考えがあるのか?)」
「(まぁね。で、どう?)」
「(うむ。そういうことならお主に任せよう)」
「(ありがとう)すいません、先生。この試合、僕達は棄権します」
僕は秀吉と短く小声で言葉を交わすと、そう宣言しました。
「えっ!?ちょっと鏡護、どういうことよ!」
「……どうして?」
Aクラスの2人からは当然疑問の声が。
「説明の前にちょっと確認したいんだけどさ、霧島さんは賞品のチケットが狙いなんだよね?」
「……うん、そう。雄二と一緒に行く約束をしたから」
「そっか。で、優子はその付き添いって感じかな?」
「まあ、そうね。私は『ペア』チケットじゃ行けないから。鏡護もそうよね?」
「うん、そうだね。まあ普通にオープンしたら3人で行こうよ」
「ホント?約束よ?」
「もちろん!……そこで、だ。僕としてはそんな恋する乙女な霧島さんの邪魔をするのは忍びなくてね。それに下手なことをして馬に蹴られたくもないし」
「えっ!それだけの理由で?」
「うん。僕も優子と同じで霧島さんと雄二には上手くいって欲しいからね」
「……ありがとう。天水はいい人」
「そういう訳だから、僕達は棄権するよ」
それに、きっと雄二と明久が決着をつけてくれるでしょうからね。
「では、勝者は霧島翔子&木下優子ペアです!」
こうして僕の召喚大会は終わりを迎えました。
.....しかし、これで僕は教頭サイドの妨害工作に対して集中して対処できるようになります。
こうなったからには、そうそう貴方達に好き勝手はさせませんよ.....
―Side 優子
召喚大会の3回戦で鏡護達が現れた時はどうなる事かと思ったけど、まさか試合を棄権されるとは思わなかったわね。
「まあいいわ。如月ハイランドでのデートの約束はしたんだし。ふふっ、言質は取ったわよ?」
いざとなったら代表に証人になってもらうけど、その必要はないかな。
「鏡護は約束は絶対に守ってくれるもんね」
そうなのだ。彼は1度たりとも私との約束を破ったことがない。それはきっとこれからもそうだろう。
「……優子。幸せそう」
「あら、代表。羨ましいのかしら?」
「……そんな事ない」プイッ
ちょっとからかい過ぎちゃったかな?代表がそっぽを向いてしまった。
「ごめんなさい、代表。でも鏡護もああ言ってくれたんだから、絶対に優勝しましょう!」
「……もちろん」
さあ、アタシも代表の恋を応援している友人の1人として頑張らないとね!
―Side Out
鏡護 「また最後に変な伏線が……」
作者 「気にするな」
鏡護 「……そうだね。もう気にするだけ無駄だよね……」
作者 「そうだぞ。人間は学習する生き物なんだからな」
鏡護 「……じゃあ、いつまでたっても学習しない明久って……」
作者 「その先は言ってやるなよ」
鏡護 「うん……」
作者 「えぇっと、次回で学園祭1日目は終わる予定です」
鏡護 「良かった。これ以上変なことは起きないよね?」
作者 「フッフッフ……そうは問屋が卸さないんだなぁ」
鏡護 「やっぱりか……」
作者 「大丈夫さ!そんな大事にはならんよ、きっと」
鏡護 「作者さんの『大丈夫』は当たった試しがないよね?」
作者 「そうだったかな?」
鏡護 「……もういいや。何があっても切り抜けてみせるさ!」
作者 「よっ!さすが主人公!ついでに次回予告もよろしく!」
鏡護 「わかったよ!……えっと、どれどれ……
次回、第17問『チャイナと大会準決勝とお姫様を救出せよ!(仮)』
を、乞うご期待ください!」