バカと天眼の賢者と召喚獣 ※凍結   作:天御柱

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第17問 『チャイナと大会準決勝とお姫様を救出せよ!』

「で、3回戦は不戦勝じゃったと?」

 

「うん。相手が食中毒で棄権したんだって」

 

僕達より遅く戻ってきた明久達は無事に4回戦へとコマを進めたみたいです。

それにしても食中毒とは.....瑞希の料理は今朝明久と雄二が食べたアレだけのはずなので、ウチのクラスの客ではないと思うのですが.....大丈夫ですよね?

 

「鏡護達はどうだったの?」

 

「実は相手がなかなかの強敵でね、惜しくも敗れたよ」

 

実際は棄権したんですが、とりあえずそう言っておくことにしました。

 

「そっか……残念だったね」

 

「うん。でも僕達の代わりに、明久達は頑張ってね」

 

「もちろん!目指すは優勝だよ!」

 

実に頼もしい返事をしてくれた明久。本当に頑張ってください!

 

「ならば、こちらを建て直すのに協力してくれぬか?」

 

「そうだな。常夏コンビのせいで客が減っているようだし、取り返すためには何かインパクトのあることをやる必要があるな」

 

そうなんです。今の教室は割と空席が目立つような状態になってしまっています。元凶は潰しましたが、流れた噂には対処のしようがありませんからね。

 

「うむ。それで何をするか、じゃが……」

 

秀吉が教室内を見回しますが、使えそうなものはありませんし、できることも特になさそうです。

 

「雄二、何かアイデアはないの?」

 

「任せておけ。中華とコレでは安直過ぎる発想だが、効果は絶大のはずだ」

 

明久に問いかけられてそう答えた雄二が取り出したのは、刺繍も見事な青と白のチャイナドレスでした。

.....それにしても、本当に雄二はこんな物をどこから調達してくるのでしょう?

 

「ほう。若干裾が短いようじゃが、これならば確かにインパクトは充分じゃろうな。それでコレを宣伝用に――」

 

確かにコレを瑞希や島田さんが着て宣伝をすれば、抜群の効果を得られるでしょう。

 

「ああ。コレを――明久が着る」

 

.....そ、それはそれで別の意味でインパクト大ですね。

 

「ちょっ、お願い、それだけは許して!メイド服の次にチャイナまで着たら、僕は皆にきっとホンモノだと思われちゃうから!」

 

「冗談だ。これは秀吉と鏡護と姫路と島田に着てもらう」

 

.....はいっ!?い、今なんて言いましたか!?

 

「あ、なんだ。よかったぁ~」

 

「ちょっと待って!秀吉はともかくどうして僕まで!」

 

「……鏡護よ。ワシはともかく、とはどういう意味かの?」

 

「秀吉は大体周囲には第3の性別『秀吉』ってことで認識されてるからだよ!」

 

「な、なんと……そうじゃったのか……」

 

衝撃の事実が発覚した秀吉がその場に膝をついて崩れました。

 

「雄二、とにかく僕は絶対に着ないからね!」

 

「ダメだ。女装であんな美人になるんだから、やってもらわんと困る」

 

褒められても不名誉なことこの上ないですね。

 

「たっだいま~!ってあれ、アキってばメイド服脱いじゃったんだ」

 

「あ……鏡護君もです。可愛かったのに……」

 

「お兄ちゃん。葉月ももう1回見たいですっ!」

 

と、そこに島田さん達が戻ってきました。瑞希、僕の気も知らずにそんな事を言わないでください。今また僕に危機が訪れているんですから。

 

「あはは。残念ながら、ただで人のコスプレを見られるほど世の中甘くないよ?」

 

明久が3人ににこやかに笑いかけます。

 

「そういうことだ。姫路に島田、クラスの売り上げの為に貢献してもらうぞ」

 

チャイナを片手に明久がにじり寄りつつ、2人の退路を断ちます。

 

「へっへっへ……大人しくこのチャイナに着替え痛ぁっ!マジすんませんした!自分チョーシこいてました!」

 

よ、弱いです.....

腹と頬と腿を殴られて、明久が即座に土下座しました。

 

「どうしてまた、急にそんな事を言い出すのよ?前に須川はチャイナドレスを着たりすることはない、って言ってたじゃない」

 

予想通りといいますか、やっぱり島田さんが渋ります。

 

「店の宣伝の為と、明久の趣味だ。明久、お前はチャイナドレスが好きだよな?」

 

.....そうだったんですか?初耳です。

 

「大好――愛してる」

 

「……明久はほんとに嘘がつけないよね」

 

まさか、そこまで堂々と宣言されるとは思いませんでした。

 

「し、仕方ないわね。店の売り上げの為に、仕方なく着てあげるわ」

 

ふふっ。島田さんも素直じゃありませんね。

 

「あの……鏡護君は好きなんですか、アレ」

 

瑞希がモジモジしながらそう聞いてきました。そうですね.....

 

「僕も瑞希が着てるところを見てみたいな?」ニコッ

 

「――////わ、わかりました!私も着ます!」

 

瑞希もオッケーのようです。

 

「お兄ちゃん、葉月の分は?」

 

「え?葉月ちゃんも手伝ってくれるの?」

 

どうやら葉月ちゃんも手伝ってくれるようですが、さすがに彼女の分までは用意していないでしょう。

 

「…………!!(チクチクチクチク)」

 

「……えぇっと、康太?どうしてそんな凄まじい速さで裁縫を?っていうかさっきまでここにはいなかったはず……」

 

「…………俺の嗅覚を舐めるな」

 

何故でしょう。格好いい台詞のはずなのに、とても残念な気持ちになります。

 

「では、3回戦が終わったら着替えますね」

 

瑞希が時計を確認しながらそう言いました。彼女達はこれから試合なんですね。

 

「いや、2人には今着替えてもらいたい」

 

「「えっ?」」

 

雄二の言葉に2人の声がハモりました。

 

「宣伝の為だ。それを着て召喚大会に出てくれ」

 

そういえば、3回戦からは一般公開が始まっていましたね。

 

「こ、これを着て出場しろって言うの……?」

 

「それは恥ずかしいです……」

 

流石にこの雄二の注文には2人も困った顔をしています。ですが、これも瑞希の転校を防ぐ為。是非ともやってもらいたいですね。

 

「「2人とも、お願いだ」」

 

奇しくも明久と声が被りました。明久もどうやら僕と同じ気持ちのようです。

 

「……仕方ないわね。クラスの設備の為だし、協力してあげる。ね、瑞希?」

 

「えっ?あ、は、はいっ!これくらいならお安い御用です!」

 

まず瑞希の事情を知っている島田さんが、次いで瑞希が承諾してくれました。

 

「それならすぐに着替えて会場に向かってくれ。試合では自分達がFクラスの所属であることを強調するんだぞ」

 

2人がFクラスの所属であるとわかれば、喫茶店の宣伝とFクラスのレベルのPRという2つの目的が果たせます。これは大きいですね。

 

「オッケー。任せておいて。行くわよ瑞希」

 

「はいっ」

 

チャイナドレスを抱えて、2人は教室を後にしました。

 

「…………できた」

 

「わっ、このお兄さん凄いです!」

 

どうやら康太の作業も終わったようです。

相変わらず下心が絡んだ時の康太の行動力には驚かされます。しかし小学生まで守備範囲だったなんて、つくづく底の知れない男です。

 

「ふむ。それでは着替えるとするかの。ワシらも行くぞ、鏡護」

 

「やっぱり僕も着るんだね……」

 

「当たり前だ。さっさと着替えてこい」

 

「うぅ……」

 

 

 

 

 

結局僕もチャイナドレスを着せられて働かされることになってしまいました。

喫茶店の方は瑞希たちの3回戦が終わったと思われる頃から徐々に客足が増え始め、2人が帰ってきた今も店内はお客さんでいっぱいです。

 

僕も忙しく店内をあっちへこっちへと走り回っていますが、意外と動きやすかったチャイナドレスには少し驚きました。

 

しかし僕が着替えてからというもの、康太はずっとカメラのシャッターを切り続けていますし、お客さんには「キミ、可愛いね」なんて声を掛けられてしまうこと多数です。

さらに瑞希が教室に戻ってきた時には、

 

「はわっ!鏡護君、可愛すぎです!お持ち帰りしてもいいですか?」

 

などと言い出すのですから焦りました。

 

その後もお客さんを相手に注文を取ったり、料理を運んだり、食器を片付けたりと頑張っていたのですが、

 

.....おや、あれは竹原教頭?

 

明久を呼び止めてなにやら話をしている竹原教頭の姿が視界に入りました。

 

.....今度は何のつもりでしょう?

 

あの竹原教頭が用もなく一般生徒、しかも明久に声を掛けるはずがありません。きっとなにかあるはずです。

 

明久が島田さんに用事を頼まれて、教頭と別れて教室を出て行くのを目で追っていると、その少し後を見るからにガラの悪い男3人が追っていくのが見えました。

 

.....そういうことですか。

 

どうやら空き教室に備品を取りに行った明久をボコにする気ですね。それなら――

 

「雄二ー!悪いんだけど、餡子が切れそうだから至急取りに行ってくれる?」

 

「おう。わかった」

 

歯には歯を、不良には不良を、です。これで明久は大丈夫でしょう。

 

 

 

それから2時間が経ち、明久達が召喚大会の4回戦に出掛ける時間が来ました。

しかし2人が教室を出て行こうとすると瑞希達も試合があることがわかり、なんと4回戦はこの2組の戦いということでした。

 

明久が出掛ける時に葉月ちゃんが渋りましたが、雄二が

 

「良い子にしてたら、バカなおにいちゃんがオトナのデートを教えてくれるぞ」

 

と言った途端、機嫌を直したようでした。

 

そしてそんな超弩級の爆弾を落としたものだから、島田さんが明久に対して激怒。

しかし瑞希の「お仕置きは召喚大会で」発言によって、その場は何とか落ち着きました。

.....瑞希の真っ黒発言にはドキッとさせられましたがね。

 

 

 

しばらくして帰ってきた4人に試合の結果を尋ねると

 

「雄二、かな」

 

「そうね。坂本の1人勝ちね」

 

「ですね」

 

という答えが返ってきたのですが、一体何があったのでしょう?

 

 

 

 

 

 

―Side 明久

 

 

 

4回戦の後、喫茶店を手伝って働くこと1時間。僕達は準決勝の為、ステージに来ていた。

 

今回も雄二には作戦があるようだけど、今回は相手が相手なだけにどうなるかはわからない。いざという時は僕の考えた作戦を使うことも考えておかないと。

 

『お待たせ致しました!これより準決勝を始めます!選手の皆さんは入場してください!』

 

審判を務める先生のアナウンスで舞台に上がる。向かい側からは対戦相手の霧島さんと木下さんがやってくる。

 

「……雄二。邪魔しないで」

 

「そうはいくか。俺にはまだやりたいことが山程あるんだ!」

 

そんなに霧島さんと行くのが嫌なら断れば良いのに。雄二も素直じゃないな。

 

「……そんなに私と一緒に行くのは嫌?」

 

うっ、これは女の子の必殺上目遣い!こうまでされて誘いを断るような奴は人間じゃない!

 

「ああ。嫌だね」

 

人間じゃない。

 

「……やっぱり、一緒に暮らしてわかりあう必要がある」

 

む。霧島さんも負けてない。あそこまでキッパリ断られても諦めないなんて。

 

「ハッ!残念だが、そんな寝言は俺達に勝ってから言うんだな!」

 

「……わかった。そうする」

 

2人の話も終わって、いよいよ準決勝が始まる。

 

「よし。――頼むぞ、秀吉!」

 

雄二が何故か木下さんに向かって『秀吉』と呼び掛ける。.....そうか!2人の容姿が似ていることを利用した入れ替わり作戦なんだね!

 

「ふふっ」

 

「秀吉?もう木下さんの演技はいいから、早く僕らと――」

 

「秀吉ってあっちに転がってるゴミのこと?」

 

木下さんがステージの一角を指差す。するとそこには――

 

「なっ!?秀吉、どうしてそんな姿に!?」

 

ボロボロにされた挙句、手足を縛られた秀吉の姿が。

 

「バ、バカな!」

 

雄二が目を大きく見開いて驚いている。作戦は失敗だ。

 

「……雄二の考えてることなんてお見通し」

 

「ま、匿名の情報提供もあったんだけどね」

 

試召戦争の時とは逆に、今回は向こうにしてやられたようだ。それに匿名の情報提供って.....?

 

「くっ……すまぬ、雄二。ドジを踏んだ……」

 

立ち上がった秀吉が申し訳なさそうに唇を噛んでいる。

それにしても、チャイナドレスで縛られているもんだからもの凄く目に悪い。何だかいけない気分になってしまいそうだ。

 

「…………!!(パシャパシャパシャパシャ!)」

 

「ム、ムッツリーニ!いつの間に!?」

 

カメラを構えたムッツリーニが一瞬で僕らの傍に姿を現した。

 

「撮影なんかしてないで、早く秀吉の縄を解いてあげてよ《その写真、後で売って欲しい》!」

 

「明久。本音が混ざっているぞ」

 

しまった。つい僕の正直な部分が出てしまったようだ。

 

「…………了解」

 

小さく頷くと、秀吉に駆け寄って縄を解き始めるムッツリーニ。できれば写真の件も忘れないで欲しい。

 

「大人しく降伏してくれると嬉しいな。弱いものいじめはしたくないし」

 

「くっ……!」

 

木下さんの降伏勧告に、苦々しげに顔を歪める雄二。

雄二の作戦は失敗。もしこのまま闘っても、この2人が相手では僕らに勝ち目はない。

 

 

――ここはいよいよ、僕の出番だ。

 

 

(雄二。僕に考えがあるから、指示通りの台詞を言って欲しい)

 

(考え?一体何を――)

 

(今は迷ってる余裕なんてないよ。とにかくよろしく!)

 

(お、おう)

 

僕の指示だとバレないように、雄二の陰にそれとなく身を隠す。それと念の為、ジェスチャーをして秀吉に近くに来てもらった。

 

(それじゃいくよ。僕が言ったことをそのまま口に出すんだ。棒読みにならないように気をつけてね?)

 

(わかった。今回はお前に任せよう)

 

雄二が小さく頷く。よしっ、やるぞ!

 

〈翔子、俺の話を聞いてくれ〉

「翔子、俺の話を聞いてくれ」

 

雄二が僕の台詞をそのまま復唱する。よしよし。

 

〈お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ〉

「お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ」

 

「……雄二の考え?」

 

〈俺は自分の力でチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたいんだ!〉

「俺は自分の力でチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたい――ってちょっと待て!何だこれは!」

 

雄二が慌ててこちらを振り向こうとするが、そうはいかない。後ろから強引に雄二の頭を押さえつけてやる。

 

「……雄二」

 

霧島さんが雄二のことをうっとりと見つめている。やはり僕の作戦に間違いはなかった。

 

〈だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう〉

「だっ、誰がそんな事を言うかボケェッ!」

 

雄二が激しく抵抗する。だが、キサマの反応など予測済みだ!

 

「くたばれ」

 

「くぺっ!?」

 

後ろから頚動脈を優しく押さえる。これで聞き分けも良くなるはずだ。

 

「……雄二?」

 

霧島さんが続きの言葉を待ちかねている。大丈夫!その期待にお応えしましょう!

 

(秀吉、よろしく)

 

(うむ。了解じゃ)

 

ここで近くに呼んでおいた秀吉の出番だ。秀吉の声真似で止めを刺す!

 

「だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう。愛している、翔子」

 

本人と区別のつかない声で、秀吉が最後の台詞を告げる。.....何故か指示していない台詞まで追加されてたけど、まあいいか。

 

「……雄二。私も愛してる……」

 

「ま、待て……。俺は、愛してなど……こぺっ!?」

 

素直じゃない雄二の首を、反論できないように捻ってやった。

 

「ふはははは!これで最強の敵は封じた!残るはキミだけだ、木下優子さん!」

 

「ひ、卑怯な……」

 

霧島さんは雄二の亡骸に抱き付いて、胸元に顔を埋めている。雄二の手足が力なく垂れ下がっているのは気のせいだろう。

 

「でも、アタシ1人でも吉井君には負けないはずっ!行くよ――試獣召喚(サモン)っ!」

 

ムッツリーニに目配せをする。これが元々雄二が考えていた秘策だよっ!

 

「ふふっ、それはどうかな!いくよっ、新巻鮭(サーモン)!」

「…………試獣召喚|(ボソッ)」

 

喚び声に応え、姿を現す召喚獣。それはたとえAクラスの木下さんでも太刀打ちできない強さを持った――

 

「えっ!?それ、土屋君の……!」

 

ムッツリーニの召喚獣だ。これが秘策、『代理召喚(バレない反則は高等技術)』だ!

 

「…………加速|(ボソッ)」

 

「ほ、本当に卑怯――きゃあっ!」

 

最初から腕輪の能力を発動して一気に勝負を決める。保健体育であればムッツリーニに敵はいない!

 

 

『Aクラス  木下優子&霧島翔子   VS  Fクラス  土屋康太&坂本雄二

 保健体育  321点&UNKNOWN   VS  511点&UNKNOWN       』

 

 

「よしっ!僕と雄二の勝利だ!」

 

物言いがつく前に勝鬨を上げておく。

 

『……ただいまの勝負ですが――』

 

あ、それでも物言いがつきそうだ。仕方ない。

 

「霧島さん、僕らの勝ちで良いよね?」

 

「……それは」

 

「翔子、愛している(※秀吉)」

 

「……私達の負け」

 

「ちょ、ちょっと代表!?」

 

霧島さんが負けを認める。これで自他共に認める勝利だ。

 

『……わかりました。坂本・吉井ペアの勝利です!』

 

勝ち名乗りを受け、僕は観客の方に向き直った。けど、お客さんの視線は冷たい。そりゃそうか。

 

「それじゃ、僕らはこれで!」

 

一礼をしてから、罵声が飛んでくる前に退散する。

 

「明久。なかなかの機転であったな」

 

隣を歩く秀吉が着崩れたチャイナドレスを直しながら話し掛けてくる。もったいない。そのままの方がお客さんが増える気がするのに。

 

「…………作戦勝ち」

 

「ありがとう。秀吉とムッツリーニの協力のおかげだよ」

 

これで残すは決勝戦のみ。あと1つ勝てば、姫路さんの転校は阻止することができるんだ!

 

「ところで、雄二をあのままにしておいて良いのか?」

 

「え?別にいいんじゃない?」

 

「そうか。明久がそう言うのなら良いのじゃが」

 

「あはは。雄二もたまには素直になるべきだと――」

 

「霧島が雄二に一服盛って持ち帰ろうとしておったので心配になっての」

 

「き、霧島さん!雄二には決勝もあるからクスリは許して!」

 

急いで引き返した僕が見たのは、虚ろな目をしてタキシードに着替えている雄二の姿だった。

 

 

 

―Side Out

 

 

 

 

 

 

雄二達が準決勝に出掛けていった後、しばらくしてから僕は着替えるために更衣室に来ていました。

 

「まったく。雄二のヤツも何てことをやらせてくれるんだ」

 

着替えている最中、ずっと愚痴りっぱなしです。

 

「しかも瑞希と優子がやってくれたメイクがなかなか落ちない……」

 

はじめは水道の水で洗い流そうと思ったのですが、完全に落とすことができません。仕方なく更衣室に併設されているシャワー室で、ついでに汗も流すことにしました。

 

そんなことをしていたら結構時間を使ってしまったようで、気付けば準決勝も既に終わっているような時間でした。

 

「マズいっ!早く戻らないと!」

 

急いで教室へと戻ると、教室の前で話をしている雄二、明久、康太の3人の姿が。

 

「あれっ?どうしたの3人とも」

 

「ん?……なんだ鏡護、着替えたのか」

 

「鏡護!どうして着替えちゃったのさ!」

 

「…………(コクコク)」

 

「そりゃ着替えるに決まってるよ。ずっとアレを着てたくはないからね」

 

「わかってない!鏡護は何もわかってないよ!」

 

「…………(コクコク)」

 

そう言って明久と康太はその場に膝をつくと、涙を流して悔しがりました。何故でしょう?

 

「それよりどうしたのさ。教室前に集合なんかしちゃって」

 

「ああ。それなんだが――」

 

雄二が状況を説明してくれました。

 

 

.....説明中.....

 

 

「瑞希と島田さんと葉月ちゃんと秀吉が誘拐された?」

 

「そうだ」

 

.....チッ、まさか本当にここまで手段を選ばないとは。少々相手を甘く見ていたようです。

自分自身の見通しの甘さに腹が立ちましたが、それよりも今は4人の方が心配です。

 

「それで、4人の居場所は?」

 

「…………行き先はわかる」

 

と、康太がラジオのような機械を取り出しました。

 

「これは?」

 

「…………盗聴の受信機」

 

.....オッケーです。この際康太が何故そんなものを持っているかなんて野暮なことは聞きませんよ?

 

「よし、じゃあすぐに出掛けよう」

 

「待て、鏡護。何故お前はそんなに冷静でいられる。お前の大事な姫路がさらわれたんだぞ?」

 

雄二から制止の声が掛かり、そんな事を聞かれました。

 

「……この状況を予想してなかったわけじゃないからね」

 

「ほう?」

 

.....この際ですから話してしまいましょうかね。

 

「雄二も気付いてるとは思うけど、今回の学園長の依頼には裏がある。僕はそれを最初の時点で本人の口から聞いてたんだ。だから、あらゆる妨害が来ることを予想してたんだよ」

 

「やはりそうか。だから喫茶店のテーブルの件でもあんな提案を……」

 

「そういうことだよ。営業妨害なら、ネタがなければ回避するのは簡単だからね」

 

「なら、お前は今回の黒幕についても知っているということか?」

 

「まあね。でもその辺は誘拐事件(コレ)を解決した後で、直接学園長に聞くと良いよ」

 

「そうさせてもらおう」

 

雄二との話も終わり、いざ行こうとしたところで

 

「……天水」

 

「あれっ?霧島さん?どうしたの?」

 

突然その場に霧島さんが現れました。息を切らせているようですが、何かあったんでしょうか?

 

「……優子が変な男達にさらわれた」

 

.....何ですって!?

 

「それは本当?」

 

「……うん。私が声を掛けられたんだけど、一緒にいた優子が私を逃がしてそのまま……」

 

霧島さんが俯きがちにそう教えてくれました。

 

「……そっか。わざわざ教えに来てくれてありがとう」

 

自分も怖かったのでしょう。少し震えている彼女の頭に手を置くと、小さい子にするようにその頭を撫でました。

 

「……っ////お願い。優子を助けて」

 

それが恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら霧島さんはそう告げました。

 

「もちろん。……さあ、行こう。これも王子様の役目、ってね」

 

僕は彼女にそう答えると、明久に向き直って茶目っ気たっぷりにそう言いました。

 

「王子様の役目って?」

 

「お姫様をさらった悪者を退治することさ」

 

 

 

 

 

 

―Side 瑞希

 

 

 

突然教室に現れた男の人達は、私達を脅して学園の近くにあったカラオケボックスへと連れてきました。

 

「さて、どうする? 坂本と――吉井と天水だったか? そいつら、この人質を盾にして呼びだすか?」

 

「待て。吉井と天水ってのは知らないが、坂本は下手に手を出すとマズい。今は知らないが中学時代は、相当鳴らしていたらしいからな」

 

「坂本って、まさか《悪鬼羅刹》の坂本か?」

 

「ああ。出来れば、事を構えたくはないんだが……」

 

「気持ちは分かるが、そうもいかないだろ? 依頼はその3人を動けなくする事なんだからな」

 

今は私達の手足を縛って、目の前でなにやら話をしています。

 

坂本君に吉井君、それに鏡護君の名前も聞こえてきましたが、何が目的なんでしょう?

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「アンタ達、いい加減葉月を放しなさいよ!」

 

葉月ちゃんを盾に取られて捕まってしまった美波ちゃん。いまだに葉月ちゃんを放さない男の人に怒鳴りかかっています。

 

「お姉ちゃん、だってさ!かっわいぃー!」

 

「ギャはははは!」

 

弱々しい葉月ちゃんの声に騒ぎだす男の人達。

 

「ホント、コイツら最低……っ!」

 

「落ち着くんじゃ姉上!」

 

私達より後から連れてこられた優子ちゃんと、一緒に捕まった木下君もそんな彼らに憤りを覚えているようです。

 

.....鏡護君、どうか私達を早く助けに来てください。

 

そう願わずにはいられない私でした。

 

「…………灰皿をお取り替え致します。」

 

店員さんが入ってきました。

 

「おう。で、このお姉ちゃん達どうする?ヤッちゃっていいの?」

 

「だったらオレ、この巨乳チャンがいいな~!」

 

「あっ、ズリー!それじゃ俺2番ね!」

 

私はとにかくこの状況を何とかしようと、彼らに話しかけます。

 

「あ、あのっ!葉月ちゃんを放して、私達を帰らせてください!」

 

「だってさ~。どうする?」

 

「それはオネーチャン達の頑張り次第だよな?」

 

そう言って、彼らの1人が私に近づいてきました。

 

「やっ!さ、触らないで――」

 

「瑞希っ!」

 

「ちょっとアンタ達!いい加減にしなさいよね!」

 

優子ちゃんと美波ちゃんが私を庇って、男の人との間に割って入ってきました。

 

「チッ、うっせぇんだよ!」

 

「「きゃぁっ!」」

 

2人が突き飛ばされて、近くにあったテーブルを巻き込んで倒れてしまいました。

 

 

「鏡護君、助けてっ!」

 

 

私は思いきりそう叫んでいました。その時――

 

 

――バンッ!

 

 

「おい、テメェら!俺の女に手をあげてタダで済むと思うなよっ!」

 

「お邪魔しまーす!」

 

鏡護君と吉井君がドアを開け放って室内へと入ってきました。

 

「「鏡護(君)!?」」

 

「アキ……」

 

現れるはずのない人物が登場して、私と優子ちゃん、美波ちゃんはそれぞれ驚きの声をあげました。

 

「ハァ?お前ら誰だよ?」

 

「明久、やるぞ」

 

「了解。それでは失礼して……」

 

「「死にくされやぁぁっ!」」

 

男の人の質問には答えずに吉井君と言葉を交わすと、鏡護君の姿が消えました。

 

「えっ?」

 

私が突然の出来事に声をあげると、

 

「ぎゃあぁぁっ!」

 

「ぐあっ!」

 

「な、何が……っ!」

 

そんな声が聞こえるのと同時に男の人が3人その場に倒れました。

見ると3人を結んだ直線の終点の辺りに、黒い棒のようなものを手にした鏡護君がいました。鏡護君の持っている棒からバチバチという音が聞こえていますが、あれは電気でしょうか?

 

「テメェら、よくも美波に手をあげてくれたな!全員ブチ殺してやる!」

 

吉井君も掴みかかってくる男の人達に拳や蹴りを振るって応戦しています。

 

「コイツら、吉井と天水って野郎じゃねぇか?」

 

「どうしてここが!?」

 

男の人達も突然現れた2人に驚きを隠せないようです。

 

「……ったく、お前ら2人して勝手に突っ込んでいきやがって。俺も混ぜろって――のっ!」

 

「げふぁっ!」

 

「さ、坂本まで来ていたのか!?」

 

まさか2人だけでなく、坂本君まで来ていたなんて。私はまた驚いてしまいました。

男の人達はもう完全に浮き足立ってしまっています。慌てて逃げ出す人も出始めました。

 

「おい、オマエら!この嬢ちゃんがどうなってもいいのかァ?」

 

男の人のうちの1人が葉月ちゃんを羽交い絞めにしていました。小学生の女の子相手にそこまでするなんて、何て酷い人達なんでしょう!

 

「いいか?おとなしくしてろよ?さもないと、ヒデェ目に――」

 

「…………遭うのはお前」

 

 

――ゴインッ

 

 

「あがぁっ!」

 

突然白目を剥いて倒れる男の人。その後ろからはクリスタルの灰皿を振り切ったポーズで固まっている小柄な男の人がいました。

騒ぎの直前に部屋に入ってきた店員さんの姿をしていたのは――

 

「つ、土屋君っ!?」

 

クラスメイトの土屋君でした。土屋君はそのまま私達を縛っていたロープを切ってくれました。

 

「お、お姉ちゃん!お姉ちゃーん!」

 

「葉月っ!良かった……。怖かったでしょう……?」

 

解放された葉月ちゃんと抱き合う美波ちゃん。本当に良かったです.....

 

「鏡護君っ!」

 

そんな光景に安堵した私も鏡護君へと飛びついてしまいました。

 

「鏡護っ!」

 

少し遅れて優子ちゃんも。

 

「良かった。2人とも無事か?怪我はないか?」

 

鏡護君が心配そうな表情で私達に聞いてきます。

 

「はい。大丈夫です」

 

「アタシも。怪我もないわ」

 

2人でそれぞれ自分の状態を報告します。すると、鏡護君が安心したように笑ってくれました。

 

「そっか。なら、ここは雄二達に任せて俺達は帰るとしよう」

 

「「はい(そうね)」」

 

そう言った鏡護君の後について、私と優子ちゃんはその場を後にしました。

 

 

 

 

―Side Out




あとがき

鏡護 「……一応、釈明の機会はくれてやろう」

作者 「……それよりも、何故吊るし上げられているのか説明を求める」

鏡護 「それは簡単だ。お前が口約を破ったからだ」

作者 「口約?」

鏡護 「忘れたのか?お前は前回あとがきで『大事は起きない』と言っただろう」

作者 「……ああ!確かに言ったな!」

鏡護 「それが蓋を開けてみたらどうだ?誘拐事件なんて起こしやがって」

作者 「でも無事解決したじゃん」

鏡護 「解決したらそれで良い、で済むはずがないだろう?」

作者 「えぇ~!……ダメ?」

可愛く首をかしげる作者。

鏡護 「男がそれをやってもキモいだけだ」

作者 「畜生!コレでもダメかっ!」

鏡護 「むしろソレでイケると思っていたお前がおかしい」

作者 「なんだとっ!」

鏡護 「……もういい。付き合ってられん」

作者 「あ、や、ちょっと待って――アーーッ!」


.....作者制裁(おしおき)中につき、しばらくお待ちください.....


鏡護 「フンッ!コレに懲りたらもう2度とあんな真似はするなよ」

作者 .....返事がない。ただの屍のようだ。

鏡護 「作者が使い物にならないので、次回予告も俺がやろう。それでは、

   次回、第18問『終わり良ければ全て良し?祭の終わりに大輪の華(仮)』

   を、楽しみにしててくれ!」
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