バカと天眼の賢者と召喚獣 ※凍結   作:天御柱

29 / 44
補習第7問 『ミッションコードは“ウェディング上等!”(後編)』

薄暗い廊下を翔子と2人で歩く。カツン、カツンとリノリウムの床は必要以上に足音を強調しているように思える。

 

「流石に廃病院を改造したというだけあって雰囲気があるな」

 

「……うん。ちょっと怖い」

 

「こういうのにあまりビビらないお前が怖がるなんて、意外だな」

 

「……そうかも」

 

時折壁に貼られている《順路》のポスターに従って先に進む。

1階では特に何かが起きるでもなく、2階に上がって少し廊下を進んだところで何かの演出が顔を出した。

 

 

【――じの方が――よりも――】

 

 

冷たい風に乗って、幽かに聞こえてくる声。

これは怨嗟の声か何かの演出か?

 

「……この声、雄二の……?」

 

「ん?そうなのか?」

 

どうやら聞こえてきているのは俺の声であるらしい。大方、秀吉あたりに声真似でもさせたのだろう。確かに自分の声が聞こえてくるのは怖いかもしれないが、アイツらにしては普通すぎる気が.....

 

 

【姫路の方が翔子よりも好きだな。胸も大きいし】

 

 

「……雄二。覚悟、できてる……?」

 

「怖ぇっ!急に翔子が般若のような形相に!確かにこれはスリル満点の演出だな!」

 

なんて恐ろしいことを考えるんだアイツら。まさか俺をここから生きて帰さないつもりか!?

 

俺が突然の翔子の変化にビビっていると、バンっと背後で何かの仕掛けが作動する音が聞こえた。

よっしゃ!ナイス演出!これで助かったぜ!

 

「おい翔子!何か出てきたぞ!」

 

音のした方に首を向けると、そこには先程まではなかったはずのあるものが出現していた。それは――

 

「……気が利いてる」

 

.....釘バット、と日本刀!?

 

なになに.....【お好きな方をご利用ください】.....だと!?

 

「畜生っ!よりによって処刑道具まで用意してあるとは!趣旨は全く違うが、最強に恐ろしいお化け屋敷だっ!」

 

「……雄二。逃がさない」

 

結局、日本刀を選んだ翔子が俺を追い掛け回すという斬新なアトラクションが小1時間程続いた。

しかし、アイツらはこれで本当に俺と翔子がくっつくとでも思っているのか.....?

 

 

 

―Side Out

 

 

 

 

 

 

お化け屋敷に入ってから、大体1時間ちょっとで雄二達は中から出てきました。

雄二の服の所々に何かで斬られたようなキズがあるところを見ると、霧島さんはどうやら日本刀(presented by 僕)を選んだようですね。

 

ん?どうして普通の高校生が日本刀なんて所持してるのか、ですって?.....ふふっ。それは禁則事項ですっ♪

 

「お疲れ様でした。どうでしたか?結婚したくなりましたか?」

 

「アレと結婚を結び付けて考えられるのは明久くらいだろうよ……」

 

「ふむ……。危機的状況に陥った男女は強い絆で結ばれる、という話もあるのですが……」

 

「襲い来る危機が結ばれるべき相手自身でなければそうなるかもしれないがな……」

 

おっしゃる通りで。まぁ、これはあくまで明久考案の日頃の憂さ晴らし(ジョークイベント)ですからね。

 

「……そろそろお昼」

 

霧島さんが噴水上の時計を見ながら呟きました。時刻は午後1時を少し過ぎたところです。

 

「……あの、私のバッグ――」

 

「では、豪華なランチをご用意させていただいておりますので、こちらへどうぞ」

 

.....霧島さんが何か言いたそうな顔をしていましたが、すみません、こちらにも『作戦』がありますので。

 

 

 

「こちらでランチをお楽しみください」

 

そうして2人を案内してきたのは、園内の一角にあるレストラン。しかし、もちろんただのレストランではありません。ここは本日のメインイベント会場なのです。

 

「……クイズ会場?」

 

「そうだな。なんだかそれっぽい感じがする」

 

流石に学年主席と元・神童。なかなか冴えてますね。ですが、それは後のお楽しみですよ。

 

「いらっしゃいませ。坂本雄二様、翔子様」

 

そこに秀吉が現れます。流石は演劇部ですね。見事にボーイを演じています。

 

「秀吉。ボーイの真似事か?」

 

流石に雄二には面が割れているので、そんな事を言われます。ですが、

 

「秀吉?何の事でしょうか?」

 

演技に徹している秀吉は決して揺らぐことはありません。本当に天晴れです。

 

「違うというのならば、確かめさせてもらおう」

 

雄二が明久の時のように携帯で秀吉を呼び出そうとしました。

 

「……チッ!お前、電源を切っているだろう!」

 

しかし、秀吉の携帯の電源が切られている事がわかったのでしょう。雄二が舌打ちをしています。

 

「きっと人違いですよ。お席はこちらでございます」

 

秀吉もサラリと流して2人を席に案内します。

 

 

 

そうして2人がデザートも食べ終わった時を見計らって、僕は会場にアナウンスを入れました。

 

〈皆様。本日は如月ハイランドのプレオープンイベントにご来場いただき、誠にありがとうございます!〉

 

それを聞いた雄二が席の方で目を見開いて驚いているのが見えました。ここには何もないと思って油断していたようですね。

 

〈なんと本日ですが、この会場に結婚を前提としてお付き合いを始めようとしている高校生のカップルがいらっしゃっているのです!〉

 

あ、雄二が口に含んでいた水を吹き出してむせています。

 

〈そこで当如月グループは、そんなお2人を応援するための催しを企画させていただきました!題して、【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズ~!〉

 

アナウンスと同時に出入り口を完全封鎖します。雄二を逃がす訳にはいきませんからね。

 

〈それでは、坂本雄二さん&翔子さん!ステージへどうぞ!〉

 

「……ウェディング体験……頑張る……!」

 

「俺は断固拒否だからな!そもそもこういうのは双方の合意の下に痛だだだだっ!耳が千切れるっ!わ、わかった翔子!俺も行くから耳を放してくれ!」

 

〈本企画の内容は至ってシンプル!これからお2人に出題する5問のクイズに全問正解したら、賞品として弊社の提供するウェディングプランを体験していただけます!それではお2人とも、頑張ってください!〉

 

2人がステージに上がってくるまでの間に、会場に向けてルール説明をします。

 

〈準備はよろしいですか?それでは第1問!お2人の記念日はいつでしょうか?〉

 

雄二が問題の意味がわからないといった顔をしていますが、知ったことではありません。

 

――ピンポーン!

 

〈はいっ!答えをどうぞっ!〉

 

「……毎日が記念日」

 

「止めてくれ翔子!恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ!」

 

雄二が解答席で悶えていますが、どうでもいい事です。

 

〈お見事!正解です!〉

 

雄二がこっちを睨んできますが、僕はニヤリと笑って返します。これは最初から仕組まれた出来レースなんです。雄二もいい加減年貢の納め時ですよ?

 

〈第2問!お2人の結婚式はどちらで挙げるのでしょうかっ!〉

 

――ピンポーン!

 

「鯖の味噌煮!」

 

.....まったく雄二も悪あがきを。そんなことをしても意味がないんですよ?

 

〈正解です!お2人の結婚式は当園内にある如月グランドホテル・鳳凰の間、通称【鯖の味噌煮】で開催の予定です〉

 

「待て!絶対にその命名は今この場でしただろう!強引過ぎるぞ!」

 

だから、これは出来レースなんですよ。

 

〈第3問!お2人の出会いはいつでしょうか?〉

 

「……させない」

 

ブスッ

 

あ、霧島さんがボタンを押そうとした雄二の目を潰しました。

 

「ぐおぉぉぉっ!目が!目がぁっ!」

 

――ピンポーン!

 

「……小学校」

 

〈正解です!お二人は小学校の頃からの長い付き合いで今日の結婚にまで至るという、仲睦まじい幼馴染なのです!〉

 

さあ、カウントダウンラスト2です。

 

〈第4問!〉

 

――ピンポーン!

 

本当に往生際の悪い.....

 

「わかり――」

 

〈正解です!それでは最終問題に参ります!〉

 

そっちが問題を無視するというのなら、こっちは解答を無視するだけです!

 

『ちょっとおかしくな~い?アタシらも結婚するつもりなのに、どうしてそんなコ―コーセーだけトクベツ扱いなワケ~』

 

.....この声はまさか!?

 

『お客様、ただ今イベント中ですので――』

 

『グダグダうるせぇんだよ!オレたちゃオキャクサマだぞ、コラぁ!』

 

やっぱり.....入場口で絡んできたあのウザいカップルでした.....

 

『アタシらもウエディング体験やってみたいんだけど~』

 

『で、ですが――』

 

『ゴチャゴチャ抜かすなってんだコルァ!オレ達もクイズに参加してやろうってんだ!ボケがっ!』

 

『うんうんっ!じゃあこうしよーよ。アタシらが問題出すから、答えられたらあの2人の勝ち、間違えたらアタシらの勝ちってコトで』

 

『そ、そんな――』

 

スタッフの静止も空しく、2人はステージに上がってくると、置いてあったもう1つのマイクをひったくりました。

 

完全に予想外の事態。雄二はこの2人を利用して、この状況から逃げ出す気満々です!

 

『じゃあ、問題だ』

 

ダメです!このままではミッション失敗に――

 

『ヨーロッパの首都はどこだか答えろっ!』

 

 

『『『・・・・・・・・・』』』

 

 

ヨーロッパ:六大州の一。ユーラシア大陸の西部をなす半島状の部分と、それに付属する諸島とから成り、面積役1050万平方キロメートル。人口約7億2600万(1995)。ギリシア・ローマの高度古代文明を経て、中世の約千年間キリスト教的統一文明圏を形成。イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・ロシアなど約40の独立国に分れる。(『広辞苑』より抜粋)

 

解答:断じて国の名前ではなく、故に首都など存在しません。

 

 

『オラ!答えろよ!わかんねえのか!?』

 

〈……坂本雄二さん、翔子さん。おめでとうございます!【如月ハイランドウェディング体験】をプレゼント致します!〉

 

『おい待てよ!コイツラ答えられなかったじゃねえか!オレ達の勝ちだろコルァ!』

 

『マジありえなくない!?あの司会バカなんじゃないの!?』

 

まさか明久よりもバカな人間がいるとは思いもしませんでした。世界って広いですねぇ.....

 

 

 

〈それでは、いよいよ本日のメインイベント【如月ハイランドウェディング体験】を始めさせていただきます!皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎えください!〉

 

「坂本雄二さん、お願いします」

 

「鏡護、後で覚えてろよ!」

 

「はて?私の名前は水月ですが。それともし脱走など企てようものなら、ご実家にウニとタワシの活造りを送らせていただきますのでお忘れなきよう」

 

「……やれやれ。まあ、あくまで体験だしな。適当に付き合って終わらせるさ……」

 

諦めたようにそう呟く雄二ですが、これはおそらくポーズでしょう。相手は雄二ですから、安易に警戒を解く訳にはいきません。

 

〈それでは新郎のプロフィール紹介を………省略します〉

 

それはいくら何でも手を抜きすぎじゃありませんか!?

 

〈それではいよいよ新婦のご登場です!〉

 

雰囲気のあるBGMが流れ出し、スポットライトに照らし出された先には――

 

〈本日の主役、霧島翔子さんです!〉

 

会場にいた誰もが一瞬呼吸を忘れる程に綺麗にドレスアップされた霧島さんがいました。

 

『綺麗……』

 

ため息と共に零れた誰かのそんな台詞が、会場の隅々まで届きます。それほどまでに会場は静まり返っていたんです.....

 

「……雄二」

 

「翔子、か……?」

 

「……うん。……どう?私、お嫁さんに見えるかな……?」

 

「――ああ、大丈夫だ。少なくとも婿には見えないな」

 

「……嬉しい。ずっと夢だった……小さな頃からずっと……。私と雄二、2人で結婚式を挙げること。……私1人じゃ絶対に叶わない、小さな頃からの私の夢……」

 

霧島さんは静かに涙を流しながら、本当に一途な想いを告白しました。さて、雄二は何と答えるんでしょう?返答次第では.....

 

「翔子、俺は『あーあ、つまんなーい!人のノロケなんかどうでもいいからさぁ、早く演出とか見せてよ~』

 

『だよな~。ってか、お嫁さんが夢ってオマエいくつだよ?なに?キャラ作り?ここのスタッフの脚本?ぶっちゃけキメぇんだよ!』

 

『純愛ごっこでもやってんの?あのオンナ、マジで頭おかしいんじゃない?ギャグにしか思えないんだケドぉ』

 

『そっか!これコントじゃねぇ?あんなキモい夢ずっと持ってるヤツなんていねぇもんな!』

 

『え~!?これってコントだったの?だとしたら超ウケるんだケドぉ~!』

 

あのバカップル共.....黙って聞いていれば好き放題言いやがって.....

もう我慢ならない。一生懸命な人を笑うヤツは大っ嫌いなんだよ.....

 

〈んだと、テメェらっ!もう一遍言ってみやがれ!〉

 

〈明久君、落ち着いてください!優子ちゃんも!今出て行ったらステージが台無しになっちゃいますよ!〉

 

〈止めないで瑞希!アイツら、1発ブン殴ってやらないとアタシの気が治まらないわ!〉

 

どうやら先に明久と優子がキレたらしい。瑞希は必死に止めようとしているが、俺は止める気などさらさらない。

あの2人をどう始末してやろうかと考えていると――

 

〈花嫁さん?花嫁さんはどこですか?〉

 

......霧島さんがいない?しまった!さっきのでショックを受けてどこかに行ってしまったのか!

 

「さ、坂本雄二さん!霧島さんを探すのを手伝ってください!」

 

スタッフの1人が、息を切らせながら雄二にも声を掛けました。

 

「悪いがパスだ。面倒だし、便所にも行きたいしな……」

 

そう言って雄二は近くに落ちていた霧島さんのドレスのヴェールを拾い上げると、俺のいる会場出口に向かって歩いてきた。

 

「坂本さん、どちらへ行かれるのですか?」

 

もちろんそれを呼び止めない俺ではない。

 

「便所に寄ってから帰ろうと思ってな」

 

「そうですか。それではこれをお持ちください。――ゴミはきちんとゴミ箱に捨ててくださいね?」

 

そう言いながら、俺は雄二にスタンロッド(50万ボルト、違法改造品)を手渡す。

 

「ありがとよ」

 

雄二がそう言って笑う。

 

「それから、もし小腹が空きましたらこちらをどうぞ。長々と引き止めてしまい、申し訳ございませんでした」

 

ついでに霧島さんのバッグと、ペットボトルのお茶も手渡した。

 

「わざわざすまないな」

 

「いいえ。それではごきげんよう」

 

そうしてお辞儀をして、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

――週明け、教室/朝

 

「おい、明久。如月ハイランドでは随分色々とやってくれたな」

 

「あははっ。何を言ってるのさ。僕は1日中家でゲームをやってたんだよ?如月ハイランドになんて行ける訳ないじゃない」

 

「……そうか。お前がシラを切るならそれでもいい」

 

「な、何を言ってるのさ。変な雄二だなぁ~」

 

「ところで、お前にプレゼントがある」

 

「え?なになに?」

 

「今話題の恋愛映画のチケットだ。気になる相手がいれば一緒に行くといい」

 

「え?ペアチケット?こんなの貰っても使い道に困って――」

 

『アキ!そう言えばウチ、週末に映画を見たいと思ってたんだけど!』

 

『へっ?なになに?どうして美波はそんなに殺気立ってるの!?このチケットは換金して生活費の足しにって痛だぁぁっ!人体に必要なパーツが色々ともげるぅぅ!』

 

 

 

「鏡護」

 

「何かな雄二?もしかして僕にもペアチケットをくれるのかな?」

 

「いや、お前には別の仕返し方法を考えてある」

 

「仕返しをされるような事をした覚えがないんだけど……」

 

「シラを切るというのならそれで構わん。とりあえず後ろを見てみろ」

 

「?後ろに誰かいるの?……って、うわぁっ!?」

 

「「鏡護(君)!昨日瑞希(優子ちゃん)とこっそり2人きりになってたって本当なの(ですか)?」」

 

「な、何を言ってるのさ2人とも!?そんな事する暇なんてな――」

 

「「言い訳無用よっ(ですっ)!」」

 

「え、いや、ちょっと待って優子!その関節はそっちには曲がらな……ギャーーッ!み、瑞希!君も止めるんだ!そんなことをしたら僕に新しい関節が増え……ぐぁぁぁっ!」

 

 

 

「余計な事を企むからだ。バカ野郎共が」




あとがき

作者 「今回もいきなり次回予告です!

   次回、補習第8問『プールと水着と乙女達の戦い(仮)』

   を、お楽しみに~!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。