―Side 明久
先週末に行われた『雄二&霧島さん結婚大作戦』も無事?に終わり、いつも通りの平穏な休日の夜。僕の家には雄二が泊まりで遊びに来ていた。
「あれっ?雄二、何か買ってきたの?」
「食い物だ。お前の家にはロクな物がないからな」
そう言って、テーブルの上にコンビニのビニール袋を置く雄二。
「へぇ~。差し入れなんて、気が利くね」
ガサゴソと袋の中を漁る。すると、中には食べ物と飲み物が入っていた。
・コーラ
・アイスコーヒー
・カップラーメン
・カップ焼きそば
食べ物と飲み物が2つずつだ。これはありがたい。
「で、雄二はどっちを食べるの?」
「俺か?俺はコーラとコーヒーとカップラーメンとカップ焼きそばだ」
「雄二キサマ!僕には割り箸しか食べさせない気だな!?」
「待て!割り箸だけでも食おうとするお前の思考に一瞬引いたぞ!?」
慌てて雄二が止めに入る。
「というか割り箸がないと、俺は素手でラーメンを食うハメになるだろうが」
.....確かにそれはシュールな光景だ。見てみたい気がしなくもないけど。
「まぁ割り箸はやらんが、代わりに他の物をお前にもちゃんと用意してある」
「え?そうなの?」
「ああ。もう1つ袋があるだろ?そっちがお前の分だ」
よく見ると、1つ目の下敷きになって2つ目のビニール袋があった。
「まったく雄二ってば。僕の分があるなら早くそう言ってよ」
「すまんな。先週末は世話になったから、その礼だ」
「うんうん。そう言ってもらえると僕も頑張った甲斐があるよ」
下敷きになっている袋を取り出し、中を確認する。きちんと中には食べ物と飲み物が入っていた。
・こんにゃくゼリー
・ダイエットコーラ
・ところてん
「僕の貴重な栄養源がぁぁーっ!」
全てカロリーオフという事実に思わず涙が出た。
「気にするな。俺の感謝の気持ちだ」
「くそっ!全然感謝してないな!?あの計画の為に僕がどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
袋からダイエットコーラを取り出して構える。
「うるせぇ!お前こそ、あれ以来俺がどれだけ苦労してるか知っているのか!」
雄二も袋に手を突っ込み、普通のコーラを取り出して構えた。
僕らの間に剣呑な空気が流れる。
「……やる気かい、雄二?」
「ああ。お前とはいつか決着をつける必要があると思っていたからな」
「上等だよ。早撃ちで僕に挑んだことを後悔するがいいさ!」
「ハッ!口だけは達者だな!」
互いに相手を睨みつけ、牽制しあう。ここで下手に動けば命取りになる。
一触即発の状況の中、キッチンから水が1滴落ちる音が聞こえてきた。
――ピチョン
「「――っ!!」」
その音をきっかけに、お互いがほとんど同時に動き出す。
シャカシャカシャカ(僕と雄二がペットボトルを振る音)
ブシャアアァァァァ(お互いに向けてコーラを射出する音)
バタバタバタバタ(僕と雄二が目を押さえてのたうち回る音)
「「目が、目がぁぁぁああっ!」」
染みる!コーラが目に染みるぅぅ!
「やってくれるじゃねぇか、明久!」
「雄二こそ。流石は僕がライバルと認めた男……!」
「だが、ここからは本気で行くぞ!」
「僕だって。望むところだ!」
そうして雄二はコーヒー、僕はところてんを武器にして、互いの尊厳を賭けた戦いに身を投じていった。
――しばらくお待ちください――
「……雄二。一時休戦にしない?」
「……そうだな。この戦いはあまりにも不毛だ」
気が付けば、お互いの食べ物で全身がベタベタになっていた。
「明久。シャワー借りるぞ」
「うん。タオルは適当なのを使っていいよ」
「言われなくてもそうする」
そう言うと、気持ち悪そうに着ているシャツを摘みながら雄二が脱衣所の方へと消えていった。
続いてバサバサ、と景気よく衣服を脱ぎ捨てる音が聞こえてくる。
「あ、そういえばさ、雄二。言い忘れていたんだけど」
『なんだ?』
バスルームからドア越しの声。その少し後に蛇口を捻る音が鳴った。
「今ガス止められてるから、水しか出ないんだ」
『ほわぁぁっ――っ!?』
ガチャ ズカズカズカ
「……先に言えやコラ」
腰にタオルを巻いた雄二は寒さで全身に鳥肌を立てていた。
「ごめんごめん。言い忘れていたよ。えっとね、心臓に近い位置にいきなり冷水を当てると体に悪いから、まずは手や足の先にかけてから徐々に――」
「誰が冷水シャワーの浴び方を説明しろって言った!?」
「なに熱くなってるのさ雄二。そうだ。冷たいシャワーでも浴びて冷静に」
「たった今浴びたから熱くなっているんだボケ!……くそっ。このままじゃ風邪引いちまう」
「う~ん。そんな事言われても、僕の家のお湯が出ないという事実は変わらないし……」
それにお金があったとしても、この時間では業者はやっていないだろう。
この辺に銭湯はないし、いきなり友達の家に行ってシャワーを借りるというのもおかしな話だ。
「やれやれ……。仕方ない。明久、外に出るぞ」
僕が考え事をしていたら、いつの間か服を着ていた雄二がそう言った。
「外?もしかして雄二の家に行くの?」
「それでもいいんだけどな。どうせならシャワーだけじゃなくてプールもあるところに行こうと思ってな」
「プールもあるところ?」
「ああ。シャワーもプールもあって、ここから近くて、なおかつ金もかからないところがあるだろうが」
シャワーもプールもあって、ここから近くて、なおかつお金もかからないところっていうと――ああ、あそこか。なるほど。
「オッケー。すぐに用意するよ。雄二は水着どうするの?」
「俺はボクサーパンツで泳ぐさ。水着と大して変わらないだろ」
「りょーかい」
手早く準備を済ませ、僕達は目的地である文月学園へと向かった.....
―Side Out
「――で、結局宿直の鉄人に見つかって朝まで鉄拳付きの補習を受けるハメになったんだ」
「おかげで散々な週末だったぜ……」
週明けの朝、HRまでの時間に僕達はいつものメンバー(男のみ)で卓袱台を囲んでいました。
「そうじゃったのか。それは災難じゃったのぅ……」
秀吉が気遣うように柔らかな表情を浮かべています。
「オマケに今週末はプールの罰掃除だよ。はぁ……」
「…………重労働」
康太がポツリと呟きました。
「だよね。あんなに広いところを掃除するなんて、考えただけでも気が滅入るよ」
「何か褒美みたいな事とかはないの?」
すると僕の質問に雄二がこんなことを言いました。
「褒美という程じゃないが、『掃除をするのならプールを自由に使ってもいい』と鉄人に言われたぞ」
「そうなんだ?」
「ああ。だから鏡護達も今週末にプールに来ないか?」
真っ先に康太が頷こうとして、
「ただし、ムッツリーニには掃除を手伝ってもらうけどな」
「…………」
雄二の言葉にその動きを止めました。先程康太自身も言っていた通り、プール掃除は重労働ですからね。迷うのも無理はないでしょう。
「ちなみに、姫路と島田も誘うつもりだ」
「…………ブラシと洗剤を用意しておけ」
雄二の台詞を聞いて即決する康太。なんというか、正直なヤツです。
「うむ、そうじゃな。貸切のプールなぞ、こんな時でもなければなかなか体験できないじゃろうし、相伴させてもらうとするかの。無論、ワシも掃除を手伝おう」
「僕も参加させてもらうよ。もちろん、掃除も手伝うからね」
「え?結構大変だと思うけど、2人ともいいの?」
「うむ」
「お安い御用さ」
「んじゃ、後は向こうの2人だな。おーい、姫路、島田!」
相変わらず良く通る声で雄二が2人を呼びます。
「どうしたの、坂本?何か用?」
「呼びましたか、坂本君?」
「2人とも今週末は暇か?学校のプールを貸切で使えるんだが、良かったらどうだ?」
「「え……?」」
プール、という単語に反応して2人の表情が凍りました。
「あ、もしかして2人とも用事があったりする?」
「い、いや、別に用事はないんだけど。その、どうしようかな……?プールっていうとやっぱり水着だし……」
「そ、そうですよね。水着ですよね……。その、えっと……」
明久の質問に、島田さんは自身の胸部へ、瑞希は腹部へと視線を送っています。
まぁ思春期の女の子特有の悩みといったところなんでしょうが、そこまで気にする必要はないと思うのは僕だけでしょうか?
「まぁ、それぞれ個人の悩みはあるようだが……。1つ言っておくと、秀吉は来るぞ。もちろん水着で、な」
答えに窮している島田さんに、雄二は妙なことを告げます。.....それは島田さんに対する発破のつもりですか?
「というか、瑞希は少し気にし過ぎじゃない?僕はありのままの瑞希が好きなんだよ?」
僕は僕で瑞希にそんな事を言います。ダイエットなんかで瑞希に無理をして欲しくはありませんからね。
「ひ、卑怯よ木下!自分は自信があるからって!」
「???島田よ、お主は何を言っておるのじゃ?」
「は、はぅぅ////きょ、鏡護君にそう言われちゃったら私……(ボソボソ)」
すると島田さんは突然秀吉を非難し、瑞希は瑞希で顔を真っ赤にして何やら呟いています。
「で、どうするんだ2人とも?」
「い、行くわ!その、イロイロと準備して……」
「は、はい!私も行きます!」
島田さんは複雑そうな顔で、一方の瑞希は笑顔で了承してくれました。
「そう言えば、いい加減水着を新調せねばならんのう。ちょうど良い機会じゃから買いに行くとするかの」
秀吉が顎に手を当てて呟きます。そんな事を言ったら――
「そ、それじゃウチも新しいのを買おうかな……?」
ほら。やっぱり島田さんが便乗してきました。
「あれ?でも美波ちゃん。この前水着の話をしていた時には『去年買ったばかりだから今年は要らない』って……」
「瑞希、そこはツッコんじゃいけないんだよ」
「み、瑞希も天水も余計なこと言わない!今回買うのは……そう!勝負用だから別口なのよ!」
「島田さん。それじゃ余計に墓穴を掘ってるよ?」
「……気のせいよ」
盛大に自爆して、島田さんが苦い顔をします。
「あ、そうだ雄二。霧島さんにもちゃんと声を掛けておいてよ?」
「……言われなくてもそのつもりだ」
「あれ?珍しい。今日は随分と素直なんだね」
「うんうん。雄二も大人になったね」
憮然とした態度ではあったけど、雄二が意外な返事をしたので驚きました。
「いや、そういう問題じゃない」
「ん?どういうこと?」
「いいか、想像してみろお前ら。俺の立場で、後々になってからこの事が翔子に知られたら……」
雄二が真剣な表情で聞いてくるので、こっちも真剣に考えてみます。
「樹海の奥……いや、湖の底……」
「刀のサビ……いや、頑固なシミ……」
「俺の死体の処理方法や末路まで想像する必要はないが、まぁそんなところだ」
なるほど。納得がいきました。
明久としては、おかげで霧島さんの水着姿を見ることが出来るのですから願ったり叶ったりでしょうが。
「それなら、鏡護君は優子ちゃんにも声を掛けないとダメですよ?」
「もちろんだよ」
瑞希とそんな話をします。優子1人を仲間はずれにするわけにはいきませんからね。
「とにかく、全員オッケーのようだな。んじゃ、土曜の朝10時に校門前で待ち合わせだ。水着とタオルを忘れるなよ」
雄二の締めの台詞とほぼ同時に、西村先生がドアを開けて教室に入ってきました。
* * *
そして週末。
「おはよー!今日は絶好のプール日和だね」
雲1つない抜けるような青空の下、明久が僕達に声を掛けてきました。
「おはよう明久。今日は早いね」
「おはようじゃ明久。良い天気じゃな」
「おはようございます明久君。今日は良い1日になりそうですね」
「おはよう吉井君。今日はよろしく」
これで後は島田さんが来れば全員集合ですね。
「ムッツリーニ、おは――」
「…………!!(カチャカチャカチャ)」
康太は先程から鬼気迫る表情でカメラの手入れをしています。
「あ、あのー、ムッツリーニ?」
「…………今、忙しい」
明久を一瞥して、すぐに作業に戻ります。
康太にしてみれば、今日は絶好の撮影チャンスでもありますからね。
「ムッツリーニ。準備はいいけど、結局は無駄になるんじゃない?」
「…………なぜ?」
「いや。だって、ムッツリーニはどうせ鼻血で倒れちゃうでしょ」
「そういえばそうだよね。清涼祭の時はチャイナドレスでも鼻血の海に沈んだ位だし」
僕も明久に賛同します。
しかし康太は肩をすくめると、傍に置いてあった大きなスポーツバッグを僕達に突きつけてきました。
「…………甘く見てもらっちゃ困る」
言いながら、スポーツバッグを開けて中を見せてくれます。
「…………輸血の準備は万全」
「どこで手に入れたかは聞かないけど、ある意味準備がいいね?」
「うん。最初から鼻血の予防を諦めてる当たりが男らしいよね」
中には鞄一杯に携行用の血液パックが入っていました。これなら救急車を呼ぶ必要はありませんね。
「……なんていうか、異様な光景よね」
「でも、これがFクラスですから」
「……瑞希もだいぶ染まってるわね」
優子と瑞希はそんな会話をしていました。優子の気持ちもわからないではありませんが、諦めてください。
「準備といえば、秀吉は水着を買い換えるとか言ってたよね?忘れずに買ってきた?」
「うむ。無論じゃ」
胸を張って、鞄を掲げて見せる秀吉。
「ちなみに買ってきた水着じゃが――」
「…………!!(くわっ!)」
あ、康太が作業を中断して目を見開いていますね。そんなに興味があるんですか?
「――トランクスタイプじゃ」
「「バカなぁぁあああっ!!」」
秀吉の台詞を聞いて、明久と康太が2人して地面に突っ伏します。
「最近お主らはワシを女として見ておるようじゃからな。ここらで一度ワシが男だということを再認識させようと――って2人とも聞いておるか?」
「酷いよ秀吉!君は僕のことが嫌いなのかい!?」
「…………見損なった……」
「な、何じゃ?何故ワシは責められておるのじゃ!?」
「気にしないほうがいいですよ、木下君」
「そうだね。2人はきっと今日の日差しに頭をちょっとやられちゃったんだよ」
「鏡護!君は秀吉の水着姿(女物)が見たくないのかい!?」
「別に。だって秀吉は男じゃないか」
「違うっ!秀吉は第3の性別『秀吉』なんだよっ!」
「…………!!(コクコク)」
.....ああ。やっぱり2人の認識ではそうだったんですね。
「……アタシ頭痛くなってきた……」
優子が頭を抱えてしまいました。.....こんなヤツらでごめんなさい。
――タッタッタッタッタッ!
「おはようですっ!バカなお兄ちゃんっ!」
「わわっ」
「もう葉月ったら。いきなりアキに飛びついちゃダメじゃない!」
「びっくりしたよ。おはよう。葉月ちゃん、美波」
「おはよう、アキ。皆も」
「おはよう、島田さん。葉月ちゃんも一緒だったんだね」
「家を出る時に葉月に見つかっちゃってね。どうしても行くって聞かなかったから……」
「いいんじゃない?仲間はずれにしちゃうのは可哀想だよ」
「ありがと。……そう言えば坂本はまだ来てないの?てっきりウチが最後だと思ってたのに」
「いえ、もう来ていますよ。今職員室に鍵を借りに行って――あ、戻ってきたみたいです」
瑞希の説明の途中で、校舎の方から雄二と霧島さんが歩いてきました。
「おっ、揃ってるようだな」
「お兄さん、おはようですっ!」
葉月ちゃんが元気良く雄二に挨拶します。
「ん?チビッ子も来たのか?」
「チビッ子じゃないですっ!葉月ですっ!」
「ああ、悪い悪い。よく来たな葉月」
「はいっ!」
楽しそうに笑って、葉月ちゃんの頭に手を置く雄二。やっぱり子供好きなんですね。
「んじゃ、早速着替えるとするか。女子更衣室の鍵は翔子に預けてあるからついて行ってくれ。着替えたらプールサイドに集合だ」
雄二の言葉通り、一旦男女に分かれます。
瑞希と島田さん、優子は霧島さんに。
明久と僕と康太、秀吉に葉月ちゃんは雄二に――って、ちょっと!?
「こらこら。葉月ちゃんと秀吉は女子更衣室でしょ?霧島さんについていかないとダメだよ」
「えへへ。冗談ですっ」
「ワシは冗談ではないのじゃが……?」
「ほら、遊んでないで行くわよ葉月、木下」
「ま、待つのじゃ!ついに島田までワシをそのような目で見るようになってしもうたのか!?嫌じゃ!ワシは女子更衣室でなど着替えぬぞ!」
「だから、秀吉は男……」
「諦めて、優子。もう何を言っても無駄なんだ……」
「それなら、木下君は1人で別の場所で着替えればいいんじゃないですか?」
「ぬ、ぬぅ……。得心行かぬが、仕方あるまい……。水着姿を見れば、きっと皆の見る目も変わるはずじゃ……」
可哀想な気もするけど、それでは納得しない人がいる以上我慢してもらうしかありません。
「よし、決まったならさっさと行こうぜ。時間がもったいない」
そうして僕達はそれぞれの更衣室に向かいました。
――20分後
着替えを終えた僕達はプールサイドに出てきました。
「やっぱり女子はまだ着替え終わっていないか」
「そうみたいだね」
「…………(コクリ)」
「こういう時女の子は時間がかかるからね」
「ムッツリーニ、心の準備はできてる?命に関わるからね?」
「…………問題ない。イメージトレーニングを256パターン、昨晩のうちに済ませてある」
どんなパターンを想定したのか聞いてみたい気がしなくもありません。
「…………そして256パターンの出血を確認した」
「致死率100%じゃないか」
「ダメだこりゃ」
どうあっても康太は助からないようです。
「お、誰か来たぞ」
不意に聞こえた雄二の呟きに、全員が顔を向けると更衣室の方から小さな人影が歩いてくるのが見えました。
あれは葉月ちゃんですね。小学生らしいスクール水着を着ていますが……
「どどどどどどどどどうしよう雄二!?あれってスクール水着だよね!?そんなものを着た小学生と遊んでいたら、逮捕されたりしないかな!?」
「…………弁護士を呼んでほしい(ボタボタボタ)」
「あのな……。落ち着け2人とも。小学生の水着姿でそこまで取り乱すな」
激しく動揺する2人に雄二が冷静なツッコミを入れます。
「お兄ちゃん達、お待たせですっ」
と、息を弾ませて駆け寄ってきた葉月ちゃん。
その間に2人はある程度落ち着いたのか、冷静な様子で――
「懲役は2年程度で済みそうだね」
「…………実刑はやむおえない(ボタボタボタ)」
.....全然冷静じゃありませんね。
「お前ら冷静なフリしてるだけだろ」
「というか、2人は捕まるような何かをする気なの!?」
「こ、コラ葉月っ!お姉ちゃんのソレ、勝手に持って行っちゃダメでしょ!?返しなさいっ!」
そんな声と共に現れたのは、胸元を手で隠している島田さんでした。
「…………パッド」
「あぅっ。ズレちゃいました」
明久と康太を動揺させていた、小学生とは思えない胸のふくらみ。
それが今はお腹の方へ行っています。
「ん?ってことは、今美波が返しなさいって言ってたのは葉月ちゃんがつけている胸パッ……」
「この一撃に、ウチの全てを賭けるわ……!」
「ちょっと待った島田さん!その一撃はきっと明久の存在を記憶諸共消滅させかねない!」
流石に明久を見殺しにはできないので、島田さんを止めに入ります。
「そうよ美波。折角のプールなのに殺人事件なんて起こしたら台無しよ」
「優子!助かったよ。水着、よく似合ってるね」
「あ、ありがとう……////」
いつの間にか来ていた優子も一緒に止めてくれました。
水着を褒めると、顔を真っ赤にして俯いてしまいます。可愛いですね。
島田さんが着ていたのはスポーツタイプのセパレート。なんだかビーチバレーの選手みたいで格好良いです。
優子は白地に赤いラインがアクセントになっているビキニタイプ。こちらもスラリとした手足が良く映えて、本当に魅力的です。
「うぅ……。折角用意してきたのに……葉月のバカ」
「そんなに気にすることないんじゃない?島田さんのスレンダーな体型も充分魅力的だと思うよ。ねぇ、明久?」
「そうだね。手も足も胸もバストもほっそりしてて、凄く綺麗だと足の親指が踏み抜かれたように痛いぃぃっ!」
「今ウチの胸が小さいって2回言ったわよね!?」
相変わらずのうっかり発言をした明久は、島田さんに思いきり足を踏みつけられていました。
「まったく、明久も懲りないなぁ」
「そうね。せっかく鏡護がお膳立てしたのに」
僕は優子と一緒にそんな2人のやりとりを生温かい目で見守っていました。
「ぐあぁぁぁぁっ!目が、目がぁっ!!」
突然、プールサイドに雄二の悲鳴が響き渡りました。
皆が何事かと思ってそちらを見ると、そこには目を潰されてのたうち回る雄二の姿が。
そして雄二の傍には手をチョキにしている、霧島さんが立っていました。霧島さんの水着は、大人し目な白のビキニに水着用のミニスカートを組み合わせたものでした。こちらもとても良く似合っています。
「凄いわ……。坂本の目を潰す仕草まで綺麗だなんて……」
「うん……。あの姿を見られるのなら、雄二の目なんて惜しくないね……」
「そりゃお前らには実害がないからなっ!」
「代表も何してるの……」
自分が所属するAクラスの代表である霧島さんのそんな行動に、優子は頭を悩ませているようです。
僕はのたうち回る雄二を見て、霧島さんに声を掛けました。
「霧島さん、雄二の目を潰しちゃったら水着の感想が聞けないんじゃない?」
「……いけない。それは失敗だった」
「うん。わざわざ目を潰さなくても、塞ぐだけでよかったと思うよ?」
「……そうする」
と、頷いて雄二へと近づいていく霧島さん。きっと何か思いついたのでしょう。
「これで後は瑞希と秀吉だけだね」
「………」
隣の優子に話しかけましたが、返事がありません。見ると、優子は前方を凝視して固まっています。
「どうしたの、優子?」
「……ちょっとね。改めて見せつけられた彼我の戦力差に絶望してたところ」
「???」
訳がわかりません。僕は優子の言葉に頭を捻るばかりでした。
すると――
「すみませーん!ちょっと背中の紐を結ぶのに時間がかかっちゃって……」
駆け足でこちらへやって来る瑞希の姿が。
それを視界に入れた途端、大量の鼻血を噴き出して倒れる康太と、同様に勢いよく鼻血を噴いて倒れる明久。
さらに、
「Worauf fur einem Standard hat Gott jene unterschieden, die haden, und jene. Die nicht haben!? Was war fur mich ungenugend!(神様は何を基準に、持つ人と持たざる人を区別しているの!? ウチに何が足りないっていうのよ!)」
聞き慣れない言語――ドイツ語でしょうか?で何かを叫ぶ島田さん。
「どうした?一体何が起こってるんだ?」
「……雄二、見ちゃダメ」
「おわっ!何だ、この柔らかい感触は!?おい翔子、俺に何をしてやがる!?」
「……目隠し」
「それでどうして俺は抱きかかえられてるんだ!?」
一瞬にしてカオスがプールサイドを支配しました。
「み、皆さん何をしているんでしょうか……?」
到着した瑞希が周りの惨状を見てそう聞いてきます。
「あはは……。まぁ、瑞希は気にしなくても大丈夫だよ」
カオス空間の原因に思い当たった僕は、とりあえず笑って誤魔化しました。
「???」
瑞希は頭に疑問符を浮かべていますが、言える訳がありません。原因は君の胸についているモノなんだよ、なんて.....
「それより水着、可愛いね。とても似合ってるよ」
「そ、そうですか?嬉しいです……////」
瑞希が着ているのは、露出の多いピンクのビキニにゆったりとしたパレオ。いつもは大人しい彼女がそんな大胆な格好をしていたら、それだけでもう.....!
「瑞希……やっぱりアンタはウチの敵よ……。覚えていなさい……!」
「瑞希にはアタシや美波の気持ちは一生わからないのよ……!」
島田さんと優子は瑞希に恨みのこもった視線を送っています。まぁ、そうしたくなる気持ちもわからなくはありません。
「さて、これで残るは秀吉1人だね」
「…………秀吉はトランクスタイプ……」
輸血が間に合ったのか、復活した康太が寂しそうに呟きます。明久も何故かとても残念そうな顔をしています。
「待たせてすまぬ。着替えはさほど苦労しなかったんじゃが、いかんせん校舎からここまで来るのは遠くての」
と、どうやら秀吉が来たようです。
「☆●◆△□♪◎×(ううん。そんなに待ってないよ秀吉)」
「落ち着いて明久。ここは地球だよ?」
何故かいきなり地球外の言語を喋りだした明久にツッコミを入れます。
「ど、どうじゃ……?これでワシも少しは男らしく見えるかの……?」
恥ずかしそうに、それでもちょっとだけ見せつけるように秀吉が水着姿を披露します。
「……秀吉、とっても言いにくいんだけど……」
僕はそれを見て、真実を伝えるべきかどうか若干迷いました。
「なんじゃ鏡護。言いたいことがあるならはっきり言って欲しいのじゃが」
そんな僕に、秀吉は先を促します。.....後悔しないでくださいね?
「えっとね、秀吉。その水着なんだけど、僕には女物にしか見えないんだよ」
とうとう僕はその一言を口にしてしまいました。
「な、なんじゃと!?」
秀吉が着ていたのは、確かにトランクスでした。
ただし、その基本構成は島田さんと同じようなスポーツタイプ。上は肌に密着したショートタンクトップで、下はおそらく普通のパンツでしょう。その上にショートパンツのようなズボンを、一番上のボタンを外した状態で重ねています。
.....要するに、女物のトランクスタイプだったのです。
「き、木下……!アンタ、どこまでウチの邪魔をすれば気が済むの……!」
「ひ、秀吉!アンタ、なんて格好をしてるのよっ!」
島田さんと優子がそれを見て憤慨しています。あ、優子が秀吉の腕を掴みました。
「秀吉!やっぱり秀吉は僕達の気持ちを察していてくれたんだね!」
「…………永遠の友情と劣情をその水着に誓う」
一方こちらは先程までの落胆振りはどこへやら。明久と康太は2人して喝采をあげています。
「ち、違うのじゃ!ワシは確かに店員に『普通のトランクスタイプ』が欲しいと言ったのじゃ!あ、姉上!その関節はそっちには曲がらな……アアァァァッ!」
秀吉は言い訳を試みましたが、優子の関節技によって血の海に沈められてしまいました.....
あとがき
作者 「次回、補習第9問『プールと水着と漢達の戦い』に続きます!」