バカと天眼の賢者と召喚獣 ※凍結   作:天御柱

31 / 44
補習第9問 『プールと水着と漢達の戦い』

「あの、鏡護君」

 

軽く準備運動をしてプールに飛び込むと、はしごを使って恐る恐るプールに入ってきた瑞希が声を掛けてきました。

 

「ん?どうしたの、瑞希?」

 

「鏡護君は水泳は得意ですか?」

 

「うん。基本の泳法は一通りできるよ」

 

「実は私……お、泳げないんです」

 

「あれ、そうなんだ?」

 

「はい……」

 

実は予想通りの答えでした。こう言っては何ですが、運動の苦手な瑞希が水泳だけ得意だとは思えませんからね。

 

「それなら僕が教えてあげるよ」

 

「い、いいんですか?」

 

「だって瑞希もそのつもりで声を掛けてくれたんじゃないの?」

 

「はい……。そうなんですけど……」

 

「じゃあ遠慮なんてしないでよ。さあ、やろう」

 

「あっ、鏡護君!?」

 

瑞希の手を取ってプールの中程まで歩きます。

 

「瑞希はどれくらいできるの?」

 

「えっと……水に浮く事はできます」

 

「そっか。じゃあバタ足をしてみよう。僕が手を持っていれば沈むこともないでしょ?」

 

「は、はい……。あの……絶対に放さないでくださいね?」

 

「大丈夫。絶対に放さないよ」

 

やはり怖いのか、少し震えている瑞希を安心させるように、ギュッと手を握ってあげます。

 

「は、はい」

 

 

――バシャバシャバシャ

 

 

「そうそう。身体の力は抜いて、足でしっかり水を蹴るように……」

 

瑞希は僕の言う事を理解・実践するのが早く、すぐに上達していきました。

 

「ふぅ……。泳ぐのって楽しいし、気持ちいいんですね!」

 

「凄いよ瑞希。もうバタ足は僕が手を持ってなくても完璧じゃないかな」

 

「えっ……」

 

そこで何故か残念そうな顔をする瑞希。僕が褒めたのに、どうしてそんな顔をするのでしょうか?

 

「鏡護!瑞希はもう泳げるようになったの?」

 

「ああ、優子か。うん。もう1人でも大丈夫じゃないかな」

 

「あっ!そ、それは困りま――」

 

「それならアタシと遊びましょ?」

 

「う~ん。それなら3人で何かしない?」

 

「……アタシは鏡護と2人がいい」

 

おや?優子が駄々を捏ねるなんて珍しいですね。.....って、ああ。そういうことですか。

 

「ごめんね優子。1人蚊帳の外だったから寂しかったんだね?」

 

「////べ、別にそういうわけじゃ――」

 

「ううん。気付かなくて本当にごめん……」

 

優子をギュッと抱きしめました。

 

「あ、うぅ……////きょ、鏡護は卑怯よ……」

 

「あっ……。優子ちゃん、ズルいです……」

 

「瑞希もおいで?」

 

「は、はいっ////」

 

瑞希も僕の胸に飛び込んできます。

 

「2人を平等に愛する。それが僕の誓いだったのに、ごめん」

 

「も、もういいわよ……こうしてもらえればそれで充分」

 

「私もです。……優子ちゃん、ごめんなさい」

 

「気にしなくていいわ瑞希。……それじゃ、3人で遊びましょ?」

 

「「うん(はいっ)!」」

 

そうして僕達は3人で一緒に遊びました。

 

 

 

 

 

 

―Side 明久

 

 

 

鏡護が女の子2人とイチャイチャしているのを陰で妬み(羨み)ながらプールを泳いで(漂って)いると、不意に水の中に引きずり込まれた。

 

「お兄ちゃんっ」

 

「わぷっ!?な、何!?」

 

「えへへー。お兄ちゃん、葉月と遊ぶですっ」

 

水面に顔を出すと、そこには笑顔の葉月ちゃんが。そっか、さっきのは葉月ちゃんの仕業か。

 

「うん、いいよ。何して遊ぼうか?」

 

「じゃあ『水中鬼』をするですっ!」

 

「水中鬼?それって水中でやる鬼ごっこのことかな?」

 

確かに、それはそれで普通に外でやるのとはまた違った面白さがありそうだ。

 

「違うですっ!水中鬼は、鬼になった人がそうでない人を追いかけるです。そして鬼が他の人を」

 

葉月ちゃんが胸を張って説明してくれる。でも、それだとやっぱり僕の考えと同じものみたいだ。鬼が他の人をタッチして――

 

「鬼が他の人を水の中に引きずりこんで、溺れさせたら勝ちですっ!」

 

「鬼だっ!それは確かに鬼だ!」

 

通りで『ごっこ』の部分がない訳だ。それにしても、最近の小学生は恐ろしい遊びをしているなぁ.....

 

「でもダメだよ、葉月ちゃん。そんな遊びは危ないよ。今からそれを教えてあげるから見ててね。――おーい、霧島さーん!」

 

そう言って、少し遠くにいた霧島さんを呼ぶ。

 

「……何?」

 

すると霧島さんはすぐに僕のところへ来てくれた。泳ぐのも上手いんだなぁ。

 

「雄二と水中鬼って遊びをやって見せてほしいんだ。ルールは簡単で、雄二を水中に引きずり込んで、溺れさせた後で人工呼吸をしたら霧島さんの勝ち」

 

「……行ってくる」

 

小さく頷くと、霧島さんは魚雷のように静かに、そして素早く雄二に接近していく。

 

「お?何だ?いきなり足が……おわぁっ!?だ、誰だ!?誰が俺を水中に(ガボガボガボ)」

 

「……雄二、早く溺れて」

 

「ぶはぁっ!しょ、翔子!?何をトチ狂って……!(ガボガボガボ)」

 

遠くで繰り広げられる水中鬼。

 

「ね? 危ないでしょ?」

 

「はいです……葉月、水中鬼は諦めるです……」

 

「明久っ!てめぇの差し金だな!?」

 

「うわっ!ダメだよ霧島さん!きちんと捕まえておいてくれないと!」

 

「……ごめん」

 

「わっ!お兄ちゃん達、泳ぐのとっても速いですっ」

 

僕と雄二と霧島さんの水中鬼、スタート。

 

 

雄二と命懸けの水中鬼をしていた時に、Aクラスの工藤さんがプールにやってきた。水泳部が休みだったのを忘れて学校に来ちゃったけど、プールから人の声がしたので寄ってみたらしい。

さらにいつの間にかもう1人知らない女子が増えていたけど、彼女は一体?美波を追いかけているって事は知り合いなんだろうけど。

 

 

 

 

 

その後も皆でワイワイ騒ぎ、昼食も終わってゆっくりくつろいでいた時に事件は起きた。

 

「あっ、そういえば忘れていました!」

 

突然姫路さんが何かを思い出したかのように、ポンと手を打った。それを聞いた瞬間、僕達男性陣は本能的に身の危険を察知していた。これは、まさか.....?

 

「ちょっと失敗しちゃって人数分は用意できなかったんですけど――」

 

姫路さんがにこやかに言葉を紡ぐ。

その間、僕達の間では高速でアイコンタクトが交わされていく。

 

(おい、この流れは……)

 

(うん。きっと間違いないね……)

 

(そうじゃな。……しかし姫路の料理はもう危なくないのではないか、鏡護?)

 

(確かに僕が見ていればもう大丈夫だよ。……瑞希が1人で作った時はその限りじゃないけど)

 

(…………つまり、今回はレッドカード)

 

(うん。多分……)

 

(仕方ない。こうなったら……)

 

時間にしておよそ2秒。僕達の結論は出た。

 

「――実は今朝作った私オリジナルのワッフルが4つ……」

 

「第1回っ!」(雄二の声)

 

「最速王者決定戦っ!」(僕の声)

 

「勝利の栄冠は誰の手にっ!」(鏡護の声)

 

「「「ガチンコ、水泳対決っ!!」」」(3人の声)

 

「「イェーイッ!!」」(秀吉と康太の合いの手)

 

「……はぁ。しょがないわね……」

 

姫路さんが全てを言い終える前に、僕達のタイトルコールが乱入する。

突然の事態に、何故か木下さんは呆れ、それ以外の女子は全員目を丸くしていた。

 

「明久、ルール説明だ!」

 

「オッケー!ルールはとっても簡単。ここのプールを往復して一番最初にゴールした人の勝ちという、誰にでもわかるシンプルな水泳勝負です!」

 

「バカなお兄ちゃん達、突然どうしたですかっ?急に水泳勝負だなんて、葉月びっくりですっ」

 

「葉月ちゃん。漢にはね、大切なものを賭けて闘わないといけない時っていうのがあるんだよ」

 

「ふぇ~。お兄ちゃん、かっこいいですっ。プライドを賭けた勝負ってやつですねっ!」

 

.....違うんだ葉月ちゃん。この勝負、賭け(ベット)されているのは僕達の命なんだよ。

 

「なんかよくわかんないけど、5人の中で誰が一番速いのかは興味あるわね」

 

「……体力なら雄二が一番」

 

「でも動きの速さなら、明久君や土屋君も引けを取らないと思いますよ?」

 

「鏡護は実力の程がイマイチだけど、どうなのかしら?」

 

女子の皆は暢気に1位は誰か予想をしている。

 

「面白そうだね。それじゃ、判定はボクがしてあげるよ」

 

工藤さんがスタート兼ゴール地点に立つ。25メートルのプールなので、勝負は往復の50メートルだ。

 

僕達はお互いに闘志を燃やしながらスタート位置に立った。審判側からムッツリーニ、雄二、僕、秀吉、鏡護の順で並ぶ。

 

「はい、行くよ~!位置について――」

 

工藤さんのコールが響く。

 

僕は飛び込みの姿勢を取りながら頭の中で考えた。

ムッツリーニは普段の状態なら強敵だけど、今日は大量の出血で弱っているから僕の敵ではない。

秀吉も弱いというわけではないけど、きっと体力で負けることはないはず。

鏡護は正直どの程度できるのかわからないけど、この際放っておいても大丈夫だと思う。

 

「よーい――」

 

罰を免れるのは1人だけ。それならば、僕が始末すべき敵はただ1人――

 

「――スタートっ!」

 

 

「「くたばれぇぇっ!」」

 

 

工藤さんの合図と同時に、僕と雄二は互いに向かって全力で跳び蹴りを放っていた。

 

「くそっ!やっぱり雄二も僕と同じ事を考えていたね!?」

 

水面に飛び込まずに真横にいる僕に飛び掛るなんて、どこまで外道なんだこの男はっ!

 

「てめぇこそ卑怯な真似してくれるじゃねぇか!この恥知らずがっ!」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるっ!」

 

体勢を立て直して、もう一度雄二に飛び掛る。

お互いに水着しか身に着けていないから、雄二を黙らせるには拳しかない。しかもこの距離だ。マウントを制した者が勝負を制する.....!

 

 

『ねぇお姉ちゃん。どうして水泳なのに、バカなお兄ちゃん達はまだ水の中に入らないですか?』

 

『見ちゃダメよ葉月。バカがうつっちゃうからね?』

 

 

遠くから何か失礼な会話が聞こえた気がする。

 

「あのさ、2人とも。取っ組み合いもいいけど、3人はもうそろそろ折り返すよ?」

 

「「なにぃっ(なんだって)!?」」

 

審判から舞い込んできたあまり嬉しくない情報に思わず攻撃態勢を解く。

 

「おい明久!秀吉とムッツリーニはもう折り返してるぞ!?」

 

「ホントだ!雄二なんかを相手にしてる場合じゃないよ!」

 

ついつい雄二との格闘戦に夢中になりすぎたみたいだ。秀吉とムッツリーニの残りの距離は――マズい!あと20メートルくらいしかない!

ついでに鏡護は――あ。今折り返したところだ。.....ん?何だろう?今チラリとこっちを見たような.....?

 

「雄二!とにかく急いで2人を止めないと僕達の負けが確定するよ!?」

 

「わかっている!俺はムッツリーニを止める!お前は秀吉をやれ!」

 

「了解!ここは一時休戦だね!ちなみに鏡護はどうするの?」

 

「大丈夫だ。俺の見たところ、あいつは大した障害じゃない」

 

「わかった!」

 

雄二はムッツリーニのレーンに、僕は秀吉のレーンに飛び込んだ。こうなったら多少卑怯な手を使ってでもゴールを阻止してみせる!

 

 

 

―Side Out

 

 

 

 

 

 

折り返した時に向こう岸を見たら、明久と雄二はまだ水の中にすら入っていませんでした。もしかしてとは思いましたが、2人してお互いに妨害しあっていたようです。

 

同時に、僕は今の自分の順位を確認します。現在僕は第3位。前を行く康太と秀吉からは多少のラグがあります。これなら、状況に焦った明久達は前の2人を止めようと動くはずです。

 

 

.....この勝負、僕の勝ちです!

 

 

直後、2つの大きな水音が隣と一番奥のレーンから聞こえてきました。これは明久達のものでしょう。

 

狙い通りに事態が進むのを確認しながら、今まで抑えていたスピードを一気にトップに入れます。

 

 

『あれっ?一番右のお兄ちゃん、急に速くなったですっ!』

 

『ホントだわ。っていうか、変わりすぎでしょ!?』

 

『鏡護……アンタ手を抜いてたわね……』

 

『ゆ、優子ちゃん落ち着いて!』

 

『……意外な伏兵』

 

『うん。まさかのダークホース登場だね』

 

 

ゴール地点ではそんな会話が行われていたとかいないとか。

 

「なっ!バカなっ!鏡護のヤツ、ワザと遅く泳いでいたのか!?」

 

「どうしよう雄二!もう間に合わないよ!……って、あっ!」

 

雄二と明久が驚く声が聞こえますが、それも置いていくように――

 

 

――パシッ!

 

 

「やったぁーっ!勝ったぁーっ!」

 

僕は1着でゴールしました。大喜びでハシャいでいると――

 

「ア、アキっ!何してるのよっ!?」

 

何故か島田さんの焦ったような、そんな声が聞こえてきました。

 

「へっ?」

 

「それです、それ!」

 

続いて、明久の声と瑞希の声も聞こえます。

 

ここに至って、ようやく僕も周囲が騒然としている事に気が付きました。そこでプールに目を向けると――

 

「あはは。そういえば、コレって秀吉の水着に似てるね」

 

「んむ?そういえば胸元が涼しいのう」

 

秀吉の水着の上を手にした明久と、上半身裸になった秀吉がいました。

 

「…………死して尚、一遍の悔い無し……!!」

 

遠くからは、康太のそんな声が聞こえてきた気がしました。

そしてたちまち朱に染まり始める水面。

 

「って、やっぱりコレ秀吉の水着!?ご、ごごごごめんなさいっ!神に誓って僕は何も見てないから!」

 

「待つのじゃ明久!ワシは男じゃぞ!?どうしてそこまで慌てるのじゃ!?」

 

「うおっ!大丈夫かムッツリーニ!?この出血量はヤバいんじゃないか!?」

 

「…………構わない。むしろ本望……」

 

「わああっ!?康太が本当に危険な状態に!?だ、誰か早く救急車を呼んで!」

 

「き、木下っ!アンタはとにかく胸を隠しなさい!土屋の血が止まらないから!」

 

「いいいイヤじゃ!ワシは男なのじゃ!胸を隠す必要はないのじゃ!」

 

「木下君!今は我が侭を言っている場合じゃありません!土屋君が死んじゃいます!」

 

「……愛子。救急車の手配、頼める?」

 

「はーい。やっぱりFクラスの人達って面白いね」

 

「アタシは胃が痛いわ……」

 

「バカなお兄ちゃん達、いつも楽しそうで羨ましいですっ!」

 

「お姉さま、愛してます……」

 

結局、康太は何度も峠を迎えながらも、僕達と救助隊員の懸命な延命措置で一命を取り留めました。

 

 

 

 

 

そして、週明けの朝。

 

「……吉井に坂本に天水。ちょっと聞きたいことがある」

 

明久、雄二、僕の3人は、担任の西村先生から職員室に呼び出されていました。

 

「断る」

 

「黙秘します」

 

雄二と明久が拒否の構えを取ります。

すると、西村先生はプルプル震えだしました。

 

「……どうして……どうして掃除を命じたはずなのにプールが血で汚れるんだ!?」

 

そして職員室中に響き渡る大音響。

それに対し、2人は心外とばかりに抗議します。

 

「んなこたぁどうでもいい!むしろ死人を出さなかったことに感謝して欲しいくらいだ!」

 

「そうですよ!本当に危ないところだったんですからね!」

 

「黙れ!お前らの日本語はさっぱりわからん!天水、お前が事情を説明しろ!」

 

「今回ばかりは本当に2人の言う通りなんですよ……。実はですね、――かくかくしかじか――で……」

 

西村先生のご指名だったので、プールで起きた殺人事件(未遂)について詳しく話しました。

それを聞いた西村先生はお咎め無しで僕達を解放してくれましたが、後に一言、

 

「……今度の強化合宿の風呂は、木下を別にする必要があるようだな」

 

と呟いたとか。




あとがき

作者 「次回から本編に復帰します!というわけで、次回予告!

   次回、第20問『始まりは突然に!世間は広いようでやっぱり狭い(仮)』

   を、よろしくお願いします!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。