―Side 優子
Prrrr Prrrr
『はい、瑞希です。どうしました優子ちゃん?』
「ごめんね、こんな時間に。明日の事でちょっと話があってね」
『明日、ですか?』
「そう。明日なんだけど――」
アタシはかねてより考えていた計画を瑞希に話して聞かせた。
『……いいんでしょうか?』
「大丈夫よ。先生には許可を取ってあるわ」
『そうなんですか。だったら、よろしくお願いします』
「よかった。じゃあ後は鏡護の方だけど――」
その後も30分くらい明日の話をして、通話を切った。
「さて、そうと決まれば早く寝ないとね」
そうしてアタシの意識は眠りに落ちていった。
―Side Out
姉さんが文月学園に着任した翌日。今日から僕達2年生は『学力強化合宿』に出掛けます。
「え?それじゃ、姉さんも来るの?」
「当然でしょ?私も2-Fの副担任なんだから」
どうやら姉さんも僕達について来るようです。
「キョウ君は姉さんが一緒だとイヤなのかな~?」
「そ、そんな事ないよ!」
姉さんに攻撃色がチラつき始めたので、慌てて否定します。
「ほんとに~?」
「ほんとだよ」
「うん。ならよろしい♪」
セーフ、です。
「そういえば、姉さんはどうやって合宿所に行くの?」
僕達Fクラスは現地集合という事になっています。
「ん?なんかね、Aクラスのバスに一緒に乗せてくれるんだって」
.....何なんでしょう。同じFクラスなのに、教師と生徒というだけでこの扱いの差は。
「へぇ~」
若干恨みのこもった目で姉さんを見つめます。
「それより、優子ちゃんを送っていくんでしょ?そろそろ来るんじゃないの?」
姉さんの言葉に時計を確認すると、確かにもうそんな時間でした。
「ほんとだ。じゃあ先に出るね」
「は~い。またあとでね~」
そうして今日も瑞希、優子と一緒に学校へ行きました。今日は優子を送る事が目的だったのですが.....
「……どうして僕と瑞希までAクラスのバスに乗せられてるんだ!?」
学校まで優子を送った僕と瑞希は、何故か今現在Aクラスのバスに便乗しています。
「まったく、いつまでも気にしてるんじゃないわよ」
向かいに座っている優子がそう言います。
「というか、どうして瑞希はそんなに落ち着いてるの!?」
同じく僕の向かい、優子の隣に座る瑞希に問い掛けます。
「あ、私は昨晩のうちに優子ちゃんから連絡をもらってたので……」
「優子!?どうして僕には教えてくれなかったのさ!?」
「だってサプライズの方が面白いでしょ?」
楽しそうな笑みを浮かべて、優子が答えました。
.....幻覚でしょうか?一瞬、優子に姉さんの姿がダブって見えたような気が。
「まあまあ。おかげでこんな豪華なバスに乗れたんだし」
「工藤さん……」
通路を挟んで反対側の席から、工藤さんが話に入ってきました。
「……私も天水と話をしたかった」
「霧島さんまで……」
工藤さんと同席の霧島さんまでそんな事を言ってきます。
「キョウ君モテモテだね~」
さらには姉さんまで.....って、
「さり気なく姉さんもいる!?」
「あれ?今朝言ったじゃない。Aクラスのバスに乗るって」
「ハッ!?そういえば……」
うっかり忘れていました。
「ところで、随分『女の子のお友達』が多いのね?」
含みのある姉さんの言葉。.....これはもしや!?
「いや、ちょっと待って姉さん。それは誤解だよ!工藤さんはわからないけど、霧島さんにはちゃんと彼氏がいるし!それに僕が好きなのは瑞希と優子だけ……って、あれ?」
「んふふ~。お姉さん別に何も言ってないのに、キョウ君ったら何を焦ってるのかな~?」
姉さんと周りの皆が笑っている(若干2名は顔が赤い)のに気付きました。
.....しまった!ハメられたっ!
しかし気付いた頃には時既に遅し。
「いや~。天水君がここまで取り乱すところって新鮮だね~」
「……うん。珍しい」
「もうっ!こんな時にまで何言ってるのよ////」
「あうぅ……恥ずかしいです////」
「あらら、照れちゃって。優子ちゃんも瑞希ちゃんもカワイイ~!」
その後も皆に散々オモチャにされて、合宿所に着いた頃には精神的に疲れきっていました。
* * *
電車でやってきた明久達と合流して部屋に入った僕は、ただいま絶賛くつろぎ中です。
「それにしても贅沢な学校だよな。この旅館、文月学園が買い取って合宿所に作り変えたらしいぞ」
「ってことは、ここでも召喚獣は喚べるようになってるの?」
「そのようじゃな」
「でも普段の環境から比べたら、ほんとに快適だよね」
「違いない」
皆で頷き合います。8人くらいは寝られそうな広い部屋に、今は僕、明久、雄二、秀吉の4人しかいません。ここに康太を加えた5人がこの部屋の住人です。
.....まぁ、Fクラスの問題児を1部屋に詰め込んで管理し易いように、という教師側の魂胆が透けて見えますが。
――ガチャ!
「…………ただいま」
と、到着してすぐにどこかへ行っていた康太が戻ってきました。
「おかえり康太。どこ行ってたのさ?」
「…………情報収集」
「あっ、『例の件』はどう?」
「おう。どうだったムッツリーニ?」
明久と雄二が康太に何かを聞いています。『例の件』?何のことでしょう?
「ねぇ、2人とも何かあったの?」
気になったので、直接本人達に聞いてみる事にしました。
「ん?そういえば鏡護は知らないんだったな。実は……」
「そういえばそっか。僕も実は……」
2人がそれぞれ抱えている事情を話してくれました。ふむふむ。つまり要約すると.....
「雄二は霧島さんとの結婚がカウントダウンに入ってて、明久はWEBでネットアイドルとして全世界的に売り出されそうだ、と」
「イマイチ納得のいかない理解のされ方だが、そういう事だ」
「なんか明確に未来を予想されただけにダメージが大きいけど、そういう事だよ」
2人とも嫌そうな顔をしています。
「……で、康太はその犯人を捜しているんだね?」
「…………(コクコク)」
「それでどうだった!?」
明久が康太に詰め寄ります。
「…………昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた。2人の件は同一犯の犯行と見て間違いなさそう」
「流石だな。それで、犯人はわかったか?」
「…………(フルフル)」
雄二が尋ねると、康太は申し訳なさそうに首を振りました。
「…………すまない」
「気にするな。協力してくれるだけでも感謝している」
「…………『犯人は女生徒で、お尻に火傷の痕がある』という事しかわからなかった」
「「君は一体何を調べたんだ」」
思わず、明久とツッコミが被りました。
「…………校内に網を張った」
「網?盗聴器でも仕掛けたのか?」
「…………(コク)」
それから康太が小型録音機を取り出し、スイッチを入れると中に収められた会話が流れ始める。
〈……らっしゃい〉
〈雄二のプロポーズを、もう1つお願い〉
〈毎度。二度目だから安くするよ〉
〈……値段はどうでも良いから、早く〉
〈流石はお嬢様、太っ腹だね。それじゃ明日……と言いたいところだけど、明日からは強化合宿だから、引き渡しは来週の月曜で〉
〈……わかった。我慢する〉
「この独特の話し方、片方は間違いなく霧島さんだね」
「しょ、翔子……!まさか既に動いていたとは……!」
「よっぽど早く欲しいんだね」
「しかし強化合宿があって助かった……」
「でも、それもタイムリミットが伸びたってだけだよ」
「…………それで、こっちが犯人特定のヒント」
康太が機械を操作すると、先程とは別の会話が。
〈相変わらずすごい写真ですね。こんな写真を撮っているのがバレたら、酷い目に遭うんじゃないですか?〉
〈ここだけの話、前に一度母親にバレてね〉
〈大丈夫だったんですか?〉
〈文字通り尻にお灸を据えられたよ。全く、いつの時代の罰なんだか〉
〈それはまた……〉
〈おかげで未だに火傷の痕が残ってるよ。乙女に対してひどいと思わないかい?〉
「なるほどね。それでお尻に火傷の痕か」
「…………わかったのはこれだけ」
確かに、これで犯人を特定する事はできる。でも.....
「これ、もし確かめようとしたら間違いなく犯罪だよね」
「だよね。スカートを捲って回ったとしても、わからない可能性があるし」
「赤外線カメラでも、火傷の痕なんて映らないだろうしなぁ……」
「まったく……。事情を知っておっても、とんでもない会話じゃのう」
本当です。
「そうだっ!もうすぐお風呂の時間だし、秀吉に見てきてもらえばいいんだ!」
.....明久?君は何を口走っているんですか?
「明久!?何故ワシが女子風呂に入る事を前提に話しておるのじゃ!?」
秀吉も突然の明久の妄言に戸惑っています。
「それは無理だ、明久」
雄二が冷静にツッコみます。
同時に合宿のしおりを放って寄越しましたが、どうしたのでしょう。
「3ページ目を見てみろ」
「?どういうこと?」
僕も明久と一緒に指示されたページを見てみます。そこには――
~合宿所での入浴について~
・男子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(男)
・男子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(男)
・女子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(女)
・女子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(女)
・Fクラス木下秀吉…20:00~21:00 個室風呂④
「……くそっ!これじゃ秀吉に見てきてもらうことができない!」
「そういうことだ」
「どうしてワシだけ個室風呂なんじゃ!?」
衝撃の事実に、秀吉が固まっています。まぁ無理もありません。
と、全員で途方に暮れていた時の事でした。
――ドバンっ!
「全員手を頭の後ろに組んでその場に伏せなさい!」
もの凄い勢いで僕達の部屋の扉が開け放たれ、女子がぞろぞろと入って来ました。
「な、何事じゃ!?」
「木下はこっちへ!そっちのバカ3人は抵抗を止めなさい!」
先頭を切って入ってきた島田さんが、咄嗟に窓から脱出しようとした明久達の機先を制しました。
「どうして3人とも咄嗟の行動でそれだけの準備をして窓に向かえるんだ……?」
窓に向かった明久達は、皆一様に脇に貴重品類を抱えていました。
「まったく、こういう時のお主らの行動力は相変わらずじゃのう……」
秀吉も呆れています。
「仰々しくぞろぞろと、一体何の真似だ?」
逃げるのを諦めたのか、雄二が窓を閉めて女子達の方へ向き直ります。
「よくもまぁ、そんなシラが切れるものね。貴方達が犯人だって事くらい、すぐわかるというのに」
そう言って島田さんの後ろから姿を現したのは、Cクラス代表の小山さんでした。
「犯人?犯人って何の事だ?」
まったく身に覚えがないので、とりあえず聞いてみます。
「コレの事よ」
今度はEクラス代表の中林さんが出てきて、僕達に何かを突きつけました。この人、召喚大会以来僕を目の敵にしてるから苦手なんですよね.....
「…………CCDカメラと小型集音マイク」
その手の物には詳しい康太が、その正体を教えてくれました。
「女子風呂の脱衣所に設置されていたの」
「え!?それって盗撮じゃないか!一体誰がそんな事を!」
「とぼけないで。貴方達以外に誰がこんな事をするっていうの?」
「ちょっと待って!疑われるのは仕方ないけど、確かな証拠もないのに断定される謂れは無いはずだよ!」
「そうじゃ!お主ら、少しはこちらの話を聞いてからでもよかろう?」
「言い訳なんて、聞く耳持たないわ!」
ダメです.....向こうにはもう何を言っても無駄みたいです.....
そういえば、雄二達は――
『……雄二、浮気は許さない』
『翔子、待て!落ち着ぎゃぁぁあああっ!』
『さて、真実を認めるまでたっぷりと可愛がってあげるからね?』
『あのね。僕、今まで美波ほどの巨乳を見たことがぎゃぁあああっ!』
『まずは1枚目ね』
『覚悟はできてる、土屋君?』
『…………(フルフル)』
『そう……でもね、問答無用よっ!』
『…………!(ジタバタ!)』
既に僕以外の3人に対しては、それぞれ私刑が執行されていました。
「「鏡護(君)」」
僕のところにも、優子と瑞希がやってきました。
「えぇっと……優子サンに瑞希サン?どうして2人して僕の腕を掴んでるんデスカ?」
「詳しい話は後で聞いてあげるから」
「これはケジメですよ」
2人とも、笑顔が怖いです.....
「あっ!優子、ちょっと待ぎゃぁぁあああっ!み、瑞希も止めぐぁぁあああっ!………」
2人掛りで両肩の関節を外され、僕は痛みで意識が遠くなっていくのを感じました.....
――ゴキンっ
「ぐぉあああっ!?」
突然襲ってきた激痛に、僕の意識は一気に覚醒しました。
目を覚ました僕が周囲を確認すると、どうやらここは旅館のロビーのようです。
「あ、目を覚ましたわね」
「よ、よかったです……」
声のした方を向くと、そこには優子と瑞希がいました。
「あれ?どうして僕はここに?それに2人も……」
一瞬状況がわからず、首を傾げかけて――
「あーっ!お、思い出した!2人ともいきなり肩の関節を外すとか、なんて事をしてくれたのさ!?」
僕達の部屋で起きた先程の騒ぎを思い出しました。
「いいじゃない。ちゃんと元通りハメ直してあげたんだから」
「そういう問題じゃないよ!っていうか起きた時の激痛はそのせいだね!?」
悪びれる様子の無い優子にツッコミを入れる僕。
「さて、それじゃあ事情を聞かせてもらおうかしら」
「しかもスルー!?」
「鏡護君、お願いします」
瑞希.....君もですか?
「……わかった。事情っていうのはさっきの騒ぎの事だよね?」
「「ええ(はい)」」
「疑われるのも仕方ないけど、あれは本当に僕達の仕業じゃないよ。」
「そう」
「よかったです」
2人して安堵の表情を浮かべます。.....というか、いやにあっさり納得しましたね。
「それよりも僕は2人に疑われた事の方がショックだったよ」
「私達は別に鏡護の事は最初から疑ってなかったわよ?ねぇ、瑞希?」
「はい。私達は鏡護君の事を信じていましたよ?」
「へっ?ならどうしてあんな事を?」
「あれはケジメよ」
「はい。ケジメです」
「それって誰に対するケジメ?」
「もちろん、あの場にいた他の女子生徒達に対してよ」
「あの場で疑われていたのは、鏡護君も含めた4人です。それなのに鏡護君だけ無罪放免されたら、納得しない子もいたと思いますから……」
「ああ。なるほどね」
確かに、そういう事ならあの仕打ちも納得するしかありません。
僕に余計な敵意が向けられないように、2人が考えて行動してくれた結果なのですから。.....できればもう少し穏便な罰にしてくれると、なおよかったのですが。
「そういう事なら、お礼を言わなくちゃね。優子、瑞希、ありがとう」
「「どういたしまして」」
これにて一件落着、ですね。
ついでに騒ぎの前に僕達が話していた件について、2人の協力を仰げないかと思った僕は話をしてみました。
「――っとまぁそんな感じなんだけど」
「……ふ~ん。『お尻に火傷の痕がある女子』、ねぇ……」
「うん。犯人が見つからないと、雄二と明久がピンチなんだ。探すのを手伝ってくれないかな?」
「私は構いませんよ。そういう事でしたら、美波ちゃんにも頼んでみます」
「そうね。アタシも協力するわ」
「ありがとう」
これでもう犯人は捕まったも同然でしょう。僕がホッと胸を撫で下ろしていると――
『君たち、止まりなさい!』
『雄二、どうする!?布施先生だよ!』
『構わん!明久、ブチのめせ!』
『そこは構いなさい坂本君!私は一応教師ですよ!?』
『了解!一撃でケリをつける!』
『吉井君も了解じゃないでしょう!?』
.....まさか、ね。
何やら聞き覚えのある声が聞こえた気がしました。しかも女子風呂に続く階段の方から。
その後しばらく地下が騒がしかったのですが、突然静かになりました。
それから5分くらい経った頃でしょうか。地下から明久、雄二、康太、秀吉を担いだ西村先生他、数名の教師が姿を現しました。
「西村先生!何があったんですか?」
とりあえず、西村先生に聞いてみる事にしました。
「何だ天水。お前の姿が見えないと思ったらここにいたのか。……お前も共犯か?」
「共犯?何のことですか?」
聞かれた事の意味がわからなかったので、問い返します。
「……本当に関係ないようだな。疑ってすまなかった」
じっと僕の目を見てきた西村先生は、一言僕に謝罪すると簡潔に何があったのかを教えてくれました。
「コイツらが女子風呂の覗きをしようとしたんだ」
.....ああ、やっぱり。
「鏡護!今までどこにいたのさ!?」
先生に担がれた状態のまま、明久が僕に聞いてきました。
「優子と瑞希に拉致られて、ついさっきまで両腕を外された状態でロビーに寝かされてた」
「……ごめん。鏡護も苦労してたんだね……」
.....明久達こそ、これからが地獄なのでは?
「お前らにはこれから『いつものヤツ』をやってもらうからな。天水、お前は早く自分の部屋に戻れ。そっちにいる木下と姫路もだぞ」
『いつものヤツ』:英語の反省文。文法や単語を間違えたら何度でもやり直しという、割と過酷な罰。
「わかりました。失礼します」
「「はい」」
そうして4人を指導室へと連れて行く西村先生を3人で見送りました。
「……まさか本当に明久達が覗き騒動を起こすとは思わなかったな」
「どうするのよ?これでもう言い逃れはできなくなったわよ?」
「そうですよ!またきっと大変な騒ぎになりますよ?」
「ハァ……。ほんと、少しはストッパーになる人の事を考えてほしいよ……」
何かを始めた彼らを止めるのは正直至難の業です。
「僕はとりあえず明久達の説得をしてみるよ。2人はとにかく早く犯人を見つけて欲しい。余計な騒動が起きる前に、ね」
「「わかったわ(りました)」」
「うん、よろしく。それじゃ、今日はもう部屋に帰ろう。お休み、優子、瑞希」
「ええ。お休み、鏡護」
「はい。鏡護君、お休みなさい」
こうして、強化合宿1日目の夜は更けていきました。
あとがき
鏡護 「うぅ……。2人から私刑を執行された……」
作者 「えー、例の如く主人公がネガティブモードなので、さくっと終わりたいと思います」
作者 「と、いう訳で次回予告!
次回、第22問『そして若人は夢に生きる(仮)』
を、乞うご期待ください!」