翌朝。
「う~んっ!……って、また他人の布団に勝手に入ってきてるよ」
目を覚ました僕の隣では、秀吉が眠っていました。
「お~い。秀吉、朝だよ」
「む、鏡護か。……すまぬ、どうやらまたやってしまったようじゃな」
「おはよう。……まぁ、そろそろ直した方がいいかもね」
「うむ、善処しよう。おはようじゃ、鏡護」
「ぐふぁっ!」
ん?何の音でしょう?
.....雄二が何故か明久の布団から蹴り出されてますね。
「なんじゃ。雄二はまた自分の布団から離れたところで寝ておったのか」
「秀吉、またってどういうこと?」
明久が秀吉に詰め寄ってきます。.....秀吉、今の明久に余計な事は言わない方が良さそうですよ?
「いや、別に大した事ではないのじゃが……雄二は大層寝相が悪いようでのう。明け方にはワシの布団の中に入ってきておって――って、やめるのじゃ明久!花瓶を振りかざしてどうするつもりなのじゃ!」
ほら、言わんこっちゃないです。
「殴る!コイツの耳からドス黒い血が出るまで殴り続ける!」
明久はちょっと落ち着きなさい。
――ガチャッ
「おいお前達!起床時間だ――ぞ……?」
「死ね雄二!死んで詫びるんだ!あるいは法廷に出頭するんだ!」
「何だ!?朝からいきなり明久がキまっているぞ!?持病か!?」
「あ、西村先生!ちょうどいいところに!」
「済まぬが、こやつを取り押さえるのを手伝って頂きたい!」
「…………(コクコク)」
「……お前達は朝から何をやっているんだ」
* * *
「それで、何か進展はあったの?」
朝食の席で、雄二に聞いてみました。
「いや。特には」
「あっ!そういえば昨日、工藤さんに『脱衣所にまだ見つかっていないカメラが1台残ってる』って言われたよ」
「何だと?」
明久の言葉に、雄二の箸の動きが止まりました。
「でも、怪しくない?そんな事を知ってるなんて」
「いや、そうとも限らんじゃろ。それならわざわざ怪しまれるような事を言うとは思えん」
「そうだね。でもそういう事なら、そのカメラさえ回収できれば犯人の特定は簡単にできるんじゃない?」
「…………隠し場所なら5秒で見つける自信がある」
僕の言葉に康太が名乗り出ます。
「けど、本当にそんなカメラがあるかどうかも怪しいよ?」
「いや。最初に脱衣所でカメラが見つかった方がおかしいんだ。あんなに盗撮や盗聴に長けた犯人のカメラが簡単に素人に見つけられるはずがない。つまりこれは――」
「…………二段構え」
「そうだね。となると、最初のはカムフラージュだったって事だ」
「用意周到じゃな」
犯人も馬鹿ではないという事ですね。結果として僕達に濡れ衣を着せる事に成功したのですから。
「けど、それならお風呂の時間を避けてカメラを取りに行けば解決だね」
「…………それは無理」
「うん。時間外だと、確か脱衣所には厳重に鍵が掛けられてるはずだよ」
「そっか。て事は……」
「諦めて今まで通りの方法を貫けって事だ」
「そのようじゃな」
「そこでだ。明久、昨日の敗因は何だと思う?」
「え?う~ん、向こうが女子の半分を防衛に回してきた事かな」
.....昨日はそんな事になっていたんですね。
「…………敵の中には、工藤愛子もいた」
康太が悔しそうに呟きます。余程邪魔をされたのが腹に据えかねたのでしょう。
「そうだ。昨日の敗因はAクラスを含め、敵の戦力が大幅に増強されていた事だ」
なるほど。Aクラスの人達まで防衛に加わっていては、Fクラスの戦力だけでの突破は無理です。
「そこで、こちらも戦力の増強を図ろうと思う。Aクラスをはじめ、他のクラスの男子を味方につけて対抗するんだ」
「う~ん。何かその作戦っていつもの雄二らしくない気がするんだけど……」
おや。明久がそこに気付くとは、成長しましたね。雄二も感心したように頷いています。
「ほぅ……。明久もだいぶ頭が回るようになってきたな。その通りだ。この作戦の目的は、正面突破だけじゃない」
「へぇ。それで、他の目的って?」
「これは僕の予想だけど、自分達の保身じゃないかな?」
「鏡護、正解だ。いいか。今のところは未遂で終わっているから大した問題にはなっていないが、覗きは立派な犯罪だ。作戦が成功して女子風呂に至ったとしても、例の真犯人が見つからない限り俺達は処分を受ける事になる。それを回避する為の秘策がメンバーの増員だ」
やはりそうでしたか。人数を増やすことで相手の特定を難しくするのが狙いでしょう。
「なるほどのう。じゃがワシらは既に面が割れておるぞ。それはどうするつもりじゃ?」
「そこは文月学園の弱点を逆に利用させてもらう」
文月学園は世界中から注目されている試験校です。
それゆえ、今回のような不祥事があった場合はひた隠しにするかキッチリ関係者全員を処分するかのどちらかしか選べません。
もし仮に中途半端に一部だけを罰する事があれば、ただでさえ叩かれている『クラス間の扱いの差』についてマイナス要因を増やすだけですからね。
「流石は雄二。汚い事を考えさせたら右に出る人はいないね」
「知略に富んでいると言え」
明久の言う通りですね。さしずめ、《奸智の申し子》といったところでしょうか。
「ふむ。ならば今日は協力者の確保を主軸に行動するのじゃな?」
「ああ。幸い合同授業の上にほとんど自習みたいなものだからな。動きは取り易いはずだ」
「そうだね。まずはどこから行く?」
戦力的にはA~Cクラスは仲間にしたいですよね。
「もちろんAクラスだ。同じ手間なら、能力が高い方がいいからな」
「Aクラスならば昨日の合同授業で交流もあるしのう。話もしやすいじゃろうて」
「決まりだな。合同授業の間にAクラスと話をするぞ」
「了解。ムッツリーニもそれでいいよね?」
「…………問題ない」
「そっか。じゃあ、頑張ってね」
本当なら僕も協力したいところですが、残念ながら応援する事しかできません。
「ああ。今日こそ犯人をとっ捕まえてやるさ」
―Side 明久
「Aクラスなら久保を説得するのが妥当だな。という訳で明久、お前が行ってこい」
「うむ。明久ならば適任じゃな」
「…………頼んだ」
合同授業の時間になって早々、久保君の説得を何故か満場一致で委任されてしまった。
「あ、うん。別にいいけど、どうして僕なの?」
特に断る理由もなかったので引き受けたけど、気になった事は聞いておこう。
「「「………」」」
.....どうして3人ともそんな気まずそうな顔をして目を背けるんだろう?
「あ、あのさ。何か凄く嫌な予感がしてきたんだけど、本当に大丈夫だよね?」
「そ、そうじゃな。一応久保はお主に悪意を抱いてはおらんと断言できる」
「…………彼に悪気はない」
「何で2人ともそんな奥歯に物が挟まったような言い方をするの?」
何だろう。だんだん行くのが怖くなってきた。
「明久、早く行ってこい」
「え?でも……」
「大丈夫だ。この中ではお前が一番久保に好かれている。自信を持て」
「あ、うん」
「……ただし、いざという時はコレを使え」
そう言って雄二は僕のポケットに何かを押し込んできた。それを横目で確認してみる。
スタンガン(20万ボルト)
.....どうして同じ学校の生徒に頼み事をしに行くだけでスタンガンを持たされるんだろう。雄二の考えがさっぱりわからない。
「そ、それじゃ、行って来るね」
何か釈然としないものを感じながらも、僕は久保君のいるテーブルへと近づいていった。
流石に学年次席だけあって、久保君は参考書を片手に真面目に勉強していた。邪魔をするのは悪いかな、とも思ったけどこっちも事情が事情なので声を掛けることにした。
「あのさ、久保君。ちょっといいかな?」
「吉井君かい?君が僕に用なんて珍しいね。まぁ座りなよ」
そう言って久保君は椅子に空きスペースを作ってくれた。でも久保君、わざわざ1人用の椅子に2人で座る必要はないよね?
そう思った僕は、しかし口には出さずに久保君の向かいの席に座った。
「……やっぱり僕はダメなのか……」
.....おかしい。何故だか急に寒気が.....
「と、ところで、お願いがあるんだけど」
「引き受けよう」
「実は――って、早っ!」
まだ内容も話していないのに。
「いや、すまない。少し冷静さを失っていた。話を聞かせてくれるかな?」
「あ、うん。実はその……」
覗きの仲間になってくれ、なんて言いにくくて口ごもってしまう。
「遠慮なく言ってくれ」
そんな僕をフォローするかのように、久保君は真摯に接してくれた。こんなに優しい相手になら、ストレートにお願いしても大丈夫なはず!とにかく久保君を信じて頼んでみよう!
「その……女子風呂を覗くのを手伝って欲しいんだ!」
「断る」
.....何だか裏切られた気分だ。
「吉井君、それは本気で言っているのかい?」
「う……。こ、これには色々とワケがあって……」
「見損なったよ吉井君。人の集まりにはルールがあり、それを守ることで社会が形成されている。だから、人として間違った事をしようとするキミは社会に不適合な人間と言える。もうすぐ社会に出ようというのにそれでいいのかい?そもそも、入浴中の女子の身体を見ようという考え自体が不潔だよ」
取り付く島もなく僕の反論を切り捨てる久保君。彼はそのまま不機嫌そうに鼻を鳴らすと、参考書に没頭し始めてしまった。交渉失敗だ。
「邪魔してごめん。それじゃ、僕はこれで」
仕方がないので、一旦雄二達のところに戻ろう。
「……人として間違った事、か……」
去り際に久保君が何やら呟いていた。悩み事でもあるんだろうか?
「明久、どうだった」
「ごめん。失敗だったよ」
「そうか。まぁ、無事で何よりだ」
「いや、そんな危ない事はしてないんだけど」
そうやって心配するなら、もっと他の時にして欲しいもんだ。
「しかしそうなると、他のクラスとの交渉を迅速に進める必要があるな」
「それはそうだけど、今は授業中だよ?」
自習中とはいえ、監視の目がないわけではない。今も勉強するフリをしていなければ、監督の先生に注意されているだろう。
「それはわかってる。しかし全クラスに声を掛けるとなると、休み時間だけでは到底時間が足りないからな。何としても授業を抜け出す必要がある」
結局僕らは騒ぎを起こして、その隙に教室を抜け出すことになった。
* * *
そんなわけで、恒例の出撃前ブリーフィング。
「結局、手を貸してくれたのはD・Eクラスだけじゃったな」
「仕方ないだろう。Bクラスは代表があの《卑怯者》なだけにまとまりがないし、Cクラスは代表が小山だからな。男子が尻込みするのも無理はない」
「けど、D・Eクラスが協力してくれるだけでも昨日よりだいぶ状況は良くなったよ」
「まぁそうじゃな。女子側とて、入浴の為に最大でも半数しか出てこられんじゃろうし、教師を抑えることができればなんとかなるじゃろ」
昨日以上の戦力を向こうは保有していないはずだから、今日こそは何とかなるはずだ。
「でも、ここまで大きな騒ぎにすると女子の入浴自体が中止にならないかな?」
「それはないだろ。教師側にもプライドがあるからな。『覗きを阻止できないかもしれないから入浴を控えてください』なんて言うと思うか?」
「ああ、そっか」
確かに先生達にも意地があるのだろう。召喚獣を使った勝負で、生徒に防衛線を抜かれるような事があってはならないのだから。
「それにこれは推測だが、教師達はこの事態を好ましく思っている可能性もあるな」
「え?僕らの覗きを?」
「ああ。あくまでこの合宿の目的は『生徒の学習意欲の向上』だからな。目的が何であれ、召喚獣を使って闘う以上、勉強はしなくてはならない。女子側も同様だ。防衛の為にも召喚獣は必要だからな」
雄二がもっともらしく説明している。
.....もしかして、それだからこの時間に僕らを部屋に拘束するという手段を取ってこないんだろうか?先生達も絶対に抜かれない自信があるからって、大胆な事をするなぁ。
「さてムッツリーニ。両クラスに作戦開始時刻と集合場所は伝達してあるな?」
「…………問題ない」
作戦開始予定時刻は20時10分、集合場所は1階にある大食堂だ。
「よし。それじゃ、そろそろ行くか」
「そうだね。もう皆待ってるかもしれないし」
D・Eクラスの男子全員が協力してくれたから、こっちの戦力は100人近くになった。これなら昨日のような結果にはならないはず――
「よ、吉井っ!大変だ!」
突然ドアが開いて、クラスメイトの須川君が部屋に駆け込んできた。
「須川君、どうしたの?作戦開始時刻まではもう少し時間があるはずだけど」
「やられた!大食堂で敵が待ち伏せしていたんだ!今は戦力が分断されて、各階に散り散りになっている!」
「なんだって!?」
まさか向こうに先手を取られるなんて。こっちの情報が漏れていたのか!?
「…………情報が漏れるような事はない」
ムッツリーニが僕の不安を払拭してくれる。確かに、あのムッツリーニがそんなヘマをするはずがない。となると.....
「こっちの考えを読まれていたか……!」
雄二が悔しげに呟く。
相手は雄二の思考回路を熟知していて、その上でこっちの作戦を潰しに来た。そんな事ができる人間を、僕は1人しか知らない。
「霧島翔子じゃな。流石、学年主席の名は伊達ではないのう」
「よっぽど雄二の覗きが許せないんだね」
こっちのアドバンテージは雄二の考える常識外れの作戦だけだったのに、それすらも許されないとあっては状況はかなり厳しい。
「…………迷っている時間はない」
「そ、そうだね!どうする雄二!?」
「どうするも何も、こうなっては作戦なんてあってないようなものだ。分断された戦力を一旦編成し直すしかない!とにかく出るぞ!」
「「「了解っ!」」」
須川君を合わせた5人で廊下に飛び出す。すると、そこはもう既に戦場と化していた.....
―Side Out
「行っちゃった……」
明久達が慌しく部屋を出て行き、今は僕1人が部屋に残っています。
――コンコン
「は~い。開いてますよ」
ノックの音が聞こえたので、そう返します。
「「お邪魔しま~す」」
入ってきたのは優子と瑞希でした。
「いらっしゃい。下の様子はどう?」
「男子はズタボロにやられてるわ」
「はい。今日は高橋先生もいらっしゃるので、かなり大変な事になってます」
「そっか」
学年主任の高橋女史が出てきているようでは、明久達には万に一つの勝ち目もありませんね。
「それで、2人が来たって事は『例の件』かな?」
「ええ。犯人がわかったから、教えようと思って」
「ありがとう。で、結局誰だったの?」
「えぇっと、それがですね……――さんだったんですよ」
「やっぱり。何となく脅迫の内容から、そうじゃないかとは思ってたんだけど」
とりあえず、これで明久と雄二の依頼は完遂ですね。
「で、あの連中はどうするのよ?覗きを止めるのはもう無理だと思うけど」
「それなんだけど、明日はちょっと僕も参加しようかと思ってるんだ」
「え?鏡護君もですか?」
「うん。と言っても僕は2人以外には興味ないから、あくまで召喚獣による戦闘を楽しませてもらおうかと思って」
「「――っ////」」
あれ、どうしたのでしょう?2人とも顔が真っ赤です。
「も、もう!そういう事をサラッと言わないの!」
「そ、そうです!鏡護君はいつも不意打ちで反則です!」
2人に怒られてしまいました。.....なんでさ?
「ご、ごめん。……で、いいかな?一応2人が反対したら止めにするけど」
「まぁ鏡護の事は信じてるから、アタシは別にいいわよ」
「私も構いません。鏡護君を信じてますから。……でも、誰と戦いたいんですか?」
2人から了承を得ます。と同時に、瑞希がそんな事を聞いてきました。
「……驚いた。瑞希、よくわかったね。僕が特定の人物と戦いたいと思ってるって」
「なんとなく、だったんですけどね。で、誰なんですか?」
「高橋先生だよ」
「……呆れた。鏡護、それ本気で言ってるの?」
「もちろんだよ。こんな機会でもないと、あの人とは戦えないからね」
「でも珍しいですね。鏡護君がそんな事を言うなんて」
「そうかな?でもまぁ、日頃の補習の意趣返しをしようかなってね」
「何、もう勝った気でいるの?」
「まさか。でも、負ける気なんてさらさらないよ」
「言ったわね?」
「当然」
「じゃあ、もし負けたら今度1日全部鏡護のオゴリでデートしましょう?ね、瑞希♪」
「はい!楽しみです♪」
「わかった。じゃあ僕が勝ったら、今度2人には1つずつ僕の言う事を聞いてもらおうかな?」
「いいですよ」
「望むところよ」
そうして3人で笑いました。明日は楽しくなりそうです。
あとがき
作者 「覗きは男の浪漫だ!」
鏡護 「今日もいきなり何を言い出すかと思えば……。覗きは犯罪だからね?」
作者 「うるさい!それでも覗くんだ!そこに理想郷がある限り!」
鏡護 「えぇっと、警察に連絡を……」
作者 「まぁ待て。話せばわかる」
鏡護 「……某首相の名言が残念な感じに……」
作者 「……というかだな。お前も最終日は参加するんだろ?」
鏡護 「そうだよ。でも僕はあくまで戦闘に参加するのであって、覗きには一切関与しないからね?」
作者 「ふ~ん。でも本当は覗きたいんだろう?」
鏡護 「……確かに、優子と瑞希だったら……(ボソボソ)」
作者 「だよな~!やっぱりお前もちゃんと“男”だったんだな!」
鏡護 「わかってくれたようでよかった」
作者 「ようしっ!ならば景気よく次回予告へいってみよーっ!
次回、第24問『浴衣撮影会と真夜中の珍事~どうしてこうなった!?~(仮)』
を、」
作&鏡 「「よろしくお願いしまーす!」」