バカと天眼の賢者と召喚獣 ※凍結   作:天御柱

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第29問 『恋人のフリをする話ってよくあるけど、これは何かが違う』

「じゃが雄二に鏡護。勝算があるのなら、何ゆえDクラスとの勝負を受けなかったのじゃ?」

 

先程の僕の言葉に引っ掛かったのか、秀吉がそんな事を聞いてきました。

 

「違うぞ秀吉。勝算はない。ただ、負けない勝負ができるというだけだ。勝つ事ができないから、ひたすら引き分けの為に戦う。そんな面倒な事、やらないで済むならやりたくないだろう?」

 

そういう事です。人間誰でも、無駄な事はなるべくしたくないと思うものですから。

 

「あれ?でもさっきの話だと、やっぱり戦争はするんだよね?だったら何で午後を点数補充に使わないの?」

 

「お前の耳は飾り物か?さっきのムッツリーニの話を思い出せ」

 

雄二に指摘されて明久が考え込む事しばし、

 

「ムッツリーニ!1枚100円は安すぎるよ!秀吉は500円なのに!」

 

「ほほぅ。500円か……2人とも、ワシの写真について少々話を聞かせてはもらえんかの?」

 

明久からもたらされた情報に、秀吉が明久と康太へと詰め寄ります。

 

「…………全て秘書がやった事」

 

「そんな政治家みたいな!」

 

「お前ら全然危機感を抱いてないだろ」

 

そんな3人を、頭に手を当てて呆れている雄二。確かにもうちょっと真面目に考えてください。

 

「さっきの情報で、根本は『こちらの動きを気取られたら即座に宣戦布告を行う』と言っただろう?」

 

「ああ、そっちね。確かにそんな事言ってた」

 

「つまり向こうは僕達が向こうの動きに気がつくまでは点数補充を続けるつもりって事だよ。これは逆に言うと、向こうの点数補充が終わるか僕達が向こうの動きに気付くまでは宣戦布告をしてこないっていう事になる」

 

Bクラスがかなり念入りに点数補充をしているのは、おそらく前回の戦争で僕達相手に苦汁を舐めさせられた事が効いているのでしょう。ある程度補充を終えないと不安になる気持ちはわからないでもありません。

 

「ふむ。ならば明日までは猶予がありそうじゃな」

 

「そうだね」

 

「そうなの?今日中に攻め込んでくる可能性はないの?」

 

秀吉の言葉に頷く僕に、明久が疑問を投げかけてきました。

 

「今朝西村先生が言ってたじゃない。試験召喚システムは今メンテナンス中で明日まで試召戦争はできないって」

 

「そうなんだ。今朝はそれどころじゃなかったから知らなかったよ……」

 

.....そういえば、明久は朝から異端審問会にかけられてたんですよね。

 

「そういう訳で、これから俺達はDクラスに宣戦布告させる為に工作を始める。期限は今日一杯。もし失敗すれば、俺達はまたみかん箱とござの教室に逆戻りだ」

 

この作戦、失敗は許されません。もしまた設備がみかん箱とござになれば、今度こそ瑞希は転校させられてしまうでしょうから。

 

「それで、具体的な案はどうなのじゃ?」

 

「今朝の一件を利用する。明久と島田をくっつけて清水を焚き付けるんだ」

 

なるほど。まぁ確かに、それが一番手っ取り早いですしね。

 

「え?でも、あの話は誤解だって」

 

「事実はこの際置いておこう。お前と島田はこのクラスの為に仲睦まじい恋人同士を演じるんだ。清水が嫉妬に狂う程にな」

 

「えぇぇっ!?そ、そんなの無理だよ!美波はあの話ですっかりヘソ曲げちゃってるんだよ!?」

 

「明久、無理でもやらなきゃダメなんだよ」

 

「そうだ。演技に関しては秀吉に任せる。台本なんかも用意できるようなら頼む」

 

「了解じゃ」

 

「それからムッツリーニは情報収集及び操作の方を続けてくれ。鏡護は俺と一緒に作戦が成功した時の為に対Dクラス戦の準備だ」

 

「…………わかった」

 

「了解」

 

「さて、そうと決まれば暢気に飯を食ってる暇はないぞ。姫路と島田が教室に戻ってき次第行動開始だ。ムッツリーニ。この教室の盗聴器は無力化されてるんだよな?」

 

「…………大丈夫」

 

「な、何て事に……」

 

今回の作戦は、今までと違って外交戦と情報戦です。キーマンが明久という事に不安はありますが、やるしかありませんね!

 

 

 

 

 

「それで、ウチにどうしろって?」

 

教室に帰ってきた女子2人に早速事情を話したところ、島田さんが案の定明久を半眼で見ながらそう答えました。.....どうやらまだ怒りは収まっていないようですね。

 

「明久と付き合っている演技をしてもらいたい。それも周りで見ているヤツらがムカついて血管が切れそうになる位ベタベタな感じでな」

 

そんな中で雄二がこちらの要求を告げます。

 

「絶対にイヤ」

 

当然断ってくる島田さん。まぁ今朝あんな事があったばかりで今度は付き合う演技をしろだなんて、質の悪い冗談にしか聞こえないでしょう。

 

「そこを曲げて何とか協力して欲しいのじゃ」

 

「ウチは何と言われてもイヤ。こんなバカと恋人同士だなんて、冗談じゃないもの」

 

島田さんは拒否の姿勢を崩す気は全くないようです。

仕方ないですね.....あまり使いたくはありませんでしたが、『あの手』を使うとしましょう。

 

「島田さん。一度冷静になって考えてみてくれないかな。確かに色々と思うところはあると思うけど、もし今ここで静観を決め込んだりしたら、後になってきっと後悔する時が来るよ。例えば、瑞希の転校とかね。そうなった時に、島田さんは自分を責めないでいられる?」

 

「うっ……それは……」

 

もし今回の戦争に負けて設備が今よりも酷くなったら、清涼祭の時のように瑞希の転校話が浮上するかもしれません。そんな事は島田さんも望んではいないはずです。

ついでに瑞希にアイコンタクトを送ると、瑞希は小さく頷いてから島田さんに頭を下げて、

 

「美波ちゃん、明久君。気が乗らないかもしれませんけど、お願いしますっ。すごく個人的な理由で申し訳ないんですけど、私やっぱり転校なんてしたくないんですっ」

 

そんな事を言いました。上手く僕の前フリに便乗してくれましたね。

 

「え、あ、いや。僕はもちろん協力するけど……」

 

明久がそう言いながらチラっと島田さんに目をやると、島田さんは頭を掻き毟らんばかりの様子で一言。

 

「あ~、もうっ!わかったわよ!とりあえず形だけでもやればいいんでしょ!けど、演技の内容次第じゃ、どうするかは知らないからね!」

 

「美波ちゃん、ありがとうございます!」

 

瑞希がもう一度島田さんに向かって深く頭を下げます。

 

「ま、まぁ、確かに畳や卓袱台はこの前買ったばかりだし……別に瑞希の為だけってわけじゃないんだから、そこまで気にしなくても……」

 

瑞希から顔を背けながら、島田さんがそんな事を言っています。相変わらず、素直じゃないですねぇ。

 

「そうと決まれば、早速演技開始じゃな。2人とも、これを受け取るのじゃ」

 

秀吉がそう言って2人に台本を手渡します。

 

「これって台本?いつの間に用意したのさ」

 

「ほとんどがワシの持っておった台本からの引用じゃからな。さして手間は掛かっておらんぞい」

 

それにしてもさっき雄二から指示を受けてから5分程度で台本を書き上げてしまうなんて、演劇に関する秀吉の熱意は一味違いますね。

 

「それじゃ、お前らはそいつを持って屋上で演技開始だ。ムッツリーニ、清水の盗聴器はどうなっている?」

 

「…………さっきは接触不良を装っただけだから、今はまた動くようにしてある」

 

「そうか。だとしたら、演技以外の会話は一切しないようにするんだ。清水にバレたら元も子もないからな」

 

「ちょっと待ってよ。まだ台本を憶えるどころか目を通してもいないのに」

 

「…………大丈夫。屋上のカメラには死角がある。台本を読みながらの演技でいい」

 

そう言うと、康太は簡単な屋上の見取り図を紙に書いて死角となるポイントを明久に教えます。

 

「それは助かるけど……でも、せめて内容くらいは確認させてくれない?変なシーンとか入ってるかもしれないし。その……キスシーンとか……」

 

いや、いくら何でもそこまでは要求しないと思いますよ?

 

「安心せい。そのようなシーンは入れておらん。それよりも、時間がないから急ぐのじゃ」

 

取り付く島もなく、明久と島田さんは秀吉に背中を押されて教室から出て行ってしまいました。

僕達は教室で康太の盗聴器で一部始終を聞く事になっています。さて、どうなる事やら.....

 

 

 

 

 

 

―Side 明久

 

 

 

ムッツリーニに教えてもらった死角を伝って屋上の隅へと移動する。

そして台本を取り出して美波とアイコンタクトを交わした。さあ、演技開始だ。

台本の1ページ目を見る。そこにはそれぞれの名前と台詞が書いてあった。

 

 

島田『ねぇ、アキ』

 

明久『ん?なに、美波?』

 

島田『今さらだけど……アキにきちんとウチの気持ちを伝えておこうと思うの』

 

明久『え?そんなの今さら言われなくても……』

 

島田『それでも聞いて欲しいの。確かに今朝は気持ちが先走ってキスはしちゃったけど――でも、こういう事はハッキリさせておきたいから……』

 

明久『う、うん、わかった。それじゃあ聞かせて欲しい。美波の、本当の気持ち』

 

 

それぞれの台詞を見て血の気が引いていく。な、何だコレは。新手の罰ゲームか何かなんだろうか。

 

「…………」

 

隣では美波も同じように台本を見たまま固まっていた。

でも、今はとにかくやらなくちゃ。僕は美波ともう一度アイコンタクトを交わして演技を始めた。

 

「ねぇ、アキ」

 

「ん?なに、美波?」

 

台本通りの台詞を喋る。台本を見ながらだから楽だね。

 

「今さらだけど……アキにきちんとウチの気持ちを伝えておこうと思うの」

 

「え?そんなの今さら言われなくても……」

 

それにしてもこの台本、何故か僕の台詞にだけ丁寧にふり仮名が振ってある。

親切設計だけど――何だかバカにされているようで悔しい。僕だってこれくらいは読めるよ!

 

「それでも聞いて欲しいの。……こういう事はハッキリさせておきたいから……」

 

あれ?今何か台詞が飛んだみたいだけど.....って、ああキスの部分か。そりゃこんなところで改めて言うのは恥ずかしいよね。僕も面と向かって言われたら恥ずかしいし.....。どうやら美波は自分の意に沿わない部分はアドリブを入れながらやるようだ。

 

「う、うん、わかった。それじゃあ聞かせて欲しい。美波の、本当の気持ち」

 

台詞を言い終えてから自分の頬が熱くなっている事に気がつく。コレは想像以上に恥ずかしいぞ.....!

それでも今さら止める訳にはいかないので次のページに進む。次は美波の台詞からだけど.....

 

 

島田『わざわざこんなところに呼び出してごめんね、アキ……。あのね、ウチは……アキの事が好きなのっ!』

 

 

読んだ瞬間鼻から胃液が逆流しそうになった。

こ、こんな台詞を言われるの!?っていうかこんな台詞、美波は言えるんだろうか?

 

「わ、わざわざこんなところに呼び出してごめんね、アキ……」

 

しおらしく、弱々しく言葉を紡ぐ美波。

 

「あのね、ウチは……アキの事が――」

 

今の美波は本当の気持ちを告げる為に、僕を屋上に呼び出したいじらしい女の子という設定だ。きっと可愛らしい告白をしてくれると.....

 

「アキの事が――嫌いなのっ!」

 

僕はそんな事を言われる為に呼び出されたのか。

 

「み、美波……?」

 

「初めて会った時からアキの事が嫌い!あれからずっと友達として傍にいるのが辛かった!本当は友達でいることなんて、我慢できなかったのに!」

 

なんだろうこの斬新過ぎる告白は。わざわざ屋上まで呼び出しておいて、初めて会った時からずっと嫌いだったと言われるなんて。

 

「美波……」

 

「アキ……」

 

と、とにかくこれはフォローしないと!僕は台本に目を走らせて次の台詞を確認すると、たっぷりと気持ちを込めて美波の目を見つめながら言葉を紡いだ。

 

「僕もずっと、同じ気持ちだった」

 

美波の繰り出す拳が、この時ばかりはとても理不尽なものに思えた。

 

 

 

 

 

「まったくお主らは、何という失態を……」

 

「流石にアレはないよ……」

 

教室に戻った僕らを待っていたのは、頭に手を当てて呆れ果てている秀吉達だった。

 

「だ、だって仕方ないじゃない!録音されているかもしれないのに、あんな台詞言えるわけないでしょ!?」

 

「そ、そうだよっ!それに美波があんな可愛い台詞を言える訳が――って、あれ?右手の感覚がなくなってるような?」

 

美波が掴んでる僕の右肘が酷い事になっているように見えるのは、きっと気のせいだろう。

 

「あ、それなら木下君。お手本を見せてもらえませんか?」

 

姫路さんが手をポン、と叩きながらそんな事を言った。なるほど。確かに演技のプロのお手本を見せてもらえば、僕らも少しはまともになるかもしれない。.....まぁ手遅れ感は否めないけど。

 

「んむ?別に良いが」

 

そう言って秀吉は台本を手に取ると、少しの間じっと見つめていた。

 

「よし、と」

 

そして台本を置いて僕の手を取る秀吉。

 

「え?え?」

 

僕はいきなりの事に戸惑う。けれど秀吉は気にする事なくキュ、と弱々しく僕の手を握り締めて顔を上げた。

 

「わざわざこんなところに呼び出してごめんね、アキ……。あのね、ウチは……アキの事が好きなのっ!」

 

「!?」

 

いきなりの秀吉の告白。僕の手を握って頬を染めながらも懸命に言葉を紡ぐ秀吉は言葉に言い表せない程に可愛かった。

 

「初めて会った時からずっとアキの事が好き!あれからただの友達として傍にいるだけなのがずっと辛かった!本当はただの友達でいるなんて、我慢できなかったのに!」

 

矢継ぎ早に繰り出される殺人級の台詞に頭がショートしそうになる。こんなに一生懸命に想ってくれるなんて、心の底から嬉しい。

 

「アキ……。あんな事しちゃった後で今さらだけど、改めて……貴方の事が好きです。ウチと、付き合ってください」

 

もうダメだ。こんな事を言われたら正気を保ってなんかいられない。

 

「母さん……。今僕は、初めて貴女に心から感謝します……。僕を産んでくれて、本当にありがとう……」

 

「――とまぁ、こんな具合じゃ」

 

スッと手から温かい感触が消える。あ、あれ?さっきの幸福感は?

 

「す、凄いわね……」

 

「そ、そうですね……。私が告白されたわけじゃないのに、思わずドキドキしちゃいました……」

 

「そこまで褒められると照れ臭いのじゃが……。まぁワシは勉強もせんでコレばかりやっているような人間じゃからの。これくらいは当然じゃ」

 

秀吉が頬をポリポリと掻いている。

そ、そっか。さっきのは演技のお手本だったのか.....

 

「?明久君、どうして泣いているんですか?」

 

「何でもないよ姫路さん……。ただ、少しの間だけ僕をそっとしておいてくれないかな……?」

 

幸せな夢ほど目が覚めた時に辛いものはない。僕は今その事実を痛いほど実感している。

 

「とにかく、今ならまだ取り返せる範囲じゃ。ここからはきっちりと恋人同士を演じてもらうぞい」

 

「「え!?まだやるの!?」」

 

「当たり前じゃ。次は島田と明久が教室を抜け出して逢引をしているという設定でやるぞい。明久と島田は腕を組むのじゃ」

 

「「…………」」

 

美波と顔を見合わせる。それはいきなりハードルを上げ過ぎじゃないだろうか?

 

「明久、島田。先程の失敗を取り戻す為に頑張るのじゃ。視覚的な効果は役作りの上でお主ら自身にも都合が良いのじゃ」

 

「わかったわよ。……一応腕を組むけど、他のところに触ったりしたら殺すからね……」

 

「りょ、了解。気をつけるよ」

 

そして腕を組んで2人で廊下を歩く。

 

「あはは。美波、そんなにギュッとされたら歩きにくいよ」

 

「ふふっ。別にいいでしょ?ウチらは付き合ってるんだから、これくらい」

 

僕の肘関節から嫌な音が聞こえてくるけど、それでも笑顔は崩さない。だって今の僕らは恋人同士なんだから。

 

「でも美波、そのせいでさっきから当たってるんだけど」

 

「え!?こ、この、スケベっ!」

 

「――アバラ骨が」

 

 

ゴキッ!

 

 

その瞬間、僕の肘関節が天に召された。

 

「うふふふ。アキってば、冗談が好きなんだから。本当に可愛いわね」

 

声を上げる事もできずに気絶してしまった僕には、美波の最後の言葉は耳に入らなかった。

 

 

 

―Side Out




あとがき

鏡護 「何だか明久が不憫に思えてならないんだけど」

作者 「うむ。流石に今回のコレはないな」

鏡護 「これだけやってもし上手くいかなかったらますますうかばれないね」

作者 「…………」

鏡護 「ちょっと!?急に無言にならないでよ!」

作者 「大丈夫だ、問題ない」

鏡護 「一層不安になったよ!?」

作者 「まぁ、冗談はさておき」

鏡護 「……本当に冗談なんだよね?」

作者 (視線を逸らしながら)「フィーフィフィー(口笛)」

鏡護 「(だ、ダメだ!嫌な予感しかしない!)」

作者 「それでは、次回予告です!

   次回、第30問『暗殺と交渉と不測の事態!?(仮)』

   を、」

作者 「お楽しみに~!」
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