『我々Dクラスは、Fクラスに対して宣戦布告を行う!』
翌日の朝のHR終了直後にやって来たDクラス男子のこの宣言に、僕達は驚きました。
「?なんじゃと?」
一緒に交渉に出ていた秀吉も怪訝そうな顔をしています。
「どういう事だ。昨日聞いた話だと清水の挑発は失敗のはずだが?」
そうなんです。昨日秀吉から聞いた話とは全く逆の結果が出ている事が解せません。
明久にも電話してみましたが、何故か繋がりませんでした。
「康太、状況はわかる?」
「…………昨日何があったかはわからない。ただ、今日は朝から清水が興奮していた」
「清水が?だとしたら昨日の挑発は成功していたって事か?」
「いや、そんな事はないはずなんじゃが……。明久。お主、あの後に何か話しておったのか?」
「い、いや、別に。それよりも試召戦争だよ!Bクラスじゃないとはいえ、今の僕らには厳しい相手なんだから早く準備を始めないと!」
.....これは明久が何かしたみたいですね。誤魔化したがっているようなので今は聞きませんが、後で教えてもらうとしましょう。
「そうだね。折角ここまで来たんだ。ここでDクラスに負けたら意味がないよ」
「確かにそうじゃな。今ワシらの中でまともに戦える者は少ない。この戦力で凌ぎ切るのは至難の業じゃ。余計な事を考えている暇はあるまい」
「…………防衛が優先」
僕の言葉に秀吉と康太が頷いて表情を引き締めます。
「それで雄二、作戦は?」
「考えてある。だがその前に戦力の確認だ。鏡護と姫路、島田以外に戦えるヤツがどれくらいいるのかを調べる」
そう言って雄二は教壇に上がると、
「野郎共、よく聞け!さっき言われた通り、これより俺達FクラスはDクラスとの試召戦争に突入する!まずは戦力の確認だ!各自、自分の持ち点を紙に書いて持ってくるように!」
「いいかお前ら!前回勝ったからと言って相手を舐めるなよ!この状況の上に相手は俺達より2つもクラスが上だ!下手に欲をかくと逆に手痛い目を見るハメになるからな!」
着々と準備は進んでいき、今は出撃前ブリーフィングとして雄二が教壇に立って説明を始めています。
「どんなに有利な状況でも決して深追いはするな!決められた場所でひたすら防衛に徹しろ!」
下手に追い討ちをすれば、こちらは一気に蹴散らされてしまうでしょう。何せ事前に行った点数調査では、僕と瑞希、島田さん、秀吉の4人以外のFクラス全員の総合点数は10000点にも満たなかったのですから。
補充を終えたDクラス女子が1人当たり1500点程度だと仮定すると、Dクラスは女子だけでも40000点近い点数という事になります。それにプラスして男子もいるのですから、戦力差は歴然です。
「向こうは圧倒的に有利な女子の総合科目をメインに攻めてくる!島田と秀吉を主軸に上手く立ち回れ!限界まで粘ったら状況によっては教室前まで退いてもいい!以上だ!健闘を祈る!」
雄二が説明を終えるとほぼ同時に時計の針が開戦時刻の9時を示しました。さぁ、戦争を始めましょう!
『『ぃよっしゃぁああーっ!!』』
今回は渡り廊下や階段といった要所を確保するのが目的なので、先遣隊が開幕ダッシュで現場を目指します。
当然向こうもこちらに何かされる前に決着をつけようと電撃作戦でくるはずなので、最初はスピード勝負です。
そして前線メンバーが出て行った教室に残っているのは、点数補充組と僕と瑞希です。
「雄二、何で前線に出ちゃダメなのさ。護衛なら瑞希がいれば充分だろうし、牽制の為だとしても2人とも残しておく必要はないんじゃ……」
当然前に出て戦いたかった僕は不満を口にします。
「確かに2人には俺の護衛と敵への牽制の為にここに残ってもらってる訳だが、お前はそんなに戦いたいのか鏡護?」
「だって楽しいじゃない、戦争」
「鏡護君、その言い方はちょっと危ないですよ……」
「姫路の言う通りだな。お前はどこの危険思想家だ。それにお前には重要な仕事があるんだ。前線に出す訳にはいかん」
「雄二のケチ」
「何とでも言え。それに憂さ晴らしはさせてやる」
「……じゃあいいよ」
渋々承知します。.....それにしても憂さ晴らし?一体何をさせる気なんでしょうか?
そうしている間にも戦況報告がひっきりなしに入ってきます。報告される戦死者の数がすごいですね。
「ただいま~」
と、そこに明久が帰ってきました。
「お帰り明久。首尾はどう?」
「ああ、うん。とりあえず雄二の指示通りにしてきたけど……それより今回の作戦を説明してよ」
「作戦の説明?さっき出撃前のブリーフィングでやっただろう?」
「そうじゃなくて、もっと細かい説明だよ。例えば、何で鏡護と姫路さんを前線に出さないのさ」
「それは姿の見えない僕達を警戒させてクラス代表の護衛に戦力を割かせる為だよ」
明久の問いに答えてあげます。
「なるほど。だから向こうの戦力はあんなに少なかったのか……」
どうやら納得できる根拠が前線にあったようですね。
「だが、それだけでは不十分かもしれないからな。向こうが強引に突っ込んでくる事がないように更にダメ押しをしておいた」
「ダメ押し?」
「情報操作だ。その為にムッツリーニには点数補充をさせてなかったんだからな」
点数のほとんど残っていない康太が教室にいない理由がコレです。
今頃康太はDクラスに対して『FクラスはDクラスとの開戦を望んでいた』という偽情報を流しているでしょう。
清水さんの仕掛けた盗聴器にそれとなく吹き込めば簡単に引っ掛かってくれるはずです。
その後も雄二による明久への作戦説明が続いていますが、まぁ聞かなくてもいいでしょう。
それにしても、Dクラス代表の平賀君は今頃開戦に踏み切った事を後悔しているでしょうね。
今回の戦争はDクラスが勝っても特に得るものはない上に、負ければ最低設備に格下げなんていうハイリスクノーリターンの戦争ですからね。
何かきっかけがあればすぐにでも休戦に応じてくれるはずです。
「というわけで明久。お前には空き教室で清水と一騎討ちをしてもらう」
「え?僕がやるの?」
おっと、あっちの話もそこに行き着いたようですね。というか明久、その役目は君以外では務まりませんよ?
そろそろ僕もあっちの会話に混ざるとしましょう。
「そうだよ明久。それに清水さんを引っ張り出すなら明久が好都合だからね。昨日の挑発もどういう訳か成功させたんだし」
「うっ……そ、それは……えっと……」
「とにかく、そういう事だから明久は今すぐ空き教室に移動して用意してね」
「そんなに上手くいくのかなぁ……?」
明久はまだイマイチ納得がいかないようですが、問題ありません。
「それは結果を見てのお楽しみってヤツだな」
明久の不安を拭うように、雄二が自信に満ちた笑みを浮かべて答えます。
「大丈夫だよ。必ず上手くいくから」
僕からもエールを送ります。
「まぁ、2人がそこまで言うならいいけど……」
とりあえず理解はしてくれたようで、明久はそのまま教室を出て隣の空き教室に向かいました。
「さて、これで後は清水が来るまでは待機だな」
「そうだね」
「そうですね……ふふっ」
「なんだ、姫路?突然人の顔を見て笑い出すなんて失礼なヤツだな」
「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃないんです」
「?じゃあどういうつもりだったの?」
「えっと、やっぱり何だかんだ言っても坂本君は明久君の事を理解しているんだなって思って」
「んなっ!?な、何をいきなり気色悪い事を……」
「……何で雄二もそこで照れるかな」
「いや、本気で気持ち悪いんだが……」
「だって明久君の事を理解してないと、さっき言っていた作戦を実行なんてできませんよね?」
「清水さんをおびき出す、って話の事だよね?」
「はい」
「……まぁ、理解云々はともかくだ。アイツの性格を考えれば、昨日の話し合いで秀吉達がいなくなった後にアイツが清水にどんな事を言ったのかは何となく想像がつく」
「そうだね。そしてそれが清水さんにとって放っておけない内容だったって事もね」
「私も……何となく、ですけどわかる気がします。明久君がどんな事を言ったのか」
「アイツはバカな分、考えてる事がわかりやすいからな」
「素直なんですよ、きっと」
「それは同意しかねるな」
「雄二は素直じゃないよね。……ツンデレ?」
「鏡護、殴られたいのか?」
「あはは。冗談だよ、冗談」
なんてやりとりをしながら、僕達は持て余した時間を過ごしていました。
―Side 明久
雄二の指示で空き教室に移動した僕は、特に何をするでもなくぼんやりと考え事をしていた。
脳裏をよぎるのは、美波の事。
僕の美波に接する態度は間違っていたんだろうか?
美波は僕が気を遣わないでいた事に傷付いていたんだろうか?
僕はもう徹底的に嫌われてしまったんだろうか?
そんな疑問がグルグルと頭を巡る。色々と考えてみるけど、考えれば考えるほど混乱していく。
そうして、気が付けば廊下での喧騒がこちらに近づいてきていた。
「そろそろ、かな……?」
頭の中からさっきまでの考えを一掃して思考を切り替える。今はとにかく試召戦争に集中しないと。
教室の方の防衛戦の様子も気になるけど、僕には僕の役目があるんだ。
そのまま待ち続けることしばし。
「こんなところに1人でいてくれて助かりました。貴方には話がありましたから」
待ちわびた相手がやってきた。
良かった。本当に来てくれたみたいだ。
「話って、何かな?」
歩み寄ってくる清水さんに問い掛ける。
「そう難しい話ではありません。要するに――白黒はっきりさせましょう、というだけです」
そう告げた彼女の目は敵愾心に満ちていた。余程僕が気に入らないらしい。
「幸いにも今は試召戦争の真っ最中です。わかりやすく決着をつける事ができます」
清水さんの後ろには布施先生の姿があった。
ここで逃げれば、僕は敵前逃亡で戦死扱い。でも、清水さんも僕が決着を望んでいると確信しているんだろう。
そして、その考えは恐らく正しい。
「わかったよ。勝負だ、清水さん」
「先生、召喚許可をお願いします」
「わかりました」
布施先生が許可を出したことによって化学のフィールドが展開され、
「「
2人同時に召喚獣を喚び出す。
清水さんは簡単にあしらえる相手じゃないのだから、こっちも慎重に攻めないと。
「……そう言えば、勝負を始める前に1つ聞いておきたい事がありました」
「何かな?」
「昨日の話ですが」
「うん」
「あれは、戦争を起こすための狂言ですか?あの交渉も、最後の言葉も」
「それは……」
即座に言葉が出ない。
果たしてここで正直に答えたところで、彼女に信用してもらえるんだろうか?
そんな疑問が僕を縛る。
「どうなんですか?」
再び清水さんから問い掛けられる。
「……嘘は……吐いて、いない……っ!」
何とか吐き出した言葉は、僕の紛れもない本心だった。
「…………」
僕が美波に酷い事をしてしまったのも事実。
僕が美波を傷つけて泣かせてしまったのも事実。
それでも、
「僕が言った事は、嘘じゃないんだ……!」
「…………」
僕をじっと見ながら沈黙を貫く清水さん。
僕はそんな彼女に更に続けて告げる。
「僕みたいなバカでも言っていい嘘と悪い嘘くらいわかる!昨日のあれは、間違いなく僕の本心だ!」
『Dクラス 清水美春 VS Fクラス 吉井明久
化学 112点 VS 22点 』
彼我の戦力差は約5倍。このまま戦えば圧倒的にこちらが不利だ。
「けど、逃げるもんか……!」
元はと言えば全ての原因は僕にあったこの騒動。迷惑をかけてしまった人達の為にも、僕が責任を取らないでどうする!
もしこの役を他の誰かに任せていたら、僕は騒動を起こすだけ起こして逃げ出したロクデナシだ。そういう意味では、こうして責任を取る機会をくれた雄二には感謝――
『『
「「えっ!?」」
不意に教室内に響いた召喚の声。目をやると、そこには点数補充を終えたFクラスの人達と鏡護を従えた雄二がいた。
「伏兵、ですか……!卑怯な真似を……!」
「雄二!いくら大事な勝負だからってこんなやり方は――」
突然乱入してきた雄二を止めようとするけど、それも雄二に遮られる。
「悪いが、これは勝負じゃなくて戦争なんだ。俺にはクラスを守る義務がある」
「くっ……」
雄二が冷たく言い放ち、鏡護を先頭にした皆の召喚獣がそれぞれ武器を構えて――
「や、やめ――」
「やれ」
それらを振り下ろした。
――僕の召喚獣に。
「……え?」
予想もしていなかった事態に、僕の頭が一瞬思考を放棄した。
―Side Out
「痛あぁぁあっ!ねぇ、何コレ!今までで一番痛いんだけど!?全身が!爪先から頭の天辺までのありとあらゆる部分に激痛が!」
明久がクラスメイトからの集団リンチを受けて床を転げまわっています。
「清水、この通り全ての元凶は粛清した。これで今回の件は水に流してくれないだろうか?」
「……そうですね。美春の怒りはまだまだ収まりませんが……」
1つ大きな溜め息を吐いて明久を見下ろす清水さん。
「わかった。ならば最後の仕上げをしよう。鏡護、やれ」
「了解。出でよ『
――バシュンっ!
僕の召喚獣が腕輪能力を発動し、明久の召喚獣を消し飛ばしました。.....ちょっとオーバーキルでしたかね?
「ぎゃぁぁあああああっ!」
――ガクッ
断末魔の叫び声を上げてその場にバタリと倒れる明久。
一撃で召喚獣の全身を消し飛ばす程のダメージのフィードバックに、流石の明久も気を失いましたか。
「……これで満足してくれないか?」
「わかりました。流石にここまでやればこの豚野郎も少しは反省するでしょう」
「ああ。それに今のでコイツは戦死したから補習室行きだ。後は放課後になるまで俺達はそれぞれの教室で点数補充でもしていればいい。その間コイツはずっと鉄人の餌食だ」
正直ここまで外道な取引もないですね.....
「今回はこれで許してあげましょう」
「ありがとう」
一応お礼は言っておいた方がいいでしょうね。
「いいえ。ですがもし次があれば……」
「大丈夫だよ。これ以上バカな事はしないように、ちゃんと教育するから」
「そうですか」
そこで話は終わりとばかりに清水さんが教室を出て行きました。
「それじゃ、交渉も成立したし教室に戻るか。野郎共!引き上げるぞ!」
『『おーっ!!』』
そうしてFクラスの皆も教室を後にします。気絶した明久を放置して.....
あとがき
作者 「実にあっけない終わりだったな」
鏡護 「雄二の言った憂さ晴らしって……」
作者 「明久への私刑執行の事だったんだな」
鏡護 「まぁちょっとやりすぎちゃったけど……」
作者 「(あれで『ちょっと』だと!?)」
鏡護 「作者さん、何か言った?」
作者 「い、いや。別に……」
鏡護 「そう?ところで、次回が今回の騒動の最終回だよね?」
作者 「そうだな」
鏡護 「って事はいよいよネタバレがあるんだね?」
作者 「ふっふっふ。その通りだ」
鏡護 「そっか。楽しみだなぁ」
作者 「きっとお前の期待に添えるものだと思うぞ」
鏡護 「それでは次回予告です!
次回、第32問『割と衝撃的な事件の真相(仮)』
を、」
作&鏡 「「お楽しみに~!」」