―Side 明久
「うぅ……。今日も酷い目に遭った……」
気絶から目覚め、鉄人による補習も終えて後は家に帰るだけだ。
校舎内に残る人影は少ない。もう放課後だし、きっと皆は帰ってしまっただろう。姫路さんは用事があるって言ってたし、他の皆は僕の補習が終わるのを待っているとは思えない。
溜め息混じりにFクラスの扉を開ける。さて、荷物を取ってさっさと帰ろう――ってあれ?
「皆、まだ帰ってなかったの?」
教室の中にはいつものメンバー、雄二と鏡護と秀吉とムッツリーニが残っていた。何だろう。なにか用事でもあったんだろうか。
「ちょっと気になる事があったからな」
「気になる事?」
雄二が妙に楽しそうな笑みを浮かべている。
「うむ。何でも、ムッツリーニが面白いものを聞かせてくれるらしいのじゃ」
その隣では秀吉も満面の笑みを浮かべていた。すごく楽しそうだ。
「明久とも一緒に聞こうと思って待ってたんだよ」
更には鏡護まで同じように笑っている。
「…………明久を待っていた」
ムッツリーニがお馴染みの小型レコーダーを卓袱台の上に置く。
「面白いものねぇ……。何だろ?皆が楽しそうなんだから、よっぽどいいものなのかな?」
「まだムッツリーニも詳しい中身は聞いていないようだが、面白い事は間違いないらしい」
「…………保障する」
自信満々に頷くムッツリーニ。コイツがここまで言うのだから、余程面白いものなんだろう。
「ねぇ、中身は何かな?」
「何でも、とある男女の会話らしいよ」
「男女の会話?」
誰かの告白シーンとかだろうか。それとも痴話喧嘩?どっちにしろ、そんな悪趣味な真似はこの4人も好きじゃなかったと思うけど.....
「ワシらが気になっていた一件の顛末がよくわかる会話じゃ」
「え……?」
ここにきて、僕は初めて違和感に気付いた。何かがおかしい。4人とも笑顔は笑顔だけど、どことなく邪悪なものを感じる気がする。
「…………スタート」
ムッツリーニがレコーダーのスイッチを入れると、レコーダーからは聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『この話し合いに何の目的があったのかは知りませんが、美春はもう貴方を恋敵として認めるような事はありません。お姉さまの魅力に気付かず、同性として扱うだけの豚野郎に嫉妬するなんて、時間の無駄ですから。……お姉さまの魅力がわかるのは美春だけです』
「あれ?この声って……」
「Dクラスの清水の声じゃな」
清水さんの声か。清水さんは美波が好きなはずなのに、
『……何です?美春に何か言いたい事でもあるんですか?』
清水さんの声が続く。
けど……あれ?この会話、どっかで聞いた事があるような……?
「って、ちょ、ちょっと待って!この会話ってまさか!」
「ご名答。これは、お前と清水が昨日の放課後に何を話していたのか、その一部始終を録音した物だ」
雄二がどことなく、どころか明らかに邪悪な笑みを浮かべて僕を見ている。
『うん。1つだけ。清水さんの誤解を解いておきたいんだ』
『誤解?何がです?お姉さまと付き合っているのが演技だという話なら既に知っていますけど?』
聞こえてくるのは、清水さんの声と――僕の声。
「ちょちょちょちょっと!なんて物を再生してくれてるのさ!?冗談じゃない!早く止め――」
「鏡護、秀吉」
「「了解|(じゃ)」」
雄二の指示で2人が動き、あっという間に組み伏せられてしまった。これ以上聞かれたらヤバいのに!早く止めないと!
『いや、そうじゃなくて……その……美波の魅力を知っているのは何もキミだけじゃないってコト』
「くっ!放してよ2人ともっ!これだけは本当にダメなんだ!」
「ふっふっふ。そうはいかんのじゃ」
「ごめんね明久。でも、やっぱり気になるからさ」
完全にホールドされているので身動きが取れない!ひぃぃ!
『何を言ってるんですかっ!いつもお姉さまに悪口ばかり言って、女の子として大切に扱おうともしないで!』
『うん。それは清水さんの言う通りかもしれない』
『だったら、お姉さまの魅力の何を知っているというんです!』
『確かにお姫様みたいに扱っている訳じゃない。男友達に接するみたいに雑な態度になっているかもしれない。けどね――』
僕の気持ちも知らず、レコーダーは無慈悲に話を進めていく。こうなったら.....!
「わーっ!わーっ!聞くなーっ!!流すなーっ!!」
「うるさいぞ明久。少し黙れ」
「むぐっ!?んむーっ!!」
雄二に手で口を塞がれる。やめてーっ!お願いだから聞かないでーっ!
『けど、何ですか?』
『――けど、僕にとって美波は、ありのままの自分で話ができて、一緒に遊んでいると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草がとても可愛い、とても魅力的な――女の子だよ』
ぎゃぁーっ!!
スピーカーから流れた声に、思わず目の前が真っ白になる。
聞いた!?聞かれた!?今の台詞を頭にインプットされた!?
恐る恐る確認の為に視線を巡らす。
「「「「…………」」」」
4人は、少し驚いたような表情をして僕を見ていた。
「……いや、意外だったな……」
「う、うむ……。もう少し婉曲に言ったものと思っておったのじゃが……」
「…………直球勝負だった」
「うん……。いや、明久らしいと言えば実にらしいんだけど……」
聞かれた.....。誰にも聞かれちゃいけない会話を、よりにもよってこの4人に聞かれた.....
「明久。お前、意外と言う時は言うんだな」
「な、何故かワシも鼓動が速くなってすごいのじゃが……」
「…………男らしい」
「格好よかったよ、明久」
この4人の記憶を消してやりたい。どうしたらいいだろう。ひたすら殴り続ければ忘れるかな?
なんて事を考えていると、
「…………っ!!(ダッ)」
ムッツリーニが急に厳しい表情になって廊下に飛び出していった。
「なんだ!?どうしたムッツリーニ」
「…………油断した」
戻ってきたムッツリーニが苦々しく呟いた。
「油断したとはどういう事じゃ?まさか、廊下に誰かおったのか?」
「…………今のを立ち聞きされたかもしれない」
ムッツリーニが静かに最悪の事を言ってのける。
え?聞かれたって.....まさか、今の僕の恥ずかしい台詞を!?
「ムッツリーニ!相手は誰!?」
「…………多分、張本人」
張本人、張本人.....。それって清水さんの事だろうか?
そっか.....。まぁ、それならそれで、恥ずかしいけど許容範囲内だ。何せ、一度直接聞かれているんだから。須川君辺りに聞かれるよりはずっとマシだ。
「そ、そうか。聞かれちまったか。すまん明久。まさかこれ程の物だとは思わなかった」
「すまぬ明久」
「…………ごめん」
「ごめんね明久」
4人が頭を下げてくる。
「まぁ、別にいいよ。張本人が相手なら。それより、悪いと思うんなら美波との仲直りに協力してよ。アレ以来ずっと険悪なままなんだから」
設備の防衛は上手くいったけど、僕にはまだ問題が残っている。頭が痛いところだ。
「いや、それは多分大丈夫じゃろうな」
「ああ。むしろ仲直りどころか……」
「…………うん」
「そうだね……」
今度は4人とも苦笑いを浮かべている。
「へ?何で大丈夫なの?」
仲直りのきっかけなんて何もないのに、どうして大丈夫なんだろう。4人とも何故か自信満々のようだけど――もしかして、僕の知らないところで何か手を打ってくれていたのかな?
それならそれでいっか。これで何もかも元通りだし、良かった良かった。
―Side Out
―Side 美波
――ガチャッ
「あ!お姉ちゃん、お帰りなさいですっ!」
「た、ただいま……」
「?お姉ちゃん?どうかしたですか?お顔が真っ赤ですよ?」
「葉月、どうしよう……」
「???何がですか?学校で何かあったですか?」
「あのね、葉月……」
「はいです」
「お姉ちゃんね……もう、どうしようもないくらい人を好きになっちゃったかも……」
―Side Out
あとがき
作者 「原作4巻恋愛騒動編、これにて終了~!」
鏡護 「いやぁ、結局はいつも通りの大団円だったね」
作者 「そして明らかになった意外な明久の男らしさ」
鏡護 「そうだね。僕もあれにはびっくりしたよ」
作者 「っていうか、結局状況的には今回の話が始まった時と同じじゃないか?」
鏡護 「……それは言わないお約束ってやつだよ」
作者 「いや、むしろ今回は本気だった分余計に……」
鏡護 「だから、それは言っちゃいけないんだって」
作者 「知らぬは明久ばかりなり、だけどな」
鏡護 「うん。まぁ、そこが一番残念なんだよね……」
作者 「しかしそれが明久クオリティ」
鏡護 「その一言で締めていいのかな?」
作者 「ちなみに次回は最近出番がなかった『あの人』にスポットを当てた外伝をお送りする予定です!」
鏡護 「『あの人』?う~ん……誰だろう?」
作者 「それでは次回予告!
次回、補習第10問『私と弟と召喚システムと(仮)』
を、」
作&鏡 「「ご期待ください!」」