境界線上の天照   作:-甘夏-

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さて二話です



二章 鍛錬の走者達

 跳躍するオリオトライに対して生徒の動きも迅速だった。戦闘系の点像やウルキアガはオリオトライを追いかけ、マルゴットなど援護ができる生徒は術式の準備を始めている。非戦闘員の鈴はマッチョヘルムのペルソナ君が肩に乗せている。そんな各自の動きは今までの経験から導き出される行動で、散々オリオトライに負け続けているからこそ生まれるものだ。

 そんな中で私も術式を展開する。本来は環境に作用する筆しらべだが、十年前から自分の肉体にも使えるよう訓練を行ってきた。そしてそれは一年前にようやく結果を出した。その筆しらべは『一閃』『画龍』の二つ。

 一閃は切断に特化した筆しらべ。筆を走らせた場所に斬撃が走る術式で穂先から一メートル程度ならば斬撃を飛ばすこともできる。それでも限界はあり神格武装などの強力な能力を持つ武装には適わないのが分かっている。

 二つ目の画龍は治癒や修繕に特化した筆しらべ。数メートルの建造物やちょっとした傷ならば即座に直すことが出来る術式で、戦場の援護で活躍する術式になっている。

 

「イッスン、来て」

 

走り出しと同時に発した呼びかけ。その声に反応したのは肩上のハードポイント。そしてそこから出て来たのは二頭身サイズで腰に刀を差して玉虫の様な兜と緑の衣を纏う少年。それは私の走狗で術式の仲介を行ってくれるパートナーであるイッスンだ。

 

『はぁ、今日もあの教師とやるのかよ。ここ最近一度も攻撃当てられてないんだぞ?』

 

そう言ってくるイッスンは呆れ気味だ。イッスンの言う通り授業内で先生に私の攻撃が通ったことは無い。それは今日も変わらないだろう。でも。

 

「拗ねるのは分かるけど今日は違うから。それに、とりあえず追いつかなきゃ。身体強化の術式いける?」

『そいつは楽しみだ。代演はサクヤの姉ちゃんとの会話一時間と絵画の奉納でいけるぜ』

「Judge. それじゃあ、お願い」

『あいよっ!』

 

イッスンが腰の刀『電光丸』を振り抜くと、術式が発動し脚力にブーストが掛かる。素の脚力では点像やアデーレには劣るが強化していればその遅れも取り戻せるはずだ。

 

 

 梅組の授業が接近すると、武蔵住民達はほとんどが家の中へと入り騒ぎが収まるのを待つのだが、一つだけ営業を続ける店があった。

 【青雷亭】と看板に記されたそこは女主人が元侍で食い逃げには刃傷沙汰も辞さないことで有名だ。そんな店内に立つのは一人の自動人形。P-01sと呼ばれる彼女は今日もカウンターに立っている。

 

「雑音は気にしないでいいけど、大事なかったかい?」

「Judge.」

 

P-01sからの答えに店主は満足気な笑みを浮かべる。

 一年前、店先にたたずんでいたP-01sの身元引受人となり今では店員として雇っている。最近では朝食のレパートリーも覚えてきているし、自分のレパートリーまで考え出している。

 

「お客様に『心こもってない?』と言われる以外は特に何も」

「そうかい。ならとことんやりな。何事も反復練習だよ」

 

 カランコロン。 P-01sの様子を見て厨房に入ろうとすると、玄関を開く音がする。

 …… 梅組が来るってのにご来店とは中々根性あるじゃないか。

 そんな相手は誰だろうかと思い、視線を玄関へと向けると、そこに居たのはよく見知った人物だった。

 

「久しぶりに来たけど、元気にやってる?」

「珍しいじゃないか。あんたがここに来るなんて」

 

のほほんと眼前で片手を降ってくる姿はこちらまで気が抜けてしまう。

 浅間神社の巫女服を着崩して入店するのは一人の女性だ。そこまで高くない身長と背中まで伸ばした黒髪を揺らして窓側の席に腰掛けている。

 

「店主様。あちらの方は……」

「あんたは会ったことないんだっけ。昔からの知り合いでね。神格武装『筆しらべ』の正当な使い手、甘上咲だよ」

 

 

 先陣を切った従士のアデーレを筆頭に点像やウルキアガもオリオトライに攻撃を通すことが出来ないでいた。梅組の中で近接戦闘をこなせる者は大半がリタイアしている中で、オリオトライに最も近いのは玉だけだ。

 ……近距離で頼れるのは玉くらいですよ。

 しかし玉の強化術式はまだ発展途上で、オリオトライに一撃を通すのは難しい。どうするものかと思案していると、後ろから声がかかった。

 

「あ、浅間、さん。玉、ちゃんから、伝、言」

 

声の主である鈴は目が見えない代わりに、聴覚が非常に鋭い。それは他人の微かな呟きでも理解できるほどだ。

 いくらオリオトライでも気づくことは出来ないだろう。多分。

 

「動き、抑えるから、おねが、い。だって」

「Judge.」

 

 

 母さんの持つ神格武装『筆しらべ』の制御に使う筆は帝の持つ三種の神器にあやかっている。剣、勾玉、鏡そして筆。この四つに形態を変化させる事が出来る珍しい神格武装。出力が低いが私の筆にもその力が宿っている。

 そんな神器と筆しらべを使い先生と刃を交えながら、圧倒的な差を感じる。

 斬り払い。弾幕。防御。中近距離を維持しながら攻撃を浴びせても、先生はその全てを長剣と身のこなしで交わしていく。それに対し、画龍で足場を整えて一閃の斬撃を放っていく。

 

 

「相変わらず異常な戦闘力……!」

 

放たれる斬撃重視の長剣は重く鋭い。以前から個人的に喧嘩と称した訓練をしている私でも勝てたことは一度もない。たとえ策を講じても私の動作と動作の間にタイミングを合わせて放ってくるのだ。

 今も連結した勾玉を長剣の柄と地面に打ち込むことで動きを制限したが、それを支柱に右の腹に蹴りを打ち込んでくる。それを鏡で防げば、拘束の解けた長剣を掴み振り下ろされる。腹にくる蹴りの勢いを利用して横に飛びそれを避けると、先生との距離は数メートル開いてしまった。

 

「防御だけじゃ何も出来ないわよ。じゃあね」

 

笑いながら長剣を担ぎ直し、速度をあげる背中に向かって勾玉を速射して叫ぶ。

 

「アサマチーーーっ!!」

 

 

 「会いましたっ!」

 

玉の声と同時に浅間は一撃を放つ。矢に巻かれた術式符は簡易的な結界を作り出すもの。それは何かにぶつかる事でその周囲五メートルに結界を張る。本来なら怪異を固定するのに使うそれを玉の放つ勾玉に向け放った。

 結果としてオリオトライと玉の周囲に結界が形作られる。

 玉の戦闘が続くのだ。

 

 

 「成長してるじゃない。アンタも浅間もね」

 

直立のまま長剣に手をかける先生。こちらから近づけば一発でホームランだろう。

 勾玉を筆に戻し、筆しらべの用意を整えながら考える。急造の結界ならオリオトライが長剣をフルスイングすれば壊れる可能性もある。

 ……多分三回振られたら壊れるだろうなぁ。

 どちらにせよ、先生の移動を阻止できている今は日頃の成果を見せるアピールポイントだ。

 身体強化の術式は継続中。筆しらべに使う流体も十分にある。

 

「行きます」

「宣言するなんて随分と余裕ね」

 

筆を構え前を向く。視線の先で笑う先生の長剣が握られる。

 瞬発する。加速が始まり、筆先に墨が集う。

 

「『霧隠』」

「ーーっ」

 

 その名を聞いた先生の目が見開く。

 目前に『=』を描いた途端、結界中に甘い匂いと紫煙が漂い始める。

 空間に作用する『霧隠』の筆しらべ。それは万物を時の狭間で惑わせる強力な力。その反面、消費する流体量も膨大で、私には四秒しか継続する事ができない。

 完成形ではない私の場合は運動速度を遅くするだけだが今はそれで十分。

 変化した剣を両手で構え、確かな踏み込みと共に加速する。

 先生が長剣を振り下ろそうとする。しかし、その動きは格段に遅くなっている。普段なら、その速度から見えることの無い太刀筋もはっきりと認識できる。

 ーー勝てる。

 精度を上げるため見据えるのは、腹部中央。勝利の確信を得て突き刺した。

 

 

 結界の内側から何かが飛び出して品川方面へと飛んでいくのを浅間は見た。

 

 

 化け物だなぁ。

 人の体であんな挙動は不可能な筈だ。だが、矛盾許容の世界で不可能という言葉は意味をなさないのだろう。

 私は思い出す。数秒前の異常な光景を。

 

 

 刺突が刺さる直前。突然、右から強い衝撃が体に浴びせられた。先生が振り下ろそうとした長剣が何故そこにあるのか。その答えは単純だった。

 振る方向を変えたのだ。それも私の勢いに重ねて結界を壊すように、だ。

  ……確かに長剣を振る速度は低下していた。なのに、どうして。

 

「アンタの霧隠は出力があまり高くないんだから、その出力を上回る物には意味をなさない。だから、全力で殴っただけよ。その分、片腕やっちゃったけどね」

「このリアルアマゾネスっ!!」

 

 なんて馬鹿力だ。

 砕けた結界から先生が飛び出る。霧隠も消え去り、点蔵達もまだ追いつかない。魔女組や浅間といった術式系でも、有効打にはならないだろう。

 ……また、勝てなかった。

 筆しらべの力をもっと活かす方法を考えていかなければ、先生に一撃を入れることは叶わないのだろうか。

 攻撃の威力で上空へ飛んでいた体も、今は品川方向へ下降を始めている。眼下では梅組の放つ術式光が見える。反省と皆の奮闘を祈りながら、私は品川の建物に墜落した。

 




さて、次回は原作主人公とか武蔵さんとか……?

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