境界線上の天照   作:-甘夏-

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今回は短いです!ごめんなさい!


六章 筆の操り手

目を開いた玉が見たのは、彼女の知る世界とは異なる景色だった。空を流れる雲。穏やかな風の流れ。遠くの山々。そういった自然の流れが墨で描かれている。

……まるで筆しらべね。

そして最も違和感を感じたのは周囲に漂う気配だった。人や怪異が放つものではなく、それよりも強い圧を感じる。

筆しらべを扱うことから一般人よりも接する機会は多いが、それでもここまでの圧を感じたことは無かった。つまるところ、ここには神々の気配が周囲には満ちているのだ。

そんな場所を玉は一つしか知らない。

 

「ここは神界なのね」

 

 

確認するように呟いた言葉と共に、周囲に流体の流れが生じるのを玉は感じた。

……これは、筆しらべ!?

 

「爆炎」

 

その一言を合図に、∞の文様が浮かび上がる。それと同時に巨大な火球が形成されていく。

正面十メートル程の位置。陽炎を伴うそれが一直線に玉へと加速してくる。

 

「っ疾風!」

 

迫り来る火球と玉の間に突風が発生する。風が火球を逸らし勢いを削ぐ中、風と炎の間から私は見た。筆を持ち、こちらへと明らかな殺気を飛ばす母さんの姿を。

 

 

咲は心の内でため息をついていた。

自らに与えられた時間の少なさを理解しているつもりだった。それでも、目標達成には至らなかった。

 

「時間はあまり残されていないの。だから、ちゃんと学んで」

 

多くを語る時間はない。その事実を認識しながら、娘へと最大限の殺気を放ち突進した。

 

 

「油断しないでね」

「――っ」

 

突如として眼前に現れた母さん。その言葉に答えるよりも先に、高度が上昇する。

下を見れば地面から数本の大木が生えているのが見える。その中の一本に乗せられ視界はさらに上がっていく。

そして眼下の母さんが腕を伸ばし手を開く。そこから放たれるのは勾玉。それも、足玉より強力で数の多い八尺瓊勾玉と呼ばれるものだ。

青と白の軌跡を描きながら飛んでくるそれらに筆を構える。

 

「払え」

 

筆を横に振り払えば、一閃によって木々が切断されていく。数十の丸太は重力によって下へと落下を始める。それらは八尺瓊勾玉、そして母さんへと加速を始める。

 

「紅蓮」

「しまった……!」

 

落下を続ける丸太へと龍のように猛火が襲いかかる。その根元は最初に衝突した火球と突風によって飛び散った火の粉。それを紅蓮の筆しらべによって母さんは操ったのだ。

そして火龍は丸太を食らいつくし、こちらへと襲いかかってくる。

 

「なら、火種を消すしか」

 

風で逸らしてもさっきの二の舞だ。ならば、火種が残らないようにしてしまえばいい。

 

「恵雨」

 

迫る龍へ向けてⅡを描く。途端に遥か頭上から恵みの雨が降り注ぐ。その水は龍に喰らわれて蒸発するが、しかし蒸発を免れた雨は地上に残る火種を消していった。

根元を潰された龍が断末魔を伴って消えていく。

 

「油断禁物」

 

地上からこちらを仰ぐ母さんが笑う。

 

「まさかっ!?」

 

視線を真横へ向ける。そこにはこちらへと迫り来る八尺瓊勾玉があった。

まだ数メートルの距離がある勾玉が光を放つ。八尺瓊勾玉に宿る冷気が漏れだし、周囲の雨を凍りつかせていく。

 

「捕まえた」

「――」

 

視界の全てが尽く固まった。




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