LGBT(正式名称:Lucent Girls Basebell Tournament) 作:kwhr2069
LGBT第三話、なんと20日ぶりになります。
一気に書いたため粗があり、展開も早めておりますがご了承頂ければ幸いに思います。
それでは…
(↑ここまでウグイス嬢ボイス)
カキン、と。
球場に、快音が響きわたる。
そこにいる誰しもが、
そして、その場の誰よりもその確信が大きい一人の女性は、自らが注目の的だと言わんばかりに、高々且つ堂々と、右手を突き上げる。
打球は、左中間スタンドに一直線。
球の飛来を待っていたファンが、自身がそれを掴まんとし、懸命に手を伸ばす。
人が乱れ合い、ボールは思わぬ方向に撥ねる。
「あっ」
ぽすっ、と。
撥ねたボールが、近くにいた少女のその左手にはめていたグラブに収まる。
…まるで、ボールがグラブへと吸い込まれるかのように。
ぱあっと、光が差したような表情を見せる少女。
それは本当に、奇跡とも言えるような巡り合わせだったのだろう。
そこからその少女は、近くの少年野球クラブで数年間野球に親しんだ。
様々な要因が絡み合い、中学生になる時には野球は止めていた彼女ではあったのだが。
それでも野球というスポーツを、自身の幼き心に大きな幸せをもたらしてくれたその球技を、彼女はずっと愛している。
そして今。
高校1年生となった彼女は再び、野球のグラウンドに立っていた。
オレンジ色の特徴的な髪が目立つその少女の名前は――星空凛という。
* * *
野球。
私は、その球技を。
私から、”女らしさ”というものを何よりも奪ったそれを、嫌っていた
――はずだった。
好きじゃないはずなのに。
辞めて、清々した気持ちになっていたはずなのに。
二度と関わりたくないとまで、思っていたはずなのに。
…どうしてこんなに、楽しいのだろうか。もっとやりたいと思うのだろうか。
相反する二つの気持ちが、私の身体を巡る、巡る、巡る。
ふと、目を横にやる。
かよちんと真姫ちゃんが眠っていて、そういう時間なのだと思い出す。
寝て、明日起きたら、LGBTの決勝戦。
相手は、私たちと同じくスクールアイドルでチーム出場しているという、浦の星女学院。
三年生の熟練されたバッテリーや、二年生二遊間の元気コンビの相性も優れている。
また、4番を打つ三年生の小原さんは、今大会既に3本のHRを放っている恐ろしい大砲だ。
もちろんココが、今大会の優勝候補と言われているチーム。
「…ここまで来たら、思いっきりやるしかないのかにゃ...?」
そう呟く。
当然の如く、私の疑問に答えてくれる人はいない。
「…寝るかにゃ」
沈黙の中で呟く。
布団を被り、眠りに落ちる。
その時。
何かが動く気配と、何か声がした気がしたが、私はそれを拾うでもなく、そのまま眠るのだった。
* * *
初戦の虹ヶ咲学園との試合以降、色々なドラマがあった。
二回戦ではアンダースローの投手に苦しめられ6回まで完全試合。
絵里ちゃんが先制点を許す苦しい展開から、7回での私の出塁をきっかけに3-2で逆転勝利。
三回戦は逆に、打ち合い、点の取り合いになった。
絵里ちゃんに加えて希ちゃん、海未ちゃんにことりちゃんまでもがマウンドに上がった。
荒れた試合展開の中で、なんとか9-7での勝利をもぎ取る。
そして、四回戦…準決勝。
シークレットチームとして登場してきた、A-RISEの三人や北海道から来たというSaintSnow。
それに加えて私たちの仲間であるはずのヒフミ先輩たち、浦の星所属というよいつむトリオ。
息の詰まる接戦。綺羅さんと絵里ちゃんの投げ合い。
勝利の決め手となったのは...”チームワーク”だった。
相手のミスに付け込んで点を挙げ、結果は3-1での勝利。
試合後の南理事長さんのドヤ顔が少し気になったけど、それは気にしないことにした。
来たるべき今日は、とうとう決勝戦の日。
ここまで来たら優勝したいと、そう考えるのが当たり前というもの。
ただ、私は違う。
まだ、悩んでいた。
それでも、そんな私の気持ちに応えてくれる訳も無く、試合は始まる。
私たち音ノ木坂学院の先攻で、試合は幕を開ける。
一回の表、早速私がヒットで出塁すると、2番のにこちゃんが送りバントで一死二塁。
3番の海未ちゃんはセカンドフライに倒れたけど、4番希ちゃんが左中間を破る二塁打。
その後5番穂乃果ちゃんが三振を喫したが、幸先よく一点を先制した私たち。
一回のウラ、先発の絵里ちゃんは相手の1番渡辺さん、2番津島さん、3番高海さんを相手に。
レフトフライ、セカンドライナー、センターフライ。
三人で、きっちりと抑えてみせた。
初回から絵里ちゃんのボールを外野まで飛ばすのは、流石強いチームだ。
二回表、私たちの攻撃は6番絵里ちゃんから。
インローのボールを上手く三遊間へ打つも、ショートの高海さんに抑えられて凡退。
続く7番ことりちゃん、8番真姫ちゃんはどちらも内野フライで、三者凡退。
代わって二回ウラ。
絵里ちゃんの初球のストレートを見事にライトスタンドまで運んだのは、4番の小原さん。
続く5番松浦さんもなんとレフトスタンドへのホームラン。
二者連続の一発によって、私たちは逆転されてしまった。
* * *
「「ボールが...軽い!?」」
二者連続HRの後、6番黒澤(姉)さんにヒットを打たれたものの、7番黒澤(妹)さんを見逃し三振。
続く8番国木田さんをセカンドゴロゲッツーに抑え、スリーアウトチェンジ。
その後ベンチに戻ると絵里ちゃんから話があるとのことで。
その話というのが、”私は投手としては重大な欠点があり、それが軽い球”と言うものだった。
確かに言われてみれば、これまでの試合でもHRでの失点が多かった気がする。
それはそうと、この回は9番かよちんからの打順で、私にも回ってくる。
私は、打席に向かうかよちんを見守りながら、ネクストバッターズサークルに立つのだった。
** ** **
マウンド上の黒澤ダイヤは、困惑していた。
いったいこの目の前の打者に、これまで何球のボールを投げてきただろうか、と。
永遠に続く三回の表一人目の打者に、色々な感情が入り混じる。
「(あっ...)」
「ボール!フォアボール」
痛恨のミス。
重ねたボール球が、とうとう四つに達してしまい、一人目のランナーを歩かせるという結果に。
そして、その後。
送りバントとセーフティバントで一死一、三塁としてしまい、3番園田さんにレフトへの犠牲フライ。
4番東條さんを敬遠の後、5番高坂さんは空振り三振に抑えたが、同点に追いつかれてしまった。
「申し訳ないですわ、せっかく鞠莉さん果南さんが追いついてくださったというのに...」
ベンチに戻る途中、後悔と反省をにじませながら果南さんにそう言う。
「いいっていいって。また逆転すればいいだけじゃん!」
「そうデース!ダイヤは十分ナイスピッチ、してるのデース!」
「ありがとうございます、恩に着ますわ」
励ましてくれるクラスメイト二人の存在が、どれだけ私を助けている事か。
「ダイヤちゃん、富士の天然水あるよ~飲む?」
「ねえねえ、やっぱり相手のユニフォームもカッコイイよね、ダイヤちゃん」
「それは今言う事なの?曜ちゃん...」
守備でこれまでも支えてくれている、二年生二遊間組の存在も。
「リリー、この回はアナタからでしょう?早くいかないと...」
「分かってるから。それと、リリーはやめて」
「ルビィちゃん、お姉さんのピッチング凄いね~マルもなんだか勝てる気がしてきたズラ!」
「うん!私たちも、頑張って貢献していきたいね!」
他、この四人は試合では活躍にかけていると思われるかもしれない。
だけどやはり、私たちのチームには絶対に欠かせない存在だ。
「勝ちましょう、絶対に!」
力強く言い放った私の顔を皆が見てくる。
そして、再度誓いを立てるようにオー!と声を上げるのだった。
* * *
その後、試合はテンポよく、ゼロを並べて進んでいく。
再び試合が動き始めたのは、六回表。この回先頭打者は、4番東條からだった。
カウント2-2からの外角球を、逆らわずに弾き返す。
ぐんぐんと伸びていくその打球は...ライトについていた小原の好プレーでアウトに。
しかし、であった。
続く5番の高坂が、これまでの二つの三振が嘘であるかのようなめざましい当たりをセンターバックスクリーンへ放ち、試合を3-2とした。
対する浦の星女学院だったが、こちらは音ノ木坂学院エースの絢瀬が完璧に立ちはだかっていた。
なんと、四回ツーアウトからこの回ウラの4番小原の打順まで、七者連続三振を奪ってみせる。
音ノ木坂学院勝利のムードが漂う中、七回からは小原がマウンドに上がる。
一人ランナーは出したものの、しっかりと抑えて反撃につなげる。
するとそのウラ。
先頭の松浦がヒットで出ると、続く黒澤(姉)はデットボールで無死一、二塁のチャンス。
しかしこの場面で、7番黒澤(妹)は空振り三振。
ここから下位打線ということもあり反撃は望めないように思えた。
続いて打席に入ったのは、サードの国木田。
彼女の心の中には、この大会...というかこの試合を通して、一つの思いが芽生えていた。
それは、相手チームの1番に座る星空凛、彼女に対しての憧憬であった。
元々国木田本人は、野球というものをよく知っていた。
野球好きな父の影響で、本人も一時期はクラブに所属していたほど。
だが彼女は、すぐに野球をやめた。
理由は、彼女の理想と現実が、あまりにかけ離れていたからだった。
だからこそ、今。
国木田は、野球の申し子とも見える星空に憧れ、少しでも彼女に近づきたいと思っていた。
野球の神様というのは、ドラマチックな展開が好きだ。
そしてそれは、少しの前触れと予想外の方向からやってくるもの。
この試合、絢瀬の113球目。国木田に対しての2球目のボール。
投げた瞬間、打った瞬間、と言った感じだった。
甘く入ってしまったその球を、懸命に振りぬいた国木田のバットが捉える。
元々あったパワー、それに神様が味方した。
試合に逆転し5-3とする、素晴らしいスリーランホームランだった。
* * *
「「「……………」」」
ベンチの中は、静寂に包まれていた。
予想もしていなかった相手伏兵の一発で、試合をひっくり返されてしまった私たち。
しかし誰一人として、諦めの類いを発言することはしなかった。
その証拠に八回表の攻撃。
ワンナウトから希ちゃん、穂乃果ちゃんの連打で一死二、三塁のチャンス。
打席には絵里ちゃん。逆転の望みはまだまだ全然ある。
しかし、ここで相手がとったのは...敬遠策だった。
一死満塁となり、ことりちゃんは空振り三振。真姫ちゃんはショートゴロ。
反撃ならず。
そのウラ、私たちはバッテリーを逆にする形で投手交代。
代わってマウンドに上がった希ちゃん。
ピッチャーライナー、センターフライ、レフト前ヒット、ショートゴロ。
相手4番小原さんにヒットは打たれたが、何とかきっちりと抑えた。
そして、迎えた最終回。
先頭打者は、9番のかよちん。
「凛ちゃん」
声をかけられ見ると、そこにはこれまでに見たこともない強い意志に満ちた彼女の顔があった。
「私、必ず凛ちゃんに繋げてみせる」
「……」
言われたものの、どう返すべきか分からない。
「…凛ちゃん、やっぱり昔のこと気にして...」
「…ッ!?」
核心を突くような彼女の問いかけに、身体が反応する。
「花陽は、野球が上手な凛ちゃんが大好きだったの。
だから今回も、大会って形で野球をする凛ちゃんの姿がまた見られるんだ、って。
…ごめんなさい、勝手なことかもしれないけど、言うね。
…凛ちゃんは、野球のこと、大好きなんだと思う」
「かよちん...」
「凛ちゃんがこの大会でまた、勝利を知ったら、その喜びを改めて感じれば。
きっと、今持ってる苦しみも解放してあげられる。花陽はそう思ってる」
だから、と続けて最後に、かよちんはこう言った。
「今日は私が、凛ちゃんを助けるよ」
果たして。
逆転した後の最終回のマウンドは、再びエースの黒澤(姉)さんに託した浦の星女学院。
勢いを取り戻した投球を見せているけど、かよちんも必死に粘って食らいつく。
「(かよちん...どうしてそんなに...)」
投じられた9球目。アウトローへのストレート。
流し打った打球は、きれいに二遊間を抜ける。
「(…かよちん!!)」
しかし、だった。
ライトの守備に就いていた小原が前進、猛ダッシュ。
ボールを拾うと、一塁へストライク送球。
「…アウッ!!」
ライトゴロ。先頭打者を出すことはできなかった。
一塁ヘッドスライディングまでして、汚れてしまったかよちん。
ふと目をやると、私の方に頭を下げて。
一瞬見えたその顔には、涙が浮かんでいた気がして。
そこから、私は何も覚えていない。
** ** **
怒涛の展開だった。
初回に先制したのは音ノ木坂。
二回ウラに浦の星が二者連続弾で逆転するも、三回表に2-2の同点。
試合はこれで振り出しに。
その後の均衡状態を破ったのは六回表、音ノ木坂5番打者の一発。
しかし、諦めない浦の星。八回ウラ、8番打者にスリーランが飛び出す。
だが、これだけで終わらないのが野球。
九回表、ワンナウトから1番の三塁打を皮切りに、レフト前ヒットで一点を返す。
更にそこから、ライト前ヒットとフォアボールで満塁とし、打席にはHR以降ノリノリの5番。
ここを、なんと空振り三振で凌いだ浦の星エースの黒澤(姉)。
二死満塁となり打席には、音ノ木坂エースの絢瀬。
四球目のストレートを弾き返し、左中間への二点タイムリー。
そして、現在。
前の回からマウンドに上がっていた東條がツーアウトを取ると、バッテリーが交代。
最後のマウンドにはエースが上がる。
打席には、逆転スリーランを放っている8番、国木田。
「絵里!最後はビシッと決めちゃいなさい!」
センターを守る少女から、命じるように。
「絵里ちゃん、ラスト一球ファイト~!」
レフトを守る少女から、ふわふわと。
「絵里、最後こそ気を引き締めて!」
ライトを守る少女から、力強く。
「エリー、ここで決めるわよ!」
ファーストを守る少女から、カッコよく。
「絵里先輩...頑張ってください!」
セカンドを守る少女から、任されて。
「絵里ちゃん!…ファイトだよっ!!」
サードを守る少女から、背中を押すように。
「あと一球!全力でいっくにゃ~!」
ショートを守る少女から、元気ハツラツに。
「(さあ絵里ち、三振で決めたろうやん!)」
キャッチャーを守る少女から、心を通わせているように。
味方からの声援がマウンド上の彼女に送られ。
投じた一球は――。
カキィィンと快音が鳴り響き、打球は、左中間を破るツーベースヒット。
あっ気にとられる両チームの面々と、焦りを顔いっぱいに浮かべる絢瀬。
そのままの流れで次打者への初球、ストレートが甘く入る。
続けて響く快音。
…が。
「にゃ!」
飛翔、好捕。
最後はショートライナーとなり、試合は決した。
「凛...ありがt」
「…絵里ちゃん、締まり悪すぎにゃ」
身も蓋もない今日のMVPからの一言で、LGBTは幕を閉じるのであった。
あまりにも雑なHBPになった(自業自得でしかない)ため、明日とかに後日談的な話を投稿しようかなと思っていたりしていますが、いかんせんここまで体たらくを見せた作者ですので、その期待は薄いです。(おいふざけんなちゃんとやれ)
わざわざこんな変な話を読んでくださり、目を通して頂き感謝の一言に尽きます。
…というか感謝だけでは言い表せないレベルの何かがあると思います。
心の底からお礼を。誠にありがとうございました!!
それでは。HBP第六弾でまたお会いできると良いなあ、と思います...(遠い目)