「今日もお疲れさん、朋」
夜だから当たり前だが、すっかり辺りも暗くなって。
スタジオから出ると、片手を挙げてプロデューサーがあたしを出迎えてくれた。
パワースポット巡りをしていたあたしをこの道に引き入れてくれた人。
ボサボサの灰色の髪、無精髭、やる気のない眼。
それだけで胡散臭いのに、ろくにシワ伸ばしもしてないだろうくたびれたスーツが余計にだらしのない印象を与える。
時々タバコなんて吸ってて、あたしにもその煙を浴びせてくる。
そのせいで正直タバコに良い印象が無い。
「もう、タバコやめてって言ってるのに。あたしも煙たくなっちゃうでしょ」
「へいへい。んじゃ、車出すぞー」
話を聞いてるのか聞いていないのか、プロデューサーは寮に向かって車を出してくれた。
「まあ、今日はお疲れさん。もうすっかりベテランじゃねえの」
「最初はどうなることかと思ったけどね、結構あたしに向いてたみたい、この仕事」
「最初はメール読むのも辿々しかったお前が、時間配分まで気にして進行出来る様になるなんてな」
「見守ってみるもんだな。へへへ」
「うん、ありがとうね」
「……本当に」
助手席に座りながら、胸に手を当てている。
「まーたあの時のこと、思い出してるのか?」
「うん」
「まあ、あの時は色々あったけどよ、何とか纏まって、今こうしてお前がラジオを続けられてる、それが何よりだよ」
プロデューサーはくしゃっとした顔で、白い歯を見せてあたしに笑顔を向けてくれた。
「そう、よね」
「ほんとうにあの時は……」
それは、あたしがラジオ番組を持ってみないか、とオファーがあった頃。
あたしは自分の番組を持てたと言う嬉しさと、本当にあたしなんかが番組なんて持って良いのか、と言う不安で板挟みになっていた。
ユニットの仲間達は凄く喜んでくれたし、プロデューサーも頑張んな、何かあったら俺がフォローしてやるからよって肩をポンと叩いてくれた。
初めての制作会議。あたしは構成作家さんとプロデューサーと、色々話し合った。
『こいつ、好きなこと…占いへの情熱が凄いから、それを活かす様な番組を作れればきっと行けます』
『人当たりも良いから、きっとハマれば人気番組になれると思います』
『最初はどうしても緊張とかで上手く行かないことも多いと思いますけど、どうか見守ってやってください』
プロデューサーは、凄くあたしのことを推してくれた。
普段はあんなだらしのない態度のプロデューサーが、あの時は別人に見えた。
その熱に呼応してか、あたしも言葉に凄く熱が入った。
「あ、あの…あたし、占いが大好きで…この世界に入ったのも、占いが…プロデューサーに出会えたのも占いが切欠で」
「占いって、不確かな物だから信じられないって人も、良い印象を持ってない人も多く居ると思います」
「でも、あたしには凄く大事な物なんです。自分の未来を、豊かにできる物だと、思ってるんです」
「だから、あたしは占いの良さを伝えていきたいんです」
「アイドルと言う媒体で、占いを宣伝するってちょっと違うかもしれません。でも、あたしにはどっちも大事な物なんです」
「あたしにきっかけを与えてくれた占いも、あたしを成長させてくれている、アイドルって言う物も」
「……何言っちゃってるんでしょうね、あはは」
言いたいことを言い切ってから、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
その言葉を、プロデューサーと構成作家さんは黙ってずっと聞いてくれていたのが、余計に恥ずかしい。
しばしの静寂が流れた後、構成作家さんから拍手が聞こえてきた。
「いやあ、凄い熱意をお二人ともお持ちなんですね」
「ええ、番組、やりましょう。お二人の熱意を見て、確信しましたよ。番組は成功するって」
「これでも構成の仕事は長いんで、人を見る目、あるんですよ」
そう構成作家さんは、ニッコリと笑って言ってくれた。
それを聞いた瞬間、思わず二人で顔を見合わせて声を揃えて、ありがとうございます!と大声で言ってしまった。
そして、番組は始まったのだった。