【3】
「はぁ……はぁ……」
後ろでは木が倒れる音が何回もしている。
「殺すッ!!」
その元凶は入浴中の少女だった訳だが。
「お前! 刀持ち出してくんなや!」
「うるさい! お前は絶対に殺す!」
ダメだ。完全に理性がぶっ飛んでやがる。
ていうか、銃刀法違反っての知らないのか……?
「……さて、どうしたものか」
幸い、バスタオルだけで身を守っているため走る速度は本調子では無いようだがかなり速い。
普段着を着ていたらすぐ追いつかれていたことだろう。
「ちくしょう! なんなんだよここ!? まるで俺の知っている世界じゃないみたいだ!」
「はぁ……? あんたなに言って……あ、あんたまさか外の世界の人なの!?」
外の世界なんだそりゃ?
「意味わかんねぇよッ!!」
「ち、ちょっと! 待ちなさいよ!」
「誰が待つか!」
俺は走った。
その行く道は登り坂となっており、遭難前に目指していた山頂に行くには5分もかからなかった。
【4】
「ここ……どこだよ………」
山頂に登ってすぐに、ありえない光景が目に入った。
そもそも英斗が登ろうとしていた山は、標高は高いものの雲を超えるほどでは無いのだ。
つまり、普通なら夜に光る街並みが見渡せるはずなのだ。
目の前には静寂な闇と広大な自然だった。
なぜそこに自然があるのがわかるのかと言ったら、空にあり得ないくらいに大きい月が輝いていたからだ。
その信じられない光景と美しい光景に目を見張っていると後ろから声が聞こえてきた。
「はぁ……はぁ……人が待てって言ったら待ちなさいよ」
振り向くとそこには湯船の少女がいた。
「なあおい、ここ、どこなんだ?」
少女は歩いて俺の隣まで来ると、その質問に答えてくれた。
どうやら、もう殺そうとは思っていないみたいだ。
「ここは忘れられた者が集う『幻想郷』よ」
「幻…想郷……?」
「そう。それで、あなたが今まで住んでいたところをここでは外の世界と言うの」
「なるほど……」
「それで? あなたはどうするの?」
「どうするって……?」
少女は一つの問いを出してきた。
それは
「外の世界に戻るのか、このまま幻想郷で生きるのか。どっちにするの?」
【5】
結局その場では答えが出せなかった。
口ごもっている俺に対し少女は、答えを聞くまで泊まらせてくれるらしい。
ありがたい限りだ。
「「……あの」」
走ってきた道を引き返すこと数分。
質問の答えを考えていた俺と、それを気遣って黙っていた少女は、ついに沈黙に耐えきれずに話しかけた。
「……先に言ってよ」
「いやいや、俺は後で言うよ」
「先に言って」
怖ぃ……。
それはともかくとして。
「俺はまだ君の名前を聞いていない。教えてくれないか?」
「……
「犬塚英斗だ。短い間だけかもだけど、よろしく」
こうして俺は霊山妖花の家に居候することになった。
〜紹介〜
幻想郷・・・人によって解釈や世界観が違うと思うので、それの説明。
この小説内での世界観としては、原作ゲームのような異変は全て解決されており、だんだんと妖怪への恐怖心が失われつつある。逆を言えば、人間と妖怪が仲良く生活できるような感じ。