【9】
「ありがとうな。買い物の手伝いをしてくれて」
「いや、礼を言われる事でもない。人が困っていたら助けるのは当たり前だろう?」
「ふーん…。外の世界じゃこういう時に助けてくれないんだぜ」
「えっ! そうなのか?」
俺と慧音は世間話に投じていた。
あの後妹紅は用事があると言って帰ったのだ。
そして、俺の買い物の付き添いをしてくれているという事だ。
「あ、そうそう。妹紅のことなんだけど」
「ん? 妹紅のことが気になるのかね?」
「まあな。あいつは女性じゃないのか?」
「…………。」
あれ? 言っちゃ悪いこと言ったかな、と英斗は思った。
理由は明白。
今まで楽しそうに話をしていた慧音が一瞬で曇り顔になったからである。
「いや! 言いたくないんならいいんだ」
「……そうか。いやでも、外の世界の話をしてくれたお礼だ。ちょっとだけ話そう」
具合が悪そうな慧音だったが、しっかりと話してくれた。
「……まあ、大した事ではないんだけれど、君も察している通り、妹紅は女性だ。いや、女性だった。が、正しいのかな」
「女性だったって……じゃあつまり今は……」
「そう、今は女性であることを忘れているんだ。自分は産まれてきた時から男性だ。ってね」
「そう……なのか」
「あっ、心配しないでくれ! 今はもう随分慣れたから、昔のことを思い出すとどうしてもね……時折考えてしまうよ。実は妹紅の中では私の記憶は無くて、あるのは最近の私だけなんじゃないかって……」
「慧音さん……。」
あいつはそんな奴じゃない、と言えたらどんなに楽だっただろうか。
しかし、俺は、妹紅どころか幻想郷の何も知らない。
何も。
「ところで英斗君」
さっきまでの雰囲気がまるで嘘みたいなテンションで、慧音さんは一つの質問を口にした。
「君はつい昨日に幻想入りしたと言っていたね。そしたら、どうやってそのお金を手に入れたんだい?」
その質問の答えは俺も知りたい所だった。
【10】
俺は慧音と別れを告げ人里を後にした。
まだ暗く無かったので、魚屋を教えてもらって値段の交渉をしたうえで、茶屋にでも行こうかと考えていたのだが、夜は妖怪が現れるから危険だと、子供に言い聞かせても笑われるようなことを言われた。
そんなことを言われなくても夜の山は充分危険だからすぐ帰ろうとしたのだが、慧音さんの目があまりにも真剣だったためすぐ帰ることにした。
あと、帰り道の方角を示した時にも、こんなことを言われた。
そっちの山には危険な人斬りがいる。
昨日の時点でその人斬りに出会わなかったし、霊山妖花の所に居候させてもらっているので大丈夫だと思うのだが。
しかし、自分の中で浮かんだ仮説をぬぐい切ることは出来なかった。
霊山妖花が人斬りであるという可能性だ。
妖花が日本刀を持っていたことも。
あんな山奥で暮らしていることも。
お金をたくさん持っていたことも。
全て合点がいくのだ。
合点がいってしまうんだ。
俺は確かめなくてはいけない。
妖花が、人斬りなのか、そうでないかを。
〜紹介〜
人里・・・現在は人間と妖怪が一緒になって笑いあえる交流の場である。しかし、昔はそうでは無かったのだ。なぜ交渉の場になったのか、それは、一つの事件が原因だ。
名もなき妖怪の軍勢が人里を襲ったことがあった。それをくい止めるべく動いたのが藤原妹紅だった。自分の身をとして妖怪の軍勢を止めてくれた英雄『妹紅』の願いで今の人里が出来たと言ってもいい。しかし、その代償として女性であることを忘れてしまう。