お稲荷様ののんびりVRMMO日和   作:野良野兎

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お稲荷様と新天地

「いや、まさかタマモが年下だったなんて」

 

「てっきり年上だと思ってたぜ」

 

 ボク達は今、始まりの森へと続く街道を歩いていた。

 出発前に明らかになった事実に三人は戸惑いを隠しきれないようで、しげしげとこちらの顔を眺めては、ははあ、と声を漏らしている。

 そんなに驚くような事なのだろうか。

 

「まあ、キャラメイクの際に身長()少しいじったが……。そこまで老けて見えるのかい?」

 

「いやー、見た目というか、雰囲気とか……。ほらほら、話し方も落ち着いてるし!」

 

 少し前を歩いていたモミジがこちらに振り向き、笑みを浮かべる。

 まあこういった事には慣れているし、ボク自身そういった事は気にしない性質(たち)なので別に構わないのだが。

 他のフルダイブ型MMOでも、同じような反応をされた事があるしね。

 

「あの、ごめんなさい。もしかして怒ってる……?」

 

 突然の謝罪に首を傾げる。はて、謝るような事を言ってしまっただろうか。

 丸く見開かれた瞳は、ボクの後ろへと向けられている。

 怪訝に思って後ろを確認すると、そこにはまるで地面を掃くように左右に暴れる尻尾が一本。

 それはまるで、何かを抗議しているようにも見えた。

 ふむ、と顎に手を添え、一呼吸。

 

「いや、これは別に怒っているという訳ではないから、どうか安心してほしい」

 

 放っておくとじたばた暴れ出す尻尾を右手で胸に抱き、押さえつける。

 やがて大人しくなったので一安心だが、小さな感情の波に対してこうも過剰に反応されてしまうと、なんともやり辛い。

 そうこうしているうちに、ボク達は始まりの森の入口へと辿り着いた。

 鬱蒼(うっそう)とした森林を切り分けるかのように、踏み固められた土の道がずっと伸びている。

 

「この道をまっすぐ進めば、ツヴァイの街だ。準備はいいかな?」

 

「そんな心配しなくても、ボクはいつでも大丈夫だよ」

 

 足が竦んで動けない、とでも思われているのだろうか。

 振り返って声をかけてくるハヤトに軽く手を振って答えると、彼は一つ頷いて森へと踏み込んでいく。その背中を追って、ボク達も森の中へ。

 先日森へ入った際は薄暗く、不気味な雰囲気があったのだが、この街道上は木漏れ日が辺りを照らし、風通りも良いのでそういった印象は全く受けない。

 道の途中で何人ものプレイヤー達とすれ違い、中には芋虫のようなモンスターと戦闘している姿も見えた。

 

「あれはキラーキャタピラーだ。体力が多いけど、単調な攻撃しかしてこないから経験値稼ぎにはうってつけの相手さ」

 

「成程。街道の安全確保と、経験値稼ぎを兼ねている訳か」

 

 なんとも上手くできているものだ。

 そうして森の中を十分程歩けば、呆気なく森の出口が見えてきた。

 先日のあの苦労は一体何だったのかと、少し拍子抜けである。

 

「さて、このまま森を出ればすぐにツヴァイの街なんだけど、折角だし少し経験値でも稼いでいこうか」

 

「お、いいね。私ももうすぐレベルアップだし」

 

「それはこちらも助かるのだけれど、蜂は止してくれよ?」

 

「出入り口付近には沸かねえから、大丈夫だろ」

 

 各々が武器を構える様を見ながら、少し億劫になりながら扇を取り出す。

 そこで、モミジが目を輝かせながら飛びついてきた。

 

「おお、武器変えたんだねー。というか、それって扇? おしゃれー!」

 

「市場通りの露店で偶然見つけてね。性能もそこそこで気に入っているんだ」

 

「へえー、いいなあ。よかったら、後でそのお店教えて貰っていい?」

 

「掘り出し物のようだったし、もう並んでないかもしれないよ?」

 

 ボクがそう言うと、モミジはがっくりと肩を落としてしまう。

 その様子を見た他の面々が、呆れたように笑った。

 

「そもそもオマエ治癒術士(ヒーラー)だろ。装備してもあんま効果ねえだろ。」

 

「分かってないなあ、装備は性能だけじゃないんだよー」

 

 ちちち、と指を振りながらモミジが胸を張ると、コタロウはそんな彼女に呆れたような視線を向けながら、あっそ、と手を振る。まあ、モミジも年頃の女の子だし、華やかな装備に目が行くのは仕方がないだろう。

 丁度その時、敵を発見したハヤトがこちらに声をかけ、背にした盾を構えた。その視線の先には、一匹のキラーキャタピラーが。

 

「四人だとそんなに時間もかからないだろうし、さくっとやっちゃおー!」

 

「はいはい、それじゃあいくよ!」

 

 モミジが杖を振り上げ、前回と同じように補助魔法(バフ)を全員にかけていく。

 きらきらと光が降り注ぐエフェクトを合図にハヤトが駆け出し、前に構えた盾をぶつけるように体当たりを放つ。後で訊いたところ、【シールドラッシュ】というスキルらしい。

 突進を横っ腹に受けて、キラーキャタピラーはガラスを引っかいたような悲鳴を上げてハヤトを睨み付けると、胴体に並んだ吸盤状の脚を忙しなく動かしながら、お返しとばかりにその巨大な体をぶつけ始める。

 

「オラア!」

 

 ハヤトが注意を引き付けている間にコタロウが側面へと回り込み、拳を抉り込む。

 その拳には鋭利な刃が付いた武器が握られていた。あの形状は確か、ジャマダハル、だったか。

 また珍しい武器を使っているなあ、と感心しつつ、後方から【鎌鼬】を放ち体力を削っていく。

 一匹目を倒すまでにかかった時間は五、六分程度。

 それに対して、手に入った経験値に関しては中々のものであった。

 

「やっぱり美味いな、ここは」

 

「油断してヘイト稼ぎすぎるなよ」

 

 互いに笑い合い、ハヤトが次なるモンスターの注意を引き、コタロウがその隙を突く。

 攻撃を受け、減少した体力は定期的にモミジが回復し、余裕があれば自身も攻撃に参加していた。尤も、主な攻撃手段はその大きな杖を使っての殴打であるが。

 それでいいのか治癒術士。いや、そうするしかないのだろうけれど。

 ともあれその連携はやはり見事なもので、あっという間にレベルアップである。

 

「お、上がったな」

 

「おめー!」

 

「おめでとう。これで二十だね」

 

 ハヤトの言う通り、これでようやくボクもレベル二十、一区切りである。

 そして予想通り、スキル取得のメッセージが表示された。

 

―初級妖術【塗壁(ぬりかべ)】を取得しました。

 

 

初級妖術【塗壁(ぬりかべ)

自身の前方に土の壁を出現させる。

一定時間経過、あるいは一定量以上のダメージを受けると消滅する。

 

 

 どうやら新しいスキルは攻撃用ではなく、防御や妨害に使えるもののようだ。

 これは意外と使い勝手がよさそうである。

 そして、話題になっていた外見の変化であるが、それはすぐに訪れた。

 

「タ、タマモ、後ろ後ろー!」

 

 始めに気が付いたのはモミジ。

 そう言われて何事かと後ろを見やれば、そこには淡い光を放つ尻尾が。

 内心ああやっぱり、という感想を抱きながら、その様子を見守る事数秒。

 光が収まった後にあったのは、あいも変わらずふわふわもふもふの我が尻尾。

 それが、二本(・・)

 

「おお、おおー!」

 

 きらきらと目を輝かせるモミジが面白くて思わず笑みが漏れる。

 予想通りの変化ではあったが、いよいよ妖狐らしくなってきたなあ。

 能力値のボーナスに関しても予想通り、知力に入っていた。これで戦闘時の火力も少し上がり、経験値稼ぎもより効率的に出来るだろう。

 だが、当のパーティメンバー達はそんな事はどうでもいいようで。

 

「ふわー、すっごいふわっふわだねー。あの、迷惑じゃなかったら、少し触ってもいい?」

 

「まあ、あまり強く握ったりしなければ構わないよ」

 

 そう言って二本に増えた尻尾を差し出すと、モミジは恐る恐るといった手つきでそっとそれに触れた。

 初めのうちは強張っていた彼女の表情が、尻尾を撫で続けるうちにあっという間に解き解され、次第に蕩けるような笑みさえを浮かべ始める。どうやら、相当癖になる手触りらしい。ボクも後で堪能してみよう。

 そして一応、尻尾もボクの身体の一部ではあるのだけれど、この子はそれを承知の上でこうしているのだろうか。それを指摘してみるのも一興ではあるが、気持ちはわからなくもないので、今はそっとしておく事にする。

 

「さて、それじゃあ次いこうか。コタロウ、モミジ宜しく」

 

「あいよ。おい、いい加減離れろやコラ」

 

「はっ、ご、ごめんなさい!」

 

 コタロウに声をかけられ、ようやく正気に戻ったモミジが顔を赤くして尻尾から手を離す。

 放っておくともげてしまうのでは、と心配になるほど激しく頭を下げる彼女をなだめつつ、ボクは笑った。

 結局、ボクがレベル二十一、他三名がレベル二十五に上がったところで経験値稼ぎはお開きとなった。何だかんだと、結構な数を狩っていたように思える。

 そして、改めて始まりの森突破を果たしたボク達を出迎えたのは、一面に広がる草原。

 ここは丁度丘のような地形になっているようで、森を出るのと同時に新たな風景を一望できる仕組みになっていた。

 街道は森を出てしばらくすると石畳で舗装されたものに変わり、その道の先には石造りの防壁にぐるりと囲まれ、風車が立ち並んだ街が見える。

 風と水の街≪ツヴァイ≫だ。

 街の傍には大きな川が流れ、石で組まれた巨大な橋がかかっているのが見えた。

 頬を撫でていく微風の感触に、はっと我に返る。

 

「やはり凄いな、このゲームは」

 

 ぽつりと漏れた一言に、三人が頷く。

 

「こんな光景、僕も生まれて初めてだよ」

 

「誰も経験ないだろうよ、こんなファンタジーな景色を見たのなんか」

 

「絵本の中にいるみたい……」

 

 瞳を輝かせ、そう零したモミジの気持ちが良くわかる。それほどまでに、目の前に広がる光景は幻想的で、美しいものであった。

 どれぐらいそうしていただろうか。

 誰ともなく踏み出した一歩を合図に、ボク達は街へと向かい歩き出す。

 新たな出会いと冒険を求め、いざ、風と水の街へ。

 ゆらりゆらりと揺れる二本の尻尾は、いつにもなく上機嫌であった。

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