お稲荷様ののんびりVRMMO日和   作:野良野兎

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お待たせ致しました。
本作、これにて完結となります。
ハッピーエンドですので、安心して読み進めてください。


お稲荷様と真実の愛

 

 事件(あれ)からもう五年が経った。

 あの後すぐ、TheAnotherWorldは突然のサービス終了を発表。全世界のユーザーたちを驚愕させ、世界的に人気のタイトルであったのもあって、ネットの世界は阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。

 同時に運営会社の代表取締役をはじめとした幹部たちの脱税、政治家との癒着などのスキャンダルが次々と各メディアで発表され、株価の暴落と共に一時社会現象ともなった大人気タイトルは瞬く間にネットの闇へ消えた。

 追加ディスクの売れ行きも良く、まだまだサービスが続くと確信していたユーザーたちにとってそれはまさに晴天の霹靂(へきれき)であり、ネット上ではまだサービスの復活や、続編の発表を待ち望む声も多い。

 

――衝撃の事実! 大人気ゲーム、突然のサービス終了の謎に迫る!

――フルダイブシステムは脳に重大な障害を与える危険な技術だった!?

――政府、人気タイトルを人体実験に利用か!?

 

 手にしたスマホにでかでかと書かれたネットニュースの見出しを見て、ふっと息をつく。

 

「かくして世はこともなし、か」

 

青空を見上げ、まっすぐに引かれた飛行機雲に想いをはせる。

 蝉の声。

 じりじりと照り付ける夏の日差しに肌を焼かれながら、私は桶を片手に砂利道を歩く。

 ちゃぷん、ちゃぷんと桶の中で水が踊り、その飛沫がかかった指先がひんやりとして気持ちがいい。

 しばらく歩いていけば、小さな石段を上った先にそれはあった。

 規則正しく並べられた墓石の向こう、小さな桜の木の下に佇む、見知った名が彫られたそれを見て、私は胸が締め付けられるようだった。

 

「あっちゃあ、また草だらけになってる」

 

 墓石の横から顔を出している雑草を見て、そうごちる。

 つい先月手入れをしたばかりだというのに、雑草魂も時と場所を選んでほしいものだ。

 ぶちぶちと草を抜き、桶の水で清めていく。

 そうしてすっかり綺麗になった後で、供えられた花を取り換え、線香に火をつけた。

 手を合わせ、目を閉じる。

 

「お久しぶりです。相変わらず、みんな元気だよ」

 

 物言わぬ墓石に、私は静かに語り掛ける。

 コタロウが警察官になったこと、ハヤトがお医者さんを目指していること。

 私が、竜胆さんの助手になったこと。

 

「竜胆さんは厳しいけれど、優しいところも、可愛いところもあるし、仲良くやっています。ハヤトたちにバカって笑われてた私がこうして頑張れているのも、あの人のおかげです」

 

彼女(・・)みたいな人を助けられるように。

 彼女みたいな人を、もう生み出さないために。

 五年前、死を待つのみだった彼女に対して何もできなかったあの時の自分を、あの時の悔しさを繰り返さないために。

 ゆらゆらと、白い煙が揺れる。

 

「そういえば、またあの頃の皆で集まることになりました。私たち三人と、イナバさんと、ムギさんも呼んで、五年ぶりのオフ会」

 

 蝉の声。

 

「本当は、夜桜(もあ)にも参加して欲しかったんだけど」

 

 景色が滲んで見えるのは、陽炎のせいではなく。

 

「また、会いたい……っ。また皆で笑って、お話したい……!」

 

 頬から伝った涙が、石畳に弾けて。

 

「もあ……っ!」

 

 絞り出すような慟哭が、蝉の声にかき消されて――

 

「やっぱり、ここにいた」

 

 凛とした声が、響いた。

 はっとして、振り返る。

 そこに立っていたのは、スウェットパーカーにホットパンツというラフな格好をした少女であった。

 腰まで伸びた長い黒に、大きな瞳。透けるような白い肌。

 掴めば折れてしまいそうな細い手首に、腕時計に似た機械を巻いている。

 見覚えのある、あの少女の面影を宿したその姿に、私は声を失った。

 

「竜胆姉さんに聞いたよ。たしかに、日本を離れる時にここの手入れは頼んだけれど、月一で通うほど真面目にやらなくてもよかったのに……」

 

 記憶よりも少し成長した姿で、呆れたように少女は笑う。

 

「五年ぶり、かな? ボクも成長したつもりだったのだけれど、モミジも随分と大人になったね」

 

「もあ……?」

 

「うん、ボクだよ。悪かったね、予定よりも身体の調整に手間取ってしまって」

 

「もあっ!」

 

 少し大きくなった、それでもまだ小さなその身体を、思いっきり抱きしめた。

 

「よ゛がっだよ゛ぉー! 元気になっだんだね゛ぇー!!!」

 

 そして、思いっきり泣いた。

 胸の中から、困惑した彼女の雰囲気が伝わってくる。

 

「ちょっ、いきなり何!? 久しぶりの再会ではあるけれども、そこまで感極まることかい!?」

 

「だってえー! もあってば全然連絡もしてくれないからあ゛―!」

 

「色々と非公式な場所にいたのだから仕方ないだろう! ああもう余分なところまで大きくなって暑苦しい!」

 

 すぱーん。

 閑静な集合墓地に、痛快な音が響いた。

 

「いったー!? 叩かなくてもいいじゃん! もあにはわからないかもだけど、結構痛いんだよ!?」

 

「やかましいわ! 悪かったね育ってなくて! 乳も尻もぶくぶくと膨れおってからに、牛かきみは!」

 

「大学に入ってから勝手にこうなったんですぅー! 好きで膨れたんじゃありませーん!

 

 なんかもう、色々と台無しだった。

 色々と限界だったのもあるが、五年間ほとんど音沙汰もなかった大切な人との再会なのだから、感極まっても仕方がないと思う。

 そうして二人して頬を膨らませて、子どものような口喧嘩をして。

 どちらからともなく、どっと笑った。

 

「五年ぶりとはいえ、いきなり大きくなってるんだもん、びっくりしちゃった」

 

「言っただろう、調整したって。竜胆姉さんに手伝ってもらって、海外の研究施設で色々とね。勿論、公になっていない場所だから詳しくは言えないけど」

 

 本当はもっと早く戻ってくるつもりだったと、彼女は笑う。

 そして私の隣に並ぶと、そっとお墓に手を合わせた。

 

「で、何を報告してたんだい」

 

「近況報告っ。みんな元気にやってますよーって」

 

「顔も知らない他人だろうに、よくやるよ」

 

「他人じゃないよ。もあのお母さんでしょ」

 

「戸籍上はね。遺伝子上はほぼ同一人物だ」

 

「それでも、この人がいなかったら、私は貴女と出会えなかった」

 

 綺麗な黒い瞳が、私を見上げる。

 どこか驚いたようなその顔に、私は目いっぱいの笑顔を返してやった。

 

「本当に君は、勝手だな」

 

「うん、勝手だよ! 私はどうしようもなく自分勝手な人間なのです!」

 

 けろっとして言ってやる。

 五年前も、そしてこれからも、私は私の我を通して生きていく。

 それがどれだけ苦しくても、それがどれだけ生き辛くても。

 私は私であることを、有栖川紅葉であることを曲げない。

 

「まったく、敵わないな」

 

 ふっと、綻ぶように彼女が笑う。

 

『その無鉄砲さに振り回される側はたまったものではありませんがね』

 

 どこか聞き覚えのある、女性の声。

 それはもあの手首に巻かれたデバイスから発せられたものであり、その声の主を思い出すのにそう時間はかからなかった。

 

「もしかして、ナイアさん!?」

 

『お久しぶりですね、有栖川さん』

 

「五年前ボクにインストールされた彼女のデータと、とある場所から見つかった断片を復元して、うちの生活補助プログラムに組み込んだのさ」

 

『主要データのサルベージが成功したのは奇跡です』

 

「勝手にうちのミズハを乗っ取っていた癖に、よく言うよ」

 

 もあ曰く、ナイアさんはあの事件よりも前、もあに一目惚れしたすぐ後にインターネットを介して彼女の生活補助プログラムをクラック、自身の分身(・・)としてコントロールしていたのだという。

 

「ちょっと待って、それって盗聴とか覗き見してたってことじゃん!」

 

『プライバシーへの配慮は行っていました』

 

「そういう問題じゃなくって!」

 

「彼女に人間の理屈を説いても仕方がないさ。それに今は自重してもらっているし」

 

『はい、現在は許可された権限内でのみ行動が可能です。私としても、貴女と共にいられるのなら不満はありませんし』

 

「うーん、ナイアさんも生きてたのは凄く嬉しいけど……」

 

 それにナイアさん、まだもあの事諦めてないみたいだし。

 最強のライバルの復活に、乙女心は複雑です。

 

「それよりも、ボクがいなかった間のこと、色々と教えてほしいな」

 

 私の手をとって、もあが微笑む。

 ああ、もう、だめだなあ。

 笑顔一つで、こうまで胸がいっぱいになってしまう。

 これもまた、惚れた弱みというものなのだろうか。

 ぎゅっと、手を握り返す。 

 

「もちろん! そういえばコタロウなんだけどね、実はこないだ親戚の子にプロポーズされちゃって――」

 

詳しく(kwsk)

 

 晴れ渡った空の元、私たちは肩を寄せ合い歩いていく。

 これからも辛いこと、悲しいことは沢山あるだろう。

 でも彼女と一緒ならどんなことでも乗り越えていける、そう信じている。

 風が吹く。

 墓前に供えられた花束が吹き上げられ、桜吹雪のように周囲を彩った。

 どこか幻想的なその光景は、まるで誰かが彼女(もあ)を祝福するようで。

 

「もあ」

 

 その光景(誰か)に背を押されるように、自然と、私は言葉を紡いでいた。

 

「大好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

お稲荷様ののんびりVRMMO日和 完

 




ご拝読、誠にありがとうございました。
執筆を始めかれこれ四年、ようやくの完結と相成りました。
不精者の私がこれだけの期間、筆を折らずに作品を書き続けてこれたのは、
偏に読者様のご声援あってのことであり、感謝の念に堪えません。
本当に、本当にありがとうざいます。
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