お稲荷様ののんびりVRMMO日和   作:野良野兎

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お稲荷様と大サソリ

 

 薄暗い、どこか冷たい空気が流れる坑道を、タンクであるハヤトを先頭にして、ボクたちはゆっくりと進んでいく。

 ロールプレイングゲームにありがちな、わりとテンプレートなダンジョン。それが、ビフレスト坑道の攻略を始めてボクが抱いた印象だった。

 大小様々な道が伸びる内部は一見複雑に入り組んでいるようで、その殆どが行き止まりになっている。そこに宝箱やトラップが配置されているのだが、つまりはいつぞやか攻略した地下迷宮と違い、分岐する道をしらみ潰しにしていけば必ず正解に辿り着けるようになっているのだ。

 出没するモンスターはコウモリやネズミ系のものを中心に、手につるはしや松明を手にしたスケルトンなどのアンデット系がちらほら。レベルはさほど高くはなく、レベルがカンストしたプレイヤーが複数人いれば、まず苦戦しないだろう、といったところである。

 さて、先程ボクはこのダンジョンをテンプレートなものと評したが、こういったゲームをプレイする人たちはこれをどう攻略していくだろうか。

 敵との戦闘を極力避け、最短距離を駆け抜けるか。

 はたまた、時間をかけながら、枝分かれした道を一つ一つ丁寧に探索していくか。

 経験値や戦利品を目当てに、徘徊するモンスターを片っ端から殲滅しながら進むというのも選択肢の一つだろう。

 そして、ボクたちが選んだのは二つ目。ダンジョンを隅々まで探索しながら進んでいく方法である。同時に、徘徊するモンスターも見つけ次第出来る限り殲滅していく。

 コウモリ系のモンスターからは牙や翼、スケルトンからは頭蓋骨をはじめとする骨系の素材を手に入れる事が出来るのだが、これがポーションなどの消費アイテムの素材になっており、自分で加工するも良し、露天に並べて売却するも良しと、なかなか美味しいアイテムなのだ。

 

「よし、とりあえず脇道はこれで終わりかな」

 

 長剣を鞘に納め、ぐるりと辺りを見回したあと、ハヤトが言った。その足元には、今しがた倒したばかりのモンスター、つるはしを手にしたスケルトン・マイナーが力無く横たわっている。そしてその奥、袋小路になったそこには宝箱が一つ。

 スケルトンの亡骸が光の粒となって消えていくのを見送ると、コタロウがおもむろにそれを足の爪先で小突いてみせる。少しばかり乱暴ではあるが、どんな形であれ、プレイヤーの身体が接触すれば開く仕組みになっているので仕様上は全く問題ない。

 中に入っていたのは石炭や鉄鉱石など、鉱石系の素材が幾つか。やはり坑道なだけあって、こうした素材がよく手に入るようだ。

 

「さて、それじゃあ次はボス部屋かな?」

 

「ようやくだな。たしかサソリみたいなやつだったか?」

 

「そうそう。名前なんだったっけ? あんと、アンテ、アンデス……アンデス・スコーピオン?」

 

 アンタレス・スコルピオンである。

 ちなみにモミジが適当に言ったアンデス・スコーピオンであるが、実は実際に存在する。

 とはいえ、そのままの名前ではなく、あくまでアンデス山脈に生息するサソリ、という意味ではあるが。発見されたのは標高五千メートル近い場所らしいが、環境汚染が進む昨今、今もまだ生存しているかどうか……。

 さて、そんな事を考えているうちに、ボス部屋である。あらかじめ場所を確認してから周囲の探索を行っていたので、なんらトラブルもなくここまで戻ってくることが出来た。

 まあボス部屋といってもそう大層なものではなく、ドーム状になった広場にボスがぽつんと配置されただけのシンプルなもので、広さはテニスコート二面分ほどだろうか。

 天井が高いのでさほど窮屈ではないのだが、それでも部屋の奥で待ち構えるボスモンスター、アンタレス・スコルピオンの巨体のおかげで随分と狭く感じる。

 

「それじゃあ、やりますか」

 

 バフを一通りかけ終わると、いざいざと意気込みながらハヤトが腰の長剣を引き抜き、アンタレス・スコルピオンへと駆け出していく。そして敵を射程距離内に収めた瞬間に左手の盾を投擲、シールドキャストを発動させ敵のターゲットを保持、その脇を走り抜けて背後へと回り込む。もはや見慣れた開幕のやりとりである。

 敵がハヤトを追って振り向き、こちらへ背を向けたのを確認してボクとモミジの後衛組は敵の真後ろから少しずれた場所、敵の動きを確認しつつ、ハヤトの動きが目視できる位置まで移動する。前線で敵を直接攻撃するコタロウは、敵の真横に陣取った。

 火打石を打つような、硬質な音が響く。

 口部にある鋏角(きょうかく)から耳障りな音を立てながら、アンタレス・スコルピオンがその大きな鋏を振り上げ、ハヤトに向かって振り下ろした。

 鉄を打つ鈍い音。攻撃を真正面から盾で受け止めたハヤトの両足が、僅かに地へ沈む。

しかしその直後、透き通った金属音と共に敵の鋏が盾から滑り落ち、轟音と共に地へと叩きつけられた。盾専用の防御スキル【シールドパリィ】だ。

 攻撃の勢いをいなされ、アンタレス・スコルピオンが不機嫌そうに金切声をあげた。

隙だらけのその背中に遠慮なく鎌鼬をぶつけたその直後、ボクは自身に襲い掛かった予想外の攻撃に目を丸くし、その場から飛び退いた。

 

「ええー。めんどくさい設定してるなあ」

 

 ボクが飛び退いたばかりの場所を強かに打ち付けたのは、アンタレス・スコルピオンの長くしなやかな尻尾であった。本来のサソリの攻撃方法とはかけ離れた使い方ではあるが、叩いた場所がどす黒く変色しているところを見ると、どうやら猛毒の属性まで付与されているようだ。

 弱点を突いたのはいいが、威力が高すぎてターゲットが移ってしまったのかとも思ったが、敵はいまだにハヤトの方を向いたままだ。

 どうやら背後からの攻撃に反応して発動する、カウンター技のようだ。

 しかし遠距離攻撃に対するカウンターにしては、随分と殺意に満ち溢れている。

 問題は、これが毎回発動するものなのか、それとも一定確率で発生するものなのか、というところである。

 毎回カウンターが発動するなら、正直遠隔アタッカー殺しもいいところだと思うのだけれど。

 何はともあれ、まずは検証だ。

 コタロウは問題なく攻撃できているようだし、側面からの攻撃は問題なし、と。

 まずはデバフの更新もかねて、敵に向けて土蜘蛛を発動。移動速度低下と、スリップダメージの効果を付与する。

 スキルが命中するのを確認し、ぐっと身構えるも反応はなし。どうやら状態異常系のスキルではカウンターは発動しないらしい。

 では次に、弱点ではない火属性のスキル狐火をぶつけてみる。これも反応なし。

 なるほど、なるほど。では最後に再び鎌鼬を。

 

即座に襲い掛かってきた尻尾に打ち据えられた。

 

「タマモ、大丈夫!?」

 

 一撃でHPを半分以上持っていかれ、おまけに毎秒体力が減少する猛毒状態まで付与されて転がるボクを見てモミジが大慌てで回復魔法を詠唱する。

 危ない危ない、危うく一乙(戦死)するところだった。

 

「もー、無茶しちゃダメだよー」

 

「ごめんごめん、少し試したいことがあってね」

 

 ぷっくり頬を膨らませるモミジをたしなめつつ敵のカウンター攻撃に関して説明すると、モミジはあからさまに嫌な顔をして、べっと舌を出して見せた。

 

「ええーなにそれめんどくさい! 聖属性は大丈夫だよね?」

 

「今のところは弱点属性だけに反応してるから、たぶん大丈夫だとは思うけど」

 

 治癒術師の攻撃魔法は全て聖属性だし、もしアンタレス・スコルピオンに悪属性が設定されていたら厄介極まりないな。

 とりあえずモミジにはカウンターの可能性があることを伝え、またハヤトたちの補助へと戻ってもらった。

 弱点がつけないのは辛いが戦闘自体は極めて安定しているし、このままいけばそう苦労することなく撃破することが出来るだろう。

 

 と、半ば気を抜きつつスキルを回していたのだが、問題が発生したのは戦闘の後半、敵の体力が残り二割を切った時のことだった。

 アンタレス・スコルピオンがその二つの大鋏を突き上げ、これまでよりもいっそう大きな咆哮をあげると、まるで狂ったかのように洞窟内を暴走し始めたのである。

 敵視もターゲットも関係なく暴れまわるアンタレス・スコルピオンに、防御力が低いボクとモミジは顔を真っ青にしてその攻撃を回避することに専念。近接職のハヤトとコタロウも、予想できない敵の動きに翻弄され、うまく攻撃が出来ないでいた。

 こうなっては仕方がないと、ボクは自身のMPを確認し、回復ポーションを飲み干す。

 

「モミジ、大技を使うからもしもの時はフォローをお願い!」

 

「えっ、あっ、ま、任せて!」

 

 被弾したコタロウに回復魔法を飛ばしながらモミジがぐっと拳を握ったのを見て、ボクは騰蛇(とうだ)の札を投げ放ち、召喚陣を発動させる。

 浮かび上がった六芒星の周りを梵字が回り、その中央から十二天将の一角、燃え盛る蛇が顕現した。

 

「おおー、すごーい!」

 

「マジか……怪獣映画かよ」

 

 そう使う機会もなかったため、いまだ目にする機会がなかったモミジが目を輝かせ、回復そっちのけでその雄々しい姿に見入っている。コタロウは頬を引きつらせているが。

維持するのに凄くMPを使うからあまり長時間は使えないのだけど、ボクの計算ではぎりぎり、敵のHPを削りきるまでは維持できるはずだ。

 手にした扇でアンタレス・スコルピオンを指し示し、炎と共に鎌首をもたげた式神にボクは命じる。

 

「攻撃開始」

 

 洞窟を揺るがす咆哮をあげて、大蛇が大サソリへと飛び掛かった。

 

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