十人目の旅の仲間   作:ひん(再就職)

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深淵に眠るもの

激しく扉を殴打されて木片が飛び散る。

閂が軋む。

扉に空いた穴にレゴラスの矢が飛び込む。

「ギャアッ!」

矢を受けたオークが悲鳴を漏らして離れていった。

レゴラスは素晴らしく早い連射で顔を覗かせたオークを仕留めた。

だが数は増えるばかりで、押し寄せるオークが入り口に続々と集結して扉を壊さんと雑多な武器で殴り付ける。

「来るぞ!」

アラゴルンも矢をもう二本放つと弓を捨てて剣を抜く。

お返しとばかりに突き出された弩が三つ。

「下がれ!」

ボロミアが身を挺して仲間の盾になろうとする。

発射された三本の短矢は横合いからオーザンが左手で掴み取った。

「うおっ!」

「はは、横取り御免っ!」

弩の強さによってはこの距離では盾で防げるか怪しかった。

処理出来るものは全部受け持つつもりで戦いに臨む。

扉が破られた。

「ほら、返すぜ!」

なだれ込むオークに矢を投げつける。

何匹かの腹を貫いて出鼻を挫き矢はばらばらに壊れた。

「掛かってこいやぁあ!!」

ギムリの雄叫びに呼ばれたオークが殺到する。

彼としては心行くまで乱戦のどつき合いを所望するのだろうが、あまり入り乱れるとホビットを守るこちらが不利となる。

「それはまた今度な」

少人数の戦いでは士気の高さよりも戦況を上手く操ることが勝利を得る鍵になる。

大声は囮としていい仕事だ。

「むんっ!」

セレグセリオンを両手で持ち、腰を思い切り捻ってオークの喉の高さで部屋の間口を横に一閃する。

こちらの前衛と斬り結ぼうと押し寄せたオークの尖兵数人の首が吹き飛び、あまつさえ振り抜いた先の石柱まで両断した。

恐るべきは腕前か剣か、双方が平然としている。

傾いだ柱はオークを潰しながら通路に倒れ、円柱の障害物に早変わりだ。

向こう側で後続のオークが乗り越えようと集まって騒いでいるが、円柱のすべすべしたなめらかさが幸いしてなかなか上がれていない。

端正込めて仕上げた内装が今やこんな使われ方をしていると当時のドワーフの細工師が教えられたら卒倒すること間違いなしだ。

「げほっ、めちゃくちゃだ。エルフってのは皆あんななのか?」

「エルフの名誉のために言うが、あれは私からしてもおかしい」

舞い上がる埃でむせるボロミアとレゴラスがひそひそ話をしているのが聴こえた。

「そこ、聞こえてるぞ」

精一杯頭と体を使って戦ってるんだ。

何が悪い。

「こらぁ!! おれの獲物をとるんじゃない!!」

真っ赤になったギムリが離陸しそうなほど手を振り回して跳び跳ねる。

「頼むから真面目にやってくれ!」

すっかり肩の力が抜けた様子のアラゴルンが言った。

全員がほどよい具合に力みが取れたようだ。

これでいい。

「俺が先頭に立つ。討ち漏らした奴を狙ってくれ」

円柱を奴らの方へ押し込む。

数十トンの岩石がゆっくりと動き出したが、後ろから押されているオークは逃げ場が無い。

慌てて抵抗する。

しかし止められない。

絶叫、悲鳴、ひきつった呼吸。

奴等の恐怖が擂り潰される感触が岩を伝う。

「ヒッ、押シ返セェ!!」

オークが必死に力を合わせるがオーザンの剛力の前になすすべなく石柱に飲み込まれる。

「怯えろ」

虫のように、家畜のように死ね。

闘争の栄誉も与えてやらぬ。

とどめに蹴飛ばして石柱を広間まで押し出す。

扉にたかっていた数十のオークはぐずぐずに潰れた果実のごとき死に様で床を汚した。

さしもの仲間たちも圧倒的な暴力に鼻白む。

「どうした! ドワーフを殺したなら次はエルフを殺してみろ!」

壊れた扉に仁王立ちで広間へ挑発する。

暗闇から返事の矢が雨のごとく翔んできた。

人間を針山に仕立てるそれも、何十万回と矢の前に立ち塞がり、同胞を守護してきた武芸者には無意味だ。

「かぁっ!」

袈裟懸けに空を斬る。

正面の空気が爆発した。

正確には途方もない剣の圧力に空気が押し退けられて弾けた。

技術もへったくれもない完全な力業で、全ての矢があらぬ方向へ落ちる。

一日の休息もせず鍛えに鍛えた肉体は形の無い風や音を斬ることも可能にしたのだ。

「ふん!」

二度と三度と試してもオーザンの体力の底は果てしない。

無駄だと知ったオークは肉弾戦に切り替えて広間のそこかしこから駆け出した。

錆と血で汚れた鉈や剣をかざして一直線に突っ込むオークなど良い的だ。

袈裟、逆袈裟、薙ぎの三太刀を振る。

団子になって来たその塊のままセレグセリオンが切り裂いてバラバラにした。

足元に死体が積み重なる。

軽装のオークが退いて、ドワーフの倉庫から奪った全身鎧と大盾で体を隠した大柄なオークが槍を出して死体の上を前進する。

交易用に作った大型の鎧を持ってくるとは、誰の入れ知恵か少しは頭を使えるようだ。

「はっ」

オーザンは鼻で笑った。

退いた軽装のオークが素早く助走して鎧の背中を駆け上った。

押せぬなら飛び越えようという肚だ。

「何匹か行くぞ!」

盾持ちの槍を捌きつつ、斬り上げた魔剣で上空のオークを股から真っ二つにして他は任せた。

降り注ぐ臭い血と臓物を避けて踏み込み、横一文字に斬りつける。

虎の子の鋼鉄の盾と鎧を薄紙のように黒き刃は通り抜ける。

黒い血に濡れたセレグセリオンは妖しく艶やかに輝いていた。

柄は手に吸い付いて理想の軌道を走り、何を斬っても刃零れや歪みはない。

相方としては最低だが剣としての機能は桁違いの業物だ。

鈍重なオークをあらかた片付け振り返ると、発奮するギムリを筆頭にマザルブルの間でも善戦している。

「うおおおおお!」

最後のオークの汚ならしい頭をかち割ったギムリが雄々しく勝鬨をあげる。

しかし勝ったと決めつけるにはまだ早い。

増援の気配だ。

そこにオークとは隔絶した重い足音も混ざる。

新手のオークにせっつかれ、広間の暗がりから巨体の怪物が現れた。

定説では、ヴァラの作りし樹の精霊のまがいものとしてモルゴスが作り出した生き物だという。

第一紀のモルゴスの軍勢の中に既にトロルはいたが、トロル独自での団体行動というものをしないためか、あまり歴史上にはトロルの事は出てこない。

歴史や暮らしぶりを細かに調べようとした者もいないため分かっていることは少ない。

石のように固い皮膚を持ち並の剣で歯が立たず、血はオークと同じく黒い。

また弱点として、日光を浴びると岩になるといった程度だ。

先頭を歩かされるトロルは厚い鉄板を繋げて体を日光からも守られている。

トロルは別段目新しいものではない。

闘争の日々ではオークが使役するトロルは飽きるほど斬殺してきた。

急所を防御する工夫をしてくる者も当然いた。

そのことごとくを仲間との連携で、あるいは一人でオーザンは粉砕した。

半円に囲まれたトロルが鉄材を継ぎ接ぎした棍棒を振り回して捉えようと床を叩く。

やっきになって床を割るが、軽やかに身を翻すオーザンに棍棒はかすりもしない。

床を砕く怪力は大したものだが、飛び散る破片がオークに跳ねて同士討ちになっているのにも気づいていないようだ。

「勝手にやってな」

部屋に押し入ろうとするオークの方がもっと厄介だ。

側方宙返りで横に振られた棍棒を飛び越え、回り込もうとしてきたオークの頭を着地で踏み潰す。

四方を取り巻くオークは下卑た笑いを浮かべる。

どちらが有利か分かっていない。

ただ間合いにたくさん収めたかっただけだというのに。

風を巻き起こす鉄槌と化した爪先はオークの頭蓋骨を粉砕した。

それを皮切りに大乱闘が始まった。

首をネジ折り、指を突っ込んで眼球を潰す。

兜の上から頭蓋を蹴り砕く。

四方の敵を時には盾にして捌き続ける。

常に囲まれているように場所を調整し、トロルはあからさまな同士討ちを嫌い二の足を踏んだ。

獣並みに半端な知性があるくせに、決断が遅い。

獣は迷わないがトロルは迷う。

それが弱点だ。

一撫ですれば二つの首が、二撫ですれば五つの首が宙を舞った。

鉄と血の暴風となってトロルを囲んでいたオークの群れを殲滅する。

今さらになって棍棒を構えたトロルだが、オーザンを殺すには遅きに失した。

叩きつける鉄塊を、半歩下がり上体を反らして紙一重で避ける。

再び棍棒を持ち上げるより先に、巨体に反して羽毛のような身のこなしでその上に飛び乗った。

「遅い」

コートをはためかせ、セレグセリオンを振り抜く。

禍々しい剣は期待通りに鉄板と顔面を食い千切りトロルの命を絶った。

トロルの胸元を蹴って地上に戻り、袖で魔剣についた脂やぶよぶよしたなにかを拭く。

ずしりと仰向けに倒れたトロルの頭部、上半分が転がった。

部屋に侵入したオークも退治し終わったようなのでそろそろ移動した方がいい。

声をかけようとして、どこかで岩が崩れる轟音が一帯を揺らした。

別動隊のトロルが他の地下通路から壁を壊したのだ。

もうもうとたちこめる煙に乗じてオークが次々と入り込む。

トロルとオークに前衛とホビットは分断されてしまった。

一体のトロルが体格に見合った大戦槌をフロドへ振り回す。

「ぬうっ!」

間に入ったガンダルフがとっさに魔法で白く透けた防壁を張りホビットを匿った。

取り囲んだオークもそれを攻撃して割ろうとしている。

「ぬあああ!!」

アラゴルン達も懸命にオークと戦うが次から次へと湧きだして手間取っている。

救援に行かねばならないが、しかし。

体を捻る。

今の今まで体を置いていた場所を矢が通過する。

オークの増援。

部屋の中と広間からの挟み撃ちだ。

モルドールの指示を受けたオークは野生のものとは一味違うようだ。

「くく、ははは、オークが一丁前に頭使ってんのか……上等だ」

馬鹿馬鹿しい。

ぞっとするような殺気を解放し、迫るオークの軍団を待ち受ける。

体当たりを弾き返して喉をえぐり、奪ったメイスを投げつけてすり抜けようとしたオークの頭を潰す。

もはや足場のどこにも死体があり、枯れ草色をしていたコートはオークの血でべったり汚れ全身が真っ黒に染まっていた。

「トロルを殺せレゴラス!」

オーザンが戦いながら中に指示を飛ばす。

彼らでは至近距離でトロルと力比べをしても勝ち目がない。

レゴラスの身軽さならトロルの急所を攻撃できる。

「承知した!」

曲刀の二刀流で優雅に戦っていたレゴラスが弓をとった。

「ギ……!」

まとめて放った二本の矢が四匹のオークの首を貫いて壁に縫い止める。

ガラスのような音を出してガンダルフの守りを割ったトロルの背中に矢を射って気を下に引く。

「はあ!」

ガンダルフがなけなしの魔法で衝撃をぶつけてトロルをよろめかせる。

勝機とみたレゴラスが壁を走りトロルの肩に跳び移った。

続けざまに矢を放ち、うなじに何本か突き立つ。

これが致命傷となり、トロルはオークを数匹巻き添えに絶命した。

ガンダルフが部屋の角で防壁を張り直しホビット達と立て籠っている間にレゴラスは高台に陣取った。

煙が収まりつつある室内を見渡し、手当たり次第に射殺す。

アラゴルン、ボロミア、ギムリの三人が息も絶え絶えになって維持する防衛線を援護する。

オークを駆逐する手間は格段に減り、数を削っていった。

反撃に転じたガンダルフと協調して、ついに横穴から出た別動隊のオークは全滅させた。

「全員無事か?」

アラゴルンが見る限り誰も怪我らしい怪我はしていなかった。

歴戦のつわものたちは上手くことを運べたようだ。

「外はどうなってる。暗くてよくわからんぞ」

オーリの日誌を拾うギムリの言うとおり、部屋の中からは広間が見えづらくなっていた。

「外にいたオーザンも気がかりだ。ここから出よう」

レゴラスは次なる敵に備え使えそうなものを拾ったりオークのものを奪って矢を補給した。

「行くぞ」

盾で体を覆ったボロミアを先頭に、魔法で照らしながら用心してじりじりと広間へ出る。

そして部屋を出た仲間たちは目を疑った。

「なんなんだこりゃあ……」

呆気にとられたボロミアは傷が増えた盾を下ろした。

暗いのではない。

血だ。

オークの血が辺りを塗り潰し暗く見せていた。

トロルとオークの死体が合わせて二百かそれ以上。

右も左も死体だらけだ。

「うっぷ……」

光景もさることながらひどい悪臭にサムがえずく。

「どこにいるんだオーザン!」

「ここだ」

アラゴルンの呼び掛けに応えたオーザンは死体の山に腰掛け、上から下まで真っ黒になっていた。

意外と近くにいたが、汚れ過ぎて死体に混ざっていたのだ。

オークの返り血で真っ黒に濡れた頭や手を振って水気を飛ばし、口に入ったものを吐き捨てる。

「退路は確保した。逃げるなら今だ」

積み上がった死体を蹴飛ばして道を開く。

ぐちゃりとブーツから血が染みた。

「あっちじゃ」

ガンダルフが道を示した。

「急げ。トロルよりデカいのがどこかに居るぞ」

あれだけ斬ってもセレグセリオンはまだうるさい。

そうまでして斬りたい相手がどこかにいる。

一行は出口を求めて闇の中を走り始める。

「いくつ倒した?」

短い足でえっちらおっちら走るギムリが訊いてきた。

「オークなんていちいち数えてられるか」

どうせすぐに増える奴等を数えたところで何になるというのか。

そんな習慣は無い。

「バーリンの仇はとれたか」

「ちょっとだけな」

ひと暴れしたギムリの心は少し落ち着いたようだ。

オークが退却して静かな上り坂を走る足元が揺れた。

揺れがどん、どん、と腹に響く。

「地震か?」

「いや違う。なんだこれは」

ボロミアとギムリが相談する。

ギムリに分からなければ誰も分からないと、仲間たちは困惑する。

「……なんだか太鼓みたいじゃない?」

太鼓の音。

オーリの日誌に書かれていたのはこれか。

ピピンの呟きで同時に全員が思い出した。

ガンダルフは蓄えた知識の内でその正体に心当たりがあった。

「深みより出たかドゥリンの禍、いや、バルログ!」

地下を掘りすぎたドワーフが目覚めさせてしまった神話の怪物。

ドゥリンの禍、すなわちバルログ。

邪神に従い秩序を焼き焦がす悪魔に堕したマイア。

ガンダルフのような戒めを受けずに力を振るえる暴虐の化身。

「敵う相手ではない、走れ!!」

広間を渡り疲れた体に鞭うってひたすら廊下を駆ける。

それなのにどうしたことか、太鼓の音色はどんどんと近くなる。

「やつの方が速い。このままでは追い付かれる!」

レゴラスの耳には怪速で迫る巨影の足取りが手にとるようにわかっていた。

モリアを抜けるまでに遠からず捕まる。

後方では橙色の陽炎が揺らめき通路の壁を彩りだした。

「俺が時間を稼ぐ」

「無理じゃ、よさんか!」

ガンダルフは反対した。

かつては竜と並んでモルゴス軍の主力を成し多くの光のエルフの勇士を葬った怪物に、今の世の人の身で抗えるとは到底思えない。

「きやつは上のエルフすら恐れた本物の悪魔じゃぞ」

「なおさら適任だ。ただのならず者なら死んでも旅に影響はない」

オーザンは飄々と言ってのけた。

そこには諦めも恐怖もない。

これが最善なのだと行く末を受け入れた、透き通ったもののふの顔つきをしていた。

それでガンダルフは大きな思い違いをしていたと気付く。

オーザンが立ち止まると仲間たちは足を緩めた。

ガンダルフはしゃがれ声で切り出す。

「手遅れでも言わせて欲しい。わしは弱かった。信じられなかったのじゃ」

杖を握るふしくれだった手は自己嫌悪で震えていた。

「……わしを許してくれ。中つ国ですら誰が味方か見分けがつかず、おぬしをサルマンの手先と疑っておった」

「そうか……」

過ちを認めるのには勇気が要る。

勇気を絞ったガンダルフの心からの懺悔に、オーザンはあることを告白することにした。

「分かってた。実際、アイゼンガルドでサルマンには誘われた。読みは正しい。ガンダルフは悪くない」

「なに? じゃあ最初から裏切ってたのか?」

ボロミアの食い付きがよかったのでつい吹き出してしまった。

「プッ、馬鹿言え。そうだったらとっくに皆殺しにして指輪を持ち帰ってるよ」

笑いをこらえて物騒なことを言いつつ、霧降り山脈を迂回した時の話をしてやる。

「誘いはすっぱり蹴った。そしたらやっこさんよっぽど頭に来たのかオークの軍団にしばらく追いかけられたぜ。笑えるだろ?」

自信たっぷりだったサルマンの吠え面を思い出すと今でも笑ってしまいそうになる。

「最高位の魔法使いを怒らせて笑っていられるのはお前ぐらいだ」

真顔でボロミアは呆れる。

冷や汗をかいたアラゴルンが説得を試みた。

「本当にいいのか」

「いいも悪いもあるか、必要なんだ。それに」

脈打つセレグセリオンを肩に担ぐ。

バルログが近づくほどに鼓動が増していく。

「こいつが斬れってさっきからうるさくて敵わん」

「だが……!」

食い下がったアラゴルンとまだなにか言いたげな仲間たちを手で制し、後ろを振り向く。

「湿っぽいのは嫌いだ。さっさと行っちまえ」

後ろ向きのまま手振りで乱暴に追い払う。

「……私は別れは言わん。必ず追い付け!」

言いたいことは山ほどある。

しかし歯を食い縛ってアラゴルンは仲間たちの背中を押して走り出した。

「せめてもの罪滅ぼしじゃ」

一人残ったガンダルフが杖を振って呪文を小さく唱えると、何かの魔法が薄もやとなってオーザンの体に巻き付いた。

「それは奴の操る炎や熱を遠ざける」

次にセレグセリオンの峰に触れた。

急激に老け込んだガンダルフがよろめいて肩で息をする。

背中は曲がり立っているのがやっとの有り様だ。

「剣にわしの魂を、注いだ。それなら、マイアすら、傷を負う」

首だけ動かして感謝の笑みを向ける。

「ありがとな。もう行ってくれ」

魔法使いは無力を噛みしめてオーザンの背中を瞳に焼き付ける。

「済まぬ……」

消え入るように詫びたガンダルフは仲間のあとを追いかけた。

それを見送ると体を動かして調子を確かめる。

「さあて……」

オークを狩って準備運動ができたからどこも快調だ。

目はよく見える。

耳もよく聞こえる。

腕もちゃんと力が入る。

足はしっかり大地を感じる。

体を守れる硬く厚い鎧がある。

敵を倒せる鋭く重い武器がある。

なにより絶対に護りたい仲間がいる。

魂と命を賭ける決意に値する志がある。

俺は失くしていた勇気をついに取り戻した。

「さあ来い」

一迅の風が背中を押す。

とても良い気持ちだ。

「今の俺は手強いぞ」

通路の曲がり角に迫る炎を睨み腹に力を入れた。

 

 

 




用語講座
魔法使い(イスタリ)
第3紀千年ごろにヴァラールの国から派遣された保安要員のマイア。
サウロンの敵対者に援助する。
ただし、フルパワーで戦って滅茶苦茶にならないようにかなり力を制限された上に人間の体で中つ国にやって来たので、怪我をすれば普通に死ぬ。
モチーフの色があり、能力も異なる。
五人いて序列は上から白のサルマン、灰色のガンダルフ、茶色のラダガスト、青のアラタールとパルランド。


同時展開の
エログロ全開ハードコアチャンバラ破戒武侠伝
「剣戟魔界都市」もハイよろしくぅ!
https://syosetu.org/novel/303761
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