書き留めたから投稿がペースアップするゾ。
歓迎の晩餐会は色とりどりの料理と美しい弦楽器の調べに華やぎ、一行を大いに楽しませた。
どんなに飲んでも悪酔いしない極上の蜂蜜酒をたらふく腹に収めたピピンとメリーは、持ち前の明るさで楽士たちに話しかけて見たことのない楽器の使い方を覚えようとしていた。
エルフたちは短命な珍客を遠巻きに見ていたが、やがては純朴さにほだされて打ち解けた。
「この三ヶ所の弦を人差し指と中指と薬指で押さえて。そのまま右手の親指でなぞるのです」
隣に椅子を引いたエルフの女性が白くほっそりした手をピピンの手に重ねて指導していた。
よそ者に教えたことはなかったが、ホビットの善良さにあてられて心を開いた結果だ。
唇を舐めて集中するピピンは熱心に教えを乞い、ホビットの小さい手では難しい竪琴もすぐに上達していた。
「う~んと、こう……かな」
「はい。お上手ですよ」
エルフのそれとは比べようもないが素人にしては整った旋律が流れ、旅の仲間たちも感心する。
「やるじゃないか。ゆくゆくは吟遊詩人だな」
「ふふ、ホビットも捨てたものじゃなかろう?」
アラゴルンに古き友の一族を誉められて上機嫌のガンダルフが紫煙を吐く。
ちなみに先に挑戦したメリーはまるっきり駄目だったのですぐに諦めて交代した。
「ちぇっ、お前はそういう変わったことばっかり上手いよなあ。釣りもそうだし」
すいすい弾けるようになっていく親友を誉めるというより呆れたように見るメリーは言った。
「そういう一族だからね、僕のところって」
現にピピンが属するトゥック一族は数が多く、ずばぬけて裕福であり、代々風変わりな性質と冒険ずきな気質さえ備えた強い個性の持ち主を生み出す傾向があったからである。
若かりし頃に冒険に出たビルボ・バギンズも母方にはトゥックの血が流れている。
要すれば内向的なホビットらしからぬ多才で多趣味な変わり者の血族なのだ。
「焦ってはいけません。誰しも初めはつたないものです。メリーどのも百年も研鑽されればめきめき上達されましょう」
「人生かけた成長はめきめきって言うのかい……」
寿命はほぼ永遠のエルフなら百年や二百年など短いだろうが、ホビットの寿命は百年ちょっとだ。
上手くなる頃には生きてない。
「何事も極めるのは難しいものです。だからこそ自分のわずかな成長にも喜びを感じるのが大切なのですよ」
命に限りある者が悩むのと同じように、エルフにも長すぎる生ゆえに生じる悩みがある。
無限の寿命で最果てを探せば永遠の行軍にも等しいのだ。
ケレボルンにも若いみぎりには思い悩むこともあった。
「若人よ。星星の果てまでゆけども答えは見つからぬ。生とは何を答えとするかを考える日々なのだ」
「結果ばかりを求めては足元がおろそかになりましょう。時には立ち止まり道程を確かめるのも同様に重要なのです」
二人はもう追い求めたりはしない。
同胞の根付くロスローリエンの守護に意味を見つけたからだ。
「わしも死に瀕して、面白いことにサウロンを倒さねばという考えがより深まった。限りある生だからこそ真摯に生きるのじゃろうな」
制限により老人の姿をとるがマイアであるため不老のガンダルフも同意した。
セレグセリオンに命を吸いとらせて弱りきったガンダルフは生命の灯火が消え去り旅路の半ばで倒れるのを覚悟した。
ロスローリエンで秘法の一端である食べ物の恩恵にあずかり多少なりと癒されはしたが、その気持ちは未だ根強い。
「灰色のガンダルフが命を分けるに能う男に出会うとは、余にも分からなんだ。力を取り戻すまで休んでいくがよい」
オーザンの消息という心のしこりは取り除けないまでも、胸の内に落ちた影が薄まり癒えるまでカラス・ガラゾンに逗留することをケレボルンは許して結びの挨拶とした。
全員がよく飲みよく食べた。
身を清め腹がふくれたなら、次は睡魔の出番だ。
食後のデザートのほのかに甘いクッキーを食べてさっぱりとした渋味の黒いお茶を飲み干すと、あてがわれた寝室に三々五々に散っていく。
最後まで酒を飲み続けほろ酔いのギムリはレゴラスに支えられてベッドに寝転んだ途端、蜂蜜酒の瓶を抱えたままで高いびきで眠りこけた。
服の着心地にもすっかり馴染んだようだ。
一方で、落ち着けない者もいた。
モルドールの侵攻で王都に近い拠点を奪われたばかりのゴンドールを離れたボロミアは心配で眠れず、泉のほとりで悩んでいた。
ゴンドールの代表として会議に出席したが、ここまでの長丁場になるのは予想外であった。
弟ファラミアが率いる部隊はアンドゥインの岸を守れているだろうか。
静かな夜にはそういうことばかり考えてしまう。
「休んだらどうだ。ここなら安全だ」
「俺の部下は今も戦っている。一刻も早く戻りたい」
疲れはとれても不安は消えない。
「あのとき、奥方は俺に囁いた。指輪に頼らずともゴンドールを救う希望が残されているとな。だが俺には見えん。イシリアンも敵の手に落ち、それは潰え去った」
ガラドリエルは指輪への渇望を見抜き、それは危険で人の手に余ると警告した。
他にどうしろというのだ。
モルドールと対峙する人間の本拠地であるゴンドールの首都ミナス・ティリスの目と鼻の先にはサウロンの尖兵が迫っている。
とどめに古代の闇の力の体現者であるバルログの復活を目の当たりにして、ボロミアの戦意はばらばらに打ち砕かれてしまった。
危険と分かっていても指輪にすがるしかない。
天地を鳴動させたマイアが力の大半を込めた指輪を上手く操れたなら、オークの部隊など取るに足らず、鎧袖一触にできる。
「父は執政官として聡明で立派だが、モルドールの攻勢に多くの領地を失い統治は行き詰まった。民も絶望している。俺は父の意志を継いでゴンドールに栄光を取り戻したい」
ミナス・ティリス本来の営みは明るさをひそめ、笑顔が絶えて久しい。
「なあアラゴルン。ミナス・ティリスを見たことがあるか、ゴンドールの白い塔を。真珠と金のように光り輝き、朝の風に高く旗がはためく。夕べにはトランペットが帰宅の時を教えてくれる……」
愛した祖国が目に浮かぶ。
由緒正しきミナス・ティリスへの郷愁がとめどなくボロミアの胸に溢れた。
「遥か昔に見たよ。美しき白い都だ」
アラゴルンが隣に並んで座る。
放浪のさなか、立ち入ることはしなかったが七層もの城郭と切り立った純白の尖塔が目立つ巨大で荘厳な城は、ボロミアが誇りに思うのも頷ける。
「最盛期には今の何倍も人が暮らしていたそうだ。俺はそれを取り戻したかった」
それだけがボロミアの望みであった。
「だから指輪を破壊するのだ。我々だけは最後の最後まで諦めてはならん」
曇りなき眼差しでアラゴルンはボロミアを見つめる。
同じ恐怖を味わってなおも絶望的な先行きに気高さを捨てず挑む姿にボロミアは王の資質を見た。
元から地位や権力に固執していたのではない。
ゴンドールを託せるのか戸惑っていただけであり、アラゴルンは慈しみと勇気と深慮を併せ持ちそれに値する男だった。
心は決まった。
「いつか……いつの日か、共に都に戻ろう。白き塔の衛兵が叫ぶ。ゴンドールの救い主が戻られたと!」
「ああ。成し遂げよう。必ずや我々の手でゴンドールを、中つ国を救うのだ」
出会いの険悪さが嘘のように信義を結んだゴンドールの世継ぎと大将は手を取り合って固く誓いを交わす。
共にミナス・ティリスに凱旋し冥王の手先を放逐して人の世界に光を取り戻す。
そう約束した。
ボ「バルログヤバすぎィ!助けて王様…」
誤字報告
三山畝傍兄貴
ハーヴェスト兄貴
感謝ァ!
同時展開の
エログロ全開ハードコアチャンバラ破戒武侠伝
「剣戟魔界都市」もハイよろしくぅ!
https://syosetu.org/novel/303761