十人目の旅の仲間   作:ひん(再就職)

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野望

アイゼンガルド。

ローハンの言葉で鉄の砦という意味だ。

霧ふり山脈の南端ナン・クルニーアに位置する半天然の要塞で、その中心にそびえる黒鉄の巨塔がオルサンクの塔である。

ローハンの西に位置しており、角笛城と並んでローハン谷を見下ろす戦略的要所であった。

人間の国であるゴンドールやアルノールがヌーメノール島の頃の技術や国力を保てていた時期に建てられ、今もその姿を残す摩天楼。

南西部の蛮族の動向に目を光らせる監視塔として代々太守や兵員を置いていたが、その記憶はドゥーネダインの凋落と共に過去のものとなり、人員を引き上げて閉鎖されていた。

白の魔法使いはゴンドールの時の執政に補修と管理を受け持つという建前で鍵を借り受けを申し出るとゴンドールとローハンはこれを歓迎し、正式に住みかとした。

野心を隠して一つの指輪の探索をするには中つ国の中部の無人の塔はもってこいの拠点だったのだ。

同じ魔法使いのガンダルフにも悟られることなく下準備を進め、対峙して本性を暴かれるまで秘密裏に遺物の収集や邪法の研究を行った。

ガンダルフがグワイヒアの助力で脱出し、自由の民を裏切りモルドールと同盟を結んだことが完全に明るみに出たサルマンは地下に秘匿していたオークを公然と集め、アイゼンガルドとモルドールの同盟を組んだことも明らかとなった。

要塞の外周をなす天然の岩壁を加工して作られた円形の城壁の入り口は南に一つしかなく、堅固なアーチ型の城門とトンネルを備えている。

城壁はかなり厚く、内部に衛兵所や貯蔵庫をはじめとしたいくつもの部屋が穿たれており、この壁自体が大軍でなければ陥とし得ない砦であった。

アイゼンガルドの環に囲まれたすり鉢状の広場はかつていくつもの池と果樹がある美しい庭園であった。

しかしサルマンがアイゼンガルドの要塞化を推し進めた結果、緑は根こそぎ掘り返されて多くの立抗が穿たれてしまい、地下の洞窟群には工場や溶鉱炉などの多くの施設が設けられた。

地下施設には機械仕掛けの装置がめぐらされており、蒸気や火を噴射し、オルサンクの内部から稼働できるようになっている。

中央のオルサンクからは舗装された道が放射状に伸びており、道の両側には鎖でつながれた柱が並んでいた。

近辺の豊かな緑を伐採して得た薪を燃やして煙を吐く製鉄所では無数のオークが鋳溶かした鉄を型に流し込み、鎧兜や大振りな剣鉈を日夜量産している。

溶鉱炉に隣接した地下坑では、それらを装備するものを産み出していた。

生き物の生皮を剥いだようにぬらぬらとした脈打つ肉の房が幾つも吊るされている。

おぞましい肉袋、闇の子宮、外法の結晶。

それ以外に形容しがたい邪悪な肉塊の泥にまみれた膜を熟したものからオークが開け、怪物が続続と生まれ落ちていく。

なんと醜悪な牧場であろうか。

人の感性ではおよそ見るに耐えない悪鬼の拠点へとアイゼンガルドは成り果てていた。

その中から一匹の完成体を選んでサルマンは居城に呼び出していた。

肌は赤黒く、筋骨隆々で背筋は伸びた大柄の個体だ。

鼻が切り落とされたように潰れてのっぺりとした顔に荒々しい歯並びの口と黄色く濁った目がついている。

「オークがどのようにして生まれたか、お前は知らぬであろうな」

仕上がり具合は上々で知性もある。

「彼らはかつてエルフだった。暗黒の力に捕らえられ、拷問を受けて引き裂かれて今のような醜い化け物へと変わった」

初代冥王モルゴスは当時のアルダに生きていたエルフを捕まえてもてあそび、途方もない苦しみを伴って姿かたちを変えた。

魂まで狂ってしまったエルフはオークとなり、モルゴスの軍団の一翼を担った。

モルゴスが敗れサウロンが台頭しても仕える相手が変わっただけで、営みの破壊者としてアルダのどこにでもオークは蔓延っていた。

あらゆる秩序を破壊するように改造したオークをより強く、より操りやすくするため、サルマンはさらなる禁忌に踏み込んだ。

暗黒の魔法で生命を穢しきり、獰猛で強靭な肉体を生まれながらにして備えている。

サルマンはこれに、ウルク=ハイと名付けた。

モルドールのサウロンの軍勢にもアイゼンガルドのサルマンの軍勢にも、際立った巨漢はそれぞれ見られたが、どちらかが起源なのか、あるいは別の手段でに造られた別種のものなのかは不明である。

彼らの武装は通常のオークとは全く異なるもので、広刃の短い剣と、人間の物と変わらない大きさのイチイの弓で武装し、盾と冑には、白の手や白いルーン文字のSといったサルマンの印を帯びていた。

完成したウルク=ハイの出来の良さはすこぶるもので、並みのオークよりも肉厚で逞しい。

人間の戦士など一捻りにできよう。

「わしが手を加えた戦うオーク、ウルク=ハイよ。お前の主人は誰か?」

「サルマン!!」

力にかしずくだけのオークには期待できない忠誠心まで植え付けてある。

その個体は暫定的に隊長として、他のウルク=ハイを集めさせた。

鉄の鎧兜を着て剣鉈を持ち、頭や胸にはサルマンの印である白い手形を塗料で塗った。

いよいよ挙兵したのだと、サルマンが暗黒の陣営に加わったことを大々的に喧伝する意味がある。

サルマンはオルサンクを出て地下へ行き、雄叫びをあげたり唸ってたむろするウルク=ハイへやぐらに登って命を下す。

「奴らを狩り出せ。見つかるまで帰るでない。お前たちは苦痛も恐怖も知らぬ。人の肉の味を知れ!」

誰も彼もがぎらぎらとさせた眼光は戦意も高く、獲物の腸を求めていなないている。

恐れ知らずの強力な兵たちにサルマンは内心恍惚としていた。

この軍団が完成すれば目の上のこぶであるローハンは滅び、中つ国に敵うものなど居ない。

材料のオークや人間などいくらでも集められる。

闇に堕した魔法使いなどとガンダルフがいくら言おうが雌雄を決したあとでは負け犬の遠吠えだ。

「ホビットの一人が貴重なものを持っておる。ホビットどもは殺さず無傷で連れ帰れ」

最大の目標であるひとつの指輪を失くしてしまわぬように隊長に厳命した。

千年も探した至宝が指先に触れているのだ。

なりふり構ってはいられない。

「他は殺せ」

密偵から仕入れた情報ではエルフの王子からゴンドールの大将に留まらずその王位継承者まで同行しているそうだ。

早めに亡き者としておいて損はない。

それに、あの無礼千万な半エルフまで同行しているという。

その腕前を死なせるには惜しいと温情をかけてやったのに、蓄えていた純白の髭を半分も切り落としてくれた礼をたっぷりとして野晒しの死体にしても飽きたら無い。

「さあゆけ!」

目標はアンドゥインの南岸だ。

アンドゥインが流れ落ちてできている大瀑布はとても高くまっ逆さまに落ちるので、間違っても船で下れるようなものではない。

北はドル・グルドゥアのナズグルが警戒線を構築しているという情報がサウロンを経由して伝わっていている。

なれば南岸のどこかで船を降りて陸路に切り替える。

南方に逃げ、こちらの支配域を通るしかない指輪の持ち主を炙り出すなど朝飯前だ。

生意気で憎き半エルフには手を焼かされた挙げ句追撃も殺され逃げ切られてしまったが、そんな例外は二度と許さない体制である。

今度こそ指輪を我が物とする自信に満ち溢れていた。

「ホビットも半エルフも今に見ておれ。指輪さえ手にはいれば……」

指輪さえ手に入れば逆らえるものなどいない。

人も上のエルフも、あわよくばサウロンさえ出し抜いてみせる。

出撃するウルク=ハイを尻目にサルマンは皮算用を楽しんだ。

支度を終えていた二百あまりのウルク=ハイが重い足音と鎧が擦れる音を響かせて出陣していく。

漆黒の部隊は地下孔の組み木の足場をどしどしと駆け上がり、休まず百里を走る足で仲間たちを探しにアンドゥインのほとりを目指して開け放たれた鉄のアーチの門から出発していった。

 

 




出撃ィィィィィィ!!
ウルク=ハイと人間の戦闘力平均値は三対一ぐらいと想定
なのにアラゴルンがなぎ倒すのは伝説級の英雄だからということで…

同時展開の
エログロ全開ハードコアチャンバラ破戒武侠伝
「剣戟魔界都市」もハイよろしくぅ!
https://syosetu.org/novel/303761
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