十人目の旅の仲間   作:ひん(再就職)

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包囲

地鳴りを起こして詰め寄るウルク=ハイを巧みにかわし、引き付けた敵に囲まれないよう石を組んだ舞台の上へ駆け登る。

切り上げるより振り下ろす方が威力を出せる。

上方の優位を生かして体重差を埋める。

アラゴルンは西方世界の各地で戦ってきた経験を遺憾なく発揮した。

「ホビットを探せ!!」

ウルク=ハイはアラゴルンがイシルドゥアの子孫としてゴンドールを継ぐものだとは知らない。

たかが一人をここで抹殺することに注力せず、部隊の大半にはフロドを追わせた。

「行かせるかぁっ!」

そうはさせじとフロドの方へ行こうとした一匹に飛び降りて体当たりを食らわせる。

もみくちゃになって泥にまみれながらも喉元に剣を刺して止めを与え、覆い被さるようにしてきたウルク=ハイの胸を仰向けのまま突く。

その一匹に手間取りあわやとなった時、手斧と矢が飛び交い、アラゴルンの窮地を救う。

乱戦となってしまった戦線にエルフの貴公子とドワーフの重戦士が参戦した。

「アラゴルン、行け!」

弓という近距離には向かない武器の不利を覆し、レゴラスは颯爽と矢を放つ。

近すぎる敵には握った矢を強引に突き刺し、二匹を貫く離れ業まで披露した。

ギムリも負けじと重い一撃で確実に仕留めていく。

二人の援護で素早く囲みを破ってなおもアラゴルンは焦燥した。

仲間たちはこの丘陵に散らばり各個での戦いを強いられてしまった。

指輪がこちらの手の内にあることだけが救いであるが、その希望も遠からず去らんとしていた。

 

「フロド様!」

どしどしという無遠慮な地鳴りと唸りから逃れてくるであろうフロドを探してガンダルフとサムは走り回っていた。

「オークめ、こんな時に……!」

戦闘に全力を投じられない灰色の魔法使いは歯痒い思いをしていた。

広域の敵を焼き殺すような強い魔法は禁忌に触れる。

山々がひっくり返るほどアルダを滅茶苦茶にした神々の大戦を反省して取り決めたその掟だけは破れない。

「ガンダルフ、あそこだ!」

サムはウルク=ハイに追い付かれかけたフロドを見つけた。

何十もの黒い怪物が斜面を走る少年のすぐ後ろに連なっている。

「ぬうっ!」

「今行きます、旦那様!」

完成しかけた包囲網を一条の光が照らす。

断腸の思いで選別したのは光の魔法である。

魔除け程度のものでも目潰しとしては使える。

しかしながらその強力な光に思わず脚を止めて顔を盾と腕で覆い隠した。

ガンダルフの剣は銘を殴り丸という。

勇ましき銘に恥じぬ猛々しさで斬り込んで何匹も倒していく。

サムもまたそれに続いた。

「フロド!」

ピピンとメリーが短剣を抜いて横合いから飛び出す。

静かにしていれば見つからずにいられた倒木の影から抜け出し、姿を晒してまでフロドを助けようと、二人は恐怖に対して素晴らしい勇気と友情を示して立ち向かった。

「このっ! くらえ!」

「やあっ!」

小振りな武器を生かして立ち回り、鎧の隙間を突いて痛手を与える。

かくして四人のホビットとガンダルフは斜面のやや開けた場所で合流した。

「怯むな! 虚仮脅しだ!!」

統率者の一喝で乱れていた足並みが揃い始める。

杖から散らす閃光は地底の闇に慣れたオークを退けるだけの威光はあったが、陽光をものともしないウルク=ハイの目には少々まぶしいだけに過ぎなかったのだ。

「構わずホビットを捕らえろ!」

厚い布を裂くような声で命じられた怪物は目を開いて包囲網を閉じてゆく。

上も下もすっかり囲まれた。

真っ当にやってはホビットの敵う相手ではない。

手も足も出せずにホビットたちは尻込みした。

「させぬ!」

実害を与えられない魔法をやめ、五人が入れるように大きく球状に防壁の魔法を使う。

分断されているのが戦いの障害となっており、全員が集まり隊列を整えられれば逆転は不可能ではない。

ガンダルフの役割はそれまで耐え忍びホビットを、指輪を守ることである。

握る杖に精神を集中し、肩を寄せあって震えるホビットを生かすことに力を費やした。

「助けてアラゴルン!」

メリーは遠目に見つけたアラゴルンに助けを乞う。

一度は勇気を出してみてもやはり怪物たちが怖くて仕方がなかった。

「そこを、どけぇっ!」

一方でアラゴルンたちは一丸となって突破を目論むも、致命傷を与えなければ何度も立ち上がり戦列に戻るウルク=ハイに手を焼いた。

オークを倍する脅威に自身が打ち負けないだけで手一杯ですらあった。

「くっ……」

手が足りない。

大勢と戦い擂り潰される。

少人数で旅をするにあたって最も懸念されていた事態が目前に迫っていた。

「さっさと老いぼれを叩き殺せ!」

魔法とて無限ではない。

囲んで防壁を叩き割れば神秘なき魔法使いなど恐れるに足らず。

サルマンの命令が達成されるまで秒読みであっても攻め手を緩めず苛烈に襲い続けた。

「このままでは持たぬ……!」

ウルク=ハイは太陽の下でも力を損なわず、ガンダルフの想定より手強かった。

モリアのオーク相手なら十分に強固であった防壁もみるみるうちに損傷していく。

アラゴルンもレゴラスもギムリもどっしりと組まれたウルク=ハイの隊伍に遮られ、思うように進めない。

燐光を散らして割られていく盾は魔力の減少を明示する。

三人がこちらに着く前に魔法は破られる。

手詰まりである。

ガンダルフは冷や汗を流した。

うずくまるフロドをサムは抱きすくめ、メリーとピピンは声も出せずに顔を強張らせていた。

 

 

林内を駆け抜けるボロミアは苦虫を噛み潰した顔をしていた。

走っていると胸中に渦巻くことを意識してしまう。

正気を失っていたとしても、ここまで共にやってきた仲間を手にかけようとしてしまった。

仲間を裏切った。

国を裏切ったも同じである。

誇り高い男は心の底から悶えた。

誇りを捨ててしまった。

指輪に操られて心の影を助長されるなど、ゴンドールの看板に泥を塗ったも同然だ。

悔やんだ。

しかし、ボロミアはそこで腐り諦めるような男ではなかった。

諦めるにはまだ早い。

やるべきはひとつ。

信じてもらえないとしても、オークを倒してフロドの安全を守り、汚名をそそぐのだ。

 

ウルク=ハイがひしめく斜面に面した崖に埋没する太古の監視塔に着き彼は見た。

黒き鎧に白い手形をつけた怪物はフロドを今にも捕らえようとしているのだ。

絶体絶命の危機を悟り、ボロミアは腰に帯びていた角笛を吹いた。

銀の口金が巻かれ、古代の文字が刻まれた角笛は父デネソールより授かった執政家の家宝のひとつである。

リューンの白い野牛の角から作られ、以来、執政家の長子に代々受け継がれてきた。

危急の際、ゴンドールの版図の及んだ領域内でこの角笛が吹き鳴らされれば、どこであろうと注意を引かないことはないと言われるものである。

その音色は朗々と響き、遠くはミナス・ティリスの天守まで木霊した。

味方も敵も一時だけ争いを忘れて剣を止め、音の出所を見上げた。

「ボロミアか!?」

アラゴルンは角笛を知っていた。

星の鷲の意であるソロンギルという名でデネソール公の父、つまりボロミアの祖父にあたるエクセリオン二世に仕えていた頃にゴンドールの角笛のことは耳にした。

実際に聴くのは初めてであるが、勇ましく雄々しいと吟じた詩人たちの伝承はまことであったと知った。

戦場の風向きが変わる。

ボロミアは間髪いれず助走をつけ、風化した螺旋階段からフロドの手前に集まるウルク=ハイの塊へ跳躍した。

「うおおおおおっ!!!」

無謀とも言えるほど勇敢に体当たりを食らわせる。

団子になって転げるが即座に立ち上がり剣を振り回して三匹を倒した。

がむしゃらに暴れ回ると包囲の一角が崩れた。

同時に魔法が解けてウルク=ハイが突撃する。

だがボロミアとガンダルフで前後を守れるならまだ形にはなる。

「があっ!!」

盾ごと殴り倒し、突き殺す。

切っ先で土を巻き上げて目潰しに使うなど泥臭いこともやってみせる、戦場で培ったあらゆる技術を使用して大暴れした。

「おおおおおおおおっ!!」

葛藤と後悔を洗い流す閧の声。

気迫に満ちた反撃にさしものウルク=ハイも浮き足立つ。

「かかってこいオークども! この俺が相手だ!!」

ゴンドールの大将は雄大なるエミン・ムイルの山々を背景に堂々と名乗りを挙げる。

一瞬だけ目が合ったボロミアが気品のある誇り高き戦士へと戻ったのだとフロドは感じた。

ボロミアは再三荒々しく角笛を吹く。

三人の戦士はいまだ戻れず、五十ものウルク=ハイがボロミアを襲う。

悠長に切り結んでなどいられない。

荒波を捌き、転がしたそばから阿吽の呼吸でホビットたちが止めを刺していくのがやっとだ。

事態は好転せずとも三人の戦士が加われば逃走の算段もつけられる。

それまでの辛抱と体に言い聞かせ、刻々と重くなっていく剣を振る。

「フン……」

戦況を拮抗させている楔がボロミアであることを顔に戦化粧をしたウルクの首領は看破する。

後列を防御する位置から大きく動けないボロミアへ向けて黒き弓を悠々と引き絞り、黒き矢を放った。

粘つく猛毒を塗られた矢は冷徹な速さで飛び、ガンダルフと四人のホビットの目の前でボロミアの左胸に吸い込まれた。

「ぐうっ!」

「ボロミア!」

そう叫んだのは誰か。

あるいは全員か。

薪拾いで軽装で出歩き、誘惑からいさかいを起こしてウルク=ハイに見つかるという不幸な巡り合わせは痛みを生んだ。

思考が短く脳裏を駆け巡る。

夜営地に置いた愛用の盾があれば防げていたであろうか。

否、それも詮なきこと。

唯一の現実は矢に塗られた毒により己が間もなく死に至ることのみ。

役に立てるなら最後の一瞬までこの身を捧げるまで。

「があああ!!」

鏃の返しが肉を裂くのを無視して引き抜き、投げ捨てる。

雄叫びで痛みをかき消し、傷口から血のあぶくを吹き出しながら反撃してまた一匹斬り倒す。

しかし決死の抵抗もむなしく、ボロミアの腹に第二の矢が刺さった。

「う、あっ…………」

息を詰まらせる。

ふらつき突っ伏す。

部下をガンダルフに集中させた首領は膝をついて剣を落としたボロミアに近寄り冷酷に大鉈を振りかぶる。

力尽きた今、満を持して首を落とそうというのだ。

「やらせぬぞ!」

ガンダルフは目の前のウルク=ハイの猛攻を防ぎつつ、なんとか握りこぶしほどの火球を杖から飛ばす。

しかしこれに敏捷に反応して鉄の盾で防いで表面を焦がすだけに留まった。

満足に魔力を練るのを許さない猛攻が恨めしい。

「大人しく待て老いぼれ。貴様もすぐに殺してやる。魔法使いはどんな味なのか楽しみだ」

挑発的な舌なめずりで必死の抵抗を嘲笑う。

「ボロミアァァァァ!!」

アラゴルンは共にゴンドールをもり立てる友が討たれるのを指を咥えて見ていられはしない。

だが青筋を浮かべてあらゆる手段で突破を試みても、数の暴力に支配されたこの場を逆転するには至らない。

怒ろうが嘆こうが持った力は変わらないのだ。

すぐにガンダルフ一人では抑え切れなくなり、ピピンとメリーが短剣を叩き落とされて怪物の手に落ちた。

「離せこの野郎!」

太い腕にがっしりと抱えられ、もがいても逃げられやしない。

無駄な抵抗を鬱陶しく思ったのか、顔をしたたかに殴られてぐったりした二人は運ばれてゆく。

「誰か……誰か!」

戦士は倒れ、幼なじみは捕らえられた。

フロドの心は、ばらばらに千切れてしまいそうであった。

忠勇の士であるサムもこの状況では、お守りしますとは言えなかった。

「貴様らの首は門に並べてやる。はらわたは踊り食いだ。助けなど来るものか、誰も!!」

鈍く光る鉈の刃を触りながら、今度こそボロミアの命を絶とうとにじり寄る。

サルマンの命令は半分達成された。

そして一行の命運も風前の灯であった。

 

 




映画ではやられ役にされるけど、オークだって元はエルフだしイスタリに改造されてガタイが良くなったウルク=ハイが弱いわけない
一般通過ドゥーネダインからしたら旅の仲間は全員バケモノだゾ
特に聖剣持ったアラゴルン強すぎィ!

同時展開の
エログロ全開ハードコアチャンバラ破戒武侠伝
「剣戟魔界都市」もハイよろしくぅ!
https://syosetu.org/novel/303761
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