十人目の旅の仲間   作:ひん(再就職)

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墜ちる星

烈火のごとく攻めかけるウルク=ハイが突如としてばたばたと倒れた。

磐石な陣形に乱れが生じる。

「なんだ!?」

木立をすり抜ける白い閃きを首領は盾で弾いた。

鎧の僅かな隙間である脇腹や喉に突き立ったそれらは矢ではなく、白銀のナイフであった。

それは一瞬にして七つの邪悪な命を絶った。

旅の一行もウルク=ハイもナイフが飛来した方向へ首を向け、震撼し言葉を失った。

西陽を背にして男が林をこちらへ歩いていた。

マントを風に揺らす筋骨隆々の雄々しき姿は背景を歪めるほど濃密な気配があった。

反して表情は非常に穏やかであり、その内に秘めたる、途方もない暴力への想像力が掻き立てられた。

「まだだ」

ロスローリエンを発ったオーザンはアンドゥインの川辺を疾走した。

垂直の崖を走り亀裂を飛び越え、道中すれ違ったオークを蹴り殺した。

そのような小物にはかかずらわず早馬の全力よりも速くこの地へ至った。

三艘の小舟が岸につけてあったエミン・ムイルにて、遠間から角笛を聞き付けた。

角笛を持っていたのはボロミアだ。

敵を引き寄せるような音を彼がわざわざ出したなら、それだけの危険に追われていると判断し直行すると、そこには力なくうずくまりオークによる処刑を待つばかりとなったボロミアがいた。

周囲の状況もかなり不味い。

仲間は散らばり各個撃破の恐れがある。

メリーとピピンが居ないのも気がかりだが、まずは目の前の状況を打破してフロドに安全をもたらすのが最優先だ。

カラス・ガラゾンで貰い受けたナイフを抜いて両手に持ち、走りながら精密に投げつけた。

そして今に至る。

「まだ居るさ。ここに一人な」

凄惨な血痕の散りようからは大出血を押して戦い尽くした勇姿が浮かび上がる。

ボロミアはよく戦った。

最も優先すべきフロドを文字通り、必死で守ったのだ。

「ゴンドールの勲、とくと見た」

最強不敗の者が勇者と呼ばれるのか。

蛮勇を誇る戦士が勇者と讃えられるのか。

どちらも否である。

敗北の苦汁と痛みを踏み越え、また立ち上がる不屈の者こそが勇者なのだ。

彼は矜持を示した。

ならばそれに応えよう。

「良い音だった。後は俺がやる」

極めて平静にセレグセリオンを抜く。

飢えた魔剣は久方ぶりの獲物にひどく興奮して脈打っていた。

魔剣には分別などない。

無差別にオーザンの右手からじわりじわりと血を啜っていた。

足元の枯れ葉が爆発した。

そう錯覚させる踏み込みが巨躯を運んだ。

ウルク=ハイが反応する頃にはガンダルフを袋叩きにしていた三つの首が弾け飛んでいた。

桁外れの暴力が振り返った顔を二つまとめて撫で斬る。

装甲など役に立たない。

火花を散らして暴風に華を添えるだけの飾りだ。

「疲れてる所悪いが結界は張れるな? フロドを守れ」

「踏ん張りどころじゃ、なんとかやってみよう……」

額に汗をかいているガンダルフに魔法の使用を促すと、彼は息を整えて杖を構えてくれた。

老いた外見に反して強靭なイスタリでも、全方位から弩で狙われでもしたら打つ手がない。

今が好機だ。

「怯むな! たかがエルフ一人、囲んでやっちまえ!」

戦局の推移に合わせて手透きの者をこちらにけしかけた。

が、遅い。

散開して各個に押し掛けても一薙ぎで倒すオーザンには律儀に並んで斬られに来るも同然である。

雑然と大鉈など使わされているだけあって、技術の欠片もない。

熾烈な生存競争を勝ち抜いた辺境のオークの方がまだ骨があった。

例え十重二十重に押し包まれても話にならないようなお粗末な烏合の衆だ。

「数だけは立派だな?」

裏拳が兜の頬宛を潰して中身が石榴の如く地上を汚した瞬間を見てしまったサムは目を背けた。

踊る黒線は艶やかに凄まじく、星霜の経た鍛練の証を誇示する。

三千年の狂気が練り上げた技と闇の魔法で下駄を履かされただけのウルク=ハイとでは、蟻と人ほども闘争の格が違う。

血と火花が彩る宴が幕を上げた。

「クッ、こいつの首だけでも……!」

半端な成果で戻ればどのような責め苦をサルマンより受けるか定かではない。

逃げる前に手土産を増やさねば。

困惑とおののきの中でそう判断したウルク=ハイの首領は、瀕死のボロミアに一刀を下そうと震え萎えた腕を動かした。

「させるかぁああ!」

死体を踏み越えて隊列を突破したアラゴルンが吼え、横っ飛びで腕を目一杯に伸ばす。

長剣の切っ先は落とされた鉈の腹を突き、逸れた軌道で土を抉らせた。

「人間ごときが……貴様から殺してやる!!」

体勢を崩しているアラゴルンの顔を忌々しげに蹴り、土から引き抜いた鉈を担ぐ。

八本の鉈をかわして反撃で血の華を咲かせるオーザンはそれを把握していた。

しかし助けには行けない。

フロドが最優先だ。

午後の木漏れ日で黄金色に染まる枯れ草を転がりアラゴルンは呻いた。

接近したウルク=ハイの右足の太腿を短剣で刺し貫いた。

首領が濁った唸りを漏らしたのは一瞬で、すぐさまアラゴルンを殴り付け、殴り飛ばした手で脚に刺さる短剣を抜き取った。

生命力の強い怪物には短時間の足止めにしかならないがそれでいい。

鋭く投げ返されたそれをアラゴルンは俊敏に身を起こして払いのけ、果敢に反撃に出る。

「はああああ!!」

形勢の不利を覆す気勢で打ちかかり一合二合三合と重ねる。

彼は万全とは言い難い体から溢れる熱量で敵を圧倒して追い込んだ。

愚かにも淡い希望を指輪に馳せてしまった同志の仇と思えば、口に満ちた鉄臭い味も忘れられた。

丁々発止の剣戟を押し切り、ついに右腕を肩口から切断した。

無防備になった厚い腹に剣を突き込む。

ウルク=ハイは一瞬硬直したものの、腹に刺さる剣を掴んだ。

自らの腹に刺すように手繰り寄せ、最後の悪あがきにアラゴルンの喉を食いちぎろうと前へ出た。

「でやあああっ!!」

腹から一気に抜き、腰から上半身を捻って強引に振った剣で首をはねる。

ボロミアの脱落に動揺し憤る魂は荒々しく彼らしからぬ剣技を使わせた。

首無しでは流石のウルク=ハイも生きてはいられない。

隊長は死に、傍らでは恐ろしい男が今も死体を量産している。

旗色が悪いのは誰の目にも明らかとなった。

目と口から恐怖は伝染する。

兵では一度傾いた戦局を立て直せない。

将が死ねば終わりだ。

「化け物だ……逃げろ!」

統制は崩壊し、三々五々にウルク=ハイの軍団は戦場を離れ始めた。

目の前の数匹を残し、あっという間に逃げ去っていった。

「化け物はお前らだろうが」

殿を瞬間的に斬り伏せ、左手の五指の間にナイフを挟む。

尻尾を巻いて全速で逃げ出した背中に投擲する。

風を裂いて飛びすさび、更に四つの命が尽きた。

「逃がすか! 行くぞレゴラス!」

遁走するウルク=ハイを追撃し、メリーとピピンを救出しに行きたくてギムリはいてもたってもいられなかった。

二人が殺されるようなことがあれば悔やんでも悔やみきれない。

「下手に追うでない!」

混乱した場を整えることが先決である。

ガンダルフは逸るギムリを慎重に制止した。

アラゴルンは剣を落とし倒れているボロミアに駆けつける。

「しっかりしろ!」

ボロミアは辛うじて生きていたが左胸と腹の傷は一目で助からないと分かるような深傷であった。

鈴虫のように細い呼吸が続くのも臓腑を腐らせる毒が回りきるまでの短い時間だ。

胸に置いた手に重ねられた指は急速に冷たくなっていき、アルダに魂がいられる猶予は無情にも終わりへ向かっている。

「死なせん、お前とやっと分かり合えたのだ!」

傷を押さえて流れ出る血を少しでも減らそうと腐心するが無駄であった。

「フロドは……フロドはどこにいる……」

ボロミアの目は霞み、すぐそばに居るフロドの姿さえ見えておらず、それが気掛かりであった。

容態を察したアラゴルンは胸を締め付けられる思いをした。

「……無事だ。オーザンが守った。彼が戻ったのだ」

「そうか……指輪は無事か。だがメリーとピピンが拐われた……俺のせいだ。俺が…………」

ボロミアは後悔と羞恥でさめざめと涙を流した。

誇り高い男が人前でこうも泣くものか。

それだけ己の弱さを憎み、悔いているのであった。

オークの矢を受けた兵の末路はイシリアンの攻防で散々に見てきた。

しかし、死とはこうも無念であるとは思わなかった。

無念だ。

ただひたすらに。

 

 

 

 

 





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エログロ全開ハードコアチャンバラ破戒武侠伝
「剣戟魔界都市」もハイよろしくぅ!
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