近づくほどにカラズラスの天候は悪くなった。
粉雪は大雪に、山風は猛吹雪に変化して一行に襲いかかった。
「こっちじゃ」
ガンダルフに従って道を辿るが、元から人一人分も幅がない小道は完全に雪で埋もれてしまった。
右も左も雪でいっぱいで、道を踏み外した荷馬は氷の亀裂に落ちた。
また誰が足を滑らせてもおかしくない。
オーザンとレゴラスが先行して危険を調べてはいるが、刻一刻と悪化する天候には逆らえない。
エルフの足ならすいすい歩けるが、人間やホビットやドワーフは腰まで積もった雪をかき分けて歩いている。
「この道はいつもこんな感じか?」
エルフの恩寵があるオーザンは寒さにも平然としているが、状況はかなり悪い。
「いや変だ。カラズラスは冬でも雪に閉ざされたりはしないはずだが」
地理に詳しいアラゴルンも首をひねる。
これだけの異常がたまたま通る時にだけ起きるとは考えにくい。
「崩れるぞ、下がれ!」
レゴラスの警告でアラゴルンが飛び退き崩落から免れた。
いよいよなにかの意思を感じさせる山の振る舞いにガンダルフは呪文を唱えてあたりを調べた。
「サルマンめの魔法か!」
カラズラスはサルマンに操作されていた。
サルマンの魔力が冷気を増し、風を狂わせているのだ。
「危ない!」
頭上からフロドめがけて氷塊が落ちてきた。
オーザンが間一髪で間に滑り込んで受け止める。
「むん!」
ひょいと崖下に投げ飛ばしたが事態は好転しない。
上にある大きな雪の塊が一斉に震えだした。
「おんなじ魔法使いならなんとか出来んか! ホビットが凍りつくぞ!」
氷が張り付いた兜で氷柱を受け流したギムリが風に負けじと吠える。
ガンダルフは杖をかざして唸っても雲は晴れない。
「わしらはこの世の規律を大きく乱す魔法は使ってはならぬと決まっておるのじゃ。しかし奴はその禁を破った上に山の力を利用しておる!」
対抗する魔法を使おうにも荒れ狂う山を鎮めるほど、力を出せない。
また上方で雪が崩れる。
「大きいのがくるぞ! しがみつけ!」
ボロミアがピピンとメリーを抱えて壁に身を寄せる。
他はせいぜい踏ん張ることしか出来なかった。
「南無三!」
オーザンの視界が白で塗り潰される。
大規模な雪崩ではなく圧死も滑落も避けられたが、大量の雪が降り注ぎ、背の高いオーザンでさえ首まで埋まってしまった。
「敵と会う前に全滅なんて冗談じゃねえぞ」
急いで手足を滅茶苦茶に動かして周りの雪を蹴散らすと手近なギムリから掘り返す。
「ぶはあああ! 助かった!」
雪溜まりから這い出すと凍った髭を揺らして服についた雪を落とす。
そして武器がないと慌てた。
「斧はどこだ! 俺の斧だ!」
「これか?」
「おお、よかった!」
先端だけ出ていた鉄の刃を見つけて引っ張りだしてやると大事そうに抱き締めた。
「サム! どこにいる!」
「ここですフロド様ぁ!」
助け合ってお互いを掘り起こし、なんとか全員の無事が確認された。
しかし道がまるでわからなくなってしまった。
いつ誰が滑落してもおかしくなく、一度話し合うことにした。
「ガンダルフ、ここは無理だ。引き返そう」
いの一番でアラゴルンは撤退を進言した。
現実的にこの有り様では通り抜けるまでに全員が生きていられる目は薄い。
回り道が必要だ。
「麓から南へ回るんだ」
ボロミアはローハンを経由する進路を提案したが、ガンダルフは首を横に振った。
「南はいかん。アイゼンガルドに近すぎる。ローハンが力を失い、あそこはサルマンに従うオークの巣窟になった」
この嵐で峠を封鎖したサルマンの狙いは経路の選択肢を潰すことにある。
だとしたら、南ではオークの大軍が待ち受けていることも考えられた。
「それではフロドを守りきれん」
勇敢なアラゴルンも十人の仲間ではどうやってもサルマンの擁する万のオークとは戦えない。
「ならオーザンはどうやって山を越えてきたんだ?」
「俺は出会ったオークを全部殺しながら南を抜けた。他に道は知らん」
これも参考にはならない。
一人なら無茶も出来るがフロドを守りながらとなると、正直厳しい。
「打つ手なしか」
ボロミアは露骨にがっかりした。
「いやひとつあるぜ」
行き詰まりを解決するのはギムリだった。
「モリアがある。地下をくぐり抜けよう!」
古い時代のドワーフは鉱石を探して霧降り山脈の地下を掘り抜いてモリア坑道を築いた。
築かれた地下都市はまたの名をカザド=ドゥームという。
カザド=ドゥームは長い期間栄えたが、鉱脈を追ってあまりにも深く掘り、ある怪物を目覚めさせた。
怪物によって王国は滅び、サウロンの手下のオークが徘徊する廃墟となった。
近年になってオークが減り再びドワーフが入植したが大部分は廃墟のままだ。
広大かつ複雑にトンネルは張り巡らされ、山脈の反対側に出る道もある。
そこを使おうと言う。
その難解さからガンダルフは経路から除いたが、今となっては唯一の道だ。
「門は閉ざされておるぞ」
ただし、過去にオークとの抗争で西側の入り口は封鎖された。
「モリアには親戚のバーリンがいる。歓迎してくれるさ」
入植者の一党はギムリの親類やゆかりの者だ。
しっかり休むことも出来る。
「バーリンか、懐かしい名だ」
レゴラスが微笑んだ。
とある出来事がきっかけでドワーフのバーリンとは話したことがあったのだ。
「知ってるのか?」
「ああ。友人だ」
いがみ合うエルフと親戚が交友があったとは知らず、ギムリが丸い目をさらに丸めた。
「むう」
ガンダルフはまだ悩んだ。
モリアにはいまだオークが隠れ、おそるべき怪物も眠っている。
悪と危険が潜んでいる場所をわざわざ通るのは避けたかった。
「フロドはもう限界だぞ」
アラゴルンの懸念はホビットだ。
ボロミアの盾を借りたオーザンが体で吹雪避けになっているが、いつまでも立ち往生していれば体の小さいホビット、特に弱っているフロドがすぐに凍え死ぬ。
「モリアをゆこう。南は見張られ山は塞がれておる。モリアに行くことまでもサルマンの策なら我らの死地となろうが、こうなっては仕方あるまい」
選択の余地はない。
ここで確実に全滅するより、危険を押してでもモリアの地下坑を抜けるほうがずっとましだ。
「良かった、地下なら雪は無いよね」
懐のピピンは歯を打ちならして言った。
「こんな所とっとと離れられるならなんでもいい。フロドがまずい、早く行こう」
メリーも友達を思いやった。
「油断するでないぞ。どんな苦難が待ち受けるかわからん」
サウロン復活の先触れか、中つ国はそこかしこに危険が蔓延っている。
闇の生き物の危険さを知るガンダルフは安堵する二人を戒めた。
「だが恐れることはない。化け物退治は俺の役目だ」
セレグセリオンに斬れないものはなく、なれば倒せるのが道理だ。
斬りようがない山よりは与しやすい。
「よし、では下山しよう。レゴラスとオーザンは前後でみんなを守れ」
アラゴルンの号令で十人は来た道を折り返した。
吹雪いてはいても、山頂から離れるほどに弱まっていくので容易であった。
いくつかの斜面と山道を下り、吹雪が遠のくまでカラズラスを離れる。
雪は岩に、岩は森に変わる。
麓にそってしばらく歩くと森が途切れた。
ガンダルフは西を見渡して一筋の道を探しだし、それに乗ってまた歩き始めた。
この道はモリアが健在であった頃、西方のエレギオンという都市との交易に用いられた。
エレギオンもモリアも滅び、荒れ放題にはなったがそのまま西門まで通じているので利用した。
夜になって、断崖に寄り添う不気味な湖に着いた。
川をせき止めて広がった湖ととてつもない高さの壁が行く手を阻む。
「ここがモリアの壁じゃ。わしらが裂け谷を出て途中から使った道がここまで通じ、シランノンの流れで終わる。目印の柊の木を見つけられるか?」
太陽と月がない時代に生まれたエルフは、星の僅かな光だけでも遠くまで見通せるようにヴァラールは作った。
その目は今のエルフにも受け継がれている。
夜の闇を見通し、オーザンとレゴラスはすぐにその木を見つけた。
霧降り山脈の切れ端の断崖に二本の柊に挟まれた石の細工があった。
「あったぞ、湖の向こうだ。なぜ柊なんだ?」
「柊の木はエレギオンの象徴だ。領土の終わりを示す。間違いない」
「なるほどな」
エレギオンはかつて柊郷とも呼ばれたが、全土の支配を目論むサウロンによって滅ぼされた。
同じエルフでもオーザンは知らないが、レゴラスは知っていた。
「左様。モリアとエレギオンの領地を結ぶ友好の証でもある」
湖のふちを回り、崖下を行く。
水面は黒く、深い。
「静かだな」
違和感を覚えた。
この大きさの湖なら、もっと魚や水飲み場に使う獣の気配があってもいい。
それらがないのはなぜだ。
「オークがいないのはいいことだろ。バーリンが上手くやったのさ」
再会に逸るギムリは聞き流した。
落石に備えて隊の中央部にいたが、やはり気になって最後尾のサムの隣に移動した。
「そんなでかくて案外怖がりかい?」
「怖がるのが俺の仕事だ。格好いいところは後で見せてやるよ」
サムの軽口にはウインクで返してやった。
太く高く育った樹齢数千年の柊は蔦がしがみつき、苔むしていた。
木の葉の影の暗がりの石壁に、確かに人の手で加工された痕跡が残っている。
「これじゃ。エルフの扉に違いない」
「これが扉? 取っ手も鍵もないぞ。どうやって開けるんだ?」
ボロミアが押しても開かない。
諦めて離れ星と月の明かりが差し込むと、壁に模様が浮き上がった。
「イシルディン……!」
細工の見事な精緻さにギムリとレゴラスがうめいた。
エルフが手を加えたミスリルが、星と月光に照らされると現れる特別な技法である。
この門はドワーフの石工とエルフの合作であることが伺えた。
浮かんだのは二本の柱が支えるアーチ。
それに囲まれた金床と鎚の紋章、八つの線が放射する銀の十字星、二本の木。
「金床がドゥーリン、星はエルフの王家、木はアマンの二つの木を意味しておる。ここで間違いない」
カザド=ドゥームが栄華を極めた当時のものが、サウロンの破壊を免れ手付かずであったことにガンダルフは喜んだ。
続いてアーチに刻まれた古いエルフの言葉を読む。
「フェアノール文字じゃな」
「なんて書いてある?」
覗きこんだフロドに急かされ目を細めて解読を試みた。
「どれどれ、モリアの領主、ドゥリンの扉、唱えよ、友、そして入れ。われ、ナルヴィ、これを作りぬ。柊郷のケレブリンボール、この図を描きぬ」
指で文字をなぞりつつなめらかに読みきったガンダルフの顔色はすぐれない。
「合言葉を言えば開くようじゃ」
「それで、合言葉は?」
当然ガンダルフは知っているものだと皆は思い込んでいた。
「それが、わからん」
ガンダルフは傍らの石に座った。
じっとして考えを巡らせているようだ。
フロドはがっかりしたというより信じられなかった。
「わからないって、だって魔法使いでしょ?」
「中から出るぶんには押せば開いたんじゃがな。わしにもわからんことぐらいあるわい。だから考えるのじゃ。みなも考えてくれ」
魔法使いはパイプを取り出して長考の姿勢に入った。
「頭を使うのは苦手なんだが……」
オーザンも傷痕だらけの顔をさすって考えてはみるが、いくさの毎日で覚えたのは罠の作り方や戦いのいろはだ。
仲間の知恵袋が駄目なら出る幕はない。
早々に諦めて見張りに立った。
どこでオークが見ているかわからず、目立つ焚き火はやめて調理が不要な保存食を配って食べる。
水辺でぼんやりしていたピピンは退屈しのぎに湖へ小石を投げ始めた。
何個か石が投げられ波紋が水面に広がっていく。
もうひとつ投げようとした腕をボロミアが掴んでやめさせた。
時間ばかりが流れる。
あれでもないこれでもないと単語を試し、果てはボロミアが剣でこじ開けようとしたが無駄だった。
ぴたりと閉じており切っ先も入る隙間がない。
因縁を捨ててアラゴルンと協力しても敵いっこなさそうだ。
「くそっ! 開け!」
「先人の技だ。破れん」
モリアの絶頂期の技術を伝え聞くギムリは悪あがきを諌めた。
「こう言っちゃなんだが、その扉は良くできてる。エルフとドワーフは仲が悪いんじゃなかったか?」
「損得が噛み合えばやりとりぐらいするわい」
「いがみ合いばかりじゃなくて、交易を通じて縁を結ぶこともあったのさ。互いの優れた技術を交換して武器の質を高めていたんだ」
レゴラスの弓には綺麗な装飾と綻びのない魔法が掛けられている。
ギムリの斧も剛健でかみそりのように鋭い。
「まあ、エルフも魔法だけは大したもんだったからな」
「ドワーフの工芸品もな」
二人は長所を認め合った。
それぞれの長所を生かせれば強固で鋭く、羽毛のように軽やかな魔法の武器も創れただろう。
「そんなこともあったが今はサウロンのせいで滅茶苦茶にされちまった」
「多くの戦士が散った。栄華は遠い昔だ」
遠い目で故人を偲ぶ。
無数の技術が失伝しサウロンを滅ぼして平和を取り戻したとしても、かつての栄光を復元するのは不可能だ。
「なあに、生きてりゃ明日がある。人さえいれば町も復興できるさ」
辺境では天変地異や襲撃で拠点が潰れ、一から始めるのは珍しくない。
自分の唯一知る世界が何度も壊れてもいちいち絶望などしない。
昨日までが崩れ去ったなら、また今日を積み上げていけば同じ高さに届く。
明日を夢見て信じ今日に命を賭けるのだ。
そうやって生きてきた。
己以外が死に絶えた今でも、それが間違いだったとは思わない。
「いつかあの扉も賑やかになる。昔みたいにな」
これは多くの種族の復活の旅だ。
「……昔?」
その単語が耳に引っ掛かったフロドが腰を上げる。
扉の前を行ったり来たりして考えを編み上げる。
「そうか、そうだ!」
「どうした?」
じっと考えていたガンダルフが顔を向けた。
「もっと簡単な話だった! 昔に造ったなら、交易で出入りする度に面倒な合言葉なんてやらない」
「一理あるのう。それで?」
「唱えよ、友と。そのままだ、友はエルフ語で言うとなに?」
フロドに訊かれるままガンダルフは答えた。
「メルロン」
積もった埃をこぼして、ドゥリンの扉は外へ動いた。
真っ暗な洞窟が待っている。
「開いたぞ!」
ボロミアは歓声をあげる。
湿った風が開かれた門から吹き出した。
「なんと、深く考えすぎじゃったか。言われてみれば、フェアノール文字を読めるオークはおらなんだ。昔はそのまま読んで出入りしておったのじゃな」
「よくやったフロド!」
アラゴルンと一緒に手柄を称えて胴上げしてやりたいが、それに参加してやれなくなった。
闇夜の湖と坑道の両方に異常がある。
「盛り上がってるところ水を差して悪いが、早く入らないとまずい。レゴラス、先頭を任せる。注意しろ!」
オーザンに勝るとも劣らない五感の鋭さで、暗闇でも立ち回れる。
笑顔を消して戦士の顔になったレゴラスが矢をつがえて洞窟に向ける。
「なんだってんだい?」
「いいから急げ」
サムの背中を押して行かせる。
ドゥリンの扉から吹いた風に混ざっていたのは辺境でいやというほど嗅いだ臭いだ。
ピピンの投げた石で湖に潜むものにも察知されたようだ。
暗い水面がこちらに動いている。
最後尾にフロドを置いてそろりそろりと一行は入っていく。
湖と門の間に立ち、裾をはらってセレグセリオンを抜いた。
真っ黒な刀身に月明かりが反射して濡れたように光る。
右手で握り、柄の先端に左手を添える独特の構え。
「来い」
静かだった水面がうねり、多数の触手が飛び出した。
人の胴ほどもあるみみずのような気味の悪い外見で、ぬらぬらしている。
「ふっ」
まっすぐこちらに来るのなら、オーザンには容易い獲物だ。
ひと呼吸のうちに四度の太刀で七本の触手を切り落とす 。
風を断ち音すら置き去りにする担い手に喜び、セレグセリオンは金切り声で鳴いた。
触手はオーザンの足元をすり抜け、門を潜ろうとしていたフロドの足首を捕まえた。
外へ引き摺られてていく。
「うわああ!」
手を伸ばすがマントの裾をちぎるだけに終わった。
「フロド!!」
剣を抜いたアラゴルンとボロミアが門から舞い戻った。
すぐにそこいらの触手に剣を叩きつけてフロドへの道を拓く。
吊り上げられたフロドの真下で水が割れ巨大な骸骨のような本体があらわになった。
それが真っ二つに開くとナイフ大の無数の歯が並んだ口になった。
指輪をフロドごと食おうとしている。
「させるか!」
湖に足を踏み入れ、豪快にセレグセリオンを叩きつける。
大顎の三割まで斬り込んだだけだが怪物はひるんで悲鳴を叫び口を閉じた。
「今だ!」
アラゴルンがフロドを吊り上げた触手に斬りつけ、解放する。
水に落ちたのをすかさずボロミアが捕まえて陸地に引き上げた。
まだオーザンは手を緩めない。
魔剣を操り嵐のように刃を繰り出して触手を断ち、怪物の頭から白い体液をほとばしらせた。
並みのオークならとうに死ぬ傷を与えてもまだ足りない。
痛がって暴れさせた触手を柳のごとくかわしては本体を滅多斬りにした。
「死ね」
化け物を生かしておくとまた誰かが犠牲になる。
オーザンは怪物をここで仕留める気だった。
怪物が苦しみもがき、力強い触手が何度も門にぶつかると石組みが揺らいだ。
岩が崩れ始め今にも門が潰れそうだ。
「もういい! 戻れ!」
アラゴルンが呼び掛けた。
「ちっ」
身を翻して飛び退き、湖から駆け戻る。
崩壊する門に間一髪で滑り込んだ。
直後に岩が降り注ぎ古代の扉は完全に壊れて塞がった。
「はは、やるじゃないか。ミナス・ティリスに戻ったら英雄譚に書き留めていいか?」
暗がりでボロミアが笑った。
彼なりの最大の賛辞だった。
「構わんが、格好よく書いてくれよ?」
セレグセリオンに付いた白い血を振って飛ばし、脂気もぼろ布で綺麗に拭く。
かなりの深手は与えたものの、いまいち殺した手応えはなかった。
出来れば倒したかったが全員無事ならそれでいい。
敵を斬ってご満悦の静かな魔剣を油断なく握ったまま周りを警戒する。
「なんなのあれ!?」
ピピンは震え上がってメリーに抱きついた。
わからんと、ガンダルフは答えた。
ガンダルフでさえ知らない生き物が地の底にはうようよいるのだ。
「山の下の暗い水の中からはい出てきたものか、追い出されてきたのか。この世の深い所にはオークどもよりもっと古くから存在し、もっといやなやつらがいろいろおるのじゃ」
水晶を杖の先端にはめこんだ。
「さあ行かねば」
それが輝き、魔法の光で辺りを照らした。