私は狩人だ。獣を狩り獣になり最後には目覚める、狩人だ。
介錯され、またゲールマンを解放し、月の魔物の傀儡にされ、月の魔物を狩る。
しかし最後には再び悪夢に囚われる。
それを繰り返しいつの間にか狩人の悪夢にも囚われ悪夢の元凶を狩る。
もはや何度繰り返されたかもわからない。気まぐれに聖杯に潜り、他世界の狩人に狩られ心が折れかける事などいつもの事だ。
そして今も、新しい悪夢へと囚われた。魔神やドラゴン、ヤーナムですら居なかった。神話に登場するような獣が、この悪夢には蔓延っているのだ。
そして狂っていない人が、血を嗜まないヤーナム人以外の人間がこの悪夢にはいるのだ。
それに気づいたのは悪夢に囚われさ迷い、洞窟の中に居た薄汚い緑の獣共を狩った時であった。
緑の獣共は洞窟の広間で裸の女達を嬲り犯していたのだ。その有様は獣としか言えなかった。
獣共を皆狩り女達に話を聞くと緑の獣共はゴブリンといい、知能も力も子供並みの弱い獣だが数が多いらしい。
他の獣と比べると危険度は低く、国や冒険者と呼ばれる連中は見向きもしないのだとか。
しかし力のない村人たちにとってはドラゴンなんかよりも身近な危険であり、実際に村を滅ぼした事もあるらしい。
この時に私は決意した。ゴブリン共を狩り、生み出した上位者を狩ると。
所詮狩人など狩ることしか能のない血濡れた人殺しなのだから。
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私は冒険者となった、階級は白磁。一番低いランクだ。
名前についてひと悶着あったがどうでもいいだろう。
ゴブリン退治は人気がなく常に余っている。
ゴブリン退治しか受けない変人もいるようだが。
初心者はまずドブさらいや下水道でネズミ退治をするほうがいいとおすすめされたが、ネズミと下水道には嫌な記憶しかないので断った。
ゴブリンのいる洞窟へ向かう途中にある牧場で豚を見かけた時には発狂しそうになってしまった。
ヤーナムやメルゴーの高楼に居る豚ほど大きくはなかったが、それでもガスコインの娘を思い出してしまう。私が会った中で一番まともであった。
だからこそ、豚には恐ろしい死が必要なのだ。
閑話休題
私の目の前のゴブリン共の洞窟は一度白磁の冒険者たちが挑み帰って来なかった所らしい。
おそらくだが真っ向から挑んだのだろう。集団に囲まれたならばそれはもはや死を意味する。一人一人は弱いヤーナムの群衆ですら群れると脅威になるのだから。
ゴブリン共は最低でも十匹以上居るらしい。各個撃破は簡単だろうが倒している最中に増援を呼ばれては堪ったものではない。
故に炙り出す。火を焚き煙を洞窟内に充満させる。
別の出入口があろうと煙が立ち上るから見つけられる。
早速内部に油壺をぶん投げ油を撒き火炎瓶で着火する。
そこいらに転がっている枝や木を薪代りに火勢を強める。
このままいけば浅い所にいるゴブリン共は洞窟から逃げ出し深部のゴブリン共は窒息するだろう。
右手にノコギリ鉈、左手に火炎放射器を持ちゴブリン共を待ち構える。
じっと煙の中でも動く物がないか観察する。....動く物はない。
別の出入口から逃げたか?しかし他に煙が立ち上る場所は無い。
煙が行き届いていないか、ゴブリン共が動けなくなったかのどちらか。さてどうするべきか。
突入し止めを刺すか待ち続けるか。
待ち続けゴブリン共に逃げられたら奴らは村を襲うだろう。
...少し確認に入るか。燃え盛る火を消し洞窟内に入る。
少し進んだところで地面に倒れる緑の人形。ゴブリンだ。三匹ほど倒れている。
死んでいるか確認するために石ころをぶつける。
...反応は無い。ここで死んでいるのならば奥のゴブリン共は全滅だろう。
特別丈夫なヤツが残っている可能性もある。上位種はしぶといらしい。
粗方浅い所は探索し終わった。ほとんどのゴブリン共は死んでいたが一部の個体は生き残り、粗末な棍棒を振り回してきた。
一発もらってしまったが。幸い軽傷だった為輸血液一個で事足りた。
残る道は一本。最深部に向かう道だろう。
このまま進み依頼を終わらせ新しい依頼を受けに行こう。
腰に携帯ランタンを提げ、左手に獣狩りの松明を持つ。
生き残りのゴブリンに見つかり易くなるが何も見えないよりはマシだ。
道を進んでいき、たどり着いたのはなんとも匂い立つ広間であった。広間にはゴブリンが六匹、そして冒険者達の死体があった。冒険者達は男だけで構成されていた。
煙が届かなかったのか、あるいは効かなかったのか。
ゴブリン共は元気にギャアギャアと威嚇するように声を上げた。
松明を落とし火炎放射器に持ち替える。
一体の首に目掛けてスローイングナイフを投擲する。
スローイングナイフは一直線に首へ向かい、突き刺さった。ゴブリンはそのまま倒れ悶えている。
仲間がやられたことに怒ったのか二匹が突撃してくる。
飛びかかってきたゴブリンを変形攻撃で迎撃しもう一匹のゴブリンを叩き切る。
止めに火炎放射器で焼く。残り三匹。
一匹にスローイングナイフを投げるが避けられる。
ゴブリン共が私を中心に三角形の形になる。追い詰めたぞと言わんばかりにギャアギャアと鳴く。
後ろからの一撃を前にステップしてかわし、そのまま前にいるゴブリンを攻撃する。
ノコギリ鉈がゴブリンの体を引き裂く。後二匹。
火炎放射器をゴブリンに投げつける。怯んだ隙に獣狩りの短銃を取り出し怯んだゴブリンを撃つ。後一匹。
やけくそになったのか、めちゃくちゃに棍棒を振り回しながら突っ込んでくる。パリィの的だ。
パリィし体勢を崩す。何が起こったのか分からないという顔をしたゴブリンの腹に右手を突っ込む。内臓をかき回し引きずり出す。ゴブリンはビクンビクンと痙攣し、息絶えた。
獣狩りの松明を拾い辺りを見渡す。道も扉も何もない。あるのは死体のみ。
依頼達成だ。冒険者ギルドに戻ろう。
途中、再び豚を見てまた発狂しそうになってしまった。
これは訓練が必要だ。
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ギルドに戻り依頼を達成した事を伝え、新しい依頼を受けようとしたが獣狩りの依頼は無く。ドブさらい等の雑用しか残っていなかった。
ネズミ狩りすら残っていない。
ゴブリン退治は先ほどまで残っていたようだが、ゴブリンスレイヤーなる人物が受けていったらしい。
受付嬢曰く、ゴブリン退治のベテランで銀級とのこと。
銀級か、ランクはほぼ最上位と言ってもいい。私よりもランクが上で尚且人格もいいらしい。
今私に出来ることは何もない。
獣を探して走り回ってもいいが、徒労に終わるだけだろう。
それならば明日まで待ち、獣狩りの依頼が張り出されるのを待った方がいいだろう。
スローイングナイフや火炎瓶の補充をしに狩人の夢へ帰ろう。
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「お帰りなさいませ、狩人様」
人形の声が聞こえる。ああ、と返事を返し水盆の使者へと歩む。ゴブリン共から得た血の遺志でスローイングナイフを多めに買い、保管庫に送る。
保管庫から火炎瓶を取り出し、工房でノコギリ鉈を修理する。
記憶の祭壇でカレル文字を爪痕から左回りの変態に付け替える。
ゲールマンは、見当たらない。
目覚めの墓石であの悪夢へと目覚める。
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町の外、門の近くの茂みにある灯りにて目覚める。
辺りを見渡し、誰にも見られていないことを確認して町に入り、入口付近にある冒険者ギルドに入る。
私の格好が見慣れない為か視線が集まる。
他の冒険者達の格好は金属鎧か革鎧だ。
顔をほぼ隠しているのも原因だろうか。
無視して前に進もうとすれば視線が逸れ、私の後ろへ向かう。
何事かと振り向けば薄汚れた鎧兜をつけた男。
首元にあるのは銀に光る札。銀級だ。
げっ、ゴブリンスレイヤー!という声が聞こえた。
つまり彼がゴブリンスレイヤーなのだろう。
彼は壁際の椅子にどっかと座りそのまま我関せずと言ったようにじっとしている。
私も受けるのはゴブリン退治だ。冒険者達が依頼を受け終わるまで待たせてもらおう。
壁にもたれ掛かり腕を組む。
「はーい、冒険者の皆さん!朝の依頼張り出しのお時間ですよー!」
受付嬢の号令がかかり、冒険者達が餌を目にした
ざわざわざわざわと、ヤーナムにはなかった喧騒が此所にはある。
その様子に頬が少し緩んでしまうがすぐに戻す。
ゴブリンスレイヤーの方に目を向ければ神官とおぼしき少女が何か話している。
首に下がった札は白磁、私と同じだ。
ヤーナムにいた聖職者といえば皆獣になっていたな。
冒険者達が受付から離れた所で受付に向かう。
「ゴブリン退治の依頼はあるか」
「はい、あります..が。またお一人ですか?」
「そうだ」
「そうですか..二件依頼があります。西の山沿いの村に中規模の巣、北の川沿いの村に小規模の巣です。北の依頼は新人さんが請けたので、西の依頼を請けてくれると助かるのですが...さすがにお一人となるとオススメできません」
「そうか、だが獣は放置できん。請けさせてもらうぞ」
「ですが...」
「どうした」
その言葉に振り向けば薄汚れた鎧兜の男、ゴブリンスレイヤーだ。この男もゴブリン退治だろう、ならば。
「...この男と一緒ならば問題は無いか?」
「えっ..はい。問題は無いと思いますが..」
「そうか...貴公、ゴブリンスレイヤーだろう?私もゴブリン退治だ、付き合わないか?」
後ろを振り向き、言葉を掛ける。付き合うならば問題無し、付き合わなくとも報酬など私には不要なのだから勝手に行けばいいだけだ。
「白磁か。好きにしろ」
許可は出た。受付嬢を見、顎で促す。
顔をひきつらせた受付嬢が資料にサインする。
「あの..」
声の方向を向けば神官の少女がこちらを見ている。
「なんだ」
「あの...私と一緒の白磁ですよね?どうして一人でなんて無茶をしようとしたんですか?」
「無茶か、確かに真正面から行けば危険だろう。だが私がするのは狩りだ、冒険ではない。ありとあらゆる手を尽くして狩り尽くす。火を使い毒を使い神秘を使う」
私がそう言えば神官は言葉に詰まる。
もう少し説明しようと口を開いた途端、ゴブリンスレイヤーが介入してきた。
「何が使える?」
「何..?」
「道具、魔法、奇跡。神秘とやらはわからんが」
その言葉に少し考え。
「ナイフや火炎瓶、油、ヤスリ。武器もある。灯りが欲しいならランタンや松明もあるが」
「ふむ、そうか。鎖帷子は着けているか?」
「ああ、鎧もある」
「あるものはすべて使え、いくぞ」
...私も愛想はないが、この男はなさすぎでは無いだろうか。
まぁ、この男のお陰で正式に依頼を請けられたのだからいいか。
何をしてでも、獣を狩る。それが私だ。