-Side エヴァンジェリン
ナギ・スプリングフィールドが生存している。その情報は闘いから一夜明けた日の午後、とあるカフェで私にもたらされた。
十年前に奴は殺された、そう思っていた私にとって驚天動地な話である。
そうか、殺しても死なない様な奴だと思っていたが本当に生きていたとはな。
思い人、認めるのは非常に癪であるが、思いを寄せる男についての朗報に心が跳ねる。
吸血鬼である私がたった一人の男にこうまで心揺さぶられるなんて、などと考えつつさらなる情報を求めようと目の前にいる子供教師に催促するかのごとき視線を向ける。
「こんにちは」
そこへ後ろから男の声で挨拶が投げかけられた。
突然の闖入者に振り返ると、薄く笑みを浮かべた男が立っていた。
噂をすれば影、なんてありえもしない一抹の期待をしてしまった自分に少し苦笑してしまう。
なんだ、貴様か。
私が懸想している男ではなかったが昨日めでたく仲間になった青年である、無視するわけにはいかないだろう。
「なんだとは御挨拶だな。昨日せっかく仲良くなれたと思ったのに」
仲良くなれた……か。まあ、あながち間違ってはいないか。
「こんにちは!昨日はありがとうございました」
坊やが笑顔で礼を述べている。
しかしそんなことはどうでも良い。今はサウザンドマスターのことが重要だ。
あらいざらい話してもらうぞ。
「でも手がかりはこの杖の他には何一つ無いんですけどね……」
情報はそれだけか……。ちっ、使えん奴だ。
いや、待てよ。そういえば、たしか……。
そう、京都だ。京都に奴の別荘があったはず。
「京都に行ってみるがいい。どこかに奴が一時期住んでいた家があるはずだ。奴の死が嘘だというのならそこに何か手がかりがあるかもしれん。」
私は呪いのせいでこの学園から出ることができん、坊やに行かせるしかないだろう。
坊やはナギを探している、私もナギを探している、目的が一緒なのだからかまわないはずだ。
「ちょうど良かったじゃん、ネギ」
「へ?ちょうど良いってどういうことですか、アスナさん?」
「修学旅行、私達のクラスの目的地が京都なのよ」
都合の良いことに私達のクラスは修学旅行で京都に行くらしい。
くそっ、この呪いさえなければ私が直接京都へ赴くものを……。
「へえ、ネギ君達は京都に行くんだ。いいなー」
まったくこいつは私の気も知らないで、のんきなことを。
ん?そうだ、こいつがいたじゃないか。正直坊や達だけでは不安だ。私の手下……もとい仲間であるこいつに行かせれば幾らか安心だ。
「おい、貴様も京都へ行け」
「はあ?なんで京都に?」
「ナギを探すためだ。坊や達だけじゃ不安だからな」
私と渡り合うことができるからな。こいつは多少のことなら平気だろう。
「凪?よくわからんがその日は俺も高校の修学旅行でハワイに行くんだが……。そうだ、ならハワイで探してくるよ」
ハワイだと?そんなところにナギの手がかりがあるのか?
いや、こいつも吸血鬼だ。見た目どおりの年齢ではないはず。私は知らなかったが、ハワイとナギの関係をその長い年月で耳にはさんでいたのかもしれない。
「そうか、では貴様はハワイへ行け。なんとしてでも手がかりを得るんだ、良いな。」
――――
凪。波の穏やかな状態という意味だ。
よくわからないがエヴァンジェリンはその凪を探しているらしい。
つまりは穏やかな海を求めているのだろう。
ネギ君達は京都を探し、俺はハワイを探す。
ではなぜそんなものを求めているのかについて考えてみたいと思う。
エヴァンジェリンは吸血鬼だ。吸血鬼の弱点はいくつかあるが、その中でも流水に弱いという点について着目してみよう。流水は流れる水だ。なら流れていない水であれば平気ということだ。
そこで凪である。
穏やかな海ならば吸血鬼でも入れるかもしれない、そう考えたのではないだろうか。
ふつうに考えれば無理だ。流れていない海などない。湖や池でさえ流水とカウントされるはずであるのに海なんかとてもじゃないがアウトだ。
しかし一縷の望みに賭けてみるのも良いのではないか。
エヴァンジェリンは広い海原へ飛び出したいのだ。人の血を吸う鬼だって母なる海へ憧れるのだ。
彼女は太陽を克服している。弱点の一つを克服しているのだ。流水ごときものともしない存在へ昇華するはずだ。
最も動きのない海を探してあげる、それが友達としてしなくてはならないことだ。たとえそれが非合理的なことだとしても。
ハワイにそんな場所があるかどうかはわからない。でもハワイだ。芸能人が好んで向かうハワイだ。穴場があってもおかしくはない。
そうハワイ。南の島ハワイ。
そろそろ準備しておくか。パスポートとかを忘れてしまったら洒落にならないしな。
楽しみだなあ。
読んでいただきありがとうございます。