吸血鬼。
人間を餌とする、夜の王。不死の身体を持ち、人々から畏怖される存在。
それが私。
15年前、サウザンドマスターに麻帆良の地に封印されてから、まるでおままごとのように学生として日常を過ごしてきた。学校へ行くことを強要され、まるでぬるま湯に浸かっているかのごとく平和で退屈な日々だった。
封印によって私は吸血鬼にあるまじき生き方をしているのだ。
その忌々しい封印を解くため、私は桜通りにいた。
吸血鬼が魔力を回復するにあたり一番効率的な方法、血を頂く人間を見繕っている。
そこへ一人の青年がやってきた。
容姿は平凡、中肉中背、高校の学生服を身に纏い歩いている。
おそらく学校から帰るところなのだろう。
なんだ、男か。
男、というのは吸血行為においてマイナスである。
最も好ましいのは女、その中でもまだ男を知らない清らかな娘だ。
こいつは男でしかも魔力も感じられない。
本来であればスルーしてしまう存在なのだ。
しかし、しかしである。
私はこの男の前に姿を現すことにした。
違和感があったからだ。
普通の人間からは感じない様な違和感が。
街灯の上から彼を見下ろす。
こちら側の領分に属しているかのような匂い、私と同じ人外であるかのような気配。
人間と人外、その両方が同時に存在しているかのようなその気配に違和感を覚えた。
もしかしたら、麻帆良の生徒に擬態している侵入者かもしれない。
その正体を突き止めてやろう。
すると青年がこちらに気づいた。目を見開き驚いている。そしてそのまま呆けている。
その仕草は一般人のそれだった。
私のことを知っているのならばその様な反応にはならないはずだ。
そして麻帆良にいる裏の人間で私のことを知らない奴などいないだろう。
600万ドルの賞金首だ。それだけの額に見合うことをしてきた。
リク・ラク・ラ・ラック…
試してみるか。
そう思い呪文を唱え始める。
だが男は何の反応も示さない。
何をぶつぶつ言っているんだ?という顔をしている。
呪文に反応しないということは、本当に一般人なのか?
わからない。わからないが、魔法をぶつけてみればはっきりする。
死にはしない威力だ。
もし普通の人間だったら怪我を治し、記憶を操作すれば良いだろう。
試験管を放り投げ、魔法を発動する。
封印によって力が制限されている私には、魔力の底上げをする道具が必要不可欠なのである。
5つの魔法の矢が男に向かって真っすぐ飛んでいく。
直撃コース、何も起こらなければ男の意識を刈り取るはずだ。
男は動く様子がない。
しかし、5本の光筋が彼にぶつかるその瞬間、
5つの矢はあらぬ方向へと矛先を変えた。
何かに弾かれたかのように突然方向転換をしていたのだ。
その男からは魔法の発動は一切感じなかった。
魔法障壁の類ではない。
ならばなぜ魔法が当たらなかったのか、わからない。
男を見つめる。
その男は何もなかったかのように自然に、その場から去ろうとする。
ちっ、このまま帰してたまるか。
「貴様、いま何をした!?」
男に疑問を投げつける。
答えねば殺す、そんな意思を込めた言葉。
「何を言っている?わからないのか。」
しかし、男は疑問に疑問で返す。
こんなこともわからないのか、と。
なんだと?
その一言で私は激昂した。
この私が馬鹿にされている。お前はこんなに長い間生きているのにものをしらない無知な女だと、嘲られているように感じた。
殺してやろうか。
殺気を込めた眼で男を見る。
私は吸血鬼だ。真祖の吸血鬼、闇の福音、600万ドルの賞金首、人々から恐れられる存在だ。
貴様なんぞが馬鹿にして良いはずがない。
「何をそんなに怒っているんだ?俺とお前が闘う理由などないだろう?」
闘う理由?こいつやはり麻帆良の魔法生徒だったか。
「闘う理由がない?何だ貴様、こちら側の人間か。だが、私は悪い魔法使い、しかも吸血鬼だぞ。貴様らの敵ではないか。闘う理由など腐るほどあるだろう。」
魔法使いは皆立派な魔法使いを目指す、そのため正義を謳っている輩が多い。
同じ麻帆良にいるからといって味方だとは限らない。
しかもこちらは攻撃までしているのだ。闘うのに十分な理由だろう。
「それは違う。悪い魔法使いだから敵、吸血鬼だから敵、というわけではない。俺は君と敵対するつもりはない。むしろ仲間になりたいと思っている。誇り高き君と。」
何を言っているんだこいつは?仲間だと?
普通の魔法使いが吸血鬼と仲間になるなんて笑い話にもならない。
三味線を弾いているのか。
そこでふと思いつく。
普通の魔法使い?私の知らない方法で魔法の矢を防ぐ奴が?
魔法を使った形跡も残さず、この私も知らない技法を使うこの青年が、普通の魔法使いのはずがない。
そして最初に感じた異様な違和感、気配。
私と仲間になりたいなどという愚行。
そこから導き出される答えとは。
吸血鬼。
何か確信めいたものが頭をよぎる。
こいつが吸血鬼だったとしたらどうだろうか。
最初に感じた違和感。吸血鬼同士だからこそ感じることのできた、共鳴反応だろう。
私の知らない方法で魔法を防いだこと。吸血鬼の永遠の寿命の末に編み出したオリジナル・アーツなのだろう。
私と仲間になりたいというアプローチ。吸血鬼という同じ種族、滅多にいない稀有な存在、その孤独さを嫌い仲間が欲しかったのだろう。
こいつは私と同じだったのだ。
吸血鬼と断定するのは早いかもしれない。だが、それに準ずるなにか、人外であることは想像に難くない。人間との違いに悩み、自分と同じ種族を探していたのではないだろうか。
最初、驚いていたのは意図した出会いでなかったから。
しかし、人間相手では決して分かち合えないもの、それを私に求めているのだ。
どうする?
まずは話をしてみよう。
そう考え顔を上げる。すると、彼がことばを発する。
「今日はここまでにしよう。さらばだ。」
彼がそう言った瞬間のこと。
彼の身体が跡形もなく消えていた。
瞬動ではない。転移魔法でもない。
文字通り、跡形もなく、煙のようにいなくなってしまっている。
まるで彼だけ世界から切り取られたようだ。
ふんっ、まあいい。
あいつは今日はここまでと言った。
今日はということはまた会う機会があるということだ。
その時に色々と確かめればいい。その頃には私の封印も解けているだろう。
そのために魔力を高めなくては。
血を吸う相手を探そう。
今日の本来の目的を思いだす。
と、そこで一人の少女を見つける。
「27番、宮崎のどかか…。悪いけど少しだけその血をわけてもらうよ。」
-Side 絡繰茶々丸
「なんなんだ、あれはいったい!」
マスターが怒っています。鼻血を出しながら。
原因はさっきのネギ先生から血を吸っている最中の闖入者でしょう。
いつの間にかやってきていたその男性の方に、マスターと私は二人仲良く吹き飛ばされてしまったのです。錐揉み回転で。
私のセンサーにも反応しない攻撃、何だったのでしょうか。
「何がしたいんだ、あいつは! 仲間になりたいとか言っておきながら邪魔しおって。そもそも、今日はもう会わないんじゃなかったのか!」
仲間?あの方はお知り合いなのでしょうか。
ならば挨拶をしておいた方が良かったかもしれません。
その機会はありませんでしたが。
「機械だけにか?」
マスターが何か言っていますが理解ができません。
どうしたのでしょうか?
「すまん。忘れてくれ。」
はあ、マスターが忘れろというのならば忘れます。
データは残っていますが。
「とにかく、奴には注意しておいてくれ。はっきりとした目的が掴めん。もし危害を加えてくるようなことがあるならば返り討ちにしてかまわん。」
わかりました。気にかけておきます。
「あと、奴は吸血鬼、もしくはそれに準ずる人外かもしれない。留意しておけ。」
吸血鬼?
マスターと同じですね。ということはお友達なのでしょうか。もしくはご兄弟?
お名前は何というのでしょうか?
「あっ!?」
読んでいただきありがとうございます。