守護霊と魔法使い   作:そばめし

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あけましておめでとうございます。


3話

 今日はやることがない。

 つまり暇である。

 もちろん学校には通っている。そう放課後なのだ。友達は皆部活に精を出しているだろう。

 

 俺も昔であれば道場で汗を流していたかもしれない。というのも実は中学校の頃剣道部に所属していたからだ。

 しかし、今の俺は帰宅部である。しかもバイトもせず暇を持て余しているのにもかかわらずだ。帰宅部に大会があったらエース級だろう。

 

 ということで、散歩をしている。

 

 吸血鬼に出会う、なんて普通の人間には起こり得ない出来事を体験してしまったのだ。人によっては涙を流してうらやましがるような体験を。

 非日常から日常へ戻る、気を休めるのに散歩という手段は適しているといえるだろう。霊が見える俺が言えたことではないかもしれないが。

 

 それにしても吸血鬼、か。俺のことを怒っているだろう。仲間になると言ったのにも関わらず、そのあとすぐにぶん殴ってしまったのだから。俺ではなく守護霊が、だが。

もう会うことはないだろうが一応、念のため、大事をとって吸血鬼の弱点について調べてみた。

 

 主だった弱点は日光、ニンニク、十字架である。つまり日が昇っている間、昼間にエヴァンジェリンは屋外を歩けないということになる。日光の暖かさを感じている間はエヴァンジェリンに襲われる心配はしなくて良いだろう。ありがとう太陽。

 

 そして夜。日が沈んだ暗闇。ニンニクと十字架でも持ち歩くべきだろう。

 もし、仮に、万が一、彼女に出会った時のために用心しておくに越したことはない。夜に外に出ないという選択肢もあったが、さすがにそれは不便である。

 

 ニンニクはスーパー、十字架はアクセサリーショップに売っているはずだ。十字架はどのくらいの値段なのだろうか。

 

 まあいい。会うか会わないかわからない異形に思いを巡らせていてもしかたがない。せっかく日常を謳歌しているのに、非日常を思い悩むのはいけない。

 そう思い俺は散歩を楽しむことにする。

 

 

・・・

 

 

 猫がいる。一匹や二匹ではない、たくさんの猫がにゃーにゃーのどを鳴らしている。首輪をつけている者はいないのでおそらく野良猫である。

 

 俺は犬派か猫派かと問われれば、猫派だと答えるだろう。犬と猫どちらにも魅力はあるが、猫の可愛らしさに心を奪われてしまっている。

 

 夢のような場所に来てしまったな。

 

 猫の頭をなでる。モフモフである。

 しかし、その猫は俺の手から逃れるように走りだした。

 

 むむむ、嫌われたのだろうか。少し気が沈む。

 

 だがそんな俺の心情など関係ないとばかりに猫は立ち止り、こちらを向いてニャーと一声あげた。

 

 ついてこい、そう言っているかのようだ。

 

 なるほど、俺は嫌われたわけではないのだ。追いかけっこをして遊ぼうと誘われていたのだ。決して嫌われていたわけではないのである。

 

 ならばその挑戦受けて立とう。猫と人間の真剣勝負だ。俺は走り出す。

 猫は地面を這うようにするすると駆けていく。見失うわけにはいかないな。人間の代表として。

 

 

 ドンッ!

 

 

 少し赤色がかった青空が広がる。

 鼻が痛い。背中も痛い

 

 俺は仰向けで倒れていた。

 

 猫を追うことに夢中で下ばかりを見ていたので、硬い何かにぶつかって倒れてしまったようだ。

 

 と、その時、俺の目の前を光の球が通りすぎていった。

 

 なんだ今のは!?

 驚愕。

 

 光が矢のように俺の鼻先をかすめていったのだ。それは日光や懐中電灯の光などとは違い、質量を持っているように空気を裂いて飛んでいく。

 

 まさか…。火の玉?

 

 いや、正確にいえば火ではなく光なのだが、同じ系統のものだろう。

 今まで守護霊は見えていたが別の種類の心霊現象を見るのは初めてだった。

 火の玉、ウィル・オー・ザウィスプとも呼ばれている心霊現象だ。墓場や湖などで目撃されているらしいが、昼間、しかも学校で目にするというのは珍しいことだろう。

 いや霊を見ること自体が珍しいか。

 

 などと考えていると。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 顔をのぞきこまれ、手を差し出される。

 どうやらこの人とぶつかってしまったらしい。

 

 「大丈夫です。すみません、ぶつかってしまって。」

 

 手をとり、立ちあがりながら謝罪を述べる。

 

 やれやれ、申し訳ないことをしてしまった。女性に怪我をさせてしまったら大変なことだった。改めて謝罪を…って、あれ?

 この人どこかで見たような…。具体的に言うと吸血鬼の隣で見たような気が…。

 

 …なるほど俺と衝突した人物は吸血鬼のお仲間さんだったようだ。

 

 まさかこんな場所で会ってしまうなんて。しかもぶつかってしまった。違うんです。攻撃とかそういうのではないんです。

 しかし俺が弁明するより早く彼女が声を発する。

 

 「助けていただいてありがとうございました。では、失礼いたします。」

 

 彼女はそう言い残し飛んで行ってしまう。

 何かジェットのようなものを使って。

 

 助けた?俺が?

 

 わけがわからない。助けたとは一体どういうことだろうか。

 

 俺が彼女に対して行ったアクションはぶつかったことだけである。つまりぶつかったことが彼女に何らかの助けをもたらしたことになる。

 

 そこでもう一つのファクターに思い当たる。そうウィル・オー・ウィスプだ。あの火の球は倒れている俺の前を通っていた、ということは俺があの吸血鬼のお仲間さんにぶつからなければ火の玉が彼女に衝突していたのではないだろうか。

 

 なるほど、俺は期せずして彼女を火の玉の毒牙から救ったのだ。

 

 俺は疑問が解消され清々しい気持ちになった。

 

 「ご…ごめんなさいっ!」

 

 そこに後ろから少年の声が聞こえてくる。

 

 ごめんなさい?今度は謝られてしまった。

 

 どういうことだろうか?また新たな疑問が生まれるとともに振り返る。

 そこにいたのはいつぞやの杖を持っている少年そしてその男の子と一緒にいたツインテールの女の子だった。魔法使いの少年、また会えるとは夢にも思わなかった。

 

 ごめんなさいと言われたが、彼にはなにもしていない。謝罪されることなどなにもないはずだ。

 となるとやはり関係してくるのはウィル・オー・ウィスプだろう。

 

 あの夜、この小さな魔法使いは吸血鬼と闘っていた。ならばエヴァンジェリンと少年は敵対関係にあることになる。そして吸血鬼の仲間が火の玉に襲われていたこと。

 ここから導き出される答えは一つ、この少年が火の玉を吸血鬼の仲間の彼女にけしかけたのだろう。

 

 では、なぜ謝罪なのか?吸血鬼側の少女を助けたのだ、非難されることはあれど謝罪されることはないはずだ。

 

 「あと、…ありがとうございました。僕は間違ったことをしてしまうところでした。それを止めていただきありがとうございました。」

 

 少年がお辞儀をする。つられてツインテールの少女も。鈴が鳴る。

 

 なんだ、そういうことか。

 

 少年は手違いか魔法の失敗かわからないが、火の球で吸血鬼のお仲間さんを傷つけそうになってしまった。本当は傷つけたくなかったのに。それを止めたのが俺だったのだ。

 その結果、俺が火の玉で傷つきそうになっていたので謝ったのだ。

 

 「僕の名前はネギ・スプリングフィールドと言います。こちらは神楽坂明日菜さんです。」

 「この間の夜、吸血鬼につかまっていた僕を助けてくれたのもあなたですよね。それに階段から落ちた宮崎さんを救ってくれたのも。」

 「なんども助けていただきありがとうございます!僕もあなたみたいに誰かを助けられるように精進します!こうしちゃいられない。僕、もう行きますね!本当にありがとうございました!」

 

 少年はまくしたてるように言葉を述べ、急きたてられるように走っていく。

 

 「ああ、もう、どうしたのよ、急に!ちょっと待ちなさいよ、ネギ!」

 

 少女が怒鳴る。

 

 「ありがとうございました!失礼します!」

 

 少女はこちらにお辞儀をし少年を追いかけていく。

 

 そして俺は取り残される。

 

 なんだったのだろうか、今日の出来事は。

 よくわからないが悪い出来事ではなかったのではないかと思う。

 終わりよければ全てよしなのだ。

 だから良いのだ。結局火の球はなんだったのか、とか、まだ俺が名のっていないことなどどうでもよいのだ。

 

 今日の邂逅で思うことはただひとつである。

 

 ネギ・スプリングフィールド。葱・春の平原。

 

 「面白い名前だな」

 




読んでいただきありがとうございました。
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