-Side ネギ
僕は茶々丸さんを尾行していた。
何も知らない第三者が僕達を見たら、ストーカーとして通報されてもおかしくないだろう。
でもちょっと待ってほしい。僕達には茶々丸さんの跡をつける理由があるんだ。だから警察には連絡しないでほしい。
そう、僕の受け持つクラスの生徒である茶々丸さんを行動不能にするという理由が。
…違うんだ。正当防衛なんだ。茶々丸さんは600万ドルの賞金首である吸血鬼エヴァンジェリンさんの従者なんだ。
心の中で言い訳してみても僕の気持ちは晴れなかった。
生徒を攻撃する。教師である僕が、生徒を導く存在であるこの僕が。
僕の血が狙われているんだ。反撃と称し従者を倒してしまうのは大義名分としては十分だろう。そのためにアスナさんに仮契約をしてもらった。
だが、頭のどこかに引っかかる。本当にそれでいいのかと。それで偉大な魔法使いになれるのかと。あの日見た父親の背中がぶれる。
茶々丸さんの今日の行動を見ていたら悪い人だとは思えなかったのだ。
「茶々丸さんあの…、僕を狙うのはやめていただけませんか?」
「…申し訳ありませんネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので。」
一縷の望みに賭けて、茶々丸さんに声を投げかけたがにべもなく断られる。
しかたない。やるしかない。
アスナさんが茶々丸さんの動きを抑制している間に呪文を唱える。
「魔法の射手、連弾・光の11矢!!」
僕の発動した魔法が光の矢となって茶々丸さんに向かっていく。
直撃コース、このまま当たれば彼女の四肢の機能は失われるだろう。
行動不能、従者がいなくなり吸血鬼の戦力は半分失われるだろう。
本当にそれで良いのか?
衝突音が鳴り響く。
しかしそれは僕の魔法が茶々丸さんに命中した音ではなかった。
突然、横から男の人が彼女にぶつかったのだ。すごい勢いで。
茶々丸さんも彼もその衝撃で倒れ、僕の魔法は彼女達の上を通り抜けていく。
見覚えのある青年だった。
僕を吸血鬼の魔の手から救い出してくれた青年が、今度は僕の生徒を助けてくれたのだ。
吸血鬼と敵対しているにも関わらず。
あの時、僕は血を吸われていた。つまり吸血鬼側の勝利が確定している場面だったはずだ。それを邪魔するということは僕達魔法使いサイドの人間だと思う。
だというのに、傷つけられようとしている吸血鬼の従者を救った。へたをすると自分に魔法が当たってしまうかもしれなかったのに。
僕はその姿に諭された気がした。
僕がまちがっているのだと。僕が目指しているのは彼のような存在なのだと。
たしかにエヴァンジェリンさんは止めなければならない。でもその目的は手段を正当化しないのだ。自分の生徒を傷つけるという手段を。
今まで僕は何を迷っていたんだろう。教師として、偉大な魔法使いを目指すものとして。
そのことを気づかせてくれた彼に感謝と謝罪を述べる。彼はきょとんとした顔をしていた。たぶんお礼を言われたのが恥ずかしかったんじゃないかな。
そして僕は決意を込めて自己紹介をした。
再び前へ進むために。
-Side 絡繰茶々丸
今日は奇怪な出来事がありました。
マスターが吸血鬼だとおっしゃっていた青年に助けられたのです。
その仔細をマスターにお話ししました。
「何!?あいつに助けられただと?」
「この前は邪魔をしたくせに、どういうつもりだ。」
マスターが腑に落ちなさそうに思案しています。
吸血鬼という同じ種族、つまり仲間だということです。助けられても不思議というわけではないと思いますが。
「そうだな、たしかにあいつは仲間になりたいと言っていた。ならばなぜこの間のあの場面で邪魔をした?こちらの味方だというなら邪魔をする必要はないはずだ。」
例えば子供が好きだったから、という理由はどうでしょうか?
「子供が好き?何だその突拍子もない意見は。…いや、まてよ。奴は最初に会った時に誇り高い吸血鬼である私と仲間になりたいと言っていた。」
「女子供は殺さないというのが私の矜持だ。それに反して、子供を犠牲にして封印を解こうとしたこと。それが奴にとって許せなかったということか。」
「つまり仲間になりたいが、誇りを違えることは許せない、そう思った故の行動なのだろう。」
「だが私は15年もこの学園に閉じ込められてきた。今さら後にはひけん。敵ではないがこれ以上邪魔するようなら容赦はせん。」
マスターの中で結論が出たようです。少なくとも敵ではないと。
私は彼に助けられた立場なのでこの結論に異議を唱えることはありません。
しかし、彼は不思議な存在です。
ネギ先生から放たれたあの魔法、私は回避不可能と判断しました。つまり地面に伏せた程度では避けることができないということです。
にも関わらずあの魔法は倒れた私をさけるように通り過ぎて行きました。
彼が何かしたに違いありません。私に気づかれない方法で。
まさに奇怪な出来事でした。
読んでいただきありがとうございます。