魔法の射手ってストレート一発分の威力って誰か言ってませんでした?
漫画読んでたら氷の矢は尖った氷刃が飛んでくんですよ。殺傷能力ありまくりだと思うのですが。
今宵は星が良く見える。
普段ならば街の明かりによって目立たない光が夜空に瞬いている。
学園内は暗闇に支配され、出歩く者は見当たらない。
そう、今日は年に二回のメンテナンスによる一斉停電だ。
この都市の人間は皆、蝋燭やランプを使って各々思い思いにすごしているだろう。もしかしたら明かりがつかないからといって寝ている人もいるかもしれない。
そんな中俺は一人、街灯に照らされた道を歩いている。
街灯が点いている、というのはおかしいと思うかもしれない。しかし、その疑問に対する回答は簡単だ。
俺は学園の敷地内にいないのだ。
外出は控えるように言われていたのにもかかわらず。
だがそれにはやむを得ない理由がある。
俺は蝋燭を買いにこんなところまで来ているのであった。
いや、蝋燭を買い忘れたというわけではない。
俺は蝋燭を買っていた。一週間前に。
蝋燭があると安心していた俺は、蝋燭を使う段階に来て気付いたのだ、いつの間にかなくなってやがる、と。
たしかに俺は買ったのだ。使ってもいないし、そもそも棚から出してもいない。
なくなる要素が見当たらなかった。
最初は泥棒にでも入られたのかと思っていたが、他になくなったものはない。
泥棒でないならどうして蝋燭は消えてしまったのだろうか。
と、まぁこんな具合に、しかたなく蝋燭を買いに出かけたのだった。
停電直前だったためか、店、しかもコンビニですら閉まっており、たかが蝋燭のために停電の範囲を越えてショッピングをするはめになってしまった。
店が開いてなかった時点で家に帰っていればよかった、蝋燭ぐらい誰かから借りれば良かった、そもそも蝋燭なんて必要ないのじゃないか、と今さらながら後悔している。
橋にさしかかる。この橋を渡れば学園都市の敷地だ。やれやれ、長い買い物になってしまったな、と、そうつぶやいた時、突然光に包まれた。
うおっ、まぶしっ。
まだ停電は終わってないはずだ。
急な目への刺激に驚く。
が、驚くべきところはそこではなかった。
「ん?ネギ君…か?」
光の中でネギ・スプリングフィールドと名乗った少年とツインテールの少女がキスをしていた。
少女の名前は…たしか神楽坂明日菜だったはずだ。
「えっ…えええっ!なんでこんなところにあなたが!」
彼らはこちらに気づいたようだ。
ネギ君と神楽坂さんはとてもあわてた様子で顔を真っ赤にしていた。
なるほどなるほど、わかってる、わかってるよ。
ネギ君と神楽坂さんは停電していることをいいことに、ここで逢引をしていたというわけだ。
あまりにも大胆、いや、誰も外に出ないということを前提にしているのだから理にかなっているのか。
しかし、策士策に溺れるとはこのこと。
誰も来ないと思っていたようだが、この俺の存在を失念していたようだな。ふはははは。
……ごめん。
「な…何も見てないよ、うん。俺は何も見なかったよ。」
俺は彼らの横を通り過ぎていく。
他人の色恋沙汰に口を出すのは良くない。しかも中学生らしき女の子と小学生らしき男の子だ。
不純異性こ…、いやいや藪をつついて蛇を出すことはない。ここはスルーするのが正解だ。
見なかったことにして帰ろう。
時間も時間だ。
そろそろ停電も終わ…るっ…うわっ!
衝撃。
守護霊に肩を押された。
思わずよろけてしまう。
たたらを踏んだ俺の隣を氷の礫のようなものが通り過ぎていく。
あぶなっ!
氷?鋭利な氷が、なぜ?
あられ…?いや地面と水平方向に飛んで来るのはおかしいだろ。敵襲か?攻撃されたのか?…って敵って何だよ。
「ほう、やはりよけるか。」
よけるか、ってことは俺の命を狙って放たれたものなのか。
抗議せねば。アメリカだったら即訴訟だ。いや日本でも訴訟だよ。これは裁判沙汰だよ。
「よけるか、じゃねえよ!へたすりゃ死んでたぞ!」
非難を込めて叫ぶ。
って浮いてるぅぅぅぅぅ!
そこにはまるで水中にいるように浮遊している幼女の姿があった。
なぜ浮いているんだ?鶴仙人のもとで修業したのか?
なぜ浮いているんだ?猫型ロボットと同じ理由か?
そこであることに気がつく。こいつあの時の吸血鬼じゃね?
吸血鬼パワーで空中散歩としゃれこんでいる。
というか隣にいるお仲間さん、足のジェット見たいので飛んでやがる。
そういえばこの間もジェット噴射で飛んでいた。
ロボットか?ロボットなのか?人型ロボットなのか?
「死ぬだと?当たり前だ!殺す気なんだから…な!」
エヴァンジェリンはそう言いながら俺に向かってものすごいスピードで飛んで来る。
なんでだ!?
そのまま狼狽している俺に右ストレートを放ってきた。
剣道で鍛えられた動体視力がかろうじて彼女の姿を捉えている。
が、身体が反応するかどうかは別である。
まずっ、よけられな…。
「ぐはっ!」
エヴァンジェリンが弧を描いて吹き飛ばされていく。
エヴァンジェリンが。
カウンター一閃、エヴァンジェリンの無防備な左頬に守護霊の硬い拳が突き刺さった。
彼女には守護霊が見えていない、故に彼女を迎撃できる。
俺は立っているだけだ。
エヴァンジェリンはすぐさま体勢を立て直し、声を上げる。
「茶々丸!」
その言葉に呼応し、従者の少女が突っ込んできた。
やばい、2対1だ。正確には俺と守護霊で2対2なのだが俺がまったくついていけていない。
まずこの状況についていけていないのだ、吸血鬼とのとんでもバトルなんぞもっての他である。
守護霊は二人を相手にし、しかも俺をかばいながら闘わないといけない。
絶体絶命のピンチだ。
しかし、そんな俺に思いがけない援軍が訪れる。
「契約執行90秒間!!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!!」
「なんだかよくわからないけど助太刀するわよ!」
Here come the new challengers.
吸血鬼とロボットと守護霊、その異色の闘いに魔法使いとそのパートナーが加わった。
「茶々丸さんは任せてください!」
ネギくんと神楽坂さんはロボッ娘の前に立ち塞がる。
彼らが吸血鬼のお仲間さんを担当してくれるようだ。
ありがたい。
そうこうしている間に、エヴァンジェリンが呪文を唱えていた。
「リク・ラク・ラ・ララック・ライラック!魔法の射手・氷の17矢!!」
彼女から放たれた17の氷の矢が俺を射殺さんと迫ってくる。
が、残念そこは守護霊だ。
殺意を持って飛んできた氷の矢を守護霊は事も無げに掴み取った。
「ちっ、魔法の射手程度ではやはり殺れんか。」
エヴァンジェリンは悔しそうに唸る。
すぐさま彼女は次の手に移ろうとする。
と、その瞬間…
音が消えた。
世界が静寂に染まる。
誰も動くことは叶わない、俺達二人を除いては。
まるで世界から切り取られたかのように。
守護霊が動く。
3…2…
持っていた氷の矢を吸血鬼に向けて投げつける。
放たれた冷気の塊は彼女を囲むように並び静止した。
準備が整った。
俺は何もしていないが。
…1…0。
そして時は動き出す。
「なっ!?」
まるで最初からそこにあったかのように出現した氷の凶刃が彼女を襲う。
さすが百戦錬磨の吸血鬼、咄嗟に防御行動をとり氷の矢を何本か叩き落とす。
しかし全てを受けきれるわけもなかった。
滴る血が彼女の白い肌を赤く染め上げる。
致命傷はない。吸血鬼である彼女が死に至るのかどうかはわからないが。
彼女の口の端がつりあがる。
「くくくっ、面白い、面白いじゃあないか!この私に傷をつけるか!くはははははははっ!」
笑い声、本来ならば戦場には似つかわしくないそれが、さながらラスボスとの最終決戦のBGMのように闘いのボルテージをあげる。
「ふふっ、これならばどうだ?さっきとは比べ物にならない威力だぞ!どう防ぐ?どう反撃する?」
エヴァンジェリンからとてつもないプレッシャーが放たれる。
殺気、殺すためのもの。
剣道の全国大会で闘った時に相手から感じた威圧感とは比べ物にならない。
まずいな、何かすごいものが来そうだ。どうしようか。
一般人の俺は飛ぶことができないので、彼女の邪魔をできそうにない。
期待を込めて守護霊に目を向ける。
だが、守護霊は何も言わず佇んでいるだけだった。そして俺には彼がわずかに肩を竦めたように見えた。
おいおい、時間止めてなんとかしてくれよ。
そして彼女は歌うように呪文を紡ぎだす。
と、そこへ、救世主が現れる。
「僕に任せてください!」
まるで主人公の如く現れた少年。ロボットはどうしたのだろうか。
「ラス・テル・マ・スキル…」
呪文を唱える。長い呪文だ。
まるで滅びの歌だな。
「闇の吹雪!!!」
「雷の暴風!!!」
魔法が同時に放たれる。
レーザーのような二本の線が衝突する。
両者の力は拮抗しているようだ。
ネギくん頑張れ。
俺が応援すると同時にネギくんに異変が。
「ハックシュン!」
くしゃみ?この緊迫した空気の中で?
均衡が破れる。
ネギくんの魔法がエヴァンジェリンの魔法を打ち破る。
そしてそのままの勢いでエヴァンジェリン直撃する。
くしゃみの力ってすげー。
やったか?
「…やりおったな小僧…。」
やってない。
「まだ決着はついていないぞ!」
決着がついていない。
この吸血鬼どうやったら倒せるんだ。
逃げようにも、ネギくん達を置いてはいけないし。
しかし、終わりは唐突に訪れた。
「いけない、マスター!戻って!!」
突然ロボットさんが叫ぶ。
「予定より停電の復旧がはやい!マスター!!」
街に明かりが灯りだす。
と、同時に…エヴァンジェリンの身体が跳ねた。
彼女は力を失ったように落下していく。
理由はわからないが、吸血鬼が闘えるのは停電の間だけみたいだ。
下は湖。これはまずいんじゃないか?
吸血鬼の弱点の一つに流水というものがある。
湖といえど流れる水、このまま落ちたら死んでしまうのではないか?
死ぬのはだめだ。生きてこそだ。
反射的に彼女にとびつく。橋の上からの跳躍。
捕まえた。
エヴァンジェリンを抱える。よし、このまま…このまま?
あ、無理だ。俺飛べない。
落ちていく。
衝撃に備える。
浮遊感。
あれ?飛んでる?
俺達はネギくんに抱えられてた。
「大丈夫ですか?」
ネギくんから声がかけられる。
「ありがとうネギくん、助かったよ。」
感謝を述べる。また助けられたな。
今日は要所でネギくんに助けられた。要所を締める、まさに薬味でいうところの葱のような存在だ。
デートの邪魔をしてしまったというのに、心の広い少年だ。
礼を言われ嬉しかったのか、ネギくんは笑みを浮かべる。
それに比べてエヴァンジェリンは不満顔だ。
「…なぜ助けた?」
「エヴァンジェリンさんは僕の生徒じゃないですか。」
「まあ、あれだな、前に仲間になるとか言っちゃったしな。」
適当に思いついた理由を述べる。
「…バカが。わかったよ、降参だ。私の負けでいい。」
エヴァンジェリンがあきらめたように敗北を認めた。
勝利だ。俺達は勝ったのだ。
俺はほとんどなにもしてないけどな!
って何の勝負だったんだよ…。
まあいい。
ネギくんが喜んでいるし、これから俺も吸血鬼におびえずに済む。
帰ろう。
蝋燭も手に入れた。吸血鬼も倒した。停電も終わった。
ミッションコンプリートだ。
「…………蝋燭買った意味がない!!!」
読んでいただきありがとうございました。